歌うことは自分自身に帰ってくるということ
ドラマ、映画で活躍中の女優でもある水谷果穂が、ファーストアルバム『深呼吸』をリリースした。ドラマ「リーガル・ハート ~いのちの再建弁護士~」の主題歌“朝が来るまで”含む全13曲、伸びやかで透明感溢れる歌声で、彼女らしいやさしくも芯のある世界を表現する。歌について、自身が歌うということについて、そして初めてのアルバムについて――女優と歌手というふたつの側面から話を訊いた。
■1stアルバム、どんな1枚になりましたか。
水谷 どの曲にも共通して言えるのですが、やさしいけど芯のある歌声というのを目指して歌った曲たちなので、全部わたしらしいものになったんじゃないかと思います。こういう歌をうたっていますよっていう名刺代わりになるような、わたしの歌の世界観が詰まった1枚になりました。
■ドラマ「リーガル・ハート ~いのちの再建弁護士~」の主題歌でもある“朝が来るまで”で幕を開け、最後に同じくピアノ・ヴァージョンで幕を閉じるって、とてもドラマティックな仕上がりだと思いました。
水谷 この“朝が来るまで”は、アルバムタイトルでもある『深呼吸』をするかのように、自分の中に自然に取り込めている曲で、その曲からスタートして、友だちの歌や恋の歌がその間に盛り込まれていて、しっくりとくる並びになりました。
■深呼吸をするかのように歌えたというのもなんだか素敵ですね。
水谷 レコーディング前に歌い込んだので、不安もなく歌えるんですよ。その曲がドラマの主題歌でもあり、リード曲としてもアルバムの大事な存在になっているっていうのが嬉しいですね。
■ピアノ・セッション・ヴァージョンはいかがですか?
水谷 こちらは清塚(信也)さんが生でピアノを弾いてくださいました。アイコンタクトで歌い始めて、しかも一発で録ったものがそのまま収録されているんです。「リズムとか気にせず、好きなように歌っていいよ」とアドバイスしていただいたので、リラックスして、伸び伸びと歌うことが出来たし、わたしの歌に呼吸を合わせてくれている感じがして、貴重な体験をさせてもらいました。
■全体的にリラックスした印象ですが、レコーディングはいかがでしたか?
水谷 練習のときにいろいろとイメージをして、それを忘れないようにメモしておきました。なので、レコーディングではリラックスしていろいろ試しながら歌えましたね。
■レコーディングの前に結構イメージを固めていくんですか?
水谷 そうですね。そのイメージに出来るだけ近づけられるようにって。例えば“スプラウト”は、学生時代のキラキラした感じや、ちょっと不安定な感じをイメージして歌っているんですけど、実際にわたしが学生だったときからもう4年くらい経っていて、歌詞をあらためて読んだら、あのときの時間ってすごく貴重で、今じゃ絶対に経験できないことだったんだなって。それを今はちょっと切なく感じたりするな、なんて思いながら歌ってみました。
■“気まぐれ王子様”はメルヘンな感じがかわいいですね。
水谷 すごくメルヘンで、かわいい歌詞ですよね。わたしも空想が大好きで、夜寝る前に今日はどんな物語にしようかなって、よく妄想とか想像して寝る習慣があったので、そのときのことを思い出したりしました。でも途中で「だけど奇跡は毎日溢れてるから 信じてるよ」っていう歌詞があって、そこはメルヘンな世界というか、空想の世界とはちょっと雰囲気を変えてみようって。そういう細かいところにも気をつけながら、歌詞をじっくり読んでイメージを膨らませていきました。
■ご自身の経験と重ね合わせるところが結構多かったんですね。
水谷 そうですね。それぞれの曲に自分の思い出とリンクするものがありました。
■歌手は小さい頃から目指していたんですか?
水谷 歌うことは好きで、昔から家でもよく歌っていたんですが、音楽の成績があまり良くなくて、自分には才能がないんだって、小学生ながらに思っていたので。(笑) まさか歌手になれるとは思っていなかったです。なので、デビューの話を聞いたときはびっくりでした。それまで人前で歌うこともなかったですし。デビュー前後にライブをたくさんやっていた時期があったんですけど、その時はもう必死で。(笑)
■そこから、歌を本格的にやっていきたいというか、気持ちの変化みたいなものがあったのはいつ頃なんですか?
水谷 一度、ワンマンライブをやったことがあるんです。ステージに立ってお客さんを盛り上げなくちゃいけないっていう責任感というか、とにかく来てくれた方たちを楽しませなくちゃいけない、楽しんで帰ってもらいたいって思ったときに、この曲はこうしたらもっと良くなるんじゃないかとか、自然とそういう気持ちが出てきましたね。
■確かに、ライブをやると意識しますよね、自分は歌手なんだって。
水谷 わたし歌手なんだって、やっと。(笑) でも、ステージに立つことの不安がなくなってくると、少しずつ余裕も出てきて。そうすると楽しむ気持ちも出てくるし、聴いてくれる方に喜んでもらう為にっていう気持ちでいると、自分も歌いやすかったりするので、そういう風に変わってきて良かったなって思います。
■歌っているときは、歌手である自分を演じている感じなのか、それとも素の部分を出している感じなのか、どちらが強いんでしょうか?
水谷 完全に素の方ですね。演じられたらなって思っていたときも、もちろんあるんですけど、歌うことは自分自身に帰ってくるっていう感覚が強くなってきたんですよ。それだけ自然でいられるというか。それからは演じるというよりは、自分自身として歌を届けたいっていう意識になりました。