Bye-Bye-Handの方程式 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■打ち込みで楽譜を作るとそういうことがたまにありますよね。(笑) 他のメンバーのみなさんもスタジオセッションではなく、パソコンでアレンジしているんですか?

汐田 はい。だからスタジオでは一切合わせずに曲は完成しているっちゃしています。

中村 ある程度構成とかを決めて、バッキングを入れてドラムに送り、ドラムが入った音源をベースに送って、次にリードギターを入れて、最後に歌入れて……という感じで、3~4曲同時進行しています。音源がお互いのパソコンを移動していくので、最後はギターが地獄みたいな作業量になります。(笑)

■だから「編み込む」みたいなギターになるんですね!

岩橋 でも僕も「こうしたい!」って、こだわっている部分を無理やり詰め込んで、「これはあかん、やりすぎや」って言われることもたまにあります。

■それってロックバンドではすごく珍しい作り方な気がします。ロックバンドはみんなでスタジオに入ってセッションしながら作っていることが多いじゃないですか?

汐田 僕らはそれをなるべくしないようにしています。

■だからコロナ禍でも新曲がどんどんと出せた所があるのかも?

汐田 コロナ禍にあんまり影響受けなかったのは、コロナ禍にこのメンバーになったっていうのもありますが、僕らは市が管理している音楽スタジオを3時間300円とかで借りられていたので、逆に世の中の中高生たちよりもスタジオにいる時間自体は長かったんですよ。そこで曲を作る時間もあったんですけど、やっぱりダレちゃうし、たとえばスタジオを借りている時間が3時間だったら、3時間以内のアレンジになっちゃうんですよね。でも自分の家だと時間は無制限じゃないですか。自分たちの体力が続く限りはできるし。

■あ~、確かに。

汐田 あと、パソコンでのアレンジはめっちゃ「平面上」で、画面の中に波形として出るので、ライブでやることを忘れて作って、そこから練習するのが自分たちのスキルアップに繋がっているんじゃないかなっていう感じもしています。この作り方をしていると、新曲がこれまでの曲の中で一番難しくなるので、新曲を出すごとに前に出した曲がちょっと楽に感じる……っていう感じなんです。(笑)

■言われてみると、この方法を採るのも納得ですね。でもロックバンドとしてはすごく珍しい方針に感じます。その次の曲“春のチャンス”ですが、個人的にはこの曲に一番エロスを感じました。

汐田 僕の中でのエロティック系は“妖艶さん”なんですけど、“春のチャンス”は何でしょうね?とにかく「春っぽい」感じ。「ちょっと歌謡曲的なニュアンスと、今のロックを混ぜたニュアンスで1曲作ってくれへん?」ってディレクターに言われたのをきっかけに作ったので、めちゃくちゃ前からあったボツ中のボツ曲みたいなところから拾い上げてきました。みんなの受け取り方がバラバラな感じがして、全部が正解なんかなっていう気がします。

■でもこの曲は「ギターを聴く曲」なのかなと思ったんです。ギターがすごく前に出ていませんか?

岩橋 そうですね。もう全部一回メロディをガン無視でやってみて、合うかどうかドキドキしたんですけど、合っていて良かったです。

■別々に作業するからこそ、こういうギターが出て来たのかもしれませんね。そして“タヒ神サマ”は作るのに最も時間がかかった曲とのことですが、どのあたりに苦戦したんですか?

汐田 この曲を作った時点で、“妖艶さん”がもうできていて、その上でもう1曲キャラ違いの王道ギターロックでダークアッパー系の曲が欲しかったんです。それでいろいろと作り方を変えてみたんですけど、なかなか上手くいかなくて。結果、作ったメロディのうち一つは友達の新曲にめっちゃ似ているって理由でボツになりました。(笑)

■あっ、たまにあるやつですね。(笑)

汐田 しかもそれ「これで行くか!」ってなっていたヤツだったんですよ。でも、みんなで移動している時に、友達の新譜が出たって言うから聴いてみたら、その曲にそっくりだったっていう。(笑) あまりにも曲調が近くて、これはマズいし、友達の新譜も良すぎるから、「こっちの道はナシだ!」ってなりました。そうなると別の道を考える必要があったのですが、なんかしっくりこなくて。それで一度原点に戻って、「結局やっぱここやな」って所で急に素直に出てきました。

■個人的には70年代のヘヴィ・ロックが好きなので、“妖艶さん”はツボでした。でも、この曲調でドラムがあまり前に出て来ないところが意外だったんですが……。

清弘 “妖艶さん”を作った時、ドラム付ける上での僕の中の裏テーマが「マキシマム ザ ホルモン」だったんですよ。だからあんまりドコドコせずに、でもなんだか面白い、そういったノリを出したいと思いました。

■ギターはちょっとクラシカルな雰囲気がありますよね。70年代の名ギタリストみたいな。

岩橋 テンポが速くなった時のサビは、自分でも「うわ、なんでこんなカッコいい音鳴るんや?!」って思いました。デモの時からカッコいいなって思っていたんですけど、原因はわからないです。(笑)

■もしかしたら過去の名ギタリストが乗り移ったとか?

岩橋 じゃ、そういうことで。(笑)

■そういうことにしておきましょう。(笑) 次の“あかいろのともだち”は珍しい3拍子の曲ですが、まずどうしてザリガニをテーマに曲を書こうという発想に至ったのでしょうか?

汐田 昔、よく近所の川でザリガニを釣って飼っていたんです。ある時、一番愛着があったやつを川に戻すことになって、おかんの車に揺られて川まで行って、水槽を傾けたんですね。そうしたら、そのザリガニが僕に「バイバイ」って手を振ってくれたんですよ。(笑)

■それは印象的な思い出ですね。(笑)

汐田 ミュージシャンとして、その思い出を音楽の形に残せていないのはどうなんだろう?と考えたんです。アルバムのタイトルが『ソフビ』っていうのもあって、今回は自分の中のノスタルジーな部分とちゃんと向き合いたくて。それを担う部分では絶対に必要なエピソードだったんで、「ザリガニ」っていう単語を使わずして、“あかいろのともだち”として書いています。

■その視点の変化も面白いですよね。

汐田 1番は自分、2番はザリガニの視点で……っていうのは「歌詞」にしかできないことで、まぁ僕はザリガニの気持ちは分からないんですけど、歌の中ではザリガニにもなれちゃうのが歌の魅力だと思います。自分を広げる感じ。歌で遊んでいるって感じがすごくありますね。

■“やさしいひと”は、なんとなく国際恋愛みたいな印象を受けたのですが、こちらも元になったエピソードがあるのでしょうか?

汐田 いや、これは本当に一番何も無い曲なんです。(笑) 自分の中で、何も考えずに素直に作った曲だから、収録曲の中で一番「真実」です。他の曲ではいろんな自分になって遊んでいるんですけど、この曲だけは真実であってほしいなっていうか。あとはどういう遊ばれ方をしても構わないんですけど、“やさしいひと”だけは、もう「本当の自分」です。とにかく聴いている人みんなを包み込んであげるような曲が好きなので。

■メンバーのみなさんは包み込まれましたか?……って聞いてみたら、みんなちょっと微妙な顔になりましたね。(笑) 私はこの曲で歌われている「あなた」は、ワンちゃんなんじゃないかな?って思ったんです。

汐田 あ~。(笑) 対象が聴く人によって変わるのもこの曲のポイントですね。この曲を聴いて救われる人がひとりでもいるなら、この曲は入れなきゃいけないという使命感がありました。

■次の曲“ラブドール”は、「なんでタイトルが“ラブドール”なんだ?」という所が気になりました。

汐田 とにかく10代の葛藤みたいなものを描きたくて。自分の10代は、大人でもないし、子どもでもないし……って所に葛藤していたんです。10代って自分と他人との距離が上手に作れなくなる時期ですよね。親とか、好きな女の子とか、友達とか。それで「こうありたい、こうあってほしい」って願いが強いけど、相手は思い通りには動いてくれないじゃないですか。そういうことを知っていくうちに、いろんな人と出会って、ちょうどいい「間」を取っていくんです。

■みんなそういう経験がありますよね。

汐田 自分が「青年」になったのは「本気で誰かを好きになった瞬間」な気がしていて。「ラブドール」って卑猥な器具みたいなイメージがあるんですけど、「愛の人形」でもあって、自分の思い通りにしようと思ってもできないのが恋人で、それがラブドールを上手く扱えていないみたいな所にもつながっていて、なんというか……表現が難しいけど。

■ちょっとセンシティブで難しいですね。

汐田 難しいですね。(笑) とにかく10代っていうのは上手くいっていないんです。もうわからんからとにかく近所を走ってくる、みたいな。

■なるほど。それで走り回って出て来た詞の上に殴り書かれているタイトルが“ラブドール”みたいな感じなのかな?

汐田 ギャップを作りたかったのもあります。“ラブドール”っていうタイトルで、「どんな曲やねん」と思わせる、みたいな。でも中身は結構真面目で満たされない感じというか、そういうものも表現しています。

■“ひかりあうものたち”は、アニメ『デジモンゴーストゲーム』のED曲でしたね。ただ、新作アニメのEDにしては「超合金」や「少年隊」など、少々古めのフレーズが出て来たような。

汐田 楽曲制作のお話をいただいた時に、「子どもが観る」ということを意識しました。OPはWiennersさんのカッコいい曲だったのですが、アニメの内容が重めだったので、最後はスッキリと終わらせようと思ったんです。それで、「自分が子どもの頃の曲をイメージして、子どもだった時の自分の視点で描こう」と思い、自分の子ども心をストレートに出しました。

■この曲は2000年代のホビーアニメのEDっぽさを感じて懐かしかったのですが、その理由がわかったかもしれません。タイアップを経験して、変化したことってありますか?

汐田 尺ですね。90秒のテレビサイズ版を作ってからフル尺を作ったので、テレビサイズでもちゃんと良いものにしてから、その後を考えるというのが難しくて。尺も超シビアだし、しかもめっちゃ多忙スケジュールだったので大変でした。

■そして最後“ロックンロール・スーパーノヴァ”でこのアルバムが締めくくられるわけですが……このアルバムはバンドにとって、どんな位置づけの作品になると思いますか?

汐田 この先もいっぱいアルバムは出していくだろうし、いろんな角度の曲を出していくつもりなんですけど、きっと何枚出しても、この1stアルバムを振り返ったら絶対に得られる「何か」がある作品になったと思います。今しか出せないこの瞬間みたいなものを切り出して、形に残すみたいな所があるので。

■バイハンは結構多作なバンドですよね。

汐田 CDがサブスクになって、この世に半永久的に自分の音楽が残り続けるんだな……ってところに希望を感じます。昔よりも旧譜と新譜の差が無くなってきていて、この先バンドを続けようが続けなかろうが、この作品がこの世に残り続けるっていう安心感があるんです。僕が結婚して子どもができた時に、「これがお父さんのメジャー1stアルバムなんだよ」と言えるっていう安心感。僕的にはそういう「迷ってもここに戻って来たら、大切なものがある」っていう作品になるんじゃないかなと思います。

■……もし娘さんが生まれて、“閃光配信”のMVを見たら……?

汐田 それだけは絶対にイヤ!(笑)

■迫真の回答でしたね。(笑) さて、青春感の強いバイハンですが、今後はどうなっていくんでしょうか?40代、50代になってもこんな感じで続けていたい?

中村 結局こんな感じで、表面上はおじさんになっているのかな。(笑)

汐田 誕生日の時とか顕著に思います。言うてもたった25歳ですよ?大人からしたら「25歳なんてまだまだ子どもやし」って歳ですけど、僕らにとっては隣のヤツが25歳になって、自分ももう25歳になるっていう衝撃があります。この間まで中学生だったのに。(笑)

■同級生だと余計にそう思いますよね。

汐田 多分これ、40歳になっても言っているだろうな。(笑) 「25歳の時いろいろ言っていたのに、もう40歳になってるやん!」って。

■そんなみなさんは9年目でのメジャーデビューとなりますが、最後にここから5年以内、30歳くらいまでの目標を教えてください。

清弘 僕はドラムで弟子を取りたいです。

汐田 僕は他のアーティストに曲を書いてみたいですね。ちゃんと「商業」として。

中村 ベースで言うなら、自分のベースを必要としてくれる人たちと仕事をしたいです。

岩橋 僕はギタリストというよりバンドマンになりたいので、スタジオミュージシャン的な目標はそんなに無いんですけど、音楽だけでちゃんと暮らせるようになりたいですね。音楽だけで余裕をもって生活できるようになりたいです。

■それは大きな目標ですね。

岩橋 暮らしを贅沢にっていう話じゃなくて、30代くらいには「何かを我慢しないといけない生活」ではなくなってたらいいなっていうのがあります。音楽だけで、特に不自由のない暮らしがしたい。

汐田 それは全員が持ちたい目標でもありますね。代表で言ってくれました!

■メジャーへの進出でより強く見えてくる目標だと思います。改めてメジャーデビューおめでとうございます。

Interview & Text:安藤さやか

PROFILE
2015年地元大阪の中学の同級生で結成した4人組ロックバンド。2021年より現在のメンバーで活動中。2020年度「No Big Deal Records Audition」でグランプリを獲得。様々なジャンル、年代の音楽をロックに落とし込み、正直に「今」鳴らしたい音楽と新しい格好良さを追求する。Vo. 汐田 泰輝(うしおだたいき)の放つ、熱くもあり温かいMCで多くの人間の心を掴み、時にはストレートなロック、時には世界観纏う曲で独自の二面性を軸に精力的に活動中。
https://byebyehand.com/

RELEASE
『ソフビ』

通常盤(CD+DVD)
COZP-2101~2
¥2,800(tax in)

日本コロムビア
5月22日 ON SALE