エナツの祟り『キミと過ごした青春のJuly and 夏を取り戻せ!!2020を取り戻せ!!2021』ライブレポート@LINE CUBE SHIBUYA 6月20日(日)

エナツの祟り『キミと過ごした青春のJuly and 夏を取り戻せ!!2020を取り戻せ!!2021』

エナツの祟り、ジュリアナを取り戻す。逆境を乗り越えてきた彼らが提示し続ける令和のバブル

「令和のバブルを呼び起こす!!」をコンセプトに掲げるバブリー系エンタメバンド・エナツの祟り。平成の終わりまでビートたけし命名のジュリアナの祟りの名で活動し、令和に改元した瞬間に全く同じ形態でエナツの祟りとして始動した彼ら。2021年6月20日は、老若男女楽しめるエンタメ性の高いステージを提示するジュリアナの祟りが再スタートを切った、記念すべき日となった。

エナツの祟り『キミと過ごした青春のJuly and 夏を取り戻せ!!2020を取り戻せ!!2021』

2020年6月20日に開催される予定であったエナツの祟りワンマンライブ『キミと過ごした青春のJuly and 夏を取り戻せ!!2020』。丸一年の延期を経て、『キミと過ごした青春のJuly and 夏を取り戻せ!!2020を取り戻せ!!2021』が2021年6月20日に行われた。開演前のステージには幕が下りており、その向こう側を伺い知ることはできない。定刻より少し遅れて、VTRが流れる。これまでの軌跡をナレーション付きで紹介するVTRでは、ジュリアナの祟りがビートたけしに授かったバンド名であること、多い時は月45本のライブを行い人気獲得に心血をそそいだこと、晴れてメジャーデビューしたもののジュリアナの祟りとしては活動休止をしたことや、エナツの祟りの始動、配信ライブの開催、そして2020年に行われるはずだった今回のライブという流れが紹介される。そして、この日のライブを楽しむために、とライブ中の定番ポーズの紹介、来場者に配られたハリセンを口上や歓声の代わりに使うようにという説明がなされる。バンドの紹介や楽しみ方が丁寧に紹介されるVTRは音楽ライブというよりも、テーマパークのショーやパレードを見に来たような感覚に近いものを覚える。元々芸人であったパフォーマーが2人在籍し、中心人物の江夏(Dr)によってエンタメ色の強いバンドを目指すエナツの祟り。来場者の誰も置いていかないという優しさがライブ前から見え隠れする。

ナレーションがライブの開始を告げると、拍手より些か硬いハリセンの音が鳴り響く。幕が上がり現れたステージはバンドとしてはかなり豪華で、なるほど景気がいい。ステージ中央にたたずむ階段の上は回転式で、その両側はポップアップステージになっている。ライブはバンドの中心人物である江夏がメインボーカルを務める“キミクロニクル”からスタート。江夏が歌いながら階段をくだり視線を集める。バンド形態であるエナツの祟りだが、この時点では楽器は置物にすぎない。パフォーマーの2人のみならず、矢島(Ba)や蕪木(Vo)も振りや観客とのアイコンタクトに徹する。一曲目から煽り担当のネルを中心に合いの手を入れていき、目まぐるしく動く照明とともに会場を温めていく。続いて、蕪木がメインボーカルの“薄紅色の淡い夢の中で~バブルの呪文は AYATRA~ ”へ。観客が声を出すことができないことなどお構いなしだと言わんばかりにネルが煽り、観客もハリセンなどで応える。コンセプトにバブルを掲げているだけあって楽曲は90年代を彷彿とさせる構成やトランス、パラパラといった曲調であることが多いエナツの祟り。その時代感もあってか、ハリセンを利用した盛り上げ方も相まってライブ業界にとって苦しい情勢である現状を忘れそうになる。

エンタメ色の強い、規模の大きいステージセットや楽曲が多い一方で、特に蕪木の歌唱能力の高さがバンドとしてのエナツの祟りを支えている。低音からすくいあげるような蕪木の歌い方には安定感があり、エナツの祟りのライブをバブル感のある特異なものだけにしないバランサーのような役割を果たしている。風変わりなコンセプトやバンド形態としては珍しいコールの多さといった特徴と蕪木の歌唱、2つの軸がバランスをとりながら、ライブは進行する。階段からスモークが立ち込め、幻想的な雰囲気の中披露されるのは“結論”。ときにがなりを混ぜ、ときにせつなげに声を絞るようにして歌う蕪木の表現力にぐっと引きこまれる。楽器隊が1フレーズずつ紡ぐイントロと赤い照明がクールな“夏のyou”では、スクリーンにはリアルタイムで完璧に表情を切り取る映像とともに歌詞が映される。まるでミュージックビデオを見ているような満足感だ。“ギリギリ勝負な僕たちは”をはじめとして、多くの楽曲でパフォーマーのネル、ダンクがポップアップステージを使って縦横無尽に動き、蕪木が歌いながら階段を登るなど、移動を伴うパフォーマンスが視覚的にも動きを見せ続けていて、飽きることがない。

顔の前で手でハートマークをつくる振りの“だーりん”では、ダンクがタンバリンでのソロを披露。アウトロで階段の上に立つ蕪木のシルエットが浮かぶのに見とれていると、“儚きピオニー”のイントロとともに2つのポップアップステージからダンクとネルが飛び出てくる姿が照らし出された。スクリーンに桜が舞った“SAQRA”は、蕪木が羽扇子を操り華やかな様相を増す。低い声からすくいあげるような歌声が桜の和のテイストとマッチしていると感じるのは、発声に演歌に似たものを感じるだろうか。和が散りばめられた楽曲でさえ、蕪木の両脇にいるパフォーマーの2人による景気のいい振りと煽りは欠かせない。バブルと令和の融合のみならず、ロックバンドでありながらアイドル界に多い口上やコール、煽りの豊富さ、常駐するパフォーマーによるキャッチーな振りなどといった盛りだくさんなエナツの祟り。それらをまとめあげるのは強烈なビジュアルによって一目見てわかるキャラクターの強さだ。

青いスポットライトと雨の音で雰囲気を一転させた“九月の雨~scene88~”では、絞り出すように出す蕪木の高音が切なく響く。スクリーンに映される歌詞は降り注ぐ雨のような線によって動きが出され、リリックビデオのような見ごたえがあった。落ち着いた曲調の“キミリウム”が続く。ドラムがドラマチックに響き、感情が昂るサビ前のフィルがリズミカルなサビへと繋がるのが気持ちいい。大サビで切なげにも力強く歌う蕪木とその感情を音に落とし込んだようなシンバルが感動的だ。雨上がりに射す太陽の光のような橙の光に照らされ“New Scene”を披露すると、再び会場はバブルを感じる雰囲気へ。ネルがDJセットを携えて登場、会場をダンスフロアのようなノリにあたためると、ダンクも登場し人体バラバラマジックで会場を沸かせた。

そしてライブは怒涛の後半戦へ。にぎやかなコールがある夏ソング“泡沫の罪な夏”、メンバーが並んでパラパラを踊る“キラキラ☆hero”、バブル期を感じさせるパラパラのイントロとSNSを歌った歌詞がハイブリッド感のある“【事勿れ主義】SNSメッセンジャー【痛い人】”、“パンティーナイト♂”と江夏がメインボーカルで歌唱するアップテンポな楽曲が続く。蕪木がコーラスで彩りを加える“愛しの my☆姫”では2人の声色の違いが浮き彫りになる。楽曲自体もバリエーション豊かなエナツの祟りだが、2種類のボーカルがあるために更に楽曲の幅が広がっているのだろう。

口上に合わせてハリセンを叩いて盛り上がる“紫陽花モードで責めてくれ!”のラスサビでは、気持ちが溢れるとばかりに江夏が「みんな来てくれて本当にありがとう!」と叫んだのが印象深い。1年延期した今回のライブにかけている思いを示していた。江夏と蕪木2人のボーカルが織り成す“無敵シュプレヒコール~このSを、聴け!~”で盛り上がりが最高潮になると、“あーもー!アモーレ!!~アイツのタタリ~”で盛り上がりを保ったまま本編は終了した。

ステージに一人残った江夏がスポットライトに照らされ、マイクを通さずに感謝を伝え退場するとステージは暗転。アンコールを求める手拍子を遮ったのは、これまでの軌跡を静かに振り返るVTRだ。「最後に渋公で公演がやれて本当によかった」と映し出され、「最後に」と不穏な字面に首をひねっていると、江夏の声とともに「俺らは二度と屈しない!」の文字が。会場の空気が静かに高揚する中発表されたのは、ジュリアナの祟りへの再改名だった。大きな拍手に迎えられ登場したエナツの祟り改めジュリアナの祟りは「大変ご無沙汰しております」と挨拶。再改名したジュリアナの祟りとしての一曲目に披露したのは“リグレット”。「君を思い返しているこの場所で いつも思い出だけは美化されて そんな風に思えばあの頃の 己の意地の強さが悔しくて」という歌詞は、かつてのジュリアナの祟りがもがいてきた時期を思い返すようでもある。思い出の詰まったジュリアナの祟りの名を取り戻したバンド。中心に立つ蕪木がスクリーンに映されると、その目に涙が光っているのがわかった。バンド名を復活させた心境を聞かれた江夏は、「まずはただいま!」と嬉しそうに言った上で、「国民的バンドになっていくように頑張っていきたい」と決意を表明。その決意への第一歩とでもいうように披露した新曲“フタリで、、、”は、江夏と蕪木の2人で歌う楽曲。間奏ではジュリアナの祟りの名付け親・ビートたけしで有名なコマネチで会場を盛り上げ、改めてジュリアナの祟りが戻ってきたのだなと感慨に耽る。「みんなと紡いだ思い出が 忘れるには多すぎた」という歌詞からも、ジュリアナの祟りに戻ってくることができた喜びや感動を感じずにはいられない。

そしてライブは終盤へ。“バブリー革命~ばんばんバブル~”でコールアンドレスポンスの代わりにハリセンでレスポンスを行うと、会場は温かい一体感に包まれる。観客が声を出すことができない情勢において、ハリセンを利用することでこれまでと盛り上がり方をほとんど変えることなくライブを行った強さは、それまで多くのライブを行ってきて逆境を乗り越え続けてきたジュリアナの祟りの強さのあらわれだろう。ドラムセットに戻った江夏は、「みんなに会えてよかった」とこの日のライブを振り返る。そして最後の曲“アクシデント”へ。「今日までずっと長かったね。ここまできてくれて本当にありがとう」と蕪木がラスサビで語る。涙ぐみながら歌い切った後に「ジュリアナの祟りでした!」と叫ぶ蕪木は喜びを噛みしめているように見えた。最後のMCで感謝を述べる江夏。前に進めなかった昨年度を振り返り、「身を削ってライブをやってきたのに、ライブができないなんて成す術がなかった」と涙ぐみながら語る。それでも本当に少しずつだけど進んでこれた、と振り返ると、「ジュリアナの祟りをもう一度やり直していきたいと思います。一緒に育てていってください」と決意を表明。会場からは盛大な拍手が送られ、ジュリアナの祟り再始動が祝福された。

Text:村上麗奈
Photo:佐藤哲郎

https://tatari.tokyo/

『キミと過ごした青春のJuly and 夏を取り戻せ!!2020を取り戻せ!!2021』セットリスト
01. キミクロニクル
02. 薄紅色の淡い夢の中で~バブルの呪文はAYATRA~
03. 結論
04. 夏のyou
05. ギリギリ勝負な僕たちは
06. だーりん
07. 儚きピオニー
08. SAQRA
09. 九月の雨~scene88~
10. キミリウム
11. New Scene
〜DJ TIME and MORE〜
12. 泡沫の罪な夏
13. キラキラ☆hero
14. 【事勿れ主義】SNSメッセンジャー【痛い人】
15. パンティーナイト♂
16. 愛しのmy☆姫(新録)
17. 紫陽花モードで責めてくれ!
18. 無敵シュプレヒコール〜このSを、聴け!〜
19. あーもー!アモーレ!!~アイツのタタリ~

ENCORE
01. リグレット
02. フタリで、、、(新曲)
03. バブリー革命〜ばんばんバブル〜
04. アクシデント