『Suchmos Asia Tour Sunburst 2025』ライブレポート@Zepp Haneda

「東京の名物はライブハウス」──Suchmos、ライブハウスから作り出す陰影と閃光。

Suchmosが12月12日(金)『Suchmos Asia Tour Sunburst 2025』東京公演を開催した。今回のツアーでは、国内と海外あわせて13都市を巡ってきたSuchmos。The BirthdayやJAGATARAが流れる開演前のZepp Hanedaには、深いスモークが焚かれている。ふと照明が消えた途端、流れ出すのは時計の秒針がカチカチと時を刻む音。掠れた笛の歌に、太鼓の響きとが重なると、海への旅立ちのイメージがまぶたに浮かぶ。その幻想の中、メンバーが姿を現せば、会場は大歓声と拍手でそれを迎えた。まどろみの鍵盤に降り注ぐTAIKING(Gt)のギター、“Pacific”で幕を開けた今夜のステージ。逆光でメンバーの顔はよく見えないが、YONCE(Vo)の美しいファルセットは寄せては返す波のようだ。続く“Eye to Eye”で背景の幕が開き、全景が露となったステージには、金環日食の太陽に似た巨大な円が浮かんでいる。舞台際に取り付けられたネオンが輝けば、その中にバンドの姿は消えて行った。山本連(Ba)のリフが鮮やかに真夜中を切り取る“ROMA”ではビビッドな色彩に影が躍り、YONCEの咆哮にTAIHEI(Key)のキーボードが絡みつく。浮ついた進行と奇妙に優しい雰囲気がアシッドなめまいを呼び込む“Ghost”を終え、YONCEは「羽田、静かにしてますかー!」と問う。彼曰く「東京の人は『イエーイ!』じゃなくて『イェ~』くらいのテンション」。賑やかに応えた観客には「これは東京の外から来た人たちですね」と茶化した。

影が回転するモノクロームなステージで両手をポケットに突っ込んだYONCEの歌声が挑発的に響くのは“DUMBO”。Kaiki Ohara(DJ)のスクラッチが脳を揺さぶる中で、ベースとギターの競演が鳴り渡る。静寂に音楽が詰まった“FRUITS”では、巨大なYONCEの影が会場の壁に映し出された。絶好調のスキャットは時に水晶の如く透き通り、時に煙臭さを帯びる。「こんばんは、Suchmosです。活動休止を経て、今年の6月に5年ぶりのライブをして。それから半年といわず、2025年あっという間だったね……」暮れが迫るこの日。観客席から飛んできた「生きてる~?」の声に「めっちゃ生きてますね。ありがとう」と答えて、YONCEは今回のツアーの趣旨を語り出す。このツアーは新型コロナウイルスでキャンセルになったアジアツアーのリベンジとして行われたものだ。初めてライブに来たという人に「今日という日を選んでくれてありがとうございます」と感謝し、話題は「バンド」の楽しさへ。「楽器屋さんは年末商戦まっただ中ですから、お子様の情操教育に、お爺ちゃんおばあちゃんのボケ防止に、楽器をひとついかがですか?……なんて良いカンジのこと言って、今日はいっぱい稼がせてもらうのでよろしくお願いします」「自由にどうぞ!」と始まった“MINT”では、眩しいグリーンに染まったステージ。YONCEは音楽の中に泳ぐ観客の顔を覗き込む。マゼンタのライトがフロアを探るのは“Alright”だ。TAIKINGは楽器から手を離して踊り、舞台際に立ったYONCEは観客のコールを浴び、全身でビートを感じる。祭囃子に似たOK(Dr)のドラムソロと「せーの」の声に始まる“To You”では、ボトルからドリンクをあおったYONCEが「良い子のみんな、変なおじさんには気を付けよう!」と忠告してビクビク震える。幽玄なキーボードのソロからどろりと重く密やかなリフが立ち上がる“Hit Me, Thunder”、そして前曲から一転したクラシカルなラブソング“Marry”。たゆたうギターとDJやキーボードが作り上げる世界とは、海辺の景色を思わせた。

早いもので、ライブもあと5曲。ブーイングする観客に「こればっかりは、また来てくれよな!」「『また来てくれよな!』ってなんの台詞だっけ?」とステージ上で会議が始まるも、結局何も出て来ない。今回のツアーでは「ご当地のものの名前を叫んだら盛り上がるから」という理由で、「牛タン~!」や「お好み焼き~!」などと叫んできた彼ら。しかし東京公演に関しては何も思いつかなかったそうで、「名物といえばコンクリートとかターミナル駅になっちゃう」と観客を笑わせる。また、来年の話については「何かやる」「その何かとは、東京以外でもやる」と匂わせるにとどめた。「ここから過激な演出が続くので注意!Suchmosのライブに来てくれてありがとう!」その台詞の通り、激しい点滅に前も見えない“A.G.I.T.”がスタート。張り出したベースや、ドラム台の上で暴れるギター。プレイを重ねるバンドの快楽。ブレーキランプの乱舞を思わせる赤い照明のむこうで揺らめくテンポは、まさに生のものだ。続いて披露されたのは“STAY TUNE”。パープルのドットが回転するステージに観客の歌声が響き、「Good night」のたび腕が揺れる。続く“808”では会場内をサーチライトが舐め回す。歓声の中に始まる“VOLT-AGE”のヘヴィなリフ。再び開いたカーテンの向こうは、一点の曇りもない青だった。バンドの「顔役」はヴォーカルでも、その音楽は6人が集まってできるものだ。そんな当たり前のことを、Suchmosはコツコツと音を積み上げて、当たり前に見せつけ、再認識させてくれる。本編最後の曲“YMM”でぼんやり浮かぶ円は、月か、太陽か。Suchmosはそのどちらにもなれるバンドなのだろう。

アンコールとなり、軽く着替えて再登場したSuchmosが「東京の名物はライブハウスなのではないか」と話すと、観客は納得した模様。YONCEは「割と今『あ~』の声貰えたので、それでいいかな」と笑う。「今日一日、納得できたか~?」その問いに歓声で応えるオーディエンス。思い出話を交えながらYONCEが話すのは、自分たちが育ってきた「ライブハウス」には、いろいろな人が、様々な気持ちで存在していいということだった。「今日、めちゃめちゃ楽しめました──な~んつってな。30代にもなると人から悪く思われないような喋りが上手くなるんですよ」「そしたらだんだん丸くなっていってね、イイ感じの球体になって、『ワー綺麗だね!』って言ってもらえるかもしれません」最後までゆるく冗談めかし、「2曲ほどお付き合いください」と、アンコールの1曲目はキーボードの優しい音色から始まる“Whole of Flower”。最後にはスポットライトの中でしばらく立ち尽くして歓声を浴び、ドラムの合図で“Life Easy”をドロップする。肩肘張らずに楽しくやろう、ただ自分のために生きよう。全ての人に向けたゆるやかな歌声が、ライブハウスから日常に帰っていく観客の背中を押す。「生きればいいぜ」。観客の目を見てそう歌ったYONCEには、今のSuchmosの全てが詰まっているような気がした。

Text:安藤さやか
Photo:鳥居洋介・野口みみ

https://www.suchmos.com/

『Suchmos Asia Tour Sunburst 2025』@Zepp Haneda セットリスト
01.Pacific
02.Eye to Eye
03.ROMA
04.Ghost
05.DUMBO
06.FRUITS
07.MINT
08.Alright
09.To You
10.Hit Me, Thunder
11.Marry
12.A.G.I.T.
13.STAY TUNE
14.808
15.VOLT-AGE
16.YMM

ENCORE
01.Whole of Flower
02.Life Easy

RELEASE
EP『Sunburst』
Streaming:https://fcls.lnk.to/wof
CD購入:https://fcls.lnk.to/Sunburst_EP

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