HY VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

新里英之(Vo&Gt)

今回は沖縄色が強くてもいいじゃんって。

結成22年目を迎えるHYが、15thアルバム『Kafuu』(カフー)を完成させた。アルバム名は沖縄の言葉で「良い知らせ」という意味があるそうだ。今作は全9曲中6曲がタイアップソングだが、その中身は地元・沖縄を題材にした楽曲が並んでいる。家族、平和、愛など、普遍的なメッセージを投げかけたピースフルな作品について、新里英之にじっくりと話を聞くことができた。

■今作はコロナ禍の中で二枚目のオリジナルアルバムになりますが、英之さんはこの数年間で音楽に対する向き合い方に変化はありましたか?

新里 大いにありましたね。他のメンバーもあったと思います。コロナが始まった途端、普段の活動がストップして、外にも出れなくなって、最初はすごく不安でした。自分たちの源はライブにあるし、ステージに立つと、自分の生きがいを感じるから。これまではライブをやって次に進むのがHYのスタイルでしたからね。ただ、そこで活動を止めずに、コロナが明けた瞬間にHYとして一気に動けるように曲作りに励もうと。あと、配信でも何度かライブをやったけど、もどかしさを感じたんですよ。反応がないし、シンとしているから。でもそれのおかげで自分たちのメンタルも強くなりました。自信を持ちつつ、きっとここで拍手や笑い声が聴こえているだろうと。

■想像力を膨らませて?

新里 そうですね。それでも活動自体は減ったから、家時間が増えたんですよ。それが僕らにはプラスになりました。僕は昔から絵を描きたいと思っていたから、空き時間はアートに取り組みました。(仲宗根)泉は子供との時間を作ったり、(名嘉)俊は絵本作りをしたり。(許田)信介はひたすら身体を作っていました。(笑)

■身体を鍛えていたんですか?

新里 はい。(笑)

■今作の話に移りたいんですが、全体的に前作と比べても明るくてエネルギッシュな楽曲が揃いましたね。

新里 そうですね。今回は心に余裕を持ちながら作ることができたんですよ。前作は2週間とか期間を決めてやったんだけど、今回は前作のレコーディング後にライブ活動が止まったから、出来上がった曲があればレコーディングしてみようという感じで。1カ月に1曲だけ録音したり、沖縄のタイアップの話も来たりして……。

■今作はタイアップソングも多いですよね。

新里 そうですね。ただ、今回はいつもの生活の流れの中で、曲作りが進んだ感じですね。だから、今までにないHYの色が出たんじゃないかと思います。気づけば、アルバムを作れるくらいの曲数が揃っていたから、出そうよって。それで曲たちを眺めた時に、沖縄色が強いものが揃っているなと。“優しい世界”は沖縄復帰50周年に向けて俊が書いた曲だし、泉が書いた“HAISAI”は内地の方が沖縄に来て、沖縄の優しさを感じるストーリーを曲にしているんです。外から見た沖縄の曲を作ったのは初めてだと泉は言っていました。あと、自分が書いた“Heart”は、うるま市に密着した映画『闘牛女子』の主題歌で、監督もキャストもうるま市の人がやっているんです。そのテーマ曲を作って欲しいと言われて、作り始めました。

■“Heart”はラブソングですよね?

新里 そうですね。この『闘牛女子』はすごく切ないんですよ。闘牛を愛して、その魅力を世界中に伝える写真家の久高さんという女性がいて、牛と愛情を深める映画なんです。だけど、その女性は病を患って亡くなってしまうんですよ。牛の名前がハートで、それをそのまま曲名に付けました。ハートはよく空を見上げることが多くて、それも実は久高さんへのメッセージで、「もっと上を向いて明るく過ごしていこう」と言っているんじゃないかな?と勝手に想像して。曲を作る時に、ハートと久高さんの写真や動画も残っているので、その二人の関係性を歌詞に落とし込みました。普通は沖縄色の曲が2曲ぐらいあったら「もういいだろう」と思うけど、今回は「沖縄色が強くてもいいじゃん」って。加えて前向きでハッピーなことを歌っているから、沖縄の言葉で「Kafuu(カフー)」という言葉があることを泉が教えてくれたんです。

■その言葉は知りませんでした。

新里 普通の会話ではあまり使わない言葉なんですけど、ホテルやカフェの名前とかで使われていることがあるんですよ。意味は「良い知らせ」という感じだから、なんかしっくり来るなと。沖縄から愛を届けたいと思って、このアルバム名にしました。

■HYのアルバム名で沖縄の方言を付けたのは初めてですよね?

新里 そうですね。ジャケット写真もすべて地元のうるま市で撮ったんですよ。今作で俊は「俺たちの新しいスタイルができた」と言っていましたね。

■そして前作はプロデューサーの方を迎えてましたが、今作は?

新里 前作に引き続き、松岡モトキさんが関わってくれました。本当にすごい人で、僕たちのカラーをわかってくれているし、歌詞に対するコード進行を大切にしてアレンジしてくれる方なんです。“きみが笑顔であるように”はイントロで悩んでいて、松岡さんに丸投げしたんです。雰囲気的には街をワクワクしながら散歩をするようなイメージだと伝えたら、バイオリンと口笛のイントロを作ってきてくれて。「うわっ、求めていたのはこれだよな!」って。HYだけでは止まってしまう世界を広げてくれて、映画のようにしてくれるんですよ。しかも「この映画を観たかったんだ!」というものを作ってくれるから。

■そうなんですね。

新里 松岡さんのアレンジを盗んで、僕たちも成長していきたいと思いました。ただ、泉が作った“スイッチ”は、板井さんがプロデュースしてくれて、泉が打ち込みのような楽曲を作りたいと言っていたんです。そこで俊から「バンドと打ち込みのバランスを上手くできない?」という意見もあり、それを板井さんに相談してアレンジしてもらいました。

■“スイッチ”もHYのカラーがしっかり出た楽曲になりましたね。

新里 この曲を泉が持って来た時は新鮮でした。泉には小学4年生の娘がいるんですけど、そこからヒントを得たみたいなんです。アニメの中の人物に彼女は恋をしたみたいで、どんどん話を聞くと、メインではなく、サブのサブのサブのキャラクターみたいで。イベントとかにもサブキャラは出て来ないから……。

■はははは、なるほど。

新里 娘さんは会いたいのになかなか会えない。今の時代はバーチャルな世界に恋をしている人も多いと思うんですよ。それでこの曲が生まれたと言っていました。自分もアニメが好きだったから、この曲の歌詞はすごく理解できました。

■“キラリ”は英之さんが書いた曲で、今作の中でもギターが前面に出た曲調ですね。

新里 ライブで盛り上がる曲を作りたいなと思って。これはローソンのタイアップで、少し前に仕上がっていた曲だけど、「そこに夏の色を入れて欲しい」と言われて。でも一回作ったものを壊して作るのはめちゃくちゃ大変なんですよ。なので、サビの歌詞は俊が考えたものを取り入れて、共作という感じで作り直しました。それも楽しかったですね。若い頃は自分だけで最後まで仕上げていたけど、今は俊が書いてきたものを受け入れる心の余裕もできました。(笑) この曲は「新しいものや輝くものに出会うためには、歩き始めないと何も見つからないよ」という部分が一番伝えたいことですね。