清 竜人 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

清 竜人『REIWA』

時代の節目だからこそ普遍性を追求したアルバム『REIWA』が令和初日に発売!

令和初日となる2019年5月1日、清 竜人がソロとしては約6年ぶりとなるアルバム『REIWA』をリリースした。昨年7月に『平成の男』でソロ活動を再開して以降、昭和の歌謡曲を支えてきた大御所たちを編曲者に迎え、平成のフィルターを通して、温故知新とも言える普遍的な楽曲を生み出してきた彼は、時代の節目に何を考えているのか。トレンドを追いかけ、欧米化するシーンとは一線を画したサウンド、時代性が色濃く浮き出た歌詞が印象的なアルバムについて解説してもらった。

■昨年7月に『平成の男』でソロ活動を再開したときから、元号の変わり目を意識していたと思うんですけど、最初から令和が始まる5月1日にアルバムを発売しようと思っていたんですか?

清 もともと2019年の春あたりにアルバムのリリースを考えていて、アルバムの中身も時代の変わり目を意識したものにしようと構想していたんです。それで5月1日に元号が変わることが発表されて、すぐに何曜日か調べたら、(一般的なCDの発売日とされている)水曜日だったので、これはよいなと。

■アルバムのタイトルも、その時点で新しい元号をそのまま使おうと考えていたんですか?

清 そう思ってはいたんですけど、発表日によっては制作が間に合わないので、保留にしていたんです。それで4月1日に発表されることが決まって、関係各位に確認したら、GW進行はあるものの、ギリギリ間に合うという話だったので、新元号をタイトルにする前提で制作を進めました。だから4月1日はスタッフみんな待機して、発表後すぐに打ち込んで、ジャケットのデザインも30分くらいでアップできたんじゃないかな。

■アルファベット表記にすることも、最初から決めていたんですか?

清 そうですね。いままでのアルバムが全部アルファベット表記なので、そこに合わせただけですけど。

■実際にアルバムを作り終えて、どんなものに仕上がったと感じてますか?

清 狙った通りのアルバムにはなったかなぁと。そこは自負しているところですけど、それと同時に、いまの音楽シーンでは浮くだろうなとも思ってます。(笑) でも、当初から時代に関係なく、日本人であればすんなり聴けるようなメロディーと歌詞を意識していたので、普遍的なアルバムにはできたと思っていて。なおかつ、5年後とか10年後とか、どこかで振り返ったときに、このタイミングにこのアルバムがリリースされていたということが、意味のあることになっていくんじゃないかなという希望的観測もあります。もちろん、いまこのタイミングでリリースすることにも意味があると思ってますけど。

■アルバムは12曲あって、ミッキー吉野さん、星勝さん、井上鑑さん、原田真二さん、瀬尾一三さん、そして竜人さんの6人で、各2曲ずつ編曲をしていますよね。このきれいに分かれている感じからすると、わりと早い段階から全曲できていたのかなと思ったんですけど。

清 僕がアレンジした2曲は、1カ月くらい前(取材は4月下旬)にレコーディングしたんですけど、それ以外の10曲は半年以上前にできあがってました。ただ、最初から2019年5月にリリースすることを想定して作った楽曲ではあります。

■リードトラックの“青春は美しい”を聴いて、曲調も壮大だし、勝負曲というか、ずっと温めていたのかなと思ったんです。

清 そうですね。この曲は瀬尾一三さんのアレンジなんですけど、日本の歌謡曲のよいスケール感みたいなものを演出できているかなと思うんです。中島みゆき感があるというか。

■まさに瀬尾さんは、中島みゆきさんの楽曲に数多く関わってきた方ですもんね。メロディー的にも、他の11曲と比べて感情的だなと思ったんですけど、アルバム全体のバランスも意識して作ったんですか?

 それは常に考えていることですね。今回のアルバムだと、この曲だけ3拍子なんですけど、いつもアルバムに1曲は3拍子を入れたいと思っていて。過去のアルバムも1〜2曲は入ってるはずです。感情的に感じるのは、どちらかというと瀬尾さんのアレンジによる効果が大きいかなと思いますね。たぶん弾き語りで歌うと、またちょっと違ったイメージになるんじゃないかな。もちろんアレンジャーの個性を足したものが作れたらなとは思っていたので、そういう意味では意識したと言えなくもないですけど。

■前回取材したときに、“痛いよ”(2010年発表、清竜人の代表曲のひとつ)はシチュエーションが具体的すぎて大衆性を失っているかもしれないと話してましたけど、その点では“青春は美しい”は大衆性のある言葉が意図的に使われている感じがするなと思いました。

清 このアルバムの収録曲に関して言うと、軽くメッセージ性を帯びさせている曲もありますけど、基本的には強い意味があるものは避けたくて。メロディーを聴いてて、いい意味で歌詞に耳が行かないくらいの塩梅にしたいと思って作ったんです。変に歌詞が耳につかないというか、歌詞とメロディーが一体となって聴こえるようなものというか。歌詞にこだわりすぎると、メロディーラインの美しさを損ねてしまうことが往々にしてあると思うので、そうならないように気をつけました。

■自分の青春体験は反映されているんですか?

清 いやぁ、どうかなぁ。(笑) 基本的には普遍的なストーリーですよね。中学生が卒業式とかで歌っていると感動しそうなものというか。自分が中学生だったら、こういう気持ちになるんじゃないかなとか、こういう歌を歌ったり、言葉を発したりすると、なんか胸にきたり、自然に涙が流れたりするんじゃないかなっていうバランスは考えましたね。感情とはちょっと違うけど、真理をついてるみたいな。

■こういう言葉を使えば感動するんじゃないかとか、そういうことを考えて?

清 計算の部分はありますけど、悪い意味で打算的に作ったわけではなくて。

■自分の感情を込めたというわけでもなく、大衆性を計算して追求したわけでもなく、説明が難しいバランスだなと思っていて。

清 そう言われると、確かに説明が難しいですね。どちらかと言うと、脚本を書いているような感覚というか。

■自分の感情をそのまま出すほうが、ある意味簡単なのかなと思うんです。

清 うーん、どうなのかな。最近は歌詞で苦労したことがないんです。ある種、ハードルが低いのかもしれないですけど。自分がいい曲だなと思う過去の名曲は、やっぱりメロディーが美しくて。もちろん歌詞も美しいんですけど、別にメッセージ性があるわけじゃない楽曲がほとんどで、それが名曲である所以のひとつになっている気がするんです。だから、響きが美しかったり、歌詞と自分をなんとなく重ねて、シチュエーションがふわっと浮かんだり、きれいな景色が広がったり、ポップスを作るのであれば、それくらいの塩梅がいいんじゃないかと思って今回は作ったんですよね。

■自分で編曲した2曲についても教えてほしいんですが、他のアレンジャーさんたちの10曲を踏まえて作ったんですか?

清 “あいつは死んであの子は産まれた”は、アルバムの最後っぽい曲がないなと思ったので、ピアノ一本で作ってみました。“25時のBirthday”は、音楽的にボサノバの成分がほしいなと思って、バランスを取った感じです。

■全体のバランスを整えるための曲?

清 そういう考え方で作りましたね。楽曲としてピースは足りていて、あとは全体をより聴きやすくするための作業という感じでした。

■この2曲だけ尺が短いのも、全体のバランスを考えて?

 そうですね。自分で編曲していない曲は、想定以上に長くなったものもあって。それこそ瀬尾さんの曲(“青春は美しい”と“涙雨サヨ・ナラ”)は長い間奏が入ってきたので、それはそれで1曲としては素晴らしいんですけど、全体としてバランスを取った感じです。

■J-POPや歌謡曲を意識した作品なのに、自分で作った曲は普通のAメロ〜Bメロ〜サビの流れじゃない、しかも2分台の短い曲っていうのは、ちょっとおもしろいなと思いました。

清 でも、1970年代とかの歌謡曲って、尺が短かったり、Aメロ〜サビという構成も意外とあるんですよ。いまの慣習的には4分前後が多いと思うんですけど、楽曲によってはもう少し短くてもスッキリ聴けるなと感じていたので、アルバム全体のことも考えつつ、ポップスのひとつの手法としてアリかなとは思ってましたね。

■“25時のBirthday”は、どういうシチュエーションを歌ったものなんですか?

清 好きな人が誕生日中に来てくれなかったっていう、ちょっと切ない歌詞ですね。日付は変わっちゃったけど、気持ち的には自分の誕生日の日付のまま25時って言いたくなる女心を歌ってみました。

■二人の関係性が具体的に描かれていないので、ケンカしてるのかなぁとか、いろいろ想像しながら聴きました。

清 やっぱり今回は、風景とかシチュエーションとかを描いているんですよね。たとえばTOWN(観客参加型のプロジェクトとして2016〜17年に活動した清 竜人TOWN)とかでも、主人公がいたとしたら、あの人に対する気持ちとかをストレートに歌い上げて、そういうところにスピリットがあった感じですけど、今回はシチュエーションから自分に置き換えて想像してもらうような感じが多いと思います。