ALI VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

タフな環境の中生き残った精鋭たちで奏でるALIというジャンル。1stアルバムへの思いを語る。

ALIが待望のメジャーファーストアルバム『MUSIC WORLD』をリリース。日本だけでなく様々な国をルーツに持つメンバーで構成され、これまでもファンクやソウル、ラテンなど多様なジャンルを織り交ぜた楽曲を発表してきたALI。そんな彼らが『MUSIC WORLD』と掲げたアルバムは、世界の音楽を豊かなサウンドで表現しているだけでなく、歌詞や歌声の温度感も含め、その土地への思いや愛着を感じるような、世界の景色を感じられる作品となっている。
今回はそんなALIのフロントマン、LEO(Vo)にインタビューを敢行。初のフルアルバムに対する思いや、彼にとっての東京という存在について、リリースツアーへの思いを訊いた。

■今回は1stフルアルバムという位置づけですが、どんなものにしようと作り始めたんですか?

LEO 結構バンド結成から長くて。2016年からやっていて、2018、19年くらいからメジャーでやらせてもらっているんですけど、ずっとEPは出していたんですけど。今って配信がメインで、聴いている人も40分以上聴けないとか、どんどん時間が短くなっている時代じゃないですか。アルバムもシングルベストみたいなのが結構多くて。そういう風にやっていくのも全然いいんですけど、「シングルとは違う、本人たちが本当に全力でやりたいものをアルバムで見たい」っていう意見を見たんです。なんかそれに腹が立ってきたんですよね、そうだなって思うところもあったので。俺も考えてみたら、好きな曲とかすごい影響を受けた曲って、Nirvanaにしろ、Oasisにしろ、全然シングルじゃなかったりするし。そりゃそうだよなと思って、今回のアルバムの曲も去年の秋ぐらいに半分くらい作り直して。CDに入るだけ全部入れてやろうと思ったんですよね。それが一番この時代に対するアナーキーな答えかなみたいな。(笑)

■では今のバンドの全身全霊をつぎ込んだというか?

LEO そうですね。音楽って大前提で現実を忘れさせてくれるものだと思うんですけど、その方法っていろいろあって。傷口を見せずに人生や世界の美しい部分を描いて、明るく楽しく簡単に現実を忘れさせるものと、傷口をしっかり見せて寄り添うっていう2つの道があると思っているんです。日本で音楽をやる上で、Twitterなりインスタなりに言葉が溢れていて、インターネットの情報にみんな慣れているから、今回はちゃんと自分の周りにフォーカスを当てて作ることを心がけていて。今、本当に時代の変わり目だと思うんです。例えば俺の友達にロシア人の子がいて、その子のいとこがロシアで軍に召集されて逃げているんですとか、そういったことが現実に起こっていて。タモさんは「新しい戦前」って言っているけど、そういったものを誰かが描かないといけないなと思ったんです。本当は戦争のこととか、コロナの時にみんなが抱えた苦しさって、愛されるべきものではないんですけど、現実としてそれをしっかり描かなきゃなっていうのがあった。それをシングルで出すっていうのは中々難しかったりするけど、アルバムの中の曲だったら好きに描けるので、そういうことをしっかりやりました。

■そういった思考って、みなさんがいろんな国にルーツがあることにも関係しているんですかね?

LEO でも僕らは結構メイドインジャパンの部分が多いんですよね。それよりも周りのことをちゃんと書きたかったんです。去年サウジアラビアとか、台湾に行かせてもらったんですけど、サウジアラビアもWikipediaとかで調べると、「毎週死刑が行われている」とか、「処刑がある」とか、いろんな情報が文字では見えるんです。ただ、実際に行ってみると全然違って。本当に現実をしっかり見なきゃダメだなと思ったんですよね。ロシアとかウクライナのことも、コロナのこともそうですけど、いろんな情報が飛び交っていて、何が本当かは分からない。だからやっぱり真実って、自分の周りにあることを描くしかない。インターネットとかよりも、周りであったことをしっかり書く。だから世界を見てっていうよりも、自分が見ている周りにしっかりと集中したいっていうことでした。

■そんな中で、今回のアルバムタイトルが『MUSIC WORLD』であることにはどんな理由があるんですか?

LEO ALIって飽き性なので、ディスコとか、ラテンとか、ソウルとか、いろんな音楽をやるんですよ。だから、よく「どういうジャンルかわからない」って言われたりするなと思ったんですけど、ALIっていうジャンルをやりたくて。ALIというジャンルで『MUSIC WORLD』を作りたかったのもあるし、音楽でいろんな国や、想像した世界に飛んでいけるのが好きなので、行ったことがない場所とかに人を連れて行きたいっていう意味合いが入ったタイトルです。

■そもそもの話になるんですが、今回『MUSIC WORLD』と題して、世界のいろんな音楽ジャンルをやっている中で、ご自身が育ってきた渋谷、東京という場所は、どういう場所だと感じていますか?

LEO めちゃくちゃ安全で、便利で、明るくて、すぐ人に会える場所。でもコロナになって東京の良さが一回消え失せて、むしろ道は狭いし空気は悪いし、クラブとかもなくなっちゃうし、渋谷なんてどんどん薬局に変わっていっちゃうしで、本気でいろいろ考えましたよね。「東京って何だったんだろう?」って。でも渋谷って、多分レコードは世界で一番手に入ると思うんですよ。そういうカルチャーがタフに生き延びていて、なんとか生き延ばそうとする大人たちがいるので、カッコいい人はいますね。そういう人たちにしっかり会える、傍にいられるっていうのはすごい素敵ないいことだし、それにはすごく感謝しています。

■そういった人たちの中にいられることは、作る音楽にも影響していると感じますか?

LEO むしろDJとか、俺がかわいがってもらっているWACKO MARIAっていうブランドの森さんとか、そういう人たちがいたからALIがあるというか。「こんなもんじゃねぇ」みたいに常に怒られているんですけど、そういった一流の人たちをいつか「ぎゃふん」と言わせたくてやっていますね。厳しいし、ぶん殴ってくる先輩っていうか。こういうパワハラ、モラハラとかの時代の中、俺は愛のムチを喜べるタイプなんで嬉しいんですけどね。(笑)

■なるほど。今回のアルバムには既存曲も収録されていますが、アニメの主題歌や、多くの人に聴かれた“SHOW TIME feat.AKLO”など、今振り返ってみて、どんな存在になっていますか?

LEO いい曲だなってひたすら思いますね。(笑) あと俺は映画が好きで、昔のやくざ映画とかをよく観るんですよ。それがちょうど50年代とか、60年代くらいの映画なので、今から60年くらいの前のものだったりするんですけど、最近の『呪術廻戦』とか、『チェンソーマン』、『BEASTARS』もそうですけど、60年後に振り返った時に、『七人の侍』とか、『東京物語』とか、今でも世界中で見られている映画みたいな存在にきっとなると思うんです。そういったものに関われているので、それはすごく嬉しいし、ずっと残るんじゃないかなって。いい音楽が作れたなと思います。

■すごく良い巡り合わせですね。

LEO そうですね。今考えるとアニメの主題歌も椅子取りゲームみたいになっているじゃないですか。もうちょっとアウトローみたいな人たちがやっていたのが、今では超メジャーな人たちが取りに行っているんで、「ちょっといい加減にしてくれ」って感じですけどね。腹が立ちますよ。(笑)

■1曲目にオープニング的な立ち位置で、このアルバムタイトルと同タイトルの“MUSIC WORLD”が入っていますよね。アルバムを作る上でこういう始まり方にしようと考えていたんですか?

LEO そうですね。最初にオープニングが入るのはずっとやりたかったことだったので。1曲目は「サビから始まらないと」とか、「歌から始まらないとスキップされる」とかよく言うけど、真逆にしていますからね。(笑) 延々に美しさを描こうと思って。ホーンソロから始めています。

■“MUSIC WORLD”から“EL MARIACHI feat. MFS”への流れもすごくカッコよくて。多国籍感というか。

LEO そうですね。MFSはめちゃくちゃ去年海外でバズって。ありのままを発信しているのがカッコいいんですよ。サウンドもすごくカッコよく録れて、パーカッションも6人くらいいて、同時に録ったんですけど、そういうフレッシュなものが全部上手くいった曲です。ラテンってあんまりできないのか、みんなやらないんですよね。でも日本人は結構好きらしいんですよね。ラジオでも「日本の地に合っている」って言われていたし。僕らのファンも結構スペイン人が多かったりするので、ラテン調にするのは自然な流れでした。

■サビの歌詞もいいですよね。

LEO これ、すげえ悩んだんですよ!2年くらい悩みました。

■2年もですか!?

LEO 曲は2年前くらいからあって、最後の「shaka laka laka laka boom」とかも本当に2年もかかったんです。何を歌いたいのかとかずっと考えていて。レコーディングの前日くらいに、英語のチェックでLUTHFIとパーカッションのアレックスに送って、それで確認して決まって。結構時間がかかりました。

■その中でこの歌詞を歌った理由はあるんですか?

LEO もう本当にその時の気持ちだけですね。本当は反逆の美しさみたいなものをテーマにMFSと一緒に歌詞を作っていたんですけど、MFSの書いた歌詞がすごく良くて。自分は反逆する人とか、レボリューションを起こす人たちの気持ちを自分に当てはめながら書きました。

■コラボ相手と一緒に作っていくからこそ、引き出されていくものもありますか?

LEO やっぱりラッパーに関しては、言葉を武器に生きているし、スタイルがみんなあって。何かを伝えるっていうことに本当に特化しているので。人と遊べるシステムを作りたいっていうのがALIのコンセプトなんですけど、僕の思うヒップホップって、人との摩擦があるんです。そういったフォーマットがやりたくてALIを作ったっていうのがあったので、そういった意味でもすごく尊敬していますし、楽しいです。

■今おっしゃった人との摩擦という意味だと、“NO HOME NO COUNTRY feat. KAZUO,IMANI”は特にそういうヒップホップらしさがあるなと感じました。

LEO これは上手くいきましたね。本当は『MUSIC WORLD』ってコンセプトを考えた時に、世界中のラッパーとやって、それで『MUSIC WORLD』にしようかと思ったんですけど、最終的には俺らの周りにいる混血の人が多くなって。Mummy-⁠DさんとR-指定くん以外は全員混血。ロン毛の日本の侍たち以外、ハーフの人が多くなったんですよね。(笑)

■これは結果的にそうなったっていう感じなんですね。

LEO そうですね。好きな人を集めていったらこうなって。“NO HOME NO COUNTRY feat. KAZUO,IMANI”に関してはコロナ禍の曲でもあるし、謹慎中の曲だったんですよ。事件が起きて、音楽ができないかもってなった時に、最初に作ったのが“MY FOOLISH STORY”と“NO HOME NO COUNTRY feat. KAZUO,IMANI”で。Black Lives Matterとか世の中もクソ大変で、「黒人が」とか、「コロナが」とか、そういったものに対するストレスとか恐怖みたいなものもあって。ハーフの人たちって結構いろんなところに転勤したり、いろんなところに家があったり、ホームがあるんですけど、自分はどこがルーツで、どこに所属するのかっていうのがずっと悩みとしてあるんですよ。見た目と国籍のギャップっていうか。日本だと外人って言われるけど、アメリカでも言われるとか。でもそれはボブ・マーリーの時代からずっと続いているんですけどね。なので、これはアメリカにいた人たちの言葉で、日本からの不安とかそういったものを描いていた曲で。カントリーですね。