「頑張れ」ということじゃなくて、「頑張るための方法」を歌いたかった。
MIYAVIが久しぶりとなるオリジナルのスタジオアルバムをリリース。このアルバムは「Duality(二面性)」をテーマにした2部作としてリリースされ、タイトルは『Lost In Love, Found In Pain』となることが発表された。その前編となるアルバム『Lost In Love』が4月3日にリリース。サウンド面においては楽曲制作の相棒でもあるLenny Skolnikに加え、ロサンゼルスにて多種のプロデューサー、共同制作者を交えて制作された。今作のアルバムの制作についてや、作品に込めた熱い想いなど話を訊いた。
■まずはMIYAVIさん自身のことをお聞きできればと思います。MIYAVIさんが音楽を始めたきっかけを教えてください。
MIYAVI 元々サッカー少年で、プロチームのジュニアユースでボールを蹴っていました。怪我で挫折して、サッカーを辞めてから路頭に迷って、ちょっとグレて(笑)その流れで仲間とバンドを始めました。
■それは何歳くらいの時ですか?
MIYAVI 14歳の時です。
■結構早くからギターに触れられた感じだったんですね。
MIYAVI いや、世界で活躍しているプレーヤーに比べたら全然早くないですよ。むしろ遅いくらい。しかも最初はベースがギターだと思っていて、楽器屋に試奏しにいったら、ベースは全然生音が聴こえないし地味でやめた。(笑) そこからはずっとギターを弾いています。
■ギターは独学で学んでいったんですか?
MIYAVI 最初はギターの教則本を読んだりとか、近所のおっちゃんに教えてもらったりもしました。ギター教室とかに通ったりはしていないです。
■音楽に関して影響を受けたアーティストや作品などはありますか?
MIYAVI もともと「クラプトンやビートルズを聴いて衝撃を受けて」とかっていう感じでもなくて、サッカーやりながらボン・ジョヴィとか、メタリカとか、普通にロックを聴いてた感じです。
■洋楽から入った感じですか?
MIYAVI いや、邦楽も聴いていましたよ。X JAPANとかのヴィジュアル系や、それこそ工藤静香さんとか、ミスチルとか、流行っていたポップスも聴いていました。でもバンドをやるようになってからは、ギターのスリーコードで弾けるようなモータウン系のアーティストやブルースギタリストなどを聴くようになって、マディ・ウォーターズとか。あと、ギターの練習曲はレイ・チャールズの“What’d I Say”で、そのベースフレーズをずっとベースのやつに弾かせて、その上で永遠にギターソロを自由に弾きまくってた。(笑)
■なるほど。それからずっとギターを続けてきて、昨年デビュー20周年を迎えられましたが、この20年間を振り返ってみていかがですか?
MIYAVI 正直「まだまだだなぁ」っていう気持ちが大きいですよ。でもきっとこれは死ぬまでずっと抱き続ける想いなのかなって。
■ギターを始めた当初から「ずっと一生音楽でやっていこう」と思っていましたか?
MIYAVI そうですね。元々はずっとサッカーで飯を食っていこうって思っていて、朝から晩までボールばっかり蹴ってて。でも、怪我で挫折した時、初めてボールを蹴れないことにホッとした自分がいて……あんなにサッカーが好きだったのに、そんな自分にショックを受けたしすごく衝撃的だった。その状況が自分的にすごくキツくて。そんな時に出会ったのがギターだった。それからはずっとギターにのめり込んだし、本当にギターに救われました。ギターと出会えて自分自身を取り戻すことができたし、また夢を追いかける楽しさを見つけることができた。だから、自分にとってギターミュージックで世界に行くっていうのは恩返しの旅でもあります。
■MIYAVIさんは海外でもライブをたくさん行われていると思いますが、日本でライブするのと海外でのライブの違いはどんなところですか?
MIYAVI 海外のライブは、、、いろいろと準備されていない。(笑)
■過酷な状況下でのライブが多い感じなんですか?
MIYAVI いや、むしろそれが当たり前って感じかな。
■オーディエンスとかファンはいかがですか?
MIYAVI 海外のオーディエンスの方がダイレクトですね。ワイルドだし。ライブが良かったらいい反応だし、良くなかったら良くない反応だし。僕は25歳で渡米して、最初は英語も喋れなかったけど、サンタモニカやヴェニスのビーチとかに発電機を持って行って、ストリートパフォーマンスしていたんだけど、良ければすごい人が集まってきてくれるし、良くなかったら素通りして行っちゃう。海外はそれがすごく顕著。だからこそやりがいがある。そういう意味では、やったらやっただけ跳ね返ってくるし、そこの評価はフィジカルの部分や上っ面だけではなくて、良かったらちゃんといいって言ってくれるし、フックアップしてくれるので、すごく素敵な文化だなって思います。でも海外といってもいろいろな国がありますから、反応もそれぞれ。南米とかは歓声がすご過ぎて自分たちのバンドの演奏も聞こえなかったり。(笑) 国によってそれぞれいろんな良さがありますよね。もちろん日本の良さもあって、こんなに丁寧に大切に楽曲を聴いてくれるオーディエンスは他にいないし、ライブをする会場もキレイだし設備も整っているしね。ちゃんと時間通りに会場開くし。(笑)
■今回のアルバムは2部作との事ですが、どうして二つに分けての作品にしようと思ったのですか?
MIYAVI 一つは今作のテーマが「Duality(=二面性)」ということ。タイトルの『Lost In Love,Found In Pain』もそのテーマを表現したもので「愛の中で見失い、痛みの中で見つけ出す」。二面性自体、人間としての普遍的なテーマで、「理性と本能」「男と女」「昼と夜」「光と闇」みたいな、その対比によって大きな物語を描きたいと思ったんです。だから、今作を2部作にすることによって、より鮮明に、よりダイナミックに、よりドラマティックに見せることができると思いました。2つ目の理由は、やっぱり音楽が消費されるペースがどんどん早くなってきてる中で、時間と労力をかけて作ってきた作品なので、それをもっと深く掘って、いろいろなアーティストやプロデューサーともっとセッションして制作したかったし、その作品をファンのみんなにもゆっくり咀嚼して、じっくり堪能して味わってもらいたいなと思って、2部作という形での発表にしました。
■いつもアルバムのテーマやコンセプトを最初に決めてから制作に入るんですか?
MIYAVI 大枠としてのテーマは決めますけど、核のテーマの周りをグルグル回りながら、枠に縛られずに作っていく感じです。今回も「Duality(二面性)」というのはあったけど、タイトルは決めていなくて。このタイトル『Lost In Love, Found In Pain』が出てくる前は、他のタイトル案もあったんですが、対比するものとかそれが共存するところまでは表現できていても、それらを包括するほどのパワーがなかった。もっと壮大で大きなものにしたいと思っていた時に、このタイトルが出てきたんです。普通は「Lost In Pain, Found In Love」、「痛みの中で自分を見失う、愛の中で自分を見出す」となるんだけど、それって逆なんじゃないかなって。僕たちは「Lost In Love」自分の愛するものや、自分を捧げるものの中で自分を見失い、その先で「Found In Pain」、痛みや苦しい時間の中でそれを乗りこえて自分を見つける。これってストイシズムというか仏教にも近いものがあって、苦行に耐えて自分を削ぎ落として本当の自分のコアが見えてくるというか。それって自分の生き方にも通ずる部分があるし、そこの痛みとか苦しみ、自分の弱さと向き合うことを抜きにして本当の自分だったり愛みたいなものは見つからないんじゃないかなと思って。
■なるほど。深いですね。
MIYAVI なんかその言葉が全てを包括してくれているというか、許容してくれているのがこのタイトルだったんですよね。例えば、お腹が空いて何かを食べたとして、でも食べ終わったらもう食べたくないっていう気持ちが出てくる。食べたいと思っていた気持ちはもうどこにもいない。これはなんでもそうで、昨日言ったことが正解でも、明日になったら不正解かもしれない。男女平等や黒人差別もそうで、時代によっては現代では不正解なものが正解とされ、まかり通っていたこともある。結局、時間の流れやものの流動性を踏まえた時、物事には完全な答えがないんじゃないか、というか、「答えがないのが答え」というか。「色即是空」のような、すごく仏教的な考え方なんだけど、それを考えた時に、自分の中にある「理性と本能」「動物的な部分と人間としての理性的な部分」どちらもちゃんと受け入れて、肯定してあげることこそが、本当の自己愛なんじゃないかなと思ったんです。ちょっと話が逸れましたけど、とにかくこの『Lost In Love,Found In Pain』というタイトルにすることによって、自分の中にある表現したい振り幅を最大限に詰め込むことができると思い、決定しました。
■作品を制作する際は、曲と歌詞はどちらから先行して作られるんですか?
MIYAVI 最近はプロデューサーたちとスタジオに入って曲から作ることが多いですね。でも一人でいる時に生まれたアイデアをもとにセッションをはじめたりもします。だいたいギターのリフから膨らませていったり、プロデューサーが持ってきたビートを元に作っていったりとか。今回はとにかくたくさんの共作者がいるので、逆にとっちらからないようにするのが大変でした。たくさんの人が関わればいいというのではなくて、ちゃんとそれを統率することが大切だし、やっぱり一本筋の通った音のアイデンティティがないといけない。僕はギタリストとして一応サウンドの核があるから、そこまで遠くかけ離れたものにはならないけど、いろんなことにチャレンジする時は一応そこは気をつけています。
■サウンドありきでそれに歌詞をのせていくんですね。
MIYAVI 今回は歌詞も何度も書き直しました。去年のイスラエルとパレスチナで起こった問題や出来事もすごく衝撃的でしたし、ロシアとウクライナもそうですけど、僕はそれを見て何も言えなくて。ちょうどその頃に中国でのコンサートがあって、ステージ上でオーディエンスと音楽を演奏する時間と、SNSやニュースから流れてくる痛々しい現実、そのギャップの中で正直苦しみました。今作に“Tragedy Of Us”という曲があるんですけど、これはロミオとジュリエットのストーリーをもとにした恋の歌なんです。結局、あの物語もロミオとジュリエットが普通にただ渋谷のセンター街で会っていたら、あんな悲劇にはならなかったわけですよね。先祖からのカルマがあるから彼らは悲劇に見舞われた。難民問題もそうだし、今各地で起こってる紛争もそうで、結局は過去の過ちが現代の歪みの原因になっていて、自分たちの首を自分たちが締めている。愛し合い、助け合うべきなのに、カルマに囚われて傷つけ合い、その悲劇から逃れられない、ということを歌っています。ぜひ聴いて欲しいです。