『ファントムシータ 1st LIVE 2024「ハイネ」』ライブレポート@日本武道館

黒い翅を広げた5人の美しくグロテスクな幻想世界。

Adoがプロデュースするアイドルグループ・ファントムシータが11月1日(金)、東京・日本武道館で『ファントムシータ 1st LIVE 2024「ハイネ」』を開催した。Adoの呼びかけのもと、約4,000人の応募者からオーディションで選ばれたファントムシータのメンバーは、もな、美雨、凛花、灯翠、百花の5人で、「レトロホラー」をコンセプトとするグループ。2024年6月に1stシングル『おともだち』をリリースしてデビューすると、7月から行われるAdoの全国ツアー『Ado JAPAN TOUR 2024「モナ・リザの横顔」』の全公演でオープニングアクトを担当することが発表され、大阪・大阪城ホールにて初ステージを迎えた。

公演当日、開演時間を迎えて客電が落ちると、舞台上のスクリーンでは暗闇が瞼を開く。オルゴールの音色が切なく響く中、光の鱗粉を撒き散らしながら霧の中を彷徨う一匹の赤い蛾。やがてそれは色とりどりの仲間を引き連れて消え、舞台上に現れたステンドグラス調の扉が開き、黒いセーラー服を纏ったファントムシータがついに日本武道館の地へ舞い降りた。無邪気な笑顔に狂気が見え隠れする“おともだち”からスタートし、毒花が開く“花喰み”へ。めまぐるしく変わる表情と叫びにも似た歌声で繰り出される幻想世界に目を眩ませていれば、階段から転げ落ちた5人は戸川純の“好き好き大好き”という意外性ある選曲で観客を沸かせる。壊れたラブソングは不安定さを伴ってインモラルに響き、メンバーがひとりずつ歌う「好き好き大好き」の合間にはその名前を観客がコールする。「改めまして私たち、ファントムシータです!」3曲を終えて肩を寄せ合い、ペンライトを振るファンへ挨拶するファントムシータ。パフォーマンスは堂に入っているが、MCからうかがえる彼女たちの素顔は初々しい新人アイドルだ。「今日は私たちファントムシータの恐ろしくも美しい世界観を、最後まで楽しんでください」そう言って歌いだされた“乙女心中”では炎が揺らめき、その熱が2階席にまで届く。やがてその灯が消え入れば、柔らかなスカートをつまみ上げて軽やかに舞う“魔性少女”で恍惚の表情を見せる5人。その姿は無垢な蝶のようでいて、正体は近寄る者を甘く誘惑し捕らえる毒蛾だ。ここで一度ステージを後にしたファントムシータ。愛らしさとグロテスクさの入り混じった空気は、やがてステージへ映し出されたビビッドな色彩によって掻き消える。90年代の教育番組チックな古めかしいCGに、未来感あふれるヒビ割れたシンセサウンド。天井近くに輝く電子時計のカウントダウンがゼロになると、真紅に艶めく昭和アイドル風ドレスに着替えた5人がステージへ駆け戻り、“ラムのラブソング”をラブリーに歌う。

ここからライブはソロコーナーへ。もなが選んだのは、松田聖子の名曲“SWEET MEMORIES”だ。ドレスについたパールをきらめかせながら、夢見る乙女の瞳で階段に腰かけるもな。蜂蜜のような歌声はとろけて武道館にあふれ出し、甘く匂い立つ。曲の最後には微笑みの中、一筋の涙が頬を濡らしていた。そこから一転し、花道の先に胸を張って観客席を睨み上げた凛花は、中森明菜の“少女A”をドロップ。気だるげに首を回し、長い髪を指先で弄りながら低く挑発的な声で歌う凛花は、ほんのわずかににじみ出るあどけなさをも武器にアイドルとしてそこに立つ。百花はステージの中央でスタンドマイクを艶めかしく撫で、椎名林檎の“歌舞伎町の女王”をカバー。情念のこもる歌声を旋律の迫力に乗せ、歓楽街のネオンめいてぎらつく照明を背負い、百花は官能的なパフォーマンスをわが物としながら、大きな瞳をいたずらっぽく輝かせる。美雨はsyudouによる初音ミクの楽曲“ジャックポットサッドガール”をチョイス。真っ赤なフリルスカートを蹴飛ばして叫び、笑い、観客へ手を伸ばして転げ、その重々しい足取りと艶やかな歌声のすべてで自身の存在を見せつける美雨は、会場の視線を一身に受けながら、最後は倒れ込んでステージを終える。その熱狂が冷めやらぬ中、灯翠はanoの“ちゅ、多様性。”を披露。この日セットリスト入りしたカバー曲の中では最新の曲ということもあり、観客はイントロが鳴り響いた瞬間から盛り上がる。グループの中では狂気性を見せる灯翠だが、今回はスカートを振り乱しながら花道を駆けのぼり、とび切りの笑顔で振り返ってポップなアイドルを演じきった。

ソロコーナーが明けてCö shu Nieの“asphyxia”を歌った5人は、霧が立ち込める舞台の中、“HANAGATAMI”で折り重なり合い赤い花と化す。つま先でステージの表面をなぞり、闇に沈んだファントムシータが次に歌うのは、欅坂46の“サイレントマジョリティー”だ。ステージからオーディエンスをかっと睨み、拳を突き上げる5人。それはアイドルとしての存在を表明する姿に見えた。再びのMCで、「衣装が変わりました~!」と可愛くはしゃぐ5人は、今回の公演に冠された「ハイネ」という単語について語る。この単語は今回のライブタイトルにして、ファントムシータのファンネーム。由来はアゲハモドキ(蛾)の学名にあり、かつ「憎しみ」の意味を持つ。独特な世界観を持ち、異端的なアイドルグループであるファントムシータは、パフォーマンスの上で痛みや苦しみ、そして憎しみを大切にしていると語る。「そんな私たちを愛してくれる皆さんは異端の存在であり、私たちが愛していくべき存在です。私たちはレトロホラーアイドルとして、本物のアイドル像を見せつけて行きたいと思います」その言葉に拍手が上がる中、5人はファンクラブの開設を発表。それに対する歓声は「次の曲が最後になります!」の一声で名残惜しげな声に変わる。ラストソングに選ばれたのは“きみと××××したいだけ”。炎が燃える舞台の上、刺々しく毒を持つ激しいナンバーを悠々と歌い上げると、5人は静かに腰を下ろし、人差し指を交差させて深々と頭を下げ、闇の中に沈んで行った。

アンコールの声に呼ばれてステージへ舞い戻った5人は、“なんてったってアイドル”でステージの上を駆け回る。リリースから40年近く経っても色褪せない永遠のアイドルソングに観客からコールが上がり、メンバーの笑顔も弾けた。続いてドロップされた“Tot Musica”には、イントロから大歓声が上がる。映画『ONE PIECE FILM RED』の劇中では破滅を招く楽曲とされたこの曲も、ファントムシータにとってはオーディションの課題曲となった、すべての始まりの旋律だ。情熱の漲る身体からほとばしる叫びは重低音を切り裂いて、少女たちは歓声を渇望して手を伸ばす。ここで一度、ひとりずつ想いを語る時間をとったファントムシータ。言葉は違えど、彼女たちが胸に抱えるのは、このグループへ賭ける熱い想いと、これからの活動に対する決意だ。デビューから半年も経たずに行われる日本武道館での1stライブに対しては賛否両論の声があり、彼女たちもそれを受け止めてこの日を迎えている。それぞれの人生ときっかけを経て、悩み、苦しみながら日本武道館までの道を歩んできた5人の目には、涙が光っていた。ラストソングに選ばれたのは、ネオ昭和歌謡に歌声が煌めく“ゾクゾク”だ。華やかな火花が鱗粉のように散る舞台に躍り、炎へ引き寄せられるが如くふわりと並んだ5人は、大歓声の中で舞台底の奈落へと落ちて行った。公演の最後に2025年の世界ツアー開催を予告したファントムシータ。蛹を破って翅を広げた少女たちの物語は、まだ始まったばかりだ。

Text:安藤さやか
Photo:ヨシモリユウナ

『ファントムシータ 1st LIVE 2024「ハイネ」』@日本武道館 セットリスト
01.おともだち
02.花喰み
03.好き好き大好き(戸川純 cover)
04.乙女心中
05.魔性少女
06.ラムのラブソング(『うる星やつら』より)
~Solo corner~
07.もな/SWEET MEMORIES(松田聖子 cover)
08.凛花/少女A(中森明菜 cover)
09.百花/歌舞伎町の女王(椎名林檎 cover)
10.美雨/ジャックポットサッドガール(初音ミク cover)
11.灯翠/ちゅ、多様性。(ano cover)
12.asphyxia(Cö shu Nie cover)
13.HANAGATAMI
14.サイレントマジョリティー(欅坂46 cover)
15.きみと××××したいだけ

ENCORE
01.なんてったってアイドル(小泉今日子 cover)
02.Tot Musica(Ado cover) 
03.ゾクゾク