アルバムは、ポップミュージックを作り始めてから今に至るまでの、私の創作の記録をまとめあげた作品集。
ジャズドラマーとしての活動を軸に据えながら、シンガーソングライターとしても高い評価を得ている、LA在住のRONI KASPI(以下、ロニー)。ジャズ/ポップスという2つのフィールドの境界線を自由に行き来し、ときには一つに融合させるなど、枠にとらわれない活動を展開中。これまでにロニーは、配信スタイルで1st EP『PONI』と、2nd EP『Tell Me』をリリース。11月26日に発売されるアルバム『Introducing Roni Kaspi -Tell Me +PONI & more』は、先の2枚のEPに収録した曲を1枚にまとめあげ、さらに未発表曲を加えた作品になる。彼女は10月下旬に、ライブとレコーディングのために来日。そのタイミングでロニーを捕まえ、アルバムについて話を聞いた。
■1st EP『PONI』と、2nd EP『Tell Me』をコンプリートし、そこへ未発表曲を加えるなど、日本でのリリース用に作り上げたのが今作のアルバム『Introducing Roni Kaspi-Tell Me + PONI & more』になります。ロニーさんは世界初となるご自身のフィジカル(CD)盤を日本で発売されることが決まった時、どんな思いでしたか?
ロニー 私にとって初めてのCDを大好きな日本で出せることが、素直に嬉しかったです。録した曲たちはもちろん、ジャケットのデザインも大好きでとても満足しています。何よりもCDという形にしていただけたのは、本当に嬉しいことでした。
■7歳からドラムをプレイしているロニーさんが主戦場にしているのは、ジャズシーンですが、本作に収録した曲たちは、ほとんどがポップソングです。今もジャズプレイヤーとして活動していますが、なぜ、ポップスというフィールドにも足を踏み入れたのか、そこが気になります。
ロニー 私のスタートラインは、ポップスの世界でした。7歳からドラムをプレイして、14歳の時に私はジャズの世界へ足を踏み入れました。そこからジャズに傾倒し、18歳の頃からは自分で作詞や作曲をするようになり、ポップミュージックも作り続けてきました。今回ポップソングを集めたアルバムを出したことも、「ジャズを続けつつも新たな世界へも踏み出した」というよりは、「元々私のルーツにあった音楽スタイルを改めて示した」と言った方が正しいのかも知れません。
■ロニーさんは、2023年頃からポップミュージックの配信リリースを始めていますが、作品を重ねる度に音楽性も多様化しているし、よりモダンになってきた印象を受けました。ご本人的には、自身の音楽性の変化をどのように受け止めているのでしょうか?
ロニー 私はいつも、その時に生まれ出る感情や感性、感覚に導かれるように楽曲を創作しています。だから、変化や多様化と言われても、自分では正直あまり実感がありません。一つ言えるなら、以前は沸き上がる感覚のまま自由奔放に楽曲を作っていましたが、経験や年齢を重ねるにつれ、より楽曲として成立することを考えるようになり、構築度の高い音楽を求めるようになりました。聴いてくださる方々は、そこに変化や成長を感じているのかもしれません。単純に大人になったというのもあるのかもしれませんね。(笑)
■楽曲を作る時、リスナーのことを意識して作ることも多いのでしょうか?それとも、言われたように、感情の赴くままに作っている形ですか?
ロニー オーディエンスを意識して曲を書いたことはないです。その時ごとに自分が感じたままに書いた結果、これまでに発表してきたような曲たちが生まれたというのが正しいですね。
■ロニーさんの楽曲は、イントロから胸をグッと掴むインパクトがある内容が多いから、てっきり聴き手を意識しているんだと思っていました。
ロニー メロディアスな曲が好きなのもありますけど、インスパイアされるままに作り上げた結果、そうなったというのが正しい答えかなと思います。
■どんな時に楽曲が生まれるのか、そのきっかけも気になります。
ロニー 私が作り上げたすべての曲は、「自分の人生」を元に生み出しています。自分が経験し、心に強く印象に残った思いを表現しようとすると、自然に感情が整理されて、一つのストーリーが生まれていくんです。どの楽曲もそうやって生まれているし、すべての曲が自分の経験を元にしています。中には“Berlin”のように、ドイツのベルリンでの滞在中、見慣れぬ景色の中を走って(ジョギングして)いた時に突然メロディーが浮かんできて、それが曲になったものもあります。しかも、その場所がベルリンだったから、“Berlin”という曲名にしたんです。(笑)
■本当に感覚に導かれるがままなんですね。ジャズ自体がインプロビゼーションを楽しむところに面白さがありますが、ロニーさんの場合、その経験がポップスの制作にも反映されて
いるのでしょうか?
ロニー 楽曲を構成する要素に、バースとコーラスの部分があります。バースの部分はポップミュージックを作る感覚で制作しますが、コーラスの部分は、ジャズのインプロビゼーションに近い感覚で作りあげることが多いです。それに導かれて奇妙なメロディーやフレーズが出てきたりもするので。そこも自分が経験しているジャズの影響が自然に創作へ反映してのことだと思います。
■そこでいうとロニーさんの楽曲は、どれもメロディーがとてもキャッチーで、いろんな人の心に刺さる魅力を持っています。だけど、土台となるリズムは、いつも変拍子などを用いていて複雑です。そこにもジャズの影響が出ていますよね?
ロニー ドラムに関しては、いつもその場でインスパイアされたままにプレイしています。楽曲は土台となるリズムから作るのではなく、メロディーやコーラスなどの要素を固めた上で、それを元に思いつくまま自由に叩いてリズムを作ります。そこに、ジャズ的な素養が組み込まれているのは自分でも感じています。でも、それもすべては自然に浮かんできたリ
ズムを叩いた結果なんですけどね。(笑)
■よければ1st EP『PONI』と、2nd EP『Tell Me』を作った当時の心境も教えてください。
ロニー 唯一『Tell Me』だけは、最近作った曲ですが、2枚の作品に共通しているのは、ここ数年にわたって作り続けてきた曲たちを、2枚に分けて収録したということです。あえて言葉で表すなら、「ポップミュージックを作り始めてから、今に至るまでの私の創作の記録を、2枚のEPに分けてまとめあげた作品集」になります。
■歌詞には、自分の強い生きざまを投影した内容から、ハートブレイクした心情をリアルに記した曲まで、いろんなベクトルで表現しています。歌詞が生まれる背景も気になる要素な
んですよね。
ロニー 曲が生まれるきっかけと同じように、歌詞もその時の自分の気持ちをものすごく素直に、正直に書いています。私の場合、歌詞とメロディーが一緒に出てくることも多いから、歌詞とメロディーともに、その時の気持ちを素直に、本当にリアルに投影しています。
■歌いながら過去の心の痛みを思い返すこともありませんか?
ロニー 曲を書いたばかりの時期はそういうこともありましたけど、ライブを通して何度も歌っていると、気持ちが自然と自分の中で昇華されていくんでしょうね。気づいたら、「こ
の曲、好き」という気持ちでプレイしていることの方が多いです。
■アルバムに収録した曲の中から、ロニーさんのオススメ曲をピックアップしていただいてもいいですか?
ロニー あえて1曲挙げるとしたら、“S Song”かな。自分が追いかける夢について歌った曲だからこそ、この曲に接する度に、歌詞に綴った気持ちを思い返すし、エモーショナルな感情にもなれるから、とくに思い入れの強い曲になりました。曲作りの面で印象深いのは、“Stay”です。元々はエレクトロな楽曲として、すべて打ち込みで制作をしたんです。それをライブでプレイしていく中で、次第にブラッシュアップされ、今のような(生演奏を主体としたドラマチックな)楽曲になりました。







