佐藤赳(Vo&Gt)、田中そら(Ba)
『HUG』から紐解くソングライター2人が織りなすバランス感。
koboreがメジャー3rdアルバム『HUG』をリリース。1年ぶりのフルアルバムとなる今作は、フジテレビ系TVアニメ「デジモンゴーストゲーム」エンディング主題歌となった“STRAWBERRY”を筆頭に華やかな楽曲が揃う。田中そらの制作した楽曲も多く盛り込まれている他、アレンジャーを迎えた楽曲や、これまでのkoboreの楽曲とは一線を画す曲調の“雨恋 feat. ちとせみな”など、メジャー2ndフルアルバム『Purple』に続いてkoboreの新たな挑戦が表れたアルバムだろう。
今回は佐藤赳と田中そらの2人にインタビュー。今作の制作について語ってもらった。
■1年ぶりとなるフルアルバムを作るにあたって、考えていたビジョンはありましたか?
佐藤 特にないです。曲が出来たから作っていくみたいな感じで、コンセプトとかも特になかったです。
■制作はいつ頃から行っていたんですか?
佐藤 2ndフルアルバム『Purple』のリリースが終わった辺りから作り始めていました。
■そうだったんですね。『Orange』から『Purple』にかけて、スタジオに入って作る制作が中心だったのが、メンバー同士で意見を出し合いながら制作を進める方向に変化したと聞きました。今回はそういったような制作での大きな変化はありましたか?
佐藤 僕は特にないかな……。何かあった?
田中 今回は話し合いは逆に減った感じがします。そんなに話し合わなくてもフィーリングで出来るようになったというか。
■今作は1曲目の“TONIGHT”から、前作で感じられた華やかさが一段と増したような印象を受けました。曲作りで意識していたことなどはありますか?
佐藤 相変わらず作りたいものを作っていくというスタンスでしたね。「こういう曲を作りたい」というよりは、とにかく作っていって、いいものはいいし、よくないものはアルバムに入れなきゃいい話なので。
■ボーカルのアプローチではいかがですか?曲を聴いた時、発声やボーカルの表現でも突出している部分があると感じたのですが。
佐藤 本当ですか。実感がないので嬉しいです。でも確かに最近「歌がよくなったね」みたいなことはよく言われます。
■特に佐藤さん自身の中で、ボーカルに対する意識改革があったわけではなかったんですね?
佐藤 そうですね。ライブのやりすぎじゃないかなとは思います。(笑)
■田中さんは、近くで見ていて佐藤さんのボーカルの変化を感じることはありますか?
田中 そうですね。ギターに関して「こういう音色でこういう風に弾いて欲しい」と言うのと一緒で、自分が提案した曲は「こういう風に歌って欲しい」と赳にお願いしていて。歌ってと言われて歌う時と、自然に歌ってもらうのとでは、また違う歌い方が出ているのかなと思います。
■テレビアニメ「デジモンゴーストゲーム」のエンディング主題歌となった“STRAWBERRY”は、初のアニメタイアップということで、大きな経験にもなったのではないかと思います。この曲の制作はどのように行われたんですか?
佐藤 アニメのタイアップだったので、制作上の縛りもあるのかと思っていたんですけど、ミーティングをしてみたら「koboreさんにお任せします」みたいな感じだったんです。なので、アニメを観てコンセプトを捉えつつ、歌詞を書き出していきました。自分は良いメロディを思いついたらストックしておくタイプなので、元々何個かあったメロディに歌詞をはめてみたりして。そういう感じで結構すぐに出来た曲ですね。ただサウンドはめちゃくちゃこだわっていて、今までのエンディング曲を聴いたら割りとすっきりしたサウンドの曲が多かったので、あえてその逆にしていて。音割れギリギリくらいまで音を上げてもらったり、がっつりした音にしています。
■そういう意味でも、エンディング曲というよりはオープニング曲っぽいですよね。
佐藤 そうですね。オープニング曲っぽくしようと思って作りました。
■アニメで流れることを意識しながらの制作は、普段とは違った点もありましたか?
佐藤 いつもと違うのはタイアップだということだけかなと思います。そんなにいつもと変わらず制作には取り組めました。
■前作『Purple』から田中さんが作詞や作曲を手がけた楽曲も収録されるようになりましたが、今回は収録曲の半分近くが田中さんの楽曲です。曲数を増やすことになった経緯などはあったんですか?
田中 経緯は特にないですね。アルバムを作る段階になった時に、僕がメンバーに曲を提出するのが早かっただけというか、なんとなく最初にできたものを仕上げていこうというのが自分たちのやり方なので。一番最初に形になっていたものが選ばれた結果だったのかなって。別に先着順って感じではないですけど……。(笑)
佐藤 実は先着順です。(笑)
田中 そうみたいです。(笑) 本当にそれくらいの理由ですね。
佐藤 多分そらがいなかったら、1曲3分くらいのめちゃくちゃ速い曲が12曲あるみたいなアルバムになっていたと思うんです。なんかダラダラしている場合じゃないなと思っちゃって。でもそらが作る曲が入ることによって、それが抑えられるというか、僕は騒がしい曲を多めに送ったりしていたので、そらの曲が入ることでバランスが取れたと思います。
■お2人の作る曲の違いでバランスを取っていったんですね。
佐藤 そうですね。僕は結構曲を持っていくのが遅いので。というか、ギリギリにならないとやらないタイプなので、追い込まれてから初めてやり出すんですよ。自分でも「あんなに時間があったのに何してたんだろう……」って思う時もあるんですけど。(笑) そらは結構合間を縫ってきちんと作業を詰めてくるバランス型なんですよ。
■田中さんは今回のアルバムの曲を作る段階で、特に考えたことはありましたか?
田中 いつも最初に考えていることは、正直言ってリスナーさんにウケるかどうかなんです。八方美人じゃないですけど、みんなからいい曲だと思われたいので。でも曲を作っているうちにそんな自分が嫌になっちゃって、結局は自分がやりたいことをやる感じになっています。だから意識的にはバランスを取ろうとしているんですけど、結局は新しいことへのチャレンジが入っている気がします。
■スタート地点としては、リスナーにどう届くかというところなんですね。
田中 そうです。嫌われたくないし、良いって言ってもらいたいので。と、そう思っている癖に、作っていたらマジでどうでもよくなるんです。(笑) 最終的には、自分が聴いていて一番気持ちいいものをみんなからも良いって思われた方がいいなと思うんです。
■ちなみに佐藤さんは曲を作り始める段階で、聴き手のことを考えたりもしますか?
佐藤 僕はそこに関してはあまり考えないタイプですかね。あまり気にせずに作っています。好きなやつだけ聴いてくれればいいと思っているので。
■今作は田中さんが手がけた曲の割合が増えましたが、佐藤さんとしては自分以外が作った曲を歌う際は、自分が作る曲とは向き合い方も変わるんですか?
佐藤 結構僕はそらの思っていることに則って歌っていくんです。そらはこだわりが強い方なので、作った人の思いに沿って動くことを大事にしています。面白かったです。
■そこでボーカルの表現について、お2人のこだわりが対立することはないんですか?
佐藤 そこで対立しても意味がないというか、作り手が伝えたいものって、僕が作ったものではないので分からないんですよ。なので、そこでの対立は全然なかったです。そらの中で鳴ってるメロディがあるらしくて。それに合わせて歌っていくことが多かったです。
田中 僕はそもそも曲にかける時間が赳と違ってめちゃめちゃ長いんです。長いというのも、本当に1年とかかけて作るので。赳はレコーディング直前で曲を作ったりするんですけど、それは才能があるからできることで。だからメロディがあるっていうか……1年で1曲作ってくださいとか、極端な話、5年で1曲作ってくださいって言われたら、誰にでもできるじゃないですか。僕はちょうどコロナの時期に膨大な時間をもらったので、その時間をいっぱい使って曲を作っただけで、今はそのストックを出しているだけなんです。だから期限付きなので、そのうち作れなくなると思います……。
■コロナ禍の時期にできたものだったんですね。
田中 そうなんです。今はそんなに余裕がないので、あまり作れていないっていう。
■なるほど。今回はアレンジャーを迎えた曲もありますが、これはどういった経緯で実現したんですか?
田中 これはお勉強です。事務所の方からも「何曲かやってみてもいいんじゃないか」と言われていて。これまでは4人だけでやる意味みたいなのを持っていたんですけど、アレンジャーを入れたらいろんなことを知れるし、いい勉強にもなるし、曲が良くなるんだったらということでアレンジャーを迎えることになりました。要するに好奇心ですかね。
■実際にやってみていかがでしたか?
田中 すごく勉強になりました。本当にありがたいですよね、曲も良くしてくれて、勉強もさせてもらえて。しかも僕らの意見を基本的には全部受け入れた上で提案してくれる方だったので、自分たちらしさが残せたのはなお良かったです。
■確かにアレンジャーが入っている曲と、そうでない曲を連続して聴いても違和感を感じることがないのは、koboreらしさがしっかりと残っている結果ですよね。
田中 そうですね。音数の違いくらいかなっていう。
■佐藤さんはいかがでしたか?
佐藤 僕はそんなに関わっていないんですよね。一緒にスタジオに入ったくらいで。だからいい勉強ができたならよかったなっていう感じです。
■次の制作からも活かせることがありそうですね。
田中 具体的なものは今ぱっと思いつかないですけど、絶対にありますね。技術的な面や音楽の理論だけじゃなくて、精神面から学べたんです。ちゃんと音楽で生きていく、みたいな。音楽で生きる覚悟はしていたつもりだったんですけど、まだ完全にはできていなかったような気もして。今回はアレンジャーの森川祐樹さんの家にも行かせてもらったりもしたので、そういう話もたくさんしたので、いろんなことでプラスでした。