新宿の夜に歌う、愛と孤独と不条理のセカイ。
ポップしなないでが6月13日(金)、ワンマンツアー『ビビっちゃってんじゃないの?』のファイナルとなる東京公演をZepp Shinjuku(TOKYO)で開催した。今回のツアーでは北海道から福岡まで日本各所を巡ったポップしなないで。金曜日の夜、繁華街の中心で行われた東京公演は、時計の針が定刻に触れた瞬間に闇へ包まれる。舞台の上に湧き上がる光の粒、淡いピアノのメロディ。抽象的なそれらは次第に形を得て、草原にぽつんと建つパラボラアンテナまみれの電波塔の姿が浮かぶ。「電波塔からお送りする生存者確認ラジオ……なんていうとりますが、まずはこの曲……」ノイズ混じりの声が響き渡り、幾何学的な紋様が次々と輝く。めまいを喚び起こす景色に見惚れていると、かめがいあやこ(Vo&Key)とかわむら(Dr)が舞台に現れ、フロアの観客に挨拶をする。メンバーが定位置につくとノイズの高まりと共にSEが途切れ、ポップしなないでのサウンドロゴが流れ出した。「そんな時はポップしなないでがいれば大丈夫。ぜーんぶうまく行くよ」逆光と直線の嵐の中、シニカルに色気を孕んだ歌声が電波塔の足元から絞り出される“my tempo”。続く“魔王様”は対照的に、コミカルなMVを背景として観客の身体を揺らす。かわむらがサウンドの心臓部を掴みつつ、バンドセットを基本とした今公演。“白昼きみとドロン”ではカウントアップと共にビートにあわせて天井のミラーボールが回転し、「ポップしなないでが来たぞー!おまえら全員まとめて救いに来たぜー!」の台詞と共に歌い出される“救われ升”はサーチライトのせわしない回転に誘われ、会場のテンションとともに奔放に疾走していく。

4曲を終えるとZepp Shinjukuに集まったファンの顔を見回し、「すごい人(人数)ですね〜」と感慨深げに語るふたり。3月発売のアルバム『Electric』のリリースツアーである今回のツアーを振り返るかめがいは、「仙台では仙台の人たちのことを知り、札幌では札幌の人たちのことを知り……」などなど各会場のファンの笑顔を思い出す。「……が!まだZepp Shinjukuに来ているみんなのことは……知らんが!」そのまま“知らんが。”に流れこめば、バンドの姿は猛烈なライティングと音の壁の向こうに時折歪む。「ここはZepp村、Shinjuku山。ここでダンスを踊るとUFOが来るらしい。今日はみんなで踊ってUFOを呼ぶぞ〜!」の呼びかけに盛り上げられた“UFOを呼ぶダンス”には、オーディエンスがグッズの”光る!ブレス”のついた右腕を突き上げて天井の向こうの宙を指し、音楽に応える。かめがいは“スチーム・スチーム・アドレナリンジャンキーズ”でマイクを手にキーボードから離れ、ステージの前に立ってサウンドを浴びながら、喜びに満ちたファンの表情を眺めていった。“落堕”の導入ではかめがいが鍵盤に指を滑らせ、その音色はときおり不条理でありながら、感情のほとばしりをありのままに載せる。毒々しい光の花が咲いた舞台で、歌声は何も知らぬ少女の透明な清廉さと、傷つき爛れながらも人生を謳歌する大人の妖艶さとを往復して、“そらをとばない”でドラムが作り出す渦と絡み合い、ステージ中央の空白に観客を引き摺り込んでいく。

ここで一度バンドメンバーを送り出し、ふたりきりになったポップしなないで。暫しの休息に、かわむらは「俺、普段は緊張するタイプじゃないんですけど、おととい急に緊張に襲われて朝まで眠れなくなったんですよ」と語り出す。完徹後のリハーサルはかめがいも「目、ギンギンでした」と語るほどだったが、その反動もあって本番前日はぐっすり眠れたそうだ。この日のふたりはコンディションも良好。その理由はかめがい曰く「審議に審議を重ねた結果、本番前のお弁当が焼肉弁当になった」から。笑い声と拍手が上がる中、「やっぱお肉食べないと元気もりもりにならないですからね」とかめがいが胸を張る。「ふたりだけになったので、ポップしなないでをきっとこのステージに連れてきてくれた曲をやります。」和んだ空気を手にしたままに、ピアノの音が軽やに響けば光の飛沫が弾ける。謎めいた詩と甘やかな歌声を堅実なビートが引き締めて幻想と現実の境目を曖昧にする“魔法使いのマキちゃん“では、光の合間をたゆたう金色の蝶。魔法陣の回転に意識を誘われ、観客は息を呑む。一転した“Creation“は殴りつけるかの如く強烈な打鍵にドラムが寄り添って、抽象的なアートアニメーションのMVを背景にしながら、生々しくも鮮烈に創造の孤独と痛みを叫ぶ。“(((爛々)))“では、亜空間にコラージュ映像が浮かんでバンドサウンドへと絡みつく。

「あっ、カエルだ!カエルが来てる!」歌声で様々な表情と世界を作り上げたかめがいは突然、舞台下手にカエルのパペット人形を発見。それを追いかけて舞台袖へ消えていった彼女だが、最初は和やかだった会話には次第に「た、助けて〜!」という悲鳴が混じり始める。そんなひと芝居を経て、ふわりとした新しいドレスに着替え再登場したかめがい。「こんなかわいい服になっちゃった!」とハンドマイクでキュートに歌う“愛とべいべー“で、背中についた大きな黒いリボンは小悪魔の羽根めいて見える。ベースのイントロで歓声と手拍子を誘う”暴露“では、点滅の向こうにオーディエンスの歌声が聞こえた。ライブも終盤となり、改めてバンドメンバー3人と、彼らとの繋がりを語ったふたり。かわむらはかつて、今日同じステージに立っているミュージシャンと、新宿のとある雑居ビルの中のライブハウスで「地獄の底のような」ライブをしたことがあるらしい。ふたりは「このZepp Shinjuku公演に来ている人数をあのライブハウスに詰め込んだら、ライブハウスどころかビルごといっぱいになると思います」「床が抜けちゃうかもね」と笑い合い、この会場でライブができることへの喜びを再確認した。「こんなまるで夢みたいな夜にぴったりな曲をやります」そんな言葉に呼び込まれたのは“夢見る熱帯夜”。夏の入り口に立った夜、パステルカラーの中で疾走するメロディに飛び乗るのは、メロウにとろけていた音源とは全く違う猛烈な歌声だ。その勢いのままに“幸福な通電”へ流れ、“あかるい秘密結社”では、背景のアニメーションに同期した照明が輝いて、ライブ会場を秘密結社の集会場へ変える。

普段はどんな場所で何をしていようと、今この瞬間は同じ場所で同じ音楽に身体を揺らしていること。それを祝福しながらも、余韻をそのまま“エレクトリック修羅”に続けるのはアイロニーすら感じさせる。しかし、ステージに立つミュージシャンを含めて、幼い頃に思い描いたままの理想の未来を生きている人間などいない。当たり前として受け入れていることが、怒涛のサウンドを伴い新鮮な感動として身体に染み込むのは、新宿の夜の匂いが染み込むこの会場だからこその生々しさなのだろう。「周りのミュージシャンが売れていく中、我々はコンプレックスもいっぱいあるのですが、我々の音楽を聴いてライブに足を運んでくれるみなさまが少しずつ増えてきて、この会場が埋まっている光景を誇りに思っています。同時にみなさまからの景色も素晴らしいものだと信じておりますので、誇りに思ってくれると嬉しいです」ライブも終わりに近づく中、静かに語るのはかわむら。「またみなさんが望むのなら、我々はでっかいところ(会場)でやりますので、でっかいところで会いましょう。その時はみなさん、来てくれますか?」の言葉に上がる歓声と拍手には、「全員覚えたからな!?」と応えた。本編ラストに選ばれたのは、「逃げてばかりであろうみなさまの人生と我々の人生にぴったりな曲」と紹介された“easy escape”だった。背景の電波塔が花畑に埋もれてゆっくりとアンテナを振る中、たくさんの視線を受けながらも、「逃げ出したい」と歌うポップしなないで。切々とした歌声の中、夕暮れに電波塔が消えていけば、黄昏た空には花火が打ち上がる。その景色に目を奪われているうちに、美しいひとときが過ぎていった。

アンコールに呼び戻されたふたりはまず通販番組よりも手際良くライブグッズを紹介。そして背景映像を担当したVJsadakataを讃えると、スクリーンに映るロゴがぴょこぴょこと動く。そしてこの日のライブの模様が映像作品として秋ごろリリースされることを発表し、バンドと共に“言うとおり、神さま”と“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”を披露した。退場後、再度のアンコールに「もう終わりだっつってんだよ!」と言いつつも、笑顔で駆け戻ってきたポップしなないで。「Wアンコールは他会場ではやってないんですよね。だから俺たち、これから売れる物販分しか歌いません」と冗談で観客を笑わせ、最後には天使のような白い裾をなびかせながら“エレ樫”を歌い上げた。ひとりがひとりであることも、たくさんの人間と同じ場所にいても「個」であることも否定せず、何も強制せずに、自分たちが作り出した言葉とメロディの響きに喰らいついて、ひたむきに自身の世界観を奏で続けるポップしなないで。葛藤と空想との合間に見える現実は、初夏の夜に肉感を得て思い出を残していく。眩い光の向こうに見えたふたりの姿には、夢のようでありながらも、変わらない意志と変えない強さがあった。
Text:安藤さやか
Photo:かい
ポップしなないでワンマンツアー「ビビっちゃってんじゃないの?」@Zepp Shinjuku(TOKYO)
セットリスト
https://PopNeverDies.lnk.to/setlist250613
01.my tempo
02.魔王様
03.白昼きみとドロン
04.救われ升
05.知らんが。
06.UFOを呼ぶダンス
07.スチーム・スチーム・アドレナリンジャンキーズ
08.落堕
09.そらをとばない
10.魔法使いのマキちゃん
11.Creation
12.(((爛々)))
13.愛とべいべー
14.暴露
15.夢見る熱帯夜
16.幸福な通電
17.あかるい秘密結社
18.エレクトリック修羅
19.easy escape
ENCORE
01.言うとおり、神さま
02.支離滅裂に愛し愛されようじゃないか
W ENCORE
01.エレ樫