凪渡(Vo)、イクミン(Dr)
ガラガラのクラブで踊りたい──矛盾の中で自己を叫ぶ内気で強気なニューEP。
Ochunismが5月14日にEP『Strange,Dance,Rock』をデジタルリリース。2019年に結成され、同年に学生バンド日本一を決める大会「Next Age Music Award 2019」でグランプリを獲得したOchunism。2023年3月にはメジャーデビューアルバム『スクランブル』をリリース、それからの約1年半で60曲以上の新曲デモを制作してきたという。今作にはSNSで200万回以上再生された“GIVE ME SHELTER”のほか6曲を収録。インタビューではヴォーカルの凪渡とドラムのイクミンに、バンド結成の経緯からEPの制作過程など話を訊いた。
■まず、バンド結成のきっかけはどんなものだったのでしょうか?
凪渡 もともとは大学の軽音楽系のサークルでちゅーそん(Gt)と出会ったことがきっかけです。ちゅーそんとはサークルも学部も一緒で、ずっと喋っていたので、よく一緒に演奏している人を誘って、「オリジナル曲をやろうぜ……」となって、Ochunismが始まりました。
イクミン メンバーの中で僕だけ大学が違ったんですが、よく出ていたライブハウスでちゅーそんと出会って。そこからしばらくは会っていなかったんですけど、Ochunismを組むタイミングで誘われました。
■お二人は何に衝撃を受けて音楽を始めたのでしょうか?
凪渡 僕自身、物心ついた時からずっと歌うのが好きだったので、「バンド」というより「音楽がやりたいな」と昔から思っていたんです。そんな中での衝撃と言ったら、ちゅーそんとの出会いだったかもしれません。(笑) なんかね、宇宙人みたいなヤツなんですよ。
イクミン せやな。(笑)
凪渡 ちゅーそんは音楽好きで、自分の好きなものにすごくひたむきなタイプなので、そういう所に惹かれたところもあります。「ちゅーそんとバンドがやりたい」という気持ちがありました。
イクミン 僕はバンドを始めるまでドラムだけをやっていました。親の影響で、家に電子ドラムがあったので、小さい頃から触っていたんですけど、Ochunismをやろうと思ったきっかけと言えば、僕もちゅーそんの存在なんですよね……。(笑) ちゅーそんに引き寄せられてOchunismに入りました。
■ちゅーそんさんが超重要人物じゃないですか。(笑) 今日のインタビューではお会いできなくて残念ですが、どんな方なんですか?
凪渡 なんか独特な空気感というか、オーラがありますね。なんて言うんやろアレ。
イクミン のほほんとしているけど、シュール。(笑) だけどなんかまっすぐな所はまっすぐなんですよ。
凪渡 天才キッズみたいな感じですかね。
■Ochunismというバンド名の由来は?
凪渡 それもちゅーそんが由来です。(笑)
■またちゅーそんさん?!(笑)
凪渡 ちゅーそんがね、趣味で小学生くらいの頃からずっとマンガを描いているんですよ。その漫画も、別に絵の練習して描いているものじゃなくて、独特なタッチのやつなんです。それで、そのマンガのタイトルが『オチュニズム』で、そこから取った名前です。
■ちなみにどんな内容の漫画なんですか?
凪渡 なんか、子どもがワクワクするものを全部詰め込んだ感じで、彼曰く「SF超大作」だそうです。もうラストまで決まっているらしくて、大学のサークル合宿かなんかのバスの中で初めてちゅーそんと話した時に、その漫画の話をめちゃめちゃ聞かされました。しかもラストまでの展開をメモに書いて教えてくれたんですよ。それで「ちゅーそんって宇宙人みたいやし、自分とは全然違うけど、めっちゃ僕と似てるやん」……と、その流れの中で急に思って。(笑)
イクミン 俺も全く同じ内容を聞かされた。それも何度も何度も。(笑)
■なんとなく雰囲気は伝わってきました。(笑) そしてOchunismは、2023年から1年半で60曲以上の新曲デモを制作したとのことですが、すごいスピード感ですよね。どうしてそんなにたくさん曲を作ることができたんですか?
凪渡 元々ユニバーサルさんとやると決まったタイミングで、デモをたくさん作った時期があったんです。その時はもう2ヶ月で50曲とか作っていました。それに比べたら1年半で60曲は全然ペースが落ちていますね。
■デモ曲はどの状態まで出来上がっていたのでしょうか?
凪渡 今回の60曲はほとんど完成状態のものが多かったです。コードと歌だけのやつもあるけど、少ないぐらいですね。全然そのままアルバムに入れてもおかしくないような曲もありますし。その中から選んだのがこのアルバムです。“Ride On!!”だけはレコーディングする1か月ちょい前に作った曲なので、これだけはフレッシュな曲です。
■なるほど。歌詞とサウンドについては、比率として何対何ぐらいで聴いてほしいですか?
凪渡 僕はわがままなんで、50:50じゃなくて100:100で。(笑) そこの両立がテーマです。結構難しいんですけどね、やっぱり「歌詞を聴く派・聴かない派」もいるし。でも僕は、そこの垣根を越えたいんですよ。サウンドばかり聴いている人が、初めて歌詞の素晴らしさに気付くような作品を作りたいんです。
■ドラマーのイクミンさんとしてはいかがですか?
イクミン 僕は結局、歌のためにトラックがあると思っているんです。そこを分けて考えるよりかは、両方合わせて良くなるみたいな感じが理想です。
■お寿司みたいな感じですね。(笑) そして今作の『Strange,Dance,Rock』、まずはなんと言ってもサウンドの面白さですよね。これはメンバーにサンプラー(MPC)がいる強みなんでしょうか?
凪渡 強みですね。okada(MPC)はヒップホップだけ聴いて育ったようなタイプなんですよ。音楽にハマったのもメンバーの中では一番遅くて、高校卒業間際にヒップホップにハマって……という感じで、そこからいろんなアーティストのインタビューを読んだり、本を読んだりして、ちゃんとアーティストに興味を持って、愛しているような人間やったんで、その真面目にコツコツ頑張る姿勢が好きなんです。彼を誘ったら後々すごく強力な仲間になってくれると最初から思っていました。サンプラーを始めたのはOchunismを始めたのと同時でした。なので、サウンド的に何かを狙っていたというより、彼の人間性に惹かれた感じです。それと、僕自身があんまりバンドを聴いて育っていないタイプだったので、打ち込み系に親しみがあるというのもあります。
■緻密に組み立てられたサウンドの印象がとても強く残りました。一方、SNSの方では「俺たちについてこい!」、「俺たちの色に染めてやる!」という空気がガンガン出ているのに、歌詞は内気なところも気になったんです。
凪渡 何がそうさせているかって、「矛盾」やと思うんですよね。「人に認められたい、褒められたい」という欲望があるくせに、人前に立って堂々と「俺を見てくれ!」とは言えない矛盾。それを持っている5人なので、その矛盾と戦いながら、でも今はやっぱりアーティストとして活動しているから、もっともっと自信を持ってやっていきたいなと思っています。その1歩目が今作という感じです。
■言われてみれば、そういう5人だからこその音楽という感じもします。何事もバランスですよね。改めて今作ですが、初っ端の“Alien”で「やられた!」と思いました。制作のきっかけはありましたか?
凪渡 この歌詞の中の「エイリアン」は、僕たちのことをイメージしています。例えばSNSでは、音楽好きな人たち同士が争っていたり、別のジャンルを見下すような発言をする人がいたりするじゃないですか。僕にとっての音楽は平和の象徴で、どんな人でも受け入れてくれる居場所やと思っているんですけど、それを愛しているはずの人たちが他の人の居場所を奪うようなことを言ってしまう場面を見ると、すごく悲しくなるんですよ。そういうことから書いた歌詞です。
■このダンサブルなビートもたまりません。
イクミン シンプルなんですけど、ビートだけでも踊れるぐらいの感じで作りました。今回はロックな部分も打ち込みでやっていて、だからこその音色の面白さみたいなところもこの曲で楽しんでもらえるかなと思います。
■その次の“Zero Gravity”は、それこそ万人ウケを意識している気配がしました。
凪渡 そうですね。やっぱりこれはリードソングにしたいという想いがあって、世界観というよりは、どちらかというと、「僕らの気持ちを届けたい、見つけたい」という所があったんです。そのエネルギーがリードソングっぽさに繋がっているのかなというのもありつつ、この曲は僕自身がラップを始めたタイミングで、自分で歌詞を書いたりし始めたので、1番のAメロなどにヒップホップっぽいノリが入りました。僕的には自分のルーツというか、好きな音楽が上手く出せたなという感じです。
■この曲は勢いがあって、制作もスムーズだったんじゃないかな?と思いました。
凪渡 いや、逆に結構時間がかかっています。終わりに向かって仕上げる時はスピーディーだったかもしれないですね。打ち込みも多かったし。
■打ち込みが多いことに対して、楽器を演奏するメンバーとしてはどうお考えなのでしょうか?
イクミン 最初は「バンドやから、生ドラムを叩かないといけない」と思っていたんですけど、僕自身は打ち込みの音楽が好きというのもあって、曲の幅も広がるし、そういう意味で音色だけでひとつ魅せられるポイントになる所もあります。音を選ぶのも楽しかったので、Ochunismの音楽は打ち込みのビートが増えて行くんやろうなと勝手に思っています。
■それって生まれた時から打ち込みの音楽が当たり前に存在していた世代ならではの感覚もあるかもしれませんね。「交差点にごった返す人々の群れ」というところは、なんで叫んでいるんですか?
凪渡 レコーディングの時の気分でした。(笑) もともとはクールな感じやったんですけど、レコーディングしているうちに「叫ぼう!」となって。「自分が何者かなんて誰にもわからないけど、生きていくだけだ!」という叫びです。上京してきて、渋谷の街に出る度、「人が多いな……」と毎回思うんですよ。通勤・退勤ラッシュの時なんか、みんな疲れているというか、怖い顔をしている人が多いから、その中を自分が歩いている時に、「自分は何してんねんやろ……?」となるんです。みんなが毎日頑張って戦っている中で、僕は好きなことをやらしてもらっているんだなと思いつつ、「自分は何してんねんやろうな」と思っちゃう……。あんまり言語化できないけど、それで叫んだのかもしれません。
■そして、次の“GIVE ME SHELTER”はバズった曲ですね。なぜこの曲がバズったんだと思いますか?
凪渡 この1年半は、「どんな歌詞にしたら人に届くだろう?」とか、「どういう曲が有名になるんだろう?」とか、いろんな企みをする時間が長くなりました。でも、“GIVE ME SHELTER”は、逆に一切そういうことを考えず、「どういう曲を作ればいいんだろう?」と、悩んで苦しんでいる自分を歌詞にしたんです。この曲を書いたことで、「等身大で心の奥底にあるけど外に出しづらい言葉が出た時に、人に届くのかな……」と感じました。その上で「ガラガラのクラブで踊りたい」という僕らしさのあるワードがあり、そこに新しさがありつつ、でも「伝統的なポップスの魅力の代弁者にもなれたのかも」とちょっと思っています。
■この曲のタイトルは、なぜ“GIVE ME SHELTER”なのでしょうか?歌詞を読んでいくと確かに「シェルターがほしい」という意味の曲だとわかるのですが、歌詞の中には「シェルター」という単語が出てきていないですよね?
凪渡 なぜか頭の中に「シェルター」という単語が出て来たんです。これは結構時間をかけた曲で、ちょっとずつ変化していって、自分の心を紐解いていったんです。最初はここに「君」という存在がいて、「君と踊りたい」みたいな感じでした。でも、「なんでガラガラのクラブで踊りたいというワードが出て来たんやろうなぁ?」と自分と向き合った時、「人混みが苦手だからなのかな?」と気付き、僕には人が多いクラブは似合わへんなと思って、こういう歌詞になっていきました。でも、そういう内容を書く前から「シェルター」というタイトルがついていたんですよ。
■なるほど。
凪渡 「パッと出てくる言葉」というのは絶対にあるんですよ。その深層心理をどれだけ紐解けるかがアーティストの実力やと思うんですが、今回は元々ついていた「シェルター」というタイトルと、いろいろ紐解いていった結果、出てきた歌詞とが繋がって、「僕にとってこの曲がシェルターなんやな」と思いました。僕にとって音楽はシェルターやし、この曲はまさにその象徴やなと。そうした時、この曲にタイトルをつけるとすれば、やっぱり“GIVE ME SHELTER”だったんです。
■すごく納得しました。仮タイトルが「シェルター」だったという所もあるんですね。そして「ガラガラのクラブで踊りたい」というフレーズから始まった、と。
凪渡 そうです。最初にこの1行目ができて、最初の頃は「バラバラのステップが徐々に揃っていく」みたいな詞もありました。この曲を書いた時に、「君」とか「あなた」とかって言葉を詩に入れなきゃいけないという呪いにかかっていたことに気付いたんです。だから、2番に『「あなた」とか「君」とか言ってる歌が そこら中から聞こえてうるさくて』とあるんです。僕自身、歌詞の中に「君」や「あなた」を入れることに苦手意識がありまして、入れる時は空想の中でのラブストーリーを描いた曲が多いんです。でも、自分が悩んでいることを歌詞にする時に二人称を入れるのがすごく苦手で……。だけどやっぱりいろいろ言われるじゃないですか、「君って言葉が入っていた方が良いんじゃない?」とか。でも僕は自分が悩んでいる歌で「君」とか「あなた」とか言われたら、一気に自分のことじゃなくなるみたいに思えて嫌なんです。悩んでいる僕が向き合うべき相手は、自分なので。