Suchmos『The Blow Your Mind 2025』ライブレポート@横浜アリーナ

音の波で遊ぶ再会と再出発の横浜アリーナ。

Suchmosによるワンマンライブ『The Blow Your Mind 2025』が神奈川・横浜アリーナで行われた。2021年の活動休止発表、そしてHSU(Ba)の逝去から約4年。活動再開のアナウンスと共に告知された今回の復活ライブは、6月21日(土)公演の反響を受けて翌日に追加公演が決定し、2daysでの開催となった。なお、Suchmosが日本国内で単独有観客公演を行うのは2019年9月以来となる。追加公演当日、6月22日(日)。よく晴れた暑い午後の横浜アリーナには、半袖にビーチサンダルスタイルの観客も多い。ステージには外へ漏れ出すほどのスモークが焚かれ、そこにあるはずの楽器たちすら霧の向こうに隠れてよく見えなかった。会場のBGMは海辺を思わせる懐かしい音楽たち。開演時間を過ぎて音が消え、歓声の中で照明が落ちれば、アリーナ天井の小さな光だけが星のように瞬く。暗がりに飛び交うのはファンからの「おかえり!」「待ってたよ!」の声。それに呼ばれて舞台が光のカーテンに包まれると、6つの影が舞台袖から歩み出てくる。拍手に迎えられた彼らはシルエットのまま、4年間の沈黙を背負って深々と頭を下げた。言葉は無く、“Pacific”のメロウなキーボードで幕を開けたステージに、サンセットビーチの色彩を思わせる6つのライトが輝く。赤いジャケットを羽織ったYONCE(Vo)が“Eye to Eye”でステージ左右のスクリーンに映し出されると、「ヨコハマ C’mon!」のシャウトにあわせて「Suchmos」のロゴが浮かび上がる。それは紛れもなく、彼らの帰還を象徴する瞬間だった。

寄せては返すサウンドを乗りこなし、軽やかなステップを踏んでハイトーンを響かせるYONCE。TAIHEI(Key)は音楽の快楽に唇をほころばせて、OK(Dr)は緩急をつけビートを歌わせる。Kaiki Ohara(DJ)の優雅な指先には、どこを切り抜いても美しいバンドの姿があった。ベースに山本連を迎えたバンドが“DUMBO”、“STAY TUNE”と続けると、舞台からは無数のレーザー光線が四方八方へと飛び出す。ノイズ混じりの背景映像が“808”のタイトルを映せば、大歓声と共に大量の電飾がメンバーを彩った。「横浜アリーナにお集まりのみなさん、はじめまして、お久しぶりですSuchmosです。梅雨を跳び越えて夏が来たみたいな今日、外が気持ちいいこの時間に、こんな暗い場所に集まって……変わっていますね、みなさん」オープニングを終えた最初のMCで、ステージに腰かけ、そんな挨拶で笑いを誘うYONCE。「俺らは勝手に楽しむから、みんなも勝手にやってください」の言葉と共にふらりと立ち上がって“PINKVIBES”へ流れ込み、“Burn”では真っ赤に染まったステージで爆発的なエネルギーを踏みしめる。互いにぶつかりあって研磨され、精巧に組み上げられたバンドのサウンドは、飛んでいくワイヤーカメラやクレーンの影、駆けまわるカメラマンに、腕を振って踊る人影など、見えるもの全てを音楽の内に引きずり込んで、曲を追うごとに艶を増していく。そんな音楽の美しさに酔いしれる空間の中でも、“Alright”はこの時勢の中、祈りの叫びにも聞こえた。

ここまで8曲を歌い、バンドは小休止。観客席から飛んできた「気持ちいいよー!」の声に、YONCEは「俺もー!アハハ!」と返す。「みんなでひとつにはなれません。なっても意味がありません。それぞれで楽しんでください」という彼らのスタンスは、広大なアリーナの空気を柔らかなものにする。「ノり方は自由!」その言葉に呼ばれて滑り出す“MINT”で、YONCEはジャケットを脱ぎ捨て、ミラーボールの回転を背後に花道へと歩み出す。観客の歌声と振り上げた手とが揺らめく向こうの彼は、真夏の海の上に立っているようだ。“Whole of Flower”では、一瞬の中に楽器たちの細やかな掛け合いが折り重なり、キーボードが泡の如くはじけていく。観客と「わっしょい!」「わっしょい!」のコール&レスポンスを楽しんだYONCEは、アコースティックギターを担いで「ありがとう、愛してるよ」とセピアなバラード“Marry”をドロップする。厚いコーラスを重ねて言葉をひとつひとつ真っすぐに語り掛ける様は、これまでの曲に無い姿だ。「そういえば俺、ネット上の記事によると結婚してるらしいんだよね。歌い終えたYONCEは“Marry”にちなみ、インターネットに散らばる憶測記事をからかう。

続く“OVERSTAND”では、華やかにステージを彩って来た輝きが消えて、6つのスポットライトに抑えられ、上昇しては下降するギターのメロディに心地よく踊らされる。海、波、浜辺。そんなSuchmosのイメージは、瞬間瞬間に音の結晶となって降り注ぎ、会場に質量をもって積もっていく。「昨日よりも体感時間が早いかも!もうラストスパートと言っていい時間です」ここまで披露してきたのは12曲。ライブが終盤に入ったことを告げるYONCEには、観客からの文句が次々と飛んでくる。それらを軽く受け流し、バンドは改めて、ベーシストとして舞台に立つ山本を紹介した。Suchmosと山本とは旧知の仲であり、過去にはみんなのたまり場となっていた大原兄弟宅で一緒にゲームをしていたという。「じゃあラストスパート、行ってみようか」一通りの思い出話を終えて、ライブは終盤に突入する。爽快な“To You”では、舞台装置をフルに使い、激しいレーザービームの中でアリーナを己のものにするSuchmos。前曲がレーザーならば、続く“Latin”では色とりどりのサーチライトの回転で観客の笑顔を撫で、YONCEは華麗な足さばきでリズムを乗りこなす。音楽の合間、ふと訪れた手拍子だけの静寂と暗闇。その中でYONCEは「今朝は2時間にわたる姉のマシンガントークに捕まって会場入りがギリギリになった」といった何でもない雑談をこぼし、観客とバンド、互いに何も見えない闇の中でMCをする可笑しさに肩を震わせる。「今、曲の途中なんだよね。どうやって曲に戻ろっか」しばし観客と会話を楽しんだ後、ちょっと困ったその口ぶりには笑いが起こった。「みんなが『せーの!』って言ったら始めようか」「(誰も合図しなかったら)このまま一晩ここで過ごすことになるかも」との言葉には、むしろ喜びの声が上がる。だがメンバーは「配信でライブ観てる人にはさ、画面が真っ暗で『放送事故?』って感じだよね」と苦笑。途端にどこかから「せーの!」の声が聞こえ、バンドは無事演奏に戻ることができた。サイケデリックな点滅の中で躍動するSuchmos。音の海を潜航するベースがリードしていく幻想的な即興をドラムのカウントが突き破ると、“GAGA”のタイトルがスクリーンに浮かび上がる。めまぐるしい閃光の中、TAIKING(Gt)と山本は跳ねたり座ったりしながらステージの左右に歩き、オーディエンスにプレイを見せつける。心地よくのけ反ってギターをかき鳴らし、背面弾きまで見せたTAIKINGは往年のギターヒーローを思わせるも、どこまでもバンドのグルーヴに忠実だ。ダークなサウンドに溺れる“VOLT-AGE”を経て、いよいよライブはフィナーレへ向かう。Kaikiの軽やかなスクラッチに呼び込まれてスタートした本編ラストナンバーは“YMM”。YONCEは身体を踊らせながら、TAIKINGと山本がいる花道の先へ歩いて行く。その背中を眺めるステージ上の3人の視線は眩しそうだった。

アンコールに呼び戻されたバンドは、まず7月2日(水)発売のニューEP『Sunburst』、ならびに13都市14公演のアジアツアーを告知。続けて「あんまり重い話はしたくないんだけど」と前置きしながら、4年前に逝去したHSUのことに触れた。4年間という時間はあっと言う間でいながら長く、観客の中にも親しい人を喪った者や、新しい命を育みはじめた者がいる。HSUを亡くて4年経った今、YONCEは未だにその実感が無いまま、それでもときどき不思議な気持ちになると話した。柔らかな口調で語られるその言葉に、会場のどこかからはすすり泣く声が漏れる。「Suchmosというバンドとして、一区切りつけたいと思います。みんなで深呼吸しません?目でもつぶって」口ぶりはあくまで軽く、しかしステージの上で目を閉じたYONCEの呼吸は深い。そして短い黙祷の後、「ありがとう」の言葉に拍手が起こった。「来週は彼(HSU)の誕生日です。彼にはふたりの息子がいます。ふたりのおもちゃ代を稼ぐのが、俺たちの仕事だと思ってます」優しい言葉と共に、アンコールの1曲目に選ばれたのは「新たな命に贈る歌」であるストレートなロックンロール・ナンバー“BOY”。演奏が始まる直前、OKは「隼太(HSU)がくれた最後の言葉は『いちばん好きだぞ』でした」と明かした。歌い終えて、「2日間ありがとうございました」と会場を見回す6人。

YONCEが語る「5年半ぶりのライブなので、はじめましての人も、ずっと待っててくれていた人もいると思います。どっちにも感謝を伝えたくて、その一心でこの2日間ステージに立ちました。ありがとうございました」の言葉に、観客は盛大な拍手で応えた。「ここに集まっているみなさんは、それぞれで都合をつけて、この暗い場所に集まっている変な人たちです。そんな人たちの前で、大汗かいて酸欠になりかけたり、楽器を弾いたりしてる自分たちも変な人たちです。変な人同士、仲良くやろうぜ」そう言ったYONCEはステージの上に腰かけて、甘美にとろけるピアノの音色へ耳を傾ける。TAIHEIの指先からふわりと湧き上がったメロディは、やがて清らかな流れのもとに透き通って拡がり、ついには音楽にあふれる大海原へとたどり着いた。「悠々自適にいきましょう。“Life Easy”という歌でお別れです。バイバイ」たゆたうピアノに歌声を遊ばせて、バンドのサウンドが絡み合う。静かな視線で観客ひとりひとりの瞳を見詰め、詞を噛み締めて語りかけるYONCE。その横顔には幸福な微笑みがにじんでいた。そうして波音めいた拍手が降り注ぐ中、Suchmosは深く頭を下げ、余韻の中に「未来」を匂わせながら舞台を後にした。喪失を越え、5人になったアーティスト写真を掲げて、再会の場所に立ったSuchmos。彼らの旅はこれからも続いていく。

Text:安藤さやか
Photo:Desital Natives

Suchmos『The Blow Your Mind 2025』@横浜アリーナ セットリスト (2025.06.22)
01.Pacific
02.Eye to Eye
03.DUMBO
04.STAY TUNE
05.808
06.PINKVIBES
07.Burn
08.Alright
09.MINT
10.Whole of Flower
11.Marry
12.OVERSTAND
13.To You
14.Latin
15.GAGA
16.VOLT-AGE
17.YMM

ENCORE
01.BOY
02.Life Easy