SHE’S VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■この曲はライブでの再現性も気になります。

広瀬　ライブでは実際にシンセベースを弾いたり、木村もパッドをリアルタイムで叩いたり等々、どう人力でやれるかへの挑戦やライブと作品との違いも楽しみにしていて欲しいです。

服部　この曲に限らず、今作は「自分のできることを全て詰め込んだんちゃうかな？」ってくらい、いろいろと挑戦もしています。例えば攻撃的な楽曲もあれば、“Letter”みたいなエレキを使ってはいるんだけど、柔らかいサウンドや、“Masquerade”では、逆にアコギなんだけど激しい情熱的な感じにしてみたり。“Not Enough”もいわゆる歌とアコギだけで成立させた楽曲で、自分たち的には新しい挑戦でした。とにかく竜馬がやりたいことや作りたいものの具現化を目指しましたが、それがこれまで以上にイメージがハッキリしているものが多くて。自分たちでもキチンと咀嚼してアレンジしていったので、新しいことをやりつつも、キチンとこの4人でのSHE’Sらしさも昇華できたかなって。

井上　むしろ“Not Enough”は僕と服部の2人だけで作り上げましたから。アルバムの中でずっとこのようなタイプの曲が欲しかったんです。結果いいアクセントにもなったし。このような曲はどこに置いても一旦雰囲気をリセットできますから、中盤に置いてもそこから前半/後半とに分けられるし。

■個人的には“Be Here”の歌詞中の「それ以上戦おうなんて思わないでいい　愛せる場所へ逃げていい」のフレーズが印象深かったです。「逃げる」と言っても卑怯ではなく、むしろ避難する場所。その辺りをこの曲を始め、他の曲からも感じました。

井上　まさに今作のテーマを掲げた際に、一番最初に出来たのがこの曲でした。そもそも心が沈んだり落ち込んでいく時は、自己肯定が一切なくなってしまうので、少しでも自己肯定ができる作品に当初からしたくて。それが歌詞を書くポイントの一つとしてありました。自己肯定が無くなると、ドンドン自分を責めていっちゃう。それを避ける為だったら逃げることも悪いことではないと。例え不登校になったり、引きこもりになったりしても、それが何かと闘っているのなら、全てが悪いものではないでしょうから。それらも含め、<自分で自分を責めないで欲しい>的なテーマは一貫してありました。

■それらが安堵感や安心感の表れに繋がっている気がします。前向きになるまでは至らないかもしれませんが、ホッとしたり気が楽になる成分が今回は多いですから。

井上　今回、アルバムタイトルに『Tragicomedy』とつけたのも、「泣き笑い」というリアルタイムよりかは、人生を俯瞰した意味合いで付けました。人生という大きな物語を遠くから一つの作品として眺めているような…。

■「人生劇場」みたいな？

井上　ですね。喜劇も悲劇も両方があっての人生でしょうから。まだ27年しか生きていませんが、それを非常に強く感じていて。この先もきっとそうでしょうし、生きていること自体が悲劇も喜劇もありますから。あとこれも初めての試みでしたが、作品の頭と最後にプロローグとエピローグを入れたんです。

■これらによって、すごくループ感が際立ちました。おかげさまでエンドレスでずっと繰り返し聴いています。

井上　その辺りは意図的でした。なので、最後の一音もあえて完結コードで終わらせていないんです。まだ続いていく予感をさせるコードで終わらせました。これはぜひ深読みして欲しいんですが、人生ってずっと続いていきますよね、回りまわって。そんな風に人の悲喜劇もずっと繰り返し続いていく。でも続いてはいくけど、そこに絶望するのではなく、続いていくからこそ、そこまでの学習も含め、それを受け入れて、「じゃあそれを扱ってどう上手く生きていくか」、その辺りも非常に考えて今作は作っていきましたから。

Interview & Text：池田スカオ和宏

PROFILE
メンバー全員大阪出身の次世代ピアノロックバンド。2012年「閃光ライオット」ファイナリストを契機にその高い音楽性が一気に注目を集め、2016年6月にメジャーデビュー。全作品のソングライティングを担う井上竜馬が奏でるピアノをセンターに据え、エモーショナルなロックサウンドから心を鷲掴みする珠玉のバラードまで、壮大かつ圧倒的な存在感を放つ。2020年1月には山田裕貴主演のドラマ特区「ホームルーム」オープニング主題歌に新曲“Unforgive”が抜擢され、更には「第92回センバツ MBS公式テーマソング」に新曲“Higher”を書き下ろしたことでも話題となっている。聴けば、きっと囚われる。旋律に愛されたバンド。
http://she-s.info

RELEASE
『Tragicomedy』