ポップしなないで『美しく生きていたいだけツアー』ライブレポート@恵比寿LIQUIDROOM 3月27日(日)

ポップしなないで『美しく生きていたいだけツアー』

ポップしなないでの音楽は、みんなの独りぼっちの部分に触れられる音楽だって信じています。

3月27日、ポップしなないでの『美しく生きていたいだけツアー』東京公演が恵比寿LIQUIDROOMにて開催された。希望と寂しさがないまぜになった、時に奇想天外な単語の組み合わせ、喋るように気さくで抑揚のあるかめがいあやこのボーカル、それに寄り添うように叙情的なかわむらのドラム。この日は、それらをよりしたたかに彩るサポートバンドも加わり、日常にある景色をポップな異世界に染め上げ、表情豊かな演奏で魅了した。

ライブ1曲目に選ばれたのは“フルーツサンドとポテサラ”。2人の息の合った演奏がゆるやかなノリを生みだす。瑞々しい感情が乗るかめがいのボーカルは明るく、ライブへの歓喜が押し寄せているようだった。リズミックな歌声が感情豊かな“救われ升”では、はつらつとしたかめがいの歌声と、キャッチーながらもどこか憂いを含む歌詞が絶妙なバランスを醸す。一転して抑えたトーンで披露された“クラヤミライダー”では、2人のハーモニーが会場を静かに漲らせる。メロディアスなピアノもかわむらのビートもシンプルで、したたかなその音色が彼らの中ににじむ熱意を思わせる。2人が手を止め、マニピュレーター・ミツビシテツロウによるビートだけで「ラララ…」と声を重ねる部分は特に、2人にたぎるパワーがひしひしと感じられた。

「1人1人の思いで、1人1人の価値観で、美しく生きていきましょう」。短い挨拶とバンド紹介の後にかめがいがそう言うと、バンドスタイルで“支離滅裂に愛し愛されようじゃないか”へ。カワノアキのベースと山内かなえによるギターがグルーヴィーに絡み合い、かめがいのピアノがポップかつ上品に率いる。かめがいによって軽やかに歌われる詞は遊び心でコーティングされつつも、強い意思をも内包する。「君を傷付ける物だけは僕が先に除けてやるんだ」「結んだ手だけ離さないで」といった、Aメロ、Bメロから「暗闇でもう一回手を伸ばす 会わなきゃよかったなんて思わないように」と締めくくられるサビ。シームレスかつ劇的な展開が気持ちよく響き、ラスサビではかめがいのボーカルと山内のギターがハーモニーを作り出した。

同じくバンドスタイルで“Ccity pops”、“どうすんの?”と繋げ、ポップしなないでの幅広い表情をバンドによって拡張する。MCにて、バンドマンとしてLIQUIDROOMでのワンマンに憧れを持っていたことを話したかわむらは、「今日、ものすごい怖い景色が広がってると思ったのだけど。でも単純に、めちゃくちゃ俺たちのことを支えてくれる人たちがいっぱいいるだけだった。本当にありがとうございます」と思いを語る。「ありがたいね。私たちも超楽しいですし、みんなも楽しんで!素敵な夜にしていきたいと思います!」とかめがいが続けると、“tempura”へ。音程が上下するメロディを弾むように歌う。一抹の寂しさを感じさせながら展開する“魔法使いのマキちゃん”へと続くと、3拍子に変化する間奏で、2人の演奏が高め合うようにヒートアップし、圧倒した。

狂気が潜む歌詞が切迫したように歌われた“Creation”と、物語仕立ての壮大なバラード“SG”の流れは特に壮観だった。やるせなさや哀しさがなだれ込むように豊かなニュアンスで紡がれた“Creation”、希望や反抗を感じるひたむきなボーカルがドラマチックな演奏とともに披露された“SG”。創作や音楽に向き合う態度を別の角度から写し取る2曲が相反するように並んだ。

「新曲やります。みんなで踊りましょう!」と披露されたのは“UFOを呼ぶダンス”。再び登場したバンドメンバーと息の合った掛け合いで会場の熱気を高めると、カワノと3人で“でも暮らし”へ。ミツビシとの3人で披露された“Sunset”では、かわむらによるシンプルかつ自由なハイハットがボーカルと重なり、バンドサウンドで表現を拡張したアルバム『美しく生きていたいだけ』、あるいはこのライブを幻想的に象徴した。バンド5人体制で“夢見る熱帯夜”を披露すると、ポップな音色とカラフルなかめがいの声で明るく彩った。

「ポップしなないでの音楽は、みんなの一人ひとりの心の中にある独りぼっちの部分に触れられる音楽だって信じています。今日は本当にたくさんの人が来てくれて、こんなに沢山の人の心に触れられたのかなと、嬉しく思っています。私にとっても、かわむらくんにとっても、この光景は忘れられない光景です。それはみんなが来てくれたからで、本当に心から全員に感謝しています。ありがとう」かめがいがそう語ると、「ここに来る前よりも前向きに、「仕方ねえ、明日も頑張るか」って帰ってくれたら嬉しいと思っています」と、丁寧に思いを伝える。それから披露されたのは“2人のサマー”。静かに思いを独白するような序盤から、徐々に楽器が加わり、終盤は思いをふり絞るように力強い演奏を繰り広げる。かめがいによってバンドメンバーが再度紹介されると、しっとりとしたアウトロが続いたまま、一人ひとりバンドメンバーが退場していく。最後にはかわむらもドラムから離れ、かめがいのソロによって静かに締めくくられた。

アンコールにて「俺たちは今日みたいな日を続けていきたいし、今日みたいな空間をこんな大勢の人たちと共有できたことがめちゃくちゃ嬉しいです。音楽やっていてよかったなと思います」と語ったかわむら。そんな純粋な喜びの言葉の後に披露されたのは“言うとおり、神さま”、“丑三キャットウォーク”。心に潜む混沌と純粋な思いを照らしていく音楽が、豊かな2人の演奏によって彩られた公演。珠玉のポップと遊び心、音楽への想いと演奏力をきらめかせた。

Text:村上麗奈
Photo:ゴンダイメグミ

https://popsnnid.com/

『美しく生きていたいだけツアー』@恵比寿LIQUIDROOM セットリスト
01.フルーツサンドとポテサラ
02.救われ升
03.クラヤミライダー
04.⽀離滅裂に愛し愛されようじゃないか
05.Ccity pops
06.どうすんの?
07.tempura
08.魔法使いのマキちゃん
09.Creation
10.SG
11.UFOを呼ぶダンス
12.でも暮らし
13.Sunset
14.夢⾒る熱帯夜
15.2⼈のサマー

ENCORE
01.⾔うとおり、神さま
02.丑三キャットウォーク