パスピエ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

大胡田なつき(Vo)、成田ハネダ(Key)

「ここでお腹いっぱいじゃないですよ、これからもよろしくね」──バンドの15周年を記念する2連作。

パスピエが15周年を記念して、4月13日(日)にBunkamuraオーチャードホールにて、『パスピエ 結成十五周年特別記念公演 “十五年鑑”』を開催。それに先駆けて、ニューアルバム『カリギュラ』をリリース。今作は2024年末に発表されたアルバム『あちゃらか』とあわせてバンドの結成15周年を表現するもので、収録曲は2作あわせて15曲となっている。今回のインタビューでは大胡田なつきと成田ハネダに、成田のルーツであるクラシック音楽についても触れながら、『あちゃらか』と『カリギュラ』の2作の制作について掘り下げて話を訊いた。

■まず、15周年記念アルバムは『あちゃらか』と『カリギュラ』の2連作になりましたが、どうして2連作にしたのでしょうか?

成田 もともと初めから2連作にしようと思ってたわけではなくて、結果的にこうなったという感じですね。(笑) ほぼ毎年アルバムリリースや制作をやってきた15年間ではあったので、「15周年に向けてこういうことをやろう!」みたいなものは特に無く、走り続けながら「今年15周年だ、どういうことをやろう?」と考えたんです。そんな時、やっぱりこう、ずっと走り続けてきた僕たちの作品性、それこそがパスピエのアイデンティティみたいなものになっているので、ベストアルバムや再録アルバムではなく、自分たち自身で15年間を包括するような、新しい作品を出そうという大枠が決まりました。

■なるほど。

成田 15周年がひとつの「区切り」になっちゃうことはあまり好ましくなくて。確かにおめでたい年ではあるんですけど、通過点でしかなくもあって、ここからさらに15年、16年と続いていく流れも組める形で出せるのが、この「2枚をリリースする」という形かなと思ったんです。そしてパスピエって、ちょっと斜めの方向から「もじりたい」バンドじゃないですか。(笑) なので、15周年にちなんで収録曲は15曲。ただ、今の世の中の流れ的に、1枚のアルバムに15曲入っているよりも、8曲と7曲に分けた方が良いと思ったので、『あちゃらか』をリリースしたタイミングでは、「この後に『カリギュラ』という作品が待ってます!」ということには触れずにいました。

■その割には『あちゃらか』の方に“幕間”という曲がありますよね?

成田 そうです。僕らの中では『あちゃらか』を作った時点で、『カリギュラ』を出すことは決まっていたので、わかる人にはわかる形にしました。

大胡田 匂わせ、匂わせ。(笑)

成田 でも連続で聴いても楽しめる作品にしたいと思って、曲順も含めて考えていましたね。

■その連続性は感じました。ちなみにパスピエは詞が先にできるんですか?それともメロディやトラックが先にできるんですか?

大胡田 曲からです。でもタイトルに関しては、私がタイトルをつけるのが苦手なので、成田と一緒に考えます。でも最初からトラックにタイトルがついている時もあって、『カリギュラ』の収録曲だと“電影夢想少女”がそうでした。これは私たちが最初の方に出したCDの販促ステッカーの中から取った言葉で、タイトルありきで歌詞を書きました。

■“電影夢想少女”にそんな制作経緯があったとは……。そのお話も詳しく聞きたいところですが、今回は2連作ということで、まず『あちゃらか』のお話を伺わせてください。最初にこの作品のオープニング曲“21世紀流超高性能歌曲”を聴いた時、波形がギザギザした感じが印象的で、このギザギザしたサウンド感こそが2024年の印象主義なのでしょうか?

成田 印象主義っていうのもね、芸術の分野で言うと結構幅広いものなんですよ。その中で、僕らは印象主義音楽から影響を受けていて、印象主義音楽の作品を演奏するのも好きで、その響きとバンド音楽が混ざったら、何か化学反応が起きるんじゃないかという期待も込めて、ドビュッシーの楽曲から「パスピエ」というバンド名にしたんです。でもそんな中で、じゃあ自分たちをどう表現していこうかと考えたんです。ただ「印象主義の音楽をやります」と言っても、印象主義自体が曖昧な定義でもありますしね。

■確かに。

成田 そして、シンセサイザーのサウンドの中に大胡田の特徴的な声質がより引き立つものはなんだろうと追い求めていた時、2014年くらいかな。日本国内でシンセポップバンドが流行った時代に、もれなく自分たちもその影響を受けたんです。その頃に、印象派主義のクラシックの作曲家の方は日本の美術に影響を受けている方が多くて、音楽的に紐解いてみると、所々に「和」っぽいメロディを意識してるのかなというものがあることを思い出したんです。そういう中で、自分たちも「海外から見た日本」みたいな、そういう「和のメロディ」をバンドサウンドに取り入れてみようという時代があったんです。それで、今回は周年に出す新しいアルバムで、これまでの15年間を自分たちなりに振り返ってみようとなった時、こういうエッジの効いた、かつオリエンタルなメロディラインが浮かんだんです。「そういうモチーフで曲を作ってみたらどうなるんだろう?」というのが作曲のスタートでした。

■なんというか、ドビュッシーが好きな人の語りだなと思います。この尖った音の波形がクラシック音楽の柔らかさの反動だったら怖いなぁ。(笑)

成田 でも、あながち間違っていないかも。(笑)

■間違っていないかもしれないんですか?(笑) 曲によって歌い方がかなり変わるのは、意識的に変えているのでしょうか?それとも無意識に変わってしまうのでしょうか?

大胡田 意識的に変えています。やっぱり楽器もね、シンセやギター、ベース、ドラムはちょっと難しいけれど、それぞれの曲で音や弾き方が変わるじゃないですか。なので、歌声や歌い方も変わっていいなと思っています。「これが絶対、私の歌い方」というのも決めていなくて。曲ごとの表現ができればいいなと思いながら歌っています。

■歌声は楽器みたいなところがあるんですね。

大胡田 あとはやっぱり、曲を作っているのが成田さんなので、成田さんからヴォーカルディレクションが入ったりして、そこでちょっと「違うんじゃない?」みたいに喧嘩したりもして。(笑) そんなこともありながら音源ができていきます。

■どんな曲でどんな議論があったのかも知りたいところですね。(笑) ちなみにですが、専門的なところと関係なしに、“KENNY”で描かれている「ケニー」とはどんな存在なんですか?

成田 “KENNY”とか、『カリギュラ』に収録した“2009”とかもそうなんですけど、その音から意味を考えずに「パン」っと言葉が浮かんでくる時っていうのがあるんですよ。それで、「ケニーという架空の生き物をテーマに歌詞作ってみてくれない?」と大胡田にオーダーした記憶があります。(笑)

■ケニーはどんな生き物なんでしょう……?

大胡田 私の中ではもじゃもじゃしています。ケニーはなんか、いじめられているというか、あんまり友達がいなくて、でも友達が欲しいなと思っていて、そんな時に人間の男の子を見つけて、「友達になってくれるかな?」と思って近づくんですよ。

■「嵐の前の静けさ」と繰り返されるところが不穏だったのですが、何が起こっちゃったんですか?

大胡田 いや、ちょっとドキドキもあった方がいいかなって。ケニーはもしかしたら悪いものなのかも?みたいな。いつかお腹がすいたら、歌の主人公の男の子を食べちゃうかも……?

成田 怖い!怖い!(笑)

大胡田 やっぱりケニーは怪獣で、獣ですからね。(笑)

■ちょっと闇が見えましたね……。(笑)

大胡田 そうそう、“トゥパリタ”も成田さんから届いたちょっと意味不明な言葉から作ったんです。

■それも聞きたかったんですよ。「トゥパリタ」はどういう意味なんですか?

成田 「トゥパ」っていうのは弾ける音で、リフレインの箇所に暗号的な言葉を載せたいなと思ったところから作り始めました。それで、「トゥパ」から思いついたのが「2パック」だったんですけど、さすがに直接「2パック」と言うのはまずいだろうと。(笑) それで2パックのことを調べていた時、2パックは「トゥパク・アマル」というインカの王様から名前を借りていたことを知りまして、ラテン系っぽい言葉を並べて、「トゥパリタ」という単語を作りました。

■ただのスキャットじゃなくて、意味というか、由来があるんですね。それにしても大胡田さんの詞は抽象的で、絵画的なところが印象主義的だと感じます。言葉選びが面白いですよね。

大胡田 私は元々絵画の方の印象派の「一瞬を捉えて描く」みたいな思想を取り入れたいと思っていて、たまたまそこで成田さんと出会ったんです。なので、自分が口にして気持ちがいい言葉だとか、感覚的なところはとっても大事にしています。

■ジャケット写真のイラストの色彩と歌詞の色彩感がよく一致していると感じるのですが、意識されていますか?

大胡田 意識しています。デモ音源にはメロディと楽器がちょっと入っているんですけど、それを聴いて、「何色っぽいな」とか、「水っぽいのが見えるかも」とか考えて、そこから歌詞を書き出したり。あとは日頃から「こんな言葉いいな、いつか使いたいな」とメモしていた言葉から枝葉を広げていったりもします。

■その色彩感覚も魅力だと思います。この2作にはわかりやすい曲も、複雑な曲も収録されていますが、リスナー受けがいいのはどちらになるのでしょうか?

成田 うーん……。僕らも「こういうことをしていきたいんです」というのを定めないようにしていたので、過去に出した曲の中には、すごくシンプルなバラード曲もあるし、イケイケどんどんで盛り上がってくれたらいいなという曲もあるし、あまり理解を求めていない曲もあるし。そういう中で、お客さんも僕らの引き出しの中の「この引き出しが特に好き」みたいなものが分かれると思います。

大胡田 メッセージ性があって物語がある曲が好きな人もいるし、ノれる曲が好きな方も、「複雑な入り組み方がパスピエだよね」という方もいるし。やっぱり軸は何本かありますね。

■好きになれる軸がいっぱいありますよね。私は“それから”に見る調性や性格の不安定さが好きでした。

成田 ありがとうございます。改めてバンド自身の15年間を振り返って、となった時に、過去作った曲のセルフオマージュみたいなことをしてみようと思ったのもあるし、パスピエのルーツであるクラシックの部分にも触れて、クラシックだからこそ出る壮大さみたいな部分にトライしてみようかなというところで作りました。

■そして『カリギュラ』に入っていくわけですが、まずはこのタイトル。「カリギュラ効果(隠されたものを見たくなる心理)」から取られたものだと思うのですが、なぜこのタイトルなのでしょうか?

大胡田 アルバムを2枚にするとなった時、どうせだったらその2枚を関連付けようということになりまして。前作に見えるパスピエの喜劇的・ライブ的な部分と、今作に見えるちょっとコソっとした部分が隠れている部分を2本立てにしてみようとなり、タイトルだけが先に決まったんです。それが『あちゃらか』と『カリギュラ』でした。

■1曲目には“大発見!”。セルフライナーノーツには「タイトルに『!』がつく曲は初めて」とありましたが、ということは逆に、これまで「!」の有無を意識していたんだなと。「!」の有無には何かこだわりがあるんですか?

大胡田 ありますね。私は他のアーティストの曲を聴いていても、歌詞を絶対に「文字」で見たいんです。「…」があったり「?」や「!」があったりすると、歌詞に対する印象がすごく変わる感じがして。歌詞の文字の羅列の中で、印象的にしたいところに「!」がついたら面白いだろうな、「ここを見てほしい」というポイントになるだろうなと思い、歌詞の中では何度か使ってきました。そして、今回はタイトルが「大発見」だったので、「大発見と言ったらもうびっくりマークしかないだろう!」と。だって「大発見」ですから。(笑)

■でも、歌詞の中には「!」が無いんですよね。

大胡田 あっ?そうだっけ?

成田 歌詞の中には無いよ。

大胡田 本当だ。タイトルにびっくりマークをつけないと、なんていうのかな、本当の「大発見」みたいになっちゃうと思ったんですよね。例えばこう、何かが発掘された的な。でも、この曲の「大発見」はそういうことじゃなくて、もっと自分たちの深い部分の、もっとライトな「大発見」なんですよ。そういうことを伝えたかったんです。「!」をつけることによって、ちょっとライトな質感を帯びるような感じ。

■そういう所も面白かったです。冒頭のギターもすごくインパクトがあって、前作の1曲目とは対照的に感じました。あえて対照的にさせているのでしょうか?

成田 サウンドについては、スタジオで音を合わせたり、レコーディングで音出した時に、感覚的に1番「バチッ」と来るものをすごく大事にしています。音作りについてはそこまで計算的にやっていることではないですね。

■そうだったんですね。すごくダーティーで印象に残りました。

成田 何をもって協和音・不協和音と言うのか?みたいなところはありますね。その人が受け取っている環境でも変わると思いますし、僕自身もバンドをやるにつれてそこの間口が広がって行ったし。ギターではクラシック音楽には出せない不協和音を出せますしね。自分で直接、弦を指で押さえて、ピックでかき鳴らして……というようなことから生まれるものは、自分がバンドをやりたくなった憧れのひとつでもあります。そういう部分がこの曲にも集約されていると思いますね。自分がバンドをやりたくなった根源みたいなものが込められているのかなと。

■なんだか、それこそ「大発見!」みたいな感じなんですね。歌詞の中の「20億回」は生命の誕生から今までなんでしょうか?

大胡田 そうです。今作にはこれまでに書いた歌詞の中からフレーズを抜き出して使っているものがあって、「もしこの言葉を入れたら、あの時の歌詞に書いたことに気づいてくれるかな?」みたいなポイントを結構入れたので、わかる方はわかるんじゃないかなと思います。「20億回」というフレーズも、昔“Love is Gold”の歌詞に入れていて、それを持って来ています。あと、“幕間”からのメロディもありますね。

■そういうことを聞くのも大発見ですね。(笑) 続く“2009”のピアノサウンドにはすごく、2009年頃のインターネット音楽のイメージがありました。

大胡田 実は成田さん、インターネット音楽を全然知らないんですよ。(笑)

■そうなんですか?言われてみれば、2009年の成田さんはクラシックとバンドを往復していたような頃ですもんね。

成田 そうですね。(笑) こういうタイトルにした時、やっぱり明度的には明るい曲であるべきだなと思いました。振り返った時に、自分としてもそういう明るいイメージの15年間ではあったし、でも、原色の明るい色ということではなくて、もうちょっとこう、左側の隅っこを拡大してみたら紫色が混じっていたり、反対側の隅っこを見てみたら緑色が混じっていたり、そういういろんな出来事があった15年間ではあったんですよ。かつ、パスピエらしさを自分で批評的に見るのであれば、やっぱり「複雑さ」というのが入ってくると思っていて。でも「ポップス」と「複雑さ」って、混ぜ込むのがすごく難しいんです。

■難しいですよね。

成田 「ポップス」って、「大衆音楽」というざっくりした意味があるわけだから、わかりやすさというのはもちろん大事なんですけど、その中に自分たちらしさである複雑な部分をどうやって、かつそれが複雑に聴こえないように聴かせるかという所が難しい。この曲に関しては、音自体は割とシンプルです。自分がピアノを弾いて、ギターも割とクリーンなサウンドにして、そういうところで引き算している所に、いろんなエッセンスを盛り込んで……という意図で作りました。

■ちなみにこれは生のピアノですか?電子ピアノですか?すごく面白い音ですよね?

成田 Shigeru Kawaiのピアノです。確か他のグランドピアノとは違う作りをしていて、素材にカーボンだか何だかを混ぜたとか、そんな感じだったと思います。

■それに成田さんのタッチの個性もあってこそですね。それにしてもネット音楽は全然通っていないというのは意外性がありました。経歴的には不思議ではないのですが……。

成田 よくシンセサイザーの音を使っているので、「ゲーム音楽とか、アニメ音楽とか、どういうのを聴いていたんですか?」と聞かれるんですけど、ゲームも疎いし、アニメも詳しくなくて。(笑) 僕は普通に、純粋にCDを聴いて、YMOが好きになって、メンバーがプロデュースした作品をいろいろと聴いて、そういう所から影響を受けているとは思うんですけどね。

大胡田 私はゲームもめっちゃしていましたし、アニメもそこそこ見ていましたし、2009年あたりのネット音楽もめちゃくちゃ聴いていました。