田口達也(Gt&Cho)、矢野晴人(Vo&Ba)、太我(Dr)
好きなことを全力でやれる環境と友達が集まったから仕事にできている。
Non Stop Rabbitがメジャー2ndアルバム『TRINITY』をリリース。不安を提示しつつも励まし、意欲的に突き進む歌詞の“優等生”“上向くライオン”でストイックなノンラビらしさを見せたかと思えば、“全部ブロック”ではネットに潜む敵に堂々と反撃を突きつけ、“大丈夫じゃない””あなたが眠るその瞬間まで”では、パートナーとの関係性をその時々の温度差を明確にして描く。様々な感情を曲ごとに極端に描き切ったビビッドな作品だ。作詞・作曲を務める田口とボーカル矢野、ドラム太我がそれぞれの視点から見るノンラビの魅力を訊く彼らの結束力や信頼関係が伺えるインタビューとなった。
■まずは5周年おめでとうございます。5周年を迎えてみていかがですか?
矢野 最初の1、2年は長かったんですけど、その後は早く感じましたね。
田口 実感はないよね。他の人たちはどうなんだろう?下積みの方が長く感じないですかね、濃密というか。今は特にやることがあるとあっという間に時間が過ぎちゃって。「どうやって有名になろう?」ってやっていた時の方が濃かった気はします。
太我 僕も最初の1、2年のことの方が長く感じますし、覚えていますね。一番最初にO-westでワンマンライブをやったんですけど、それが一番覚えています。
■それほど最近は常に動いていらっしゃるんですね。今作のアルバムタイトルは『TRINITY』ですが、この名前にした理由はなんでしょう?
田口 最初の頃の方が覚えているとは言いつつ、やっぱり今のノンラビが一番好きなんですよ。バンドとしてというか、人として。メンバーも仲良しな友達として今一番好きなんです。2枚目のアルバムを出すってなった時に、ふと三角形っていうことを思いついて。よく取材とかで答えるんですけど、メンバーみんな全員B型で、本当に自己中なんですよ。あんまり人のことを考えていない。チームで同じ列車に乗ってみたいな例えをよく言ったりしますけど、僕らはゴールが一緒なだけで、3台それぞれ列車があって、みんな自分の運転の仕方で走っているみたいな感覚があって。でもそれって1台よりも死角がない。これを戦いに置き換えると、「3人で刀持って背中を任せ合うのが一番強いんじゃないかな」みたいな。そういうところから三位一体、「TRINITY」だなっていう感じです。
■“Needle return”はラップを田口さんがしているんですね。結構オラオラ系な雰囲気ですね。
田口 なんか自分の中に2種類いるんです。ここでラップしているみたいな「何じゃお前ら!」ていう強い一面と、「そんなこと言わないよ」みたいな弱い自分の2種類いて。それの強い自分を精一杯に出しました。あのくらい言った方が聴いている方も気持ちいいかなって。
■どの曲もそうだと思うんですけど、励ましたり強気な部分がある一方で、不安とか弱い部分をちゃんと歌っている。しかもその言葉選びがすごく直球だなと思うんですけど、そこは意識されていたりしますか?
田口 そもそもが僕は本当に弱い人間なので、そこに戻るんでしょうね。不安とか、自信がないとか。昔からそうですね。
■“優等生”も「疲れちゃったよ」で始まっていて、さらけ出している感じがします。
田口 冷静に見たら情けない歌ですよね……。
■“上向くライオン”のライオンっていうモチーフはどこから来たんですか?
田口 僕はよく映画を観たり、絵画を見たり、本を読んだりするんですけど、たまたま惹かれて買った絵画が上を向いているライオンの絵だったんです。それを買って部屋に飾って、曲を作ろうってなった時にサビのフレーズが降りてきたんです。
■歌い方でライオンっぽくというか、動物的というか、ライオンだからこその歌い方は考えたりされましたか?
矢野 1週間サバンナで生活しましたね。
田口 嘘つけ!食われて終わるぞ。(笑)
矢野 でもそのくらいの気持ちで。強いんだけど弱い部分もあるしっていうライオンが勝手にイメージできたので。そういう意味では自分と重ねている部分もあると思います。
■“BAKEMONO”のMVはアクションシーンもありますね。
田口 インディーズからメジャーシーンに来て、みんなが知っている音楽の場所に来たんだけど、来たら来たで綺麗じゃない部分をたくさん見て。その上でも「ここで音楽をやりたいと思っている僕らは化け物なんだな」っていうところからこの曲ができて。なので、MVでは3種類それぞれの化け物を描きたいなと思っていたんです。モナリザにバツを書いているところがあると思うんですけど、あれは既存の芸術を「みんなが良いって言っているから良い」と思っているだけで、「疑えていなくないか?」っていう化け物だったりとか、太我がやっている、新聞を破くっていう行為は、「その情報は本当に取り入れるべきなのか?誰かが入れたくて発信している情報じゃないのか?」って疑ってみるとか。そういう既存のものを疑っていく化け物っていう描き方をしたんですけど、その中で見えないものと戦っているということも描きたかったので、そのひとつとしてアクションを入れました。
■ひとつひとつに意味を持たせているんですね。
田口 そうですね。
■“dress”は、すごくテーマがはっきりしていますが、書こうと思ったきっかけの出来事などがあったんですか?
田口 自分のクローゼットを開けてみた時に、白い服をほとんど持っていなかったんですよ。下は履きますけど、上って白を持っていなくて。着れないんですよ、なんか自信がなくて。膨張色だし。
矢野 僕は今日着ているんですけど。(笑) めちゃくちゃ隣に着ている人いるのに。
田口 いや、それは自信あるんだよ。(笑) 黒で威圧感出そうとしているとか、自分の弱い部分が無意識に買っている服にも表れているなと思って。ある意味自分に言っています。YouTubeで稼いで、メジャーデビューもして、お金を手に入れてブランドも着たけど、別にそれで集まってきた人で良い人がいたかと言われれば、それは別だしっていう。
■“全部ブロック”はMVが特に激しい感じでしたね。
田口 曲を作っている時から映像ありきで作っていたところがあるので。絶対にああいう暗い感じで撮りたいって思っていました。瓶で頭殴っているのも曲を作る段階から構想があって。
■すごいですね。MVのリリックの力もすごくありました。
田口 時間がかかるんですよ、あれ。ありがとうございます!
■この曲も思うところがあって書いたと思いますが。
田口 そうですね。コロナ禍でより幸せになったっていう人は少ないと思うんです。何かしらマイナスの影響を受けていて、その影響がネットやSNSの世界にモロにきていると思ったんです。汚ないことで人を陥れる、傷つけるみたいなことが増えているんですよね。そういうのを受けたり、見た時に、「どういう気持ちで書き込んでいるんだろうな……」と思って。おそらく全てが全て相手に当たっていると思っているからやっているんですよ。でも僕らがブロックをするだけで、攻撃してくるその人は二度と僕らに銃を向けることすらできなくなるよっていう。そこからですね。僕らってブロックをするだけでも炎上するんですよ。芸能人が一般人をブロックしているって。「悪口を言われるくらい有名になった証拠だからいいじゃない」って言いますけど、いやいや「悪口は言っちゃ駄目」って教わったでしょって。
■本当にその通りですね。
田口 そこから作りました。僕らは顔を出して、アーティストとして自分らが持ってる武器を使って刺しますよっていう。
■その意思がこのMVにすごく詰まっていたなと感じました。“大丈夫じゃない”は、他の曲よりも歌が目立つアレンジになっていますが、歌い方で意識されたことはありますか?
矢野 そうですね。歌詞は1番と2番で性別が違うので。1番が女性、2番が男性。そこはディレクションもそうですし、歌入れの時にすごい意識しました。
■最後の方の「ぎこちない出会った頃を」からの展開がぐっときますね。
田口 僕的にも作曲していてハマったなと思いました。レーベルの人も褒めてくれて。明るい展開にして過去のキラキラを表すっていうのが、上手くできたと思います。あと単語が強いですよね。「だいじょばない」ってわざと耳にひっかかるようにやっているので。その分、他の部分でどれだけ日本人が聴いてきたJ POP、J ROCKにして違和感を打ち消すか。ふと聴いたら「だいじょばない」って言っていたんだって、気付かなくしたいと思って作りました。
■「だいじょばない」の前に「大丈夫じゃない」ってちゃんと言っているからこそ、違和感を軽減できていますよね。
田口 説明しているっていう。こういう「え?」って思われるような単語を選ぶのって、かなり勇気がいるんですよ。
■“あなたが眠るその瞬間まで”はすごく優しい曲ですね。これって隣にいないけど繋がっているっていう曲じゃないですか。“大丈夫じゃない”は憎いのに隣にいないと困るっていうのが対照的で。その2曲に繋がりを感じたんですけど、いかがですか?
田口 世の中のカップルのことはわかんないですけど、みんな“あなたが眠る~”みたいな始まり方をして、“大丈夫じゃない”みたいな終わり方をすると思うんですよ。だから、ひとつのカップルに2曲とも贈っているんです。思い出して欲しいんですよね。なんで“大丈夫じゃない”があるかというと、“あなたが眠る~”で描いているみたいな時期があったからですよって。幸せで、この人のために自分の時間を分け与えたいって思うことがあったから、時が経ってムカつくけど、隣にいないときつい。だからここは繋がっているんです。2曲で1曲なんです。必要な曲同士というか。
■なるほど。ひとつのカップルの時系列的に言うと最初に来る“あなたが眠る~”が曲順的には後にあるっていうのには理由があるんですか?
田口 カップルたちに別れて欲しいわけじゃないんで。付き合いたてのカップルとかで手紙を書き合ったりとかあると思うんですけど、別れる直前にその手紙を読むと、別れるっていう決断に至らなかったりとかあるじゃないですか。そんなのに近いのかなっていう。
■そして“未来へ”。これはダンスチューンっぽいですけど、王道なダンスナンバーではないというか。
田口 この曲は今のご時世だったりとか、状況が早く解決して、未来はこうなっていったらいいねっていう理想の歌です。もしライブでやったとしても、めっちゃジャンプできるわけじゃないというか。でもこんな変なノリ方の曲で楽しいって思える時代があればいいなって。めっちゃアッパーな“Needle return”みたいな曲は盛り上がって当たり前。ノリにくかったりとか、あからさまにアッパーであげあげじゃなくても、これが楽しいって思える時代がきたらいいなっていう意味を込めて、ちょっとノリにくいみたいな曲になっています。
■なるほど。この曲を聴いていて、すごく洗練された感じというか、今までよりも一段上がったようなものを感じたんですけど、それも今お話されたような未来に向けた歌だからということが関係しているのでしょうか?
田口 近未来みたいなことは、作曲の段階から意識していましたね。