パスピエ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

パスピエ『more humor』

大胡田なつき(Vo)、成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)

このジャンルやカテゴリ不問の音楽は、ある種パスピエのユーモアでもある

これまで様々な音楽性を独自のセンスとアレンジ力、技巧にて昇華し、唯一無二な音楽性として生み出してきたパスピエ。それらは作品毎に覚醒され、オリジナリティ溢れる快作を次々と輩出してきた。そんな彼らが今年デビュー10周年を迎えた。ドラム脱退後、新体制にて2枚の対象的でタイプの違うミニアルバムを経て現体制初のフルアルバム『more humor』へと至った今回。マシナリーで構築性の高いプログラミングサウンドと、バンドらしさやグルーヴといったフィジカルさの邂逅も特徴的だ。加え新機軸も多分に伺え、まさに彼らの現在とこれからを強く感じさせてくれる1枚となっている。そんな彼らを直撃。まずはパスピエ・インタビュー恒例の今作を聴いた私の率直な感想から。

■まずは私の今作を聴いた感想から聞きたそうな顔ですね。(笑)

成田 そりゃそうでしょう。恒例ですから。(笑) 楽しみにしていましたよ!

■まずは驚きました。予想していたのと全く違ったタイプの作風だったので。

成田 それは?

■逆にインタビューされているみたいですね。(笑) 前作で「わりとフィジカルに目覚めた」と語っていたので、今作はてっきりその路線でもっと生さやバンド感に満ちた作風を予想していましたが、逆に打ち込みをかなり多用していて。とは言え、不思議と躍動感やグルーヴ感はあったりするんですよね……。

成田 意味合いとして、前作のミニアルバム(『ネオンと虎』)はバンドとしての肉体感があって。もう一つ前の新体制になって初のミニアルバム(『OTONARIさん』)が「バンドとは何ぞや?」って作品を目指し、打ち込みも取り入れつつ、様々なことにチャレンジした作品だったんです。ある種そんな対照的な2枚を経て、それぞれを経験して培ったもの、それを今回のフルアルバム全体にぶち込もうという思惑があったんです。

■その2作各々の良さの融合を感じます。

成田 なので、バンドとして今の体制でキチンとした肉付けが出来ていなかったら、今作のような作風にはなっていなかったでしょうね。逆に前々作で打ち込みにトライしていなかったら、今作もなかったでしょうし。あの2作を経たからこそ、今作に至った感が自分たち的にはすごくあるんです。

■今回の肝は、「打ち込みのビートに各人がどうセッションしていくか」だったようにも感じました。

三澤 それこそ今回は、成田の作ってきたデモの段階でかなり完成度が高かったですからね。手を加えなくても、そのまま出してもいいじゃんってレベルで。それをあえてバンドで録り直し、それをまた成田がいろいろと再構築していく流れだったんです。

露崎 方法論は別として、自分的にはバンドサウンドに仕上がった感はすごくあって。アンサンブルにしてもフィジカルなものとマシーンなもののバランスが自然と以前より良くなってきている実感もあるし。それらが違和感なく作品に落とし込めたかなと。

■マシナリーなビートに躍動的な上物をミックスして、バンド感やグルーヴ感を表していたのも印象的です。

成田 その辺りは今の音楽シーンの楽曲制作からも多分に感じられる、「作品とライブは完全に別物」の考えによるものが大きいです。打ち込みに関しても、逆リミックスみたいに、一度完成させたベーシックの上に更に逆プログラミングしたものを乗せてみたり。なので、今回はどれも非常に手間も時間もかかっています。

■プラス今のトレンド音楽路線とのリンクやシンクロが垣間見れたのも面白かったです。

成田 自分の中でバンドの定義がなくなってきているんです。今、クラブミュージックもバンドもより垣根がなくなっていますよね。今やジャンルも無尽だし。昔ほどカテゴライズしなくなったし、気にもならなくなった。お互いが吸収し合い、取り込み合い、ハイブリッドになっていく。それがどんどんグラデーション化されている印象があって。僕らもメンバーが一人減り、逆にそれを補完する為に何かを吸収しなくちゃって時期でもあったし。

大胡田 それも「特に話し合いをして…」ではなく自然とでした。歌に関しても特に違和感なくスッと入り込めたし。今作にしても、結果コンセプチュアルな作品印象を持たれる方も多そうですが、全くコンセプトも決めず、次々と楽曲を完成させていきましたから。

成田 このアルバム制作にもストーリーがあって、最初はやはり前作のミニアルバムの延長線上で比較的バンド然とした音楽性が主だったんです。でもデビュー10周年のこのタイミングで、これまでの自分たちの総決算もだけど、何か新しいものをトピックとして入れなくちゃとの使命感も芽生えて。それもあり、各曲が出来ていく中で軸が見えてきましたね。

三澤 そんな中、“ONE”みたいな曲が来た際は正直悩みました。これまでの自分たちには全く無かったタイプの新機軸に感じたので。

■これこそトレンド路線ですもんね。

三澤 これを機に勉強的にけっこう海外のヒップホップ、主にラップを聴くようになりました。そこからアイデアを構築していった部分もありましたから。

露崎 作品こそこうですが、録った時はけっこうドラム、ベース、ギターによるグルーヴ感が基軸にあったんです。そこに成田のウワモノが更に色をつけていく形で。それらを両立させた面白い作品に向かっていきました。

成田 まずベーシックにはバンドサウンドがありました。それを僕がプログラミングをして上から音を乗せたり、ビートを作って差し替えたり、加えたり、エフェクト処理をしたり、どんどん音を重ねていったんです。なので、レコーディングもですが、今回はミックスにも非常に時間をかけました。幸い今回は制作時間もとれたので、その間中、ずっとエンジニアさんも交えやっていました。

■今作は構築感が半端ないですもんね!ヘッドフォンで聴くとめちゃくちゃ面白い。聴く毎に更なる発見や仕組みに気がつきます。

成田 それは良いリスナーの在り方です。(笑) めちゃくちゃ構築しましたよ、今作は。

大胡田 ボーカルもかなり重ねました。あとかなりエフェクト処理しているものもあるし。今回はそれこそ録ったら成田に完全に委ねました。なので、正直出来上がったものを後で聴いた時、「うわっ、こう化けたんだ!?」と驚きました。

成田 どの曲も思いっ切りやらせてもらいましたから。(笑)