過去を愛して今を謳歌し、未来へ向かう。10年目のワンマンライブ。
Bye-Bye-Handの方程式が1月31日(金)、東京・下北沢Shangri-Laで『最高密度のLOVEツアー』ファイナル公演となるワンマンライブを開催した。過去の楽曲を再録したEP『nostalgic lovers』の配信を間近に控え、名古屋、大阪の各会場を巡ってきた彼ら。それぞれのライブハウスでは会場限定盤として『nostalgic lovers』のCDも販売され、ファンへの嬉しいプレゼントとなっていた。ライブ当日、金曜日の夜の高揚でほのかに熱を帯びた会場。

そこに現れたBye-Bye-Handの方程式は、1曲目から“ロックンロール・スーパーノヴァ”を叩きつける。観客の興奮もそのままに、4人は“darling rolling”、“ソフビ人間”、“romance tower”、“ひかりあうものたち”を立て続けにドロップし、肌が震えるほどの音圧で赤いレンガ壁を揺らした。オープニングの5曲を終えて一息ついた汐田泰輝(Vo&Gt)は、改めて東京の観客へ挨拶。ここでステージ上にはギター用のアンプが2つ置いてあるものの、1つはリハーサル途中から音が鳴らなくなり、置物と化していることを暴露する。曰く岩橋茅津(Gt)は以前から不運なところがあるといい、ビンゴも当たらなかったり、飲食店で冒険してみてはハズレのメニューを引いたり、他の3人と同じものを頼んでもひとりだけ麺が伸びていたりするらしい。「替え玉を頼んだらにゅうめんみたいに伸びていた」こともある岩橋だが、「そうやってバンドの10年分の不幸を背負ってくれたのかもしれない」とのフォローには笑っていた。

先のトークの中でもあったように、今年で結成10周年を迎えたBye-Bye-Handの方程式。汐田はこの日この場所で行われるライブのため時間を作り、チケット代を払ってくれた観客への感謝を語りながら、“目を閉じるだけ”に流れ込む。中村龍人(Ba)の地を割るベースソロから岩橋の鋭く降り注ぐギターソロにリフを受け継ぐ“タヒ神サマ”、逆光の中に始まる“自論文”。僅かな静寂の後に歌われる“透明になった”では、ステージの数を重ねたバンドだけが持つ繊細なグルーヴ感で観客を魅了する。誰かに背中を預けているのではなく、各々が芯を持って寄り添い支え合うサウンド。そのあともライブは、憧れを歌詞と旋律に乗せた“からんころん”、スライドギターがとろける“甘い記憶”と続く。清弘陽哉(Dr)の抑揚に富んだドラムは激しさを持ちつつも、コーラスのように音楽へ溶け込んでいく。

ここまで11曲を一気に駆け抜けたBye-Bye-Handの方程式だが、MCでは10周年にちなんだ面白いことを振り返ろうとしていたそう。茅津は「ライブ本番までに10周年にふさわしい面白い話を見つけられなかったら脱退な」と脅されていたが、結局何も思いつかず、汐田から脱退命令を言い渡された。もちろんそれは冗談だが、10年間には様々なことがあったのは確か。特に高校生の頃、結成から2度目のライブでツーマンを行った際には、対バン相手が「超絶技巧のギターのおじさん×ボカロ音声で歌う人形」という癖のあるミュージシャンで、ライブハウスの店長が厳つい人物だったこともあり、「バンド人生、これで終わったかも」と怯えたという。「そんな感じで始まったバンド人生だけど、10年続いたらこんな感じになりました。ありがとうございます!」そう締めくくると、ライブは“熱帯夜と遊覧船”へ。汐田が高校生の頃に書いたこの曲は、当時抱えていた難解で煩雑な感情を複雑な語彙にしたためたもの。それが“swamp(沼)”へ繋がると、過去に立ち返りながら前へ進もうとするBye-Bye-Handの方程式の「今」が見えてくる。

短い“風鈴”を挟み、爽快な“閃光配信”へ。季節外れの“夏風サンセット”では観客が手を振る影が波の如く揺らめいた。「俺たちが初めて作った歌です」と紹介された“Flower Dance”はダンサブルでポップなナンバー。ハイトーンかつセクシーな歌声と空白感のあるサウンドはどこかに青さを感じさせつつも、それをもライブのアクセントとなって、それこそが彼らの10年間の「成長」でもあるのだろう。思い出の曲を歌い終えれば、ライブももう終盤だ。汐田は近所の書店にあったコピー機で倍率を弄りながらジャケット写真を作り、スタジオでレコーディングして採算度外視の100円CDを売った高校生当時を振り返る。「あの時、100円でも自分たちの音楽に価値をつけたことが今に続いてるのかもしれないと思うと、あの時の気持ちを忘れずに、これからも続けたいと感じました。そう思いながら巡って来た3公演でした」今までは振り向かず進み続けてきた彼らが、一度立ち止まって過去を振り返り、まっすぐに見詰め直したのが、今回のツアーとEP『nostalgic lovers』だった。

ギターを下ろして静かに歌い始められる“湿恋”は、汐田の音楽の転換点となった楽曲。Bye-Bye-Handの方程式の曲としては長い尺をたっぷり泳ぐように奏で、その余韻は照明の中に消えていく。続く“さよならですね。”を経て、サウンドの激流に飲み込まれる“ラブドール”へ。溢れだす音に翻弄される心地よさは、なんでもない日々を繰り返してこの場に集まった観客たちを祝福するものに聞こえた。「今日も来てくれて、目撃してくれて、本当にありがとうございます。いろんな数字とか基準があるけど、いつまで続くかもわからないまま組んだバンドがここまで来たことが一番の大成功だと思います」色とりどりのメロディを奏でて、汐田が語るのは何度目かもわからない感謝の言葉と、ロックバンドという存在自体への愛だった。ロックバンドは漫画に出てくるスーパーヒーローのように強い存在ではなく、弱い存在だが、勝手に背中を押してくれるものであること。それはミュージシャンとしての汐田の自負でもあり、いちリスナーとして舞台を見上げている汐田の純粋な想いでもある。「俺たちの音楽が、1曲でもいい、1フレーズでもいい、誰かの心の支えになれていれば、価値があると思っています。ロックバンドは奇跡なんかじゃない。俺たちが歩みを止めなかったから今ここにあるものです」その言葉と共に歌われたのは、彼らの青春を象徴する“君と星座の距離”だった。快楽的なギターと轟き渡るベースにダイナミックかつ繊細なドラムが絡み合い、擦れるヴォーカルはかつての自分が描いた壮大な世界観を歌う。アウトロを終えてすかさず続くラストナンバー“風街突風倶楽部”は、大人になった彼らが少年の心で描いた楽曲。比喩や難解な言い回しでどこか背伸びしていた少年時代の青臭さが、ストレートかつ滑稽な楽曲を通して「今」の彼らとリンクする。輝かしい青春の風を絡ませて、4人はステージを後にした。

「ワンモア」の声に呼び戻されたBye-Bye-Handの方程式は、まず3月に大阪・心斎橋で行われる『秘密蜂蜜フェス -2025-』の出演者と日割りを発表。東京からは遠い会場だが、「俺らが東京に来たんだから、みんなも大阪に来てほしいのよ。そういう関係にしよな」の言葉に笑いが起こる。「今年はいろいろ企んでるので、目を離さないでください」期待を抱かせつつ、最後の楽曲“midnight parade”を高らかに歌う4人。過去と今がそのまま詰め込まれた歌詞は、この夜に奏でられた全ての楽曲をひとつに繋げて、歳を取りながら、それでも子どものまま歌うBye-Bye-Handの方程式を、この先の未来へと繋げていく。「11年目もよろしくお願いします!ありがとうございました!」過去を愛し、今を謳歌し、未来へ向かう。その決意を歌ったライブは、眩い光の中で汐田が突き上げたピースサインで幕を下ろした。

Text:安藤さやか
Photo:かい
Bye-Bye-Handの方程式『最高密度のLOVEツアー』@下北沢Shangri-La セットリスト
01.ロックンロール・スーパーノヴァ
02.darling rolling
03.ソフビ人間
04.romance tower
05.ひかりあうものたち
06.目を閉じるだけ
07.タヒ神サマ
08.自論文
09.透明になった
10.からんころん
11.甘い記憶
12.熱帯夜と遊覧船
13.swamp(沼)
14.風鈴
15.閃光配信
16.夏風サンセット
17.Flower Dance
18.湿恋
19.さよならですね。
20.ラブドール
21.君と星座の距離
22.風街突風倶楽部
ENCORE
01.midnight parade