足立佳奈 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

足立佳奈『あなたがいて』

2年前とは確実に違う等身大で、22歳が素直に躊躇なく描きたかったもの

10月で22歳になった足立佳奈が、3枚目のアルバムとなる『あなたがいて』を完成させた。普段の口癖であるという“なんかさ”と題された38秒の楽曲から始まり、家族、友達、恋人など、彼女が人生で出会ってきた人、遭遇してきた場面を振り返って作られた12曲が歌われる本作は、これまで同様に等身大でありながらも、彼女自身「少しずつ考え方や見方が変わってきていると気づいた」と語った通り、19歳でリリースされた『Yeah!Yeah!』、20歳でリリースされた『I』とは確実に異なる等身大に仕上がっている。まるでドキュメントを見ているかのように、足立佳奈という人間が詰め込まれた本作について、アルバムオリジナル曲となる7曲を中心に語ってもらった。

■アルバムを聴かせていただいて、ものすごく感情を揺さぶられたというか、足立佳奈の人生に片足を突っ込んだような感じがしたんです。どんなアルバムにしたいと思って作り始めたんですか?

足立 前作『I』の時はすごく自分の意思が強くて、自分自分自分って、自分が前に出ていたんですけど、今回のアルバムを作ることになった時に、周りの人たちから「佳奈ちゃんって、ちょっとずつ考え方が変わってきているよね」と言われたんです。それで私が「なんか変わっていますか?」と訊いたら、「私がこう思うっていうよりも、まず誰かのことがあって、こんなことがあって、こう思うんだよねって、常に相手がいる感じになった」と言われて。

■確かに配信でリリースしてきた最近の作品は、誰かあっての曲が多いですよね。

足立 それがきっかけで「少しずつ考え方や見方が変わってきているんだな」と気づいたんです。それで、じゃあ「どんな相手が私の日常生活にはいるんだろう?」っていうのと、私は生まれた時から今日まで、「どんな人と出会ってきたんだろう?どんな場面と遭遇してきたんだろう?」っていうのを考えて、相手と自分がいたからこそできる1曲、1曲、「あなたがいて嬉しかった、あなたがいて苦しかった」、そういうものにつながったらいいなと思って作りました。

■それで『あなたがいて』というタイトルになったんですね。アルバムは1曲目の“なんかさ”から印象的で、38秒の短い曲ですけど、どうしてこういう曲ができたんですか?

足立 タイトルの“なんかさ”という言葉は、日常生活で私がすごく使う言葉なんです。友達やマネージャーさんと話す時に「なんかさぁ……」って。そんな口癖からアルバムの1曲目を始めたくて。それで、0歳から22歳までの日常を振り返って、「なんかさ」っていうつぶやきから、いろんな人に出会ったこととか、「思い出をフラッシュバックできるような歌をこれから歌っていくよ」っていう歌い始めを作りました。

■この曲では「泣いて笑って」というフレーズを繰り返していますけど、いわゆるAメロ、Bメロ、サビみたいな構成にしようとは思わなかったんですか?

足立 今までのアルバムではそういうことを意識して曲づくりをしていたんですけど、いろんな方の作品を聴いていると、歌のない曲から始まっていたりとか、こういうのもアリなんだなと思わされるものがたくさんあって。それで今回は形にとらわれず、自分が「これで心地いいな」というところで切りました。

■短いからこそはっきり伝わってくるなと思いました。その38秒の中でも、ひとり多重録音的な感じで歌声が重ねられていますけど、どんなことを意図していたんですか?

足立 もっと重ねようとすれば重ねられたんですけど、素直にわかりやすく伝えたいなと思って、3つまでしか重ねないようにしたんです。それで、その3つの中で0歳から22歳までを表現したいと思った時に、客観的に自分の思い出を振り返って「泣いて笑って」と歌っている人と、気持ちが高ぶって自分でもコントロールができなくなっている「泣いて笑って」と、落ち着いて自分でも受け入れている感じの「泣いて笑って」。いろんな場面に寄り添える「泣いて笑って」の人を重ねました。

■そんな意味が込められていたんですね。続く2曲目はリード曲でもある“This is a Love Story”になりますけど、タイトル通りラブストーリーが歌われていて、どんなきっかけでできた曲なんですか?

足立 今まで作ってきたラブソングは、ちょっと切なめなものが多い印象があって。このアルバムでは、「今まで出してこなかった自分のパーソナルな部分も表現したい」と思っていたんですけど、ツラいことばかりではなかったし、「あなたといて私は本当に幸せだよ」っていうラブソングも作りたいなと思ったのがきっかけです。それで、プロデュースしてくださったEIGOさんや、編曲してくださったSHU INUIさんからアドバイスをいただいて、バンジョーの音色を入れてみたり、よりハッピーなサウンドにしました。

■今おっしゃったようにハッピーな雰囲気に溢れた曲ですけど、歌詞は自分の理想を描いているんですか?

足立 自分の実体験というか、「私だったらこうだな」っていうのも入れ込みつつ、自分の周りに幸せそうなカップルがたくさんいるので、その子たちの笑顔だったり、日常だったりを思い浮かべながら作りました。あとは初めての試みとして、ディズニー映画を見ながら作ったんです。ディズニー映画を見ている時って、ちょっと現実離れした幸せな要素をもらうことが多いと思うんですけど、私もちょっとだけ現実と離れていてもいいんじゃないかなと思って。

■「どんな敵もどんな不安も/私たちなら問題ないわ」とか、まさにそういう感じがします。

足立 「ふたりで支え合って」っていうのは理想ですよね。いろんな恋の形があると思うんですけど、できればお互い対等にいて、「ふたりで支え合って、どんな敵も私たちなら問題ないわ」って、そう思えるような恋をしたいなと思います。

■今日はシングルでリリースされていない曲について聞いていきたいんですけど、4曲目の“ロードムービー”はニューヨークに行った時のことを歌っているんですか?

足立 そうですね。お友達とも家族とも行ったことがあるんですけど、ちょっとだけカップルの要素をプラスしています。これは自分の22年を振り返った時のひとつポイントで、「ニューヨークで美術館も行ったな」とか、「なんかずっと食べ続けていたな」とか、そんなことを思い出しながら、物語の要素を加えて作りました。

■歌詞に出てくる「腹ペコガール」は足立さんのことなんですか?

足立 はい。(笑) 「相方」と出てくるのは、一緒に行った英会話教室の女の子なんですけど、恋人とも解釈できるように曲は書いています。

■僕はニューヨークには行ったことはないんですけど、この曲を聴いていると行ってみたくなりますね。

足立 ありがとうございます。『ティファニーで朝食を』とか、みんなが王道に思う「ニューヨークとはこういうことだな」っていう絵が浮かぶようなシチュエーションにしました。

■ちなみに足立さんは、ティファニーで朝食は食べたんですか?

足立 その目の前で、ちょっとパンをかじりました。(笑)

■そうなんですね。(笑) 5曲目の“おやすみ”も新曲ですけど、これは(もうすぐ離れ離れになるルームメイトに向けて書かれ、本作で3曲目に収録された)“Film”の続編なんですか?

足立 いや、これは1曲で完結していて。夜に「あの日に戻れたらいいな、でも難しいのはわかってる」と君を想って、ギターを弾きながら主人公の男の子が歌っている曲です。

■確かに言われてみると、一人称が「僕」になっていますね。なんで男性目線にしようと思ったんですか?

足立 1番に「君じゃないやつとは/うまく馴染んで楽しんでる」とか、「山札をめくって/また一杯飲み干して」とか、そういう歌詞があるんですけど、男の子のイメージだなっていうか。ちょっと強がって、楽しいことで気を紛らわせる。それで乗り切ろうとしている感じが、パワーがあっていいなと思って、主人公を男の子にして曲を作りました。

■そして7曲目の“2歳の記憶”が問題作というか、これは自分の話なんですか?

足立 そうです。自分の話です。

■なんで今、2歳の時の記憶を歌おうと思ったんですか?

足立 あるシンガーソングライターの方のライブに行かせてもらった時に、MCで「みなさん、これだけは鮮明に覚えているという幼い時の記憶はありますか?」と問いかけていたんですね。そのMCからの曲を聴いて、すごくカッコいいなと思ったし、そういう自分の人生を歌にできることが、私が思うシンガーソングライター像だなって。それでお家に帰ってから、自分が鮮明に覚えている小さい頃のお父さんとの記憶を思い出して、この曲ができました。この曲を通して、より大切さに自分でも気づいたり、これからも大事にしたいなって思う気持ちで、自分にとってはすごく思い出深い曲なんです。

■曲の中でも「あなたがいたら今頃/私こんな風に歌って/沢山の人に愛されていないかもね」と歌っていますけど、そういう出来事が足立さんのアイデンティティに影響を与えているというか。

足立 そうですね。

■本当にこの曲を聴いて、ものすごく感情が揺さぶられて、ここから一気にアルバムにのめり込む感じがありました。

足立 ありがとうございます。嬉しいです。

■また渡辺シュンスケさんが弾くピアノも素晴らしくて。

足立 そうなんです。同じ事務所の大先輩なんですけど、繊細なタッチだったり、コードの使い方だったり、表現の仕方が前々から魅力的だなと思っていて。この曲はピアノと歌で弾き語りをしてデモを作ったんですけど、ピアノ一本でいくならシュンスケさんにお願いしたいと思って、こうして実現できました。

■シュンスケさんとはどんな話をされたんですか?

足立 お父さんに対するいろんな思い――1番だったら、「当時を振り返りながら2歳の記憶を歌いたいです」っていうこと。2番だったら、「あの時、こうなったけど、結局それがあったから今の自分があるんだよなって、大人の目線で歌いたい」という希望をお伝えして。そうしたらシュンスケさんから、「トイピアノを入れてみたらどう?」とか、「ここでテンポ感を上げていきたいよね」とか、いろいろアイデアをいただきながら進めていきました。

■ピアノも一緒に歌っているような演奏になっていますよね。

足立 レコーディングも一発録りというか、二人で「せーの」で合わせて、「編集せずに1曲として閉じ込めたいよね」っていうことを言ってもらって。そういうシュンスケさんの曲に対する想いがすごく嬉しかったです。

■レコーディングは一発録りだったんですか?

足立 そうですね。一緒に何度か歌わせてもらって録音しました。

■一発録りじゃないと生まれない空気感ですよね。新曲的にいうと、次は11曲目の“ライオンの居場所”ですけど、これは自分がライオンに似ているという歌で、何かきっかけになった体験があったんですか?

足立 雨の中、家族で動物園に行ったことがあって。その時にみんなから「ライオン、佳奈に似とるなぁ」と言われたんです。私も「確かに、認めたくないけど似てるな」と思って、動物園から帰ってきた日に作り始めました。

■それは見た目が似ているという話ではなく?

足立 見た目ではなくて。私は今、東京でお仕事をさせてもらっていて、実家のある岐阜県に戻ると家族がいて、そこではすごく甘えさせてもらえる。ライオンの場合は、野生で過ごしていたら、すごく厳しい環境で、私でいう東京だと思うんです。でも動物園では決まった時間にご飯が出てきて、体調を崩したら獣医さんが見てくれて、岐阜に帰ってきた時の自分と似ているなと思ったんです。

■そういう意味の「似ている」だったんですね。演奏はハマ・オカモト(OKAMOTO’S)さんとSANABAGUN.の3人(澤村一平さん、隅垣元佐さん、大樋祐大さん)が担当していて、特に終盤は圧倒されるくらいの盛り上がりですけど、「もう遠慮なくやってください」みたいな感じだったんですか?

足立 その終盤は歌詞というよりも、高まっていく気持ちを表現したくて。みなさん本当にプロフェッショナルで、尊敬している方ばかりだったので、レコーディングだから少し抑えて丁寧にというよりは、もっとライブ感というか、「本当に1対1でお客さんに聴かせている気持ちで演奏して欲しいです」って、たくさん欲張らせてもらいました。