erica VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

新曲“ホワイト”の制作を通して考えた命の描き方。

シンガーソングライター ericaが配信シングル『ホワイト』をリリース。本楽曲はオムニバス映画『Short Trial Project 2023』の収録作品「モンブラン」のエンディング曲として書き下ろされた楽曲。少ない音数の中、悲しさと前向きな気持ちが綯い交ぜになった、命をテーマにした歌詞が描かれている。
今回はericaにインタビューを決行。前回の取材を行った1年前から現在にかけての変化、最近のライブで取り入れている工夫や、新曲“ホワイト”に込めた思いを訊いた。

■前回の取材から約1年ですが、音楽活動面ではどんな1年でしたか?

erica ライブが増えましたね。今まで学園祭ライブとかもリモートでの参加が多かったんですけど、学校に行っても声を出すことができるライブが増えましたし、イベント自体もすごく多くなったので、三重や北海道など、いろんなところに行けるようになりましたね。

■ライブの盛り上がり方も以前とは変わりましたか?

erica 私の歌ってそんなに声を張ってわいわい歌うような歌ではないので、ライブ中の変化はそこまで実感しないのですが、物販とかでは変化を感じます。私は時間がある時は物販に立つようにしていたんですけど、コロナ禍はそれができなくて。最近になってまた物販に立って、お客さんと会話ができるようになりました。

■再び物販に立つようになって、感じることなどはありますか?

erica 新規の子がすごく増えたと思います。今までは顔を見たら分かるファンの方たちが大半の印象だったんですけど、最近は若い子が増えた気がしていて。コロナ禍の時にTikTokを頑張っていたのもあって、知らない子がたくさん来てくれるようになりました。昔はリリースしたらその新曲が伸びることが多かったんですけど、今は昔の曲が勝手にバズったりしていて。私は昔の曲だと思っていても、バズって出会った子たちにとっては新しい曲なんですよね。それは面白いなと思います。

■今の若い世代にも共感されるような曲をずっと書かれてきたという証拠でもありますね。

erica だからやっぱり恋愛って普遍的なものというか、時代が変わっても初恋の気持ちや、失恋した気持ちって変わらないんだなって、改めて感じます。私の曲の場合、ポケベルとかSNSとか、歌詞の中に時代を象徴するような単語を入れてこなかったのも良かったのかなと思います。

■ポケベルからガラケー、スマホ、そして使うツールもメールからLINE、インスタという小さな変化はあっても、根本的に恋愛の在り方はいつの時代も変わらないということなんでしょうね。

erica そうなのかもしれないですよね。最近はライブがすごく増えたんですけど、持ち時間が30分くらいなので、歌う曲も大体決まっているんですよ。でも最近、少しだけ曲を変えていて、今までずっと歌ってこなかった曲も歌うようになったんです。そうすると、自分でも「この歌詞若いな」とか、「こんな歌詞を書いていたんだ、恥ずかしいな」みたいなことを感じたりして。久しぶりに歌ってびっくりするというか、「そんな気持ちにもなるか」みたいに思ったりもするんです。そういう意味で言うと、自分自身は成長しているんですけど、それを懐かしいと思う人がいてもいいし、今リアルタイムに響く人もいるのかな?とか、そういうことを感じます。それは自分の昔の曲をランダムに歌うようになって気付きました。

■昔の曲を歌う時、例えば自分の過去の恋愛を振り返っているような感覚になったりするものなんですか?

erica ほとんどの曲が、当時ファンの方からいただいたお便りを読んだりして作ってきた曲なので、自分の当時の気持ちも思い出しますし、お便りをくれたその子の気持ちも思い出しますね。でも昔はすごく声を張って苦しそうに歌っていたところを、ちょっと優しく歌うようになったり、歌い方は少し変わったかもしれないです。

■そういった変化が自然に出てくるのは面白いですね。

erica そうなんですよね、自然に出てきますね。“あなたへ贈る歌”も、昔はすごく声を張って、「大好きで苦しい」っていう風に歌っていたんですけど、最近は「誰かを愛するって素敵だよね」っていう感覚で歌っている感じがしていて。年配の方とかもこの曲が好きな人が多いんですけど、それに近い感覚になってきたのかなと思います。当時歌っていた時は、年配の方が曲を聴いて泣いているのを見て、「今も恋愛されているんだ」という感覚でいたんですけど、自分が年を重ねていくと、「あれはそういう涙じゃなかったんだ」って。あれはきっと懐かしんでいたり、当時を思い出して泣いてるんだって思ったんですよね。ちょっと感覚が変わってきた感じがします。

■セットリストを変えるようになったのは、コロナ禍以降、なにか思うことがあったからでもあるんですか?

erica やっぱりライブの数が増えてきたので、変化が欲しいというのもありましたし、毎回来ていただいたお客さんにも変化を感じてもらいたかったからというのもあるし。自分の中でも「この曲めっちゃいい曲なのに、日の目が当たっていないな」と思うこともあって、改めてちゃんと歌いたいなと思ったんです。前作の“ガンバレ!”は、ライブで一度も歌ったことがないんですけど、勝手にバズっていて。(笑) この曲自体に自分もすごく励まされて、ちゃんと今の自分に対して歌いたいと思ってリリースした曲だったので、誰かにも響いている曲になっているんだって思えたんですよね。だったら自分の中で眠っている曲もちゃんと聴いてもらったら誰かに届くかもと思って、大体2曲くらいは久しぶりに歌う曲を入れるようにしています。新曲だけじゃなくて、いろんな曲をちゃんと大切に歌っていかないといけないんだなと思います。

■過去の曲をより大事にできるのはすごくいいことですよね。

erica そうですね。曲だけはたくさん作ってきたので。YouTubeにしかない曲もあったりするので、どんな形でも入ってきてくれたら嬉しいなと思います。

■直近では新曲“ホワイト”がリリースされましたが、この楽曲はそれこそ今のericaさんだからこそ描ける楽曲でもあるのかなと感じましたが、どのように制作された曲なんですか?

erica 今回は命をテーマにした「モンブラン」という映画のエンディング曲として書き下ろした楽曲なんですけど、プロデューサーのnaoさんと一緒に作詞して、作曲もnaoさんが担当しているんです。このタイアップが決まる前に、お互いにたくさん作曲していた時期があって、いくつかのプロットに沿って曲を作っていたんです。その中に「命」というカテゴリもあって、命についての曲をそれぞれ作っていたうちの、naoさんが作っていた曲がこの曲なんです。歌詞もほとんどnaoさんが書いてくれていて、それを私が少し変えていったというか。なので、私の曲というよりも、naoさんの曲を私がリアレンジしたという感覚に近いんですよね。私の思いも最終的には半分くらいは入っているんですけど、naoさんが伝えたい命と、私の伝えたい命の在り方が違う部分も結構あって。「naoさんはこう思うけど、私はこう思わない」とか、結構歌詞については最後まで話し合いました。今までアレンジやメロディ面で戦うことはあったんですけど、歌詞では今まで一度もなくて。そもそも今までは私しか歌詞は書いていなかったんですよね。今回は「私はこういう風に思われたくない」とか、「私は命についてこう思っているから、この表現は嫌です」とか、逆に「僕の中ではここが一番大事」とか、結構最後まで揉めていました。(笑) でも最終的には今までのericaの世界観とはまた違った新しい形のものができたと思っています。だから、私の中ではnaoさんが作った曲にちょっと自分の気持ちを添えさせてもらったという感覚ですね。

■そうだったんですね。命をテーマに書かれたということを念頭に置かずに聴くと、失恋ソングであったり、死別以外の別れも含めた歌詞のようにも聴こえる気がしました。これは意図的にいろいろな捉え方ができるような歌詞にしたのですか?

erica 今言われて初めてそういう聴き方があるのかと感じました。私もnaoさんもそれは全く意識していなかったですね。でもそういう風に思ってくださる方がいたら嬉しいかもしれないです。この曲は元々、亡くなった方を思って作っていて。映画も、お父さん、お母さん、娘という家族の、お母さんが病気で亡くなってしまったところから話がスタートするんです。お母さんが昔作ってくれたモンブランを再現しようとするんだけど、上手く再現できなくて、お父さんと娘のギクシャクした関係も描かれていて、でもモンブランを一緒に作ることで距離が縮まっていって、最後はふわっと結末を想像させるように終わっていくんです。すごいアクションがあったり、派手な演出がある映画ではないんですけど、だからこそ生活の一部を切り取った、見落としがちな、当たり前の感情がすごく丁寧に描かれているんです。その中で「自分たちが表現できることって何だろう?」と思った時、「どうやって残った自分たちが亡くなった方のことを思いながら生きていくか」ということなのかなと思って。亡くなってしまったことを消化できないで苦しむ人もいるし、でも亡くなったことを消化することで、亡くなった人が安心してあの世に行けるのかもしれないし。亡くなってしまったことをずっと悲しい、寂しいと思うのも答えなんだけど、それを乗り越えていくのもひとつの正しい形で。曲の中ではどういう出口にしようかと悩んだんですけど、やっぱり悲しいという気持ちは残してもいいんじゃないかという結論になったんです。毎日を忙しく過ごす中で、忘れていってしまうことさえ怖いっていう気持ちって、すごくリアルだなと思ったんですよね。本当は「私は私でやってくよ、またいつか会えたらそっちでお酒でも飲もう」みたいなことが言える自分になりたいし、それってカッコいいなと思うんですけど、そう思えるまでのプロセスを書きたかったんです。今の私が歌える等身大というか、嘘のない心を歌詞にした時、そんな強い心にはなれないなと思って。なので、それもリアルに描こうと思って、この落としどころになりました。