Anly『“Loop Around the World”〜TRACK4 / QUARTER TOUR〜』ライブレポート@EX THEATER ROPPONGI

ループペダルでたった一人のライブステージ!アルバム『QUARTER』収録曲と“カラノココロ”など、全15曲を歌いきる。

2022年12月1日(木)、EX THEATER ROPPONGIにてAnlyのワンマンライブ『“Loop Around the World”〜TRACK4 / QUARTER TOUR〜』が開催された。この日のライブはループペダルを使用したAnly一人きりのステージとなる。ループペダルとは、シンガーソングライターのエド・シーランが使用しているのを見て、Anlyも始めたというソロギターの演奏方法で、特殊な機械「ループマシン」を使ってギターの演奏の一部を録音し、いくつも音源を重ねて再生することで、ギター1本にもかかわらず、まるでバンド演奏をしているような深みのあるバックサウンドを作ることができるというもの。Anlyは日本では数少ないループペダル奏者の一人だ。この日のライブで演奏されたのは、10月12日にリリースされたアルバム『QUARTER』の収録曲と、“カラノココロ”など、代表曲をあわせた全15曲。ライブの出演者はもちろんAnly一人だけ。今回はループペダルでのライブに初めて参加した著者が、2時間弱に及ぶステージで、歌も、ギターも、バックサウンドも全てを一人でこなしたAnlyのライブの様子をレポートする。

ライブ会場には、平日の夜にもかかわらずたくさんのファンが詰めかけていた。真っ暗なステージには床に置かれたループペダルの機械とスタンドマイクのみ。カランとコインの落ちる音のSEが流れると、スモークと紫のライトで照らされたステージに真っ白なセットアップを着たAnlyが。Anlyの登場とともに会場からは大きな拍手が沸き起こる。1曲目は“VOLTAGE”でスタート。ビートの音と、ライブ会場に集った観客たちの手拍子の振動が心臓に響くほど、大きく鳴り響いた。Anlyの緊張が解けるように彼女の伸びやかな声に熱がこもる。ギターを取り出し、その場で響かせたフレーズをその場で録音し、ステージ上で“VOLTAGE”のバックサウンドをつくりだしていた。“VOLTAGE”であたたまった会場の熱気はそのままに、続けて“カラノココロ”のイントロを作り出す。“カラノココロ”は、TV NARUTO-ナルト- 疾風伝のオープニングに起用されたAnlyの代表曲とも言える一曲。同曲は一度リミックスされた“カラノココロ – Matt Cab & MATZ Remix”がリリース後にTikTokでたちまち流行。1万5千本を超える関連動画が作成され、同曲の再生回数は10億回を超えている。Anlyのアタックの強い、高い歌唱力を生かしたメロディとフレーズは一度聴いたら忘れられない。

続くは“We’ll Never Die”。Anlyはさまざまなループ音源を巧みに使いこなしていた。リアルタイムでギターを演奏しながら、ループマシンを足で操作する。たった一人でギター演奏から歌唱、バックのサウンドまでこなす。ループペダル奏者としては当たり前のこととはいえ、初めてループペダルのライブに参加した著者にとってはまさに驚きの連続だった。ステージ上に彼女がたった一人でいることを忘れさせるような広がりを感じさせる演奏だった。3曲を歌い終えると、Anlyが落ち着いた声色でMCを挟んだ。「音楽ができていく瞬間も一緒に味わいたいと思いますので、最後まで一緒にお願いします!」と話した。ループペダルは、楽曲が作られていく瞬間を見せられる唯一無二のライブなのだ。続けて演奏したのは“CRAZY WORLD”。10月にリリースしたアルバム『QUARTER』の収録曲だ。出だしから迫真のビート、切迫したリズムがこちらの焦燥感を煽るように響く。「CRAIZY WORLD」と歌うAnlyの生歌がループマシンによってコーラスに変化して彼女のリアルタイムの歌声を彩った。まさに音楽が作り出されるその瞬間を目の当たりにして、初めての体験に心が躍った。続いて”IDENTITY”を披露。Anlyはギターを演奏しながら、一つ、二つ、三つとフレーズを録音していく。さらに、力強い歌声のコーラスを重ね、始めは複雑なサウンドが響いていたが、やがてギターのボディを叩く音だけになり、ついにはループマシンから音が消え、ギターの生音とAnlyの訴えかけるような切実な歌声だけが響く。以前にAnlyはインタビュー取材で「ループペダルをやっていると、引き算の大切さをいつも考えさせられます」と話していた。

そして6曲目、「それじゃ、めっちゃたくさんいるアーティストの中から今日Anlyを選んでここに来てくれた方たちにこの曲を捧げます!“KAKKOII”」と、タイトルコール。陽気なリズムに乗せて歌い出したAnly。「自分の好きをまっすぐ受け止めていいじゃん」というメッセージは、彼女の音楽を楽しんでくれるファンを勇気づけるだけでなく、Anly自身の支えにもなっているという。「この曲は私自身のことも励ましてくれるんです」と語っていた。曲の途中、「隣のおっちゃん何聞いてる?」の歌詞に合わせてAnlyはこう叫んだ「誰聞いてると思う?Anlyに決まってんだろ〜!」、会場からは大きな拍手が。自然と観客の手拍子も大きくなっていった。MCを挟んで「ここからはゆったりした曲が多いので、座ってもらってもいいですよ」と続ける。「スーツ姿の方もいるし、みなさんが仕事終わりで大変な中、きてくれたことに感謝です!」と続け、「ここからは眠っても怒らないゾーンですので。(笑) 眠らせへんけど!」と叫び”Homesick“へ。「沖縄から東京にきて、夢いっぱいだった私も、2年ぐらい経って、『帰りたいかも』って自覚した時に書いた曲です。私は今でもコインランドリーに行くんですが、ランドリーで柔軟剤を入れる時に思いついた曲です。聴いてください”Homesick“」とタイトルコール。それまで力強かった彼女の歌声に優しさと切なさが滲む。ピュアでシンプルなサウンドだからこそ、Anlyの歌声が、言葉がまっすぐに胸に響いた。

続いて歌ったのは”KOMOREBI“。Anlyが彼女の出身地、沖縄県伊江島に帰省した時に作った楽曲だ。「当たり前だったことが崩れてしまった今の時代でこそ、前を向いて進んで欲しい」というメッセージが込められている。そのまま子守唄を聴かせるような、耳に心地よい柔らかで透明感あふれる歌声で始まった“Angel voice”へ。Anlyは収録音源との違いをステージで語ってくれた。「“Angel voice”は収録曲とちょっと違います。沖縄の“てぃんさぐぬ花”というのを間に歌っています。「ホウセンカの花は爪先に染めて 親の言うことは心に染めなさい」という意味の歌詞になっています。地元の人は誰でも知っている曲です。“Angel voice”は大事に引き継いできたものを表現した歌。ライブバージョンはいろんな節が変わったりして、自分でも楽しめる曲です。みなさんも楽しんでいただけたでしょうか?」と聞くと、会場は盛大な拍手で答えた。

そして「次の曲は私が初めて人が嫌いになった時に作った曲です。みなさんも今日「ムッ」てなったことがあった人は、私に全部あずけてください!全部バコーンといきますので!みなさん盛り上がっていけますか!?」と叫んでギターを掻き鳴らす。「お前のために曲作ったんだぞ!」と声高々に叫びながら激しく力強い、刺々しいぐらいのギターの音色を会場中に響かせて、怒りの感情をそのままに声に乗せて歌ったのは“DoDoDo”。そしてその盛り上がりをそのままに“FIRE”を歌い出すAnly。「盛り上がっていけますか〜?」と煽るAnlyの声に、会場からは「もちろん!」と応えるように力強い拍手の音が響いた。続く12曲目は“Alive”。スタンドマイクを強く握り、観客を見つめるAnly。耳に心地よい歌声から紡がれる言葉は、どれも胸にまっすぐに刺さってくる。力強く大きく、伸びやかな歌声で「命をならせ」と叫ぶAnly。会場は自然と息を呑んで彼女の歌声に圧倒されていたようだった。そして本編ラストの曲は“Welcome to my island”。手拍子がぴったり同じリズムを刻んで、会場が一つになっていく。その中心でAnlyが弾けるようなリズムを刻む。13曲を歌い終えたAnlyが静かにギターを置いて会場を立ち去った後、彼女が来るまでの数分間、アンコールの拍手は少しも弱まることなく響き続けていた。

黒いTシャツ姿で再びステージに戻ってきたAnlyは、最前列のファンが広げた横断幕を見て「いつもありがとう」と声をかけた。「アンコールを歌おうとしたんですが、言わなきゃいけないこと思い出しました!ライブのお知らせです!来年の1月22日に、誕生日近辺でバースデーライブ的なものを開催しようと思います!名付けて26祭(ニジュウロックサイ)!ロックチューンばっかりやろうと思います。当日はバンド編成でやろうと思っています!来ないと多分後で後悔するライブだと思うので、ぜひ来てください!」と茶目っ気を見せつつ、次回のライブを告知。気を取り直して歌いだしたアンコール1曲目は“Saturday Kiss”。ラストは「それぞれみんなの好きな空、山、海を思い出してください」と観客に語り、歌い出した“星瞬 〜Star Wink〜”。「山には君の横顔桜が頬をつたっていく」までの数フレーズを全てアカペラだけで歌い切ったAnly。ギターが響き出した瞬間、生歌だけで会場を圧倒させた彼女の歌声に思わず拍手も起こった。最後は静かに「今日はみなさんありがとうございました」と手を振って、ゆっくりとAnlyはステージを後にした。

Text:高橋未瑠来
Photo :黒崎健一

https://www.anly-singer.com/

『“Loop Around the World”〜TRACK4 / QUARTER TOUR〜』@EX THEATER ROPPONGI セットリスト
01. VORTAGE
02. カラノココロ
03. We’ll Never Die
04. CRAZY WORLD
05. IDENTITY
06. KAKKOII
07. Homesick
08. KOMOREBI
09. Angel voice
10. Do Do Do
11. FIRE
12. Alive
13. Welcome to my island

ENCORE
01. Saturday Kiss
02. 星瞬 〜Star Wink〜