愛と感謝を込めた初の全国流通アルバムは「棺桶まで持って行ってほしい1枚」。
歌い手のゆきむら。が自身初となる全国流通アルバム『- Never ending Nightmare-†』を12月11日にリリース。2011年の活動開始から歌い手として、配信者として活躍しているゆきむら。の今作は、自身のルーツである「歌ってみた」の楽曲を中心に収録。大久保薫が手掛けた“愛未遂ジェーン・ドゥ”、ヒゲドライバーによる“反逆ノノロシ feat.ヒゲドライバー”、サポートメンバーでもあるSakuが紡ぐ“シナリオノート”、そして自身の作詞曲“AI”など、オリジナル曲も5曲含まれている。インタビューでは音楽に関する熱い言葉とともに、リスナーへの感謝が語られた。
■初の全国流通盤『- Never ending Nightmare-†』のリリースおめでとうございます。まずお伺いしたいのですが、「歌手・シンガー」と「歌い手」の違いはどこにあると考えていますか?
ゆきむら。 単純に「他人(ひと)の曲でしか飯が食えなかった人」という風に考えています。もちろんみなさん大好きなんですよ!すごく大好きだから始めた文化なんですけど、僕は他人を許せても、自分を許せないんです。
■配信でもおっしゃっていましたよね。「他人は許せても自分は許せない」って。
ゆきむら。 「歌い手」っていうのは、すごく誇るべき肩書きだとは思いつつ、そこにあぐらをかいてしまう部分があって、そこを突かれた時にオリジナリティや自分の世界観を持っているか、持ってないかがヴォーカリストと歌い手の違いだと思っています。オリジナル曲を頑張ろうと思ったのは、そういう部分のコンプレックスから脱出したかったというのがあります。
■ちょっと意地悪なお話になるかもしれませんが、ゆきむら。さんってアイドルもお好きなんですよね?「他人が作った曲を歌う人」というと、アイドルもそれに該当すると思うんです。
ゆきむら。 確かにそうですね。でも、「どれだけ生身かどうか」というのが結構重要なことだと思うんです。僕が未だにVTuberという文化を飲み込み切れていない理由もそこなんですが、2.5次元アイドルや、2次元アイドルさんが取り組まれてることは、僕にはとてもできない素敵なことなんです。素敵なことなんですけど、僕がお金を払ったり、時間を削ってでも追いかけることに費やしたいなと思うのは、生身で、汗をかきながら、自分の身体を使って表現しているアイドルグループさんなんですよね。「魂が形として見えるかどうか」が僕の中では大きな違いなのかもしれないです。
■すごい!今めちゃくちゃ納得しました。それではアルバムのことに話を戻しまして、今作の収録曲を見た時、2010年代に青春を過ごした身としては、カバーの選曲が刺さりまくったんですよ。こちらはどういった意図の選曲になったんでしょうか?
ゆきむら。 自分が新潟という結構田舎のところで、初めてインターネットの文化に触れた当時、この曲たちってもう大手の歌い手さんが歌い上げていらっしゃったものなんですよ。それで、それを今更ながらにカバーするというのは、ある種ハードルが高いなと思ったので、自分にムチを打つわけではないんですが、あえて選んでみました。「シンガーだか、ボーカリストだかなんかわかんねえけど、ゆきむら。がこの曲たちをどう見せてくれんの?」「どう命を吹き込んでくれんの?」という、限界値を僕自身も知りたくて。なので、あえて超ぶっ刺さるストレートな選曲にしたんです。それが理由のひとつです。
■「理由のひとつ」ということは、別の理由もあるんですか?
ゆきむら。 もうひとつは「購買意欲(セールス面)」です……。(笑) やっぱりこのアルバムを作るからには、1枚でも多くみなさんに手に取ってほしいと思ったので、みなさんの心に残っている曲をた くさん入れた方が、「この曲わかる、1枚くらい(アルバムを)聴いてみようかな」って思ってもらえるきっかけになるかなということで。(笑) 正直、このふたつが選曲の理由です。
■そういうの大事ですよね。(笑) 今のお話を聞いて収録曲を見た時、2015年くらいにリリースされた歌い手コンのピレーション・アルバムを思い出して懐かしくなったんですよ。
ゆきむら。 それこそ天月さんとか、自分が見てたいろんな大手さんのクロスフェードをめちゃくちゃ見て、この人たちが売れた理由を分析したり、ウケる選曲を考えたりしたんです。でもやっぱり、ある種の劣等感だったり、自分が歌いこなせなかった曲や、歌い手としての未練たっぷりな曲を入れた方が熱も込められるのかなと思って、この選曲になりました。
■2010年代前半リリースの曲なんていうのは、いろんな歌い手さんが個性を出しまくって歌っていらっしゃいましたよね?
ゆきむら。 そうなんです、もう別にこれ以上誰も歌わなくてもいいよっていうくらい。(笑)
■でもその中で、ゆきむら。さんって配信者としては結構個性が強い一方、歌い方がすごく素直だと感じたんですよ。いい意味で、歌い方にナルシズムがないというか。
ゆきむら。 わ、ありがとうございます。その言葉、どっかで引用したいです。(笑)
■歌うとき、「自分の個性」と「曲の個性」ではどちらが優先されますか?
ゆきむら。 それで言うと「曲」優先なのかもしれないです。ゆきむら。という存在は、意外と自分がこだわり抜いて作ったものではなく、どちらかというと「こういうゆきむら。であってほしい」「ゆきむら。ってこうだよね」っていう、それこそニコニコ動画のコメントで流れてくるようなものから参考にして出来上がってきたものでもあります。そういう意味では「自分節」より、曲それぞれの登場人物だったり、作り手の方の気持ちだったりをどれだけ咀嚼してアウトプットできるかを考えています。なので、多分自分の個性が先行するタイプではないですね。
■そういう部分を特に感じたのが“アイドル”だったんですよ。1曲の中でいろんな表情が見えて可愛かったんです。あえてのこの曲だったんですか?
ゆきむら。 そうですね、あえてこの曲なのと……ちょうどこの曲が大ヒットしていた時にライブで歌わせていただいたら、めちゃくちゃウケが良かったんです。(笑) それで、そこから「ゆきむら。、“アイドル”歌って!」という、「アイドルハラスメント」を受けたんですよ。アイハラですね。(笑)
■それはまさしくアイハラですね。(笑)
ゆきむら。 でも、「いや、逆にもう歌わない」みたいに思っていたんです。やっぱりあの曲って、いろんな人がジェラシー抱いた曲でもあると思うんですよ。「どうしてこんな曲が作れるんだ?!」とか、「Ayase出世しすぎじゃない?」とか、いろんな人の気持ちがある中で、僕もそこに巻き込まれたひとりとして、何かを感じざるを得なかった1曲なわけですよ。だから「歌え歌え」と言われているのに逆張りで歌わなくて……。(笑) でも全国流通するアルバムで何を歌うか?と考えた時に、「いや、もう歌ってやるよ!」という気持ちになりました。ここで本当に自分が納得して、原曲をリスペクトした上で、自分が普段表現しているものとは正反対のものなので、自分が納得いくゴールの“アイドル”を歌い上げたかったんです。
■この曲は歌い方の印象がすごく丁寧でした。結構録り直しましたか?
ゆきむら。 かなり撮り直しましたね。レコーディングの時、ディレクターさんに「別のゆきむら。を出してほしい」というリクエストを頂いたんですけど、「別のゆきむら。ってなんだよ?」と思って。(笑) ディレクターさんの「ゆきむら。ならもっとノれる」、「ゆきむら。だからこそ、光と闇の二面性みたいなものを出して」というパッションがすごくて、それを受けて「わかったよ、歌ってやるよ!」という感覚になったんです。なので、「俺はできるんだよ、黙って見とけ!」という感じのテイクになったと思います。(笑)
■だからこだわりを感じるテイクになったんですね。一番テイクを重ねた曲はどの曲ですか?
ゆきむら。 1番時間がかかった曲は“反逆ノノロシ feat.ヒゲドライバー”です。オリジナルなんですけど、音自体が激しくて、魂がこもった音作りになっていて、インストだけで満足してしまうくらいの音の詰め方をされているんです。ヴォーカルが負けてしまうぐらいのものだったんです。
■この曲は以前から依頼したかったヒゲドライバーさんにお願いしたんですよね?
ゆきむら。 そうなんです。もちろんヒゲドライバーさんの音圧というか、あの勢いが好きだから「いろんなことを盛り込んでください」と頼んだんですけど、いざ自分が「歌って」と言われたら「キツっ!」となって。(笑) 仮歌も物凄くエネルギッシュな感じだったんですよ。でも自分はスカしたような感じでやってきたので、このロックで叩きつけるようなヴォーカルにかなり苦戦してしまいました。「お客さんを目の前にしたライブを想像させるような歌い方を」とは言っても、ただ叫ぶだけではメッセージは届かないし、声色が崩れてもいけないし。それで「え、ごめん、どうしたらいいの……?」となりました。
■でもこの曲は「私が思うゆきむら。さんってこんな感じ!」という曲だったんですよ。
ゆきむら。 ヒゲドライバーさんといろんなお話をさせていただいた中で、「僕は結構、インターネットで炎上してしまったりするんです」みたいな話題に行き着いた時、ヒゲドライバーさんが「でもなんかそういう気持ち、結構わかるよ。ロックでいいよね」みたいな感じで、僕の過ちに対して肯定的なお言葉をくれたんです。それで、やっぱりインターネットの140字の投稿だとちょっと薄っぺらいというか、捉え方によって賛否を生むようなことも、「曲に乗せることによって、尖った部分として出せるんじゃないか」と意気投合というか、想いが重なり合って、「じゃ、ちょっと尖った曲で頑張ってみるね」という風に言っていただいたんです。
■そしてこの曲ができたんですね。
ゆきむら。 最初に歌詞を見た時、僕の方がインターネットでよからぬことをしているのに、「ヒゲドライバーさん、この歌詞で大丈夫なのかな?」と、スタッフさんもちょっと心配したんですよ。(笑) でも、もうこれはこれとして、曲は曲なので、有難く受け取らせていただき、聴いた人が爽快感を感じられるような1曲に落とし込めればいいなと思ったんです。ここまで尖った歌詞をいただいたのは、自分でもびっくりしました。
■逆にすぐOKテイクが録れた曲はどれですか?
ゆきむら。 すぐに録れた曲は……どれでもないですね。テイクは重ねる方でした。いろんなクリエイターさんと言葉を交わしていく中で、自分がいかにボーカロイドの上澄みだけをすすってアウトプットしていたのかと思い知らされたぐらい、ひとつひとつの音へのこだわりや、いろんなアーティストさんの裏側のお話などを聞きました。そんな時、いろんな歌い方に挑戦してみたいなと思って、1曲1曲歌い方を変えたので、すんなりいけた曲は無いですね。
■なるほど。
ゆきむら。 “ヒバナ”はライブでたくさん歌ってきているし、「歌ってみた」動画もあって、それをそのままやればいいと思っていたんですけど、「強く歌えば強く届くものではない」と言われて、昔の僕の「歌ってみた」での歌い方では「若いな」と思ったんです。全てが新鮮で、フレッシュで、勢いがあって、迷いがない。それはそれですごくいいんですが、「今のゆきむら。にしか出せない声色を聴きたい」というリクエストをいただいた時、歌い慣れている“ヒバナ”ですら、「自分の声ってどこなのかな?」と思っちゃって。結局「歌ってみた」って、他の人が歌っているものを聴いて、「このアレンジ、この語尾かっけえ! 俺もこうしよう!」っていうのが入るんです。それで、いざ「自分のヴォーカルをどうぞ」と言われた時、「自分らしさってなんだろう?」というのが、全曲通しての課題だったんです。「ゆきむら。っぽく」と言われる度に難しくなっていきました。
■ゆきむら。さんは結構、「周囲からのイメージを受け取ってアウトプットしたい」というところもあるんですよね?
ゆきむら。 あるんです。本当に。期待に応えたいと言うとちょっとアレなんですけど、「できるんだぞ!」と思わせたいので。
■歌う時に一番大切にしてることは何ですか?
ゆきむら。 歌う時に大事にしていることは1個しかなくて、「聴いた人に届かなきゃ意味がない」です。自分が上手く歌えたとかは関係ないんです。もちろん上手く歌わなきゃいけないのは当たり前としてあるんですけど、届くことが大事だと思って歌っています。
■それこそ「いい意味でのナルシズムの薄さ」という所じゃないですか?
ゆきむら。 「ゆきむら。、歌だけはいいんだよな」、「歌だけ歌ってりゃコイツいいんだよな」と、たまに言われるんですよ。いや、僕もそう思っているんですけどね。(笑) 歌に対しては鼻につかないというか、ノイズがないというか、そういう意味では、多分自分が思っていることが伝わっているのかなと思っています。
■アレンジはなにか注文されましたか?
ゆきむら。 自分はこの全国流通アルバムというものを、ゴールと言ったら軽率なんですけど、かなり「ここまで来たか」というものとして置いていて、制作過程でも、もちろんいろんな自分節を入れたい気持ちがありました。でも、初めてプロの現場で本格的な収録をやった時に「プロが言っていることは間違いない説」じゃないんですけど、「やっぱりプロはプロだな……」と思った所があって。自分がちょっとでもナルシストな瞬間って、見透かされちゃうんですよ。「もうちょっと自然体でもいいかも」と言われると、「うわ、イキってたのバレてる」と思って。(笑)
■プロは見透かしますよね。
ゆきむら。 だから、ジャケ写も丸裸な感じにしました。等身大のゆきむら。の名刺になる1枚として、いろんなゆきむら。を丸裸にして、いろんな角度から見て、「この人っていろんな表現できるんだね」と思ってもらうために。アレンジをしてくださっていたチームの方たちも、そこに関してはすごく愛を持ってくださって、僕なんかに刺激を受けてくれて、「ゆきむら。マジもっと売れていいよな」、「もっと楽器陣頑張ろうよ」ということで、ギリギリまで納期を攻めてくれました。なので、僕的にはどこまでみなさんのクリエイティブな面に自分らしいヴォーカルを載せられるかというところではありました。
■確かに音源そのものがすごく綺麗で、すごく混じり合っている感じがしました。
ゆきむら。 自分の考えているものとは解釈が違う曲もあったんですけど、ディベートではめっちゃ専門用語が飛び交っていて、「これはちょっとキャッチーすぎる」、「これは別にゆきむら。じゃなくてもいいよね」みたいな感じで熱くなっていたんです。でも自分は入り方がわかんなくて。(笑) もうちょっと自分も音楽知識を身につけたいなと思った瞬間ではありました。
■そう考えると本当にひとつの大きな通過点となったアルバムですね。そういえば今回、MVにご自身の出演が無いじゃないですか。顔出しもライブもされていると思うんですが、そこには違う線引きがあるんですか?
ゆきむら。 そうなんです。これも言ってしまえば石橋を叩いて渡っている最中なのかもしれないですが、やっぱり「ゆきむら。」というものの像が、三次元でとらえている方もいれば、二次元的にとらえている方もいて、僕の思想や考え方への好き嫌いもありますし、そこで顔を出すことでマイナスなイメージを持たれて、アルバムが1枚手に取られないくらいだったら、僕は映像に出演せずに曲の世界観をプッシュしたかったんです。
■配信者として見ている方もいらっしゃいますもんね。
ゆきむら。 全国流通盤としていろんな方に聴いてもらって、「ゆきむら。いいじゃん!」となった時に、初めて自分の姿が出てくるみたいな形が、ファンのためにも自分のためにも1番スムーズな伝わり方なんじゃないかなという風に考えています。なので、今回はあえてこういう手段を選ばせていただいたのがありまして。今作のビジュアルはジャケットとアー写の世界観にとどまっています。
■全国流通盤という意味では今回“secret base〜君がくれたもの〜”がボーナストラックに入っているんですけど、どうして今回この曲を選ばれたのでしょうか?
ゆきむら。 「歌」というものの深みを感じ取れたのはZONEがきっかけでした。リードヴォーカルのMIYUさんの歌を聴いた時、「俺、ZONEになりたい!」と思ったんです。(笑) ガールズバンドが流行っていた時期というのも、もちろんあると思うんですけど、MIYUさんの声って低いんだけど澄んでいて綺麗で、純粋さがあって、透明感があって、「ヒーリング感がすげえ!」と思って、中学生の当時はもう憧れだったんです。なので、「いつか何かの形でアルバムを出すならこの曲を」という気持がありました。もちろん他のZONEさんの曲も好きなんですが、みんなが知っていて、なおかつ自分が語れて、愛を持って取り組める楽曲は何がいいかと言ったら、「“secret base〜君がくれたもの〜”でしょ」となりました。ひとりのヴォーカリストとして、これを歌わなきゃ俺は終われないです。