松村沙友理 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

女優・松村沙友理が「推す人」を演じて改めて感じた「アイドルの素顔」。

漫画家・平尾アウリの人気コミックでテレビアニメ化もされた『推しが武道館いってくれたら死ぬ』が、実写ドラマ化を経て映画化され、5月12日より『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』として公開される。ある日ふとしたきっかけで一人の地下アイドルと出会い、人生のすべてを賭けて彼女を「推しまくる」という一人のフリーター女子を中心に、地下アイドルたちの苦悩やアイドルたちを支えるドルオタ(アイドルオタク)たちの思いを群像劇として描いた本作。ドラマ版は原作漫画をもとにストーリーが構成されたが、本作はその延長としてオリジナルの物語が構成されている。本作で主演を務めたのは、2021年にアイドルグループ「乃木坂46」を卒業した松村沙友理。もともと原作のファンだったという彼女は、赤色のジャージ姿で「推し」を支えるドルオタ女子・えりぴよを熱演。ドラマではアクティブな芸風もさることながら、CGはいっさいなしで挑んだ「鼻血シーン」も大きな話題をさらった。
そんな思いもたっぷりで演技に挑んだ彼女に、今回はドラマから映画へと続いた出演の軌跡より振り返ったアイドル時代の思いや撮影の様子、共演者の印象などについて語ってもらった。

■今回出演された作品はドラマから映画と、これまでに松村さんが出演された作品とは少し違う形態をとったわけですが、その意味で今回の作品に向けて新たな心構えのような気持ちは持たれていましたか?

松村 作品を見ていただくという点において、劇場版は原作にないオリジナルのお話であるということは意識しました。ドラマでは原作の良さを表現できたのかな、という思いもあり、今回の劇場版ではまだみなさんが見たことない新しい『推し武道』がお届けできるという点がポイントになったと思いますし、これをみなさんが楽しんでいただけることが、私にとっても楽しみです。

■完成した作品を観られて、改めて物語に対してご自身で感じられたり、気が付かれたりしたことはありましたか?

松村 アイドルという存在に関しての表現は、前もって台本を読んである程度把握をしていたつもりでしたが、アイドル側の撮影は見ていなかったこともあり、視点の深さを強く感じました。私自身はえりぴよを演じるにあたって「舞菜を推すこと」に対しての一生懸命さを特に意識していましたが、完成した作品からは、例えばセンターの存在であるれおにも苦悩があったりとか、それぞれのアイドルが抱いている苦悩の深さなどについて、強く感じられたと思います。また今回「劇場版」として大きなスクリーンに映し出されるものとなったことで、よりその意味は深さを増したと感じましたし、だからこそ、なおさらライブシーンにおけるChamJamのアイドルらしい雰囲気は生き生きしていることも強く感じました。

■その感じられたこととは現在の女優としての視点、あるいは自分に元アイドルという経験があるからという視点のいずれからくるものだと思いましたか?

松村 どちらの視点もありますが、やはり自分が元アイドルだったから、という部分は大きいと思います。自分がずっとアイドルとして活動していたことから繋がって、今回本作のように「アイドルの作品」に出演したということに対して、縁があるということも感じました。自分自身が、ChamJamのこの子の話が当てはまる、という部分はあまりないのですが、アイドルたちそれぞれが抱いている苦悩もすごく共感して、改めて今「こういうことで悩んでいた子がいたんだな」という気持ちが胸に沸いてきました。作品を観てくださるみなさんに、このポイントはしっかりと伝わって欲しい部分だと思いました。

■松村さんの、もともと乃木坂46に在籍していたという経験により、特に共感された部分というのはどのような部分でしょうか?

松村 乃木坂46のメンバーとして集まった時の印象ですが、私から見ると優れた才能を持った子が多かったと思うんです。歌うこととか、それこそ特技があるとか、何でもできる天才の集まりみたいな。だから逆に「私には何もない」と悩むことも正直、多かったと思います。こんな気持ちを抱いているのは、たぶんアイドルをやられている方々でも多いんじゃないかと思うんですが、今回の『推し武道』の中では、そんなポイントがしっかりと描かれています。メンバー同士でお互いを尊重するがゆえに自分がダメだと思っちゃう、という点は本当にリアルに描写されていると思います。

■今回、主人公のえりぴよという役を演じるにあたっては、どのような役作りを行われたのでしょうか?

松村 役作りという過程といえるかどうかはわからないですが、ずっと撮影の時や撮影の合間に、舞菜(伊礼姫奈)のことばかり見ていました、怖いくらいに。途中で伊礼さんに「ずっと見られていて恥ずかしいです」と言われるくらい。(笑) 休憩時間中に他のオタク仲間役のみなさんは、みんなで集まっているとずっとChamJamの話ばかりしていて、それぞれの推しについて「こういうところがいい」、「ライブをしてる時の、ダンスのここがいい」という話をされていましたが、私は後で振り返ると「あれ?私は舞菜ばかり見ていたから、他の子を見たことがなかったな……」と思えるくらい。(笑) そのおかげで自然にえりぴよになれたんじゃないかと思います。

■「ドルオタ」的な性格以外の面ではいかがでしょう?

松村 えりぴよは舞菜に対してはすごく真摯で一生懸命だけど、それ以外のことは結構がさつというか、いい意味での適当さはあると思っているので、椅子にも足を開いて座ったり、歩き方も雑に歩いてたり、とかそんな生活の一面からがさつさを出していくことを考えていました。

■松村さんご自身とえりぴよに共通点は感じられますか?

松村 そうですね、私も結構人生の中では常に推しがいるというタイプの人間で、私も推しがいたら布教したいタイプなんです。えりぴよは舞菜の良さを世界中に知って欲しいと願っていますが、私も「推し」ができたら、その良さを「全人類が知るべきだ」と考えます。(笑)

■松村さんとは逆に、女優という立場からアイドルを演じられた伊礼姫奈さんの印象はいかがでしょう?

松村 アイドルの経験から思うのですが、私はアイドルって「ありのままの自分をさらけ出して、そんな自分を応援していただくもの」みたいな印象を持っていたんですが、伊礼さんの姿からは「ちゃんとそういう姿を演じられるものなんだな」という印象的をとても強く感じました。今は私が女優の仕事をやらせていただいている中で、私はまだまだ比較的自分という存在を中心に考えることが多いと思っているんです。アイドルとしては「自分として生きてきた」世界だったわけですし。でもそれに対して伊礼さんは、自分というものではなく舞菜という人物を中心に考えていて、そこに自分を合わせていっている感覚がありましたし、役を演じるという意味ですごいと感じました。

■伊礼さんという人物として、共演された際に気づいた点などはありましたか?

松村 私は演技などの技術に関してはまだこれからというところで、例えば役者としての技術的な面に関して強い印象を持つというところはわからなかったけど、人間としての伊礼さんはすごく芯が強い人だと思いました。自分というものがありながら、役に近づける柔軟性があるように感じましたし、監督に「こうやろう」と言われた時に、納得できれば受け入れるし、できなければ「こうじゃない」と正直に言える。「自分が一番役のことを理解している」という芯の強さみたいな点を強く感じて、私の中では新鮮に感じられるところもたくさんありました。

■オタク仲間の二人を演じられたジャンボたかおさん、豊田裕大さんはいかがでしたか?

松村 まさに原作から飛び出てきたんじゃないかと思えるくらいの「まんま感!」で。ジャンボさんはもうまさに「くまささんってこんな感じだよな」という雰囲気だったし、豊田さんが演じられた基さんもまさにそのままの印象でした。最初の方はこの三人でのシーンがとても多かったんですが、だからこそ、その中でしゃべっていると自分も自然にえりぴよになっていった感じでした。

■お二人に「えりぴよにしてもらった」という感じだったのでしょうか?

松村 まさにそうでしたね。ジャンボさんは本職は芸人さんで、ご自身でコントのネタを考えられていることもあって、細かい設定も考えられていたし、そんな本職の一面が撮影現場でも垣間見えました。私は結構今まで演技という面では、全部自分で完結するタイプだったんです。自分でセリフを覚えてきて、現場に行って、合わせて、「ああ、なんかここはこうだったな」と自分で考えて、本番を迎えて……みたいに。でもコメディアンの方は、仕事としては誰かと一緒にネタ合わせをした上でネタを披露するわけで、ジャンボさんは現場でもそんな特質を出されていました。よく現場で「一緒に練習しよう!」って言ってくださったんです。ドラマから映画まで、こんな大きなプロジェクトは初めてだったし、私自身はそれほど自分から人に積極的に話しかけたりできるタイプではなくて不安もあったんですが、ジャンボさんはお兄さん感もすごくあって、本当に助けていただきました。