Bye-Bye-Handの方程式 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

汐田泰輝(Vo&Gt)

「11年目は1年目」、4人が織りなす青春を彩った5曲の再録盤。

Bye-Bye-Handの方程式がEP『nostalgic lovers』をリリース。2024年末に1stシングルから“湿恋”を再録して発表したバイハン。EP『nostalgic lovers』では、SUNNY氏をアレンジャーに迎え、これまで自主制作盤としてリリースしてきた作品より、5つの楽曲を再録する。インタビューでは、汐田泰輝が今作の制作についてや作曲当時のことについて語ってくれた。

■まずは前作アルバム『ソフビ』の反応はいかがでしたか?

汐田 すごくいろんな人から反応をいただきました。ここ最近は、もうライブでもお馴染みの曲たちになったなという感覚がありますし、ライブをしていく上で育っていったアルバムなのかなと体感していますね。

■一番盛り上がりがすごい曲は?

汐田 “タヒ神サマ”がライブの中でキーになってきたり、今までやってきた戦い方とは違う形ができてきたり、ライブの運び方もやりやすくなった印象があります。

■ツアーは盛り上がりましたか?

汐田 そうですね。本当に濃いツアーを過ごせたと思っています。特に地元大阪の梅田Shangri-laでやったライブがすごく記憶に残っています。対バンがIvy to Fraudulent Gameという群馬のバンドだったんですけど、僕が中学生ぐらいの頃から追っかけていたバンドでして、高校生の頃に梅田Shangri-laにIvyのライブを見に行って、そこでCDを買ったんですよ。それで、今回対バンをやることになったので、当時買ったそのCDを持って行って、今更ですがサインをいただいて……。(笑)

■え~、素敵なエピソード!

汐田 周りがいっぱい対バンしていって、自分たちもいつか対バンしたいというのはあったんですけど、なんかもう「このタイミングしかない!」という感じでした。自分たちをきっかけに、このタイミングで対バンできたのがめちゃくちゃ嬉しかったです。

■そして2024年末にリリースされた“湿恋“ですが、「高校生の頃に3年付き合った恋人と別れた時の曲」とのことで……。高校3年間ずっと同じ方と付き合っていたということですか?

汐田 そうです。3年間同じ方と付き合って、大学進学と同時に、よくあるお別れをいたしました。その頃の僕らって、なんかこう、ややこしいじゃないけど、今よりひねくれていて難しい歌詞を歌っているバンドだったんですよね。だからもう、「これが最初で最後になるぐらい赤裸々に書こう」と思ったことをきっかけに作ったのが“湿恋”でした。

■歌詞を読むと結構な大失恋な感じがしたんですが、お別れ自体はいわゆる「進学をきっかけに……」なんですね。まぁ高校生の時の3年間と、20代の3年間では全然違いますよね?

汐田 そうですね。やっぱり毎日会っているし、朝も一緒に学校に通って、みたいな……。つい最近の記憶だという感じがあるんですけど、ここ最近の3年と、あの頃の3年間ではやっぱり濃度がぜんぜん違いますよ。結構苦労したと言いますか、今振り返っても「一番大変な恋愛やったな」と思うぐらい、いろいろありました。

■喧嘩もあった3年間ですもんね。

汐田 そうです、そうです。性格上なかなか両者引くに引けない二人やったんで、喧嘩も長引いたし、迷惑をかけた人もいっぱいいるんだろうなと今は思います。でも大学に進学して、どっちが言い出すでもなく別れることになりまして。それまでも良き友として同じ友達グループに所属していたので、「別れますけど、友達としては変わらずに良い関係でいましょう」くらいの感じで別れたから、別れた途端にすぐダメージが来るような失恋ではありませんでした。

■その割には歌詞が重くないですか?

汐田 そうなんですよね。(笑) お互いそれぞれ別の大学に進学して、もちろん向こうには向こうの出会いがあるじゃないですか。そういうのを見ているうちに、「あれ?僕だけかもしれないけど、失恋を引きずっている自分がいる……」という感じになってきたんです。だから、僕から「ヨリ戻さない?」みたいなことを未練たらしく言ってしまって、でも「もう別れたんやし……」みたいになって。そこからハッキリと「終わったんやな」と思ったんです。

■それはいつ頃の話ですか?

汐田 大学1年生の頃です。

■別れてから「ヨリ戻さない?」までが早くないですか?

汐田 そうなんです。(笑) でも3年間という月日を経ての友達という関係の数ヶ月って、すごく長く感じた気がします。

■いや~、人生にドラマありですね。この曲はバイハンにしては珍しく5分間もあるとても長い曲ですが、やっぱり3年分の想いを込めるには5分かかった感じですか?

汐田 大学の送迎バスの中で、“湿恋”というタイトルだけが先に浮かんだのを覚えています。indigo la Endの“夏夜のマジック”みたいな艶っぽいバラードを作りたかったんですよね。僕は今でも川谷絵音さんの作品やプロジェクトの影響をすごく受けているのですが、あの時もモロにタイトルの語感などにも影響を受けた気がしています。コードはほぼ4つだけを繰り返しているシンプルな構成なんやけど、いろんなメロディとか、言いたいこととかを書いていたら、結果ボリューミーな感じになりました。最初にレコーディングした時の音源は、「これ“湿恋”って曲やし、最後めっちゃしつこいことをやったらいいんちゃう?」ということで、以前はもっと長かったんですよ。

■もっと「しつこい」んですね。(笑)

汐田 そう、もっとしつこかった。(笑) でもライブでやるうちに、「もうこれ何の時間や……?」みたいな空気が生まれちゃったので、今回再録するにあたっては、いろいろアップデートされているところがあります。

■ということは、ライブではあまり披露されてこなかった曲なのでしょうか?

汐田 いや、当時はライブでもやっていたし、MCをちゃんと喋ることのきっかけになった曲でもあったんです。ギターを置いてピンヴォーカルになる曲が初めてだったこともあって、ライブにおいて「目の前の人に赤裸々な気持ちを伝えることは大切やな」と気付かされたところがあったんですけど、だんだんとセトリに組みづらくなっていきまして。僕がピンヴォーカルで、ギターはただひたすらコードを弾いて、完全に歌で持っていくみたいな曲やったんで、シンプルに演奏という部分での「楽しさ」に欠けるな……という所から、やっていても楽しくないようになってきて。それでも「“湿恋”が好き」と言ってくれる人はいっぱいいる。そのギャップから生まれる溝みたいなものが年月を重ねるごとに深くなり、それもあって「再録したいな」という気持ちもだんだん出てきました。

■ファンからすればレア曲になっていく所もありますしね。

汐田 “湿恋”はもうちょっとアレンジの部分で工夫できたら、もっとライブでも活かせる曲になるんじゃないかとは思っていたんです。それで、この曲を再録したことによって、「他の曲も再録しちゃおうか?」みたいな感じになりまして、結果的には「今回は“湿恋”を筆頭に再録音源をリリース」という形になりました。

■そういったきっかけだったんですね。「なんで今このタイミングで再録をやるんだろう?やっぱりまだあの恋を忘れられていないのかな?」とか思っちゃって。(笑)

汐田 9年目になった去年、『ソフビ』という完全新作のフルアルバムを初めて出させてもらったのですが、そこできっといろんな方が僕たちのことを知ってくれるだろうという想定がありました。じゃあ、「その『ソフビ』を出した後に僕らがしないといけないことは何だろう?」と考えた時、ずっと前だけ、上だけを見てひたすらにやってたけど、一度も後ろを振り返ったことがなかったなと思って。

■ずっと駆け抜けて来たんですね。

汐田 今まで僕らは、逃げるような感じでやっていたんですよ。「過去の自分を断ち切るぞ!」みたいな勢いで、新しい曲をずっと出していて。それはそれで絶対に必要な時間やったんですけど、10周年になって、なんかこう未だに自分たちの過去を認められていないままこの先へ進むには、限界があるなと思ったんです。そんな時、「自分が過去に作ったものをちゃんと自分が愛してあげられるようなメンタルでいないと、今いるファンにも示しがつかない」という、変な気持ちが湧いてきたんですよね。

■なるほど。

汐田 とはいえ、あの時の音源を聴けるメンタルではなかったというか、「聴けたもんじゃねえよ!」みたいな感じになっちゃうんです。(笑) でも、あの当時の僕らを知ってくれている人からすると、そういうの抜きにして、良い曲かどうかで判断してくれることが多かったので、それを客観的に見られるようにするには、いろんな人の力を借りて、「もう新曲として迎えられるぐらいのクオリティまで持っていくことしか無理やな」というところから、この再録をすることになりました。

■よかった。未練があるわけではなかったんですね。

汐田 未練はないです、ご安心ください。(笑)

■ところで“湿恋”のサビでは「私」と言っているけど、他のところでは「僕」と言っているじゃないですか?これって何か理由があるんですか?

汐田 僕、昔は歌詞に重きを置いてなかったんですよ。でもバンドの先輩に「この歌詞、3人ぐらい出てきてない?(一人称が3回くらい変わってない?)」と言われて、これはヤバいなと思って。(笑) だから再録にあたって、破綻しすぎているところは歌詞を変えている部分があったりもするんですけど、残しているところもあるんです。

■“湿恋”に関しては敢えて直さなかった感じですね。一人称は二つあるけど、二つの視点に分かれているわけではない、と?

汐田 なんというか、殴り書きじゃないけど、「そこまで考えていない」みたいな感じです。今ならもちろん当たり前に「プロですから」みたいにやりますけど、学生が紙粘土で何か作ったり、折り紙を折ったりした時、「どこかが破綻していてもOK」みたいな感じがありますよね?未完成なところも含めての良さというか……。逆に今は完成されたものしか生み出せないし、わざと未完成なものを作れるかといったら難しいじゃないですか。だから、そういう未完成な部分も若気の至りで勘弁してよ、みたいな感じで残したりしています。

■でも、聴く人からすれば結構な深掘りポイントじゃないですか?

汐田 だと思います。ただ、僕はそこが音楽の楽しさなのかなと思っていて。ひとつの「答え」を持っておくこともあるんですけど、「そんな意味ないよ」というパターンもあるし。でも、意味ないからってガッカリせんといてほしいなと思うんです。聴いた人が感じたものが1番の正解な気がするんです。そういう余白じゃないですけど、そんな部分になったらいいのかなと思ったりしますね。

■「敢えて明言はしない方がいい」というところですよね。今回はSUNNYさんをアレンジに迎えていますが、いかがでしたか?

汐田 とにかく新鮮でした。本当、今までメンバー4人でずっと作ってきたし、バンドのものじゃない楽器の類いのものを入れた曲も、自分たちだけでやってきていたので、もう「どう預けてどう返せばいいの?」というくらい、初めての経験になったんです。僕ら、誰も鍵盤を弾けるやつがいないので苦労していたんですけど、今回SUNNYさんに頼んで、やっぱり鍵盤の脳みそと、弦楽器の脳みそって、ちょっと違うなと思いました。

■それは確かに感じる部分がありますね。

汐田 最初はゴージャスになりすぎることへの懸念点というか、「この曲にストリングスはどうなんだろう?」みたいなものがあったんですけど、SUNNYさんは僕の要望を聞いてくれた上で、あくまでバンドのサウンドの上に乗せられるギリギリのストリングスをつけてくれて。それを聴いた時、「やっぱ、もったいないな」と思ったんですよ。せっかくSUNNYさんにやってもらうから「もうちょっとマシマシな感じでもいいかもしれないです」みたいなことで、後からストリングスをもっと入れてもらったりもして。レコーディングも「バンドとは別のひとり」の基準で進んでいくので、SUNNYさんが設定したひとつの基準のもとに「良いテイク」が決まって行き、全員がそこに進んでいくから、すごくスムーズなものになりました。それがめちゃくちゃ新鮮やったし、ある意味すごく気が楽でしたね。「この人に任せたら大丈夫だろう」という安心感がありました。

■実際、客観性があり、アップグレードされて、作品として1段階上がったものになったように感じました。今作『nostalgic lovers』は、先に会場限定盤としてリリースされ、そこから全国リリースされますが、なぜ今回は先に会場で出すのでしょうか?

汐田 昨今、配信しか聴かない人もいるし、僕もそういう人間のひとりなんですけど、ギリギリCDを買っていた世代ではあるので……。今って、いろんな工夫でCD売ろうとしているじゃないですか。もちろんデザインを工夫してみたり、CD以外の付加価値をつけたりもありますが、僕は何より「現物がそこにある安心感」というのがCDの魅力かなと思っているんです。それで、CDショップに並べるタイミングと、そうじゃないタイミングの使い分けが、バンドの色の出し方のひとつなのかなという気がして。もちろんCDショップさんに置いていただくのが必要な時もあれば、ライブに来てくれた人たちにひとつ、お土産じゃないですけど、「僕たちのこと知ってくれている人たちが嬉しくなるものを、ちゃんと届ける」というのがあるのかなと思っています。CD屋さんに買いに行くより、直売所で売っているイメージですね。

■「産直」ですね。(笑)

汐田 そうです。「どこも介さずに売っていますよ」という感じでいきたかったんです。あとはやっぱり、1ヶ月後には誰でも聴けるんだけど、「会場に行けば最速で聴けるよ」というのは、違うんですよね。「誰よりも早く聴いたぞ!」という喜びはあるんです。もちろん「会場的に名古屋公演には行けなくて大阪公演には行ける」とかはあると思うんですけど、少なからず、配信でカジュアルに聴ける人よりも、ワンマンライブに来た人たちが先に聴けるというのは、「ファンにとっても嬉しいものになるんじゃないかな?」というところで、会場限定盤として先に出すことにしました。

■嬉しいお土産がひとつできましたね。ところで収録曲の“Flower Dance”については、ネットでもほとんど情報が無かったのですが、こちらはどのような曲なのでしょうか?

汐田 情報が見つからないのは当然で、これは高校1年生の時、採算度外視でレコーディングして100円で売っていたCDの収録曲なんです。ジャケットもね、今回『nostalgic lovers』のジャケットを手掛けてくれた同級生に描いてもらって、コピー機の縮小率を何%にしたらジャケットのサイズになるのかわからなかったから、近所の本屋さんの2階にあるコピー機で、何回か失敗を重ねて、ちょきちょきハサミで切って。(笑) 初めてのレコーディングやったんで、全く何もわからず、何を準備していったらいいのかもわからずみたいな感じだったので、結局ミステイクもそのまま活かしました。それで「後悔がすごい」みたいな音源になっちゃった。(笑) だから今回、これまで出してきた自主製作盤から各1曲ずつ再録するというコンセプトのEPで、再録することになりました。

■となると、ファンにとっては「これ知っていたら相当コアだぞ」的な曲になりそうですね。

汐田 コアというか、きっともういないでしょうし、あの当時を知っている人が聴いても、「あの頃」とはまた違うものになったんだ!という仕上がりになっています。

■その昔の音源と聴き比べてみたいですね。(笑)

汐田 すごいですよ。もうなんかいろいろ破綻しているし。(笑)