“ブラックゲイズ”のその先を提示した魅惑の単独公演!
DEAFHEAVENが2019年のEMPEROR来日公演のゲストアクト以来、約5年ぶりに日本の地を踏んだ。しかも今回は初の単独公演である。初日の大阪公演を終え、最終日にあたる東京公演(渋谷CLUB QUATTRO)は大勢の観客が詰め掛け、完全にソールドアウト状態。開演前から観客の熱気をひしひしと感じるほどであった。
実際のライブにおいても観客のテンションは異様に高く、サークルピットやクラウドサーフに励む観客もいて、終始大盛り上がり。今回のワンマンは最新5thアルバム『INFINITE GRANITE』発表後、ここ日本では初のパフォーマンスとなる。それもあって、ファンの期待値も高かったのではないだろうか。というのも、最新作は従来の作風とは趣を異にする内容だった。ゆえに最新曲が過去曲とどう馴染み、どんな化学反応を起こすのか。もっと言えば、ライブ全体の雰囲気さえもガラッと変わる可能性を孕んでいる。様々な形でファンの好奇心と想像力を刺激した点も、今日の満員御礼という結果に繋がったと推測する。
19時3分に暗転すると、ショウは“Brought To The Water”で始まった。最後にジョージ・クラーク(Vo)が現れると、初っ端から扇風機ヘドバンでフロアを煽りまくる。同時にヘヴィな演奏で畳み掛け、それから叙情的なギターフレーズに移行したりと、寄せては返す波のようにグルーヴ感を高めていく。続いて2ndアルバム『SUNBATHER』表題曲をプレイ。ピッチフォークなど海外メディアで絶賛され、日本でも大きな話題を呼んだ出世作からのナンバーだ。同作をきっかけにブラックメタルとシューゲイザーを掛け合わせた「ブラックゲイズ」というジャンル名を認識した人も少なくないはず。金切り声シャウトと轟音の演奏が吹き荒れる中、気づけばフロア前方で激しいモッシュが起きていた。その後もテンポを巧みに切り替え、ジェットコースター並みの起伏に富む展開で突き進む。ヘヴィネスとメランコリックの両面を兼ね備えたドラマ性は圧巻としか言いようがない。そして、いつの間にか雄大な音景色の中に吸い込まれていく感覚は他のバンドでは得られないカタルシスを覚えた。2曲目の時点でモッシュだけではなく、クラウドサーフする観客も目に止まった。また、曲中にジョージはマイクスタンドを高らかに掲げ、アクティヴに動き回っている。その姿もフロントマンらしいオーラを放ち、片時もステージから目が離せない。
イントロが鳴り響いた途端、ドッと歓声が起きたのは“Gifts For The Earth”である。ミドルテンポで淡々と進むものの、時折ヘヴィな表情を覗かせ、ヴォーカルはずっとシャウトで押し通す。そのギャップがライブでも抜群に映えていた。ここから最新作のナンバーが2曲続く。“In Blur”は透き通る官能的なギターフレーズを皮切りに、クリーンヴォーカルはそれに追従。そこに温かなコーラスワークが重なり、歌を分厚く補強。美しいメロディの応酬に、メロイックサインを掲げる観客の姿があちこちで見かけた。モッシュやサーフはないけれど、それを補って余りある音楽的な魅力を猛烈にアピールしている。つまり歪みを抑えたことで、DEAFHEAVENが持ち合わせていたメロディの殺傷力が際立ち、轟音に勝るとも劣らない輝きを放っていた。
その後にプレイした“Great Mass Of Color”も同様で、クリーンヴォーカルとベースラインに耳を奪われながら、清涼感溢れるメロディを前面に押し出す。照り輝くポジティヴなサウンドはセットリストの流れの中でもいいフックをもたらしていた。曲の後半に挟まれるシャウトもドラマティックで楽曲を一段と盛り上げる。そして、本編ラストに“Canary Yellow”をプレイ。前2曲の流れを汲んだ静謐なイントロを経て、一気にヘヴィな演奏へとシフトする。かと思えば、メランコリックなインストに移行し、再び激情の階段を猛烈な勢いで駆け上がる。12分に及ぶ長尺曲にもかかわらず、必然性を帯びたストーリー展開に観客のテンションはアガりっぱなし。「オイ!オイ!」と大きな歓声が上がる場面もあり、会場の興奮はピークに達していた。
メンバー5人がステージ袖に引っ込むと、観客ははち切れんばかりのハンドクラップでアンコールを求める。その熱量に押されたのか、バンドはすぐに舞台に戻って来た。「ニューアルバムを作って、またすぐに戻るから!」とジョージが短いMCを挟み、一発目に“Black Brick”を披露。邪悪な攻撃力に長けた性急なナンバーに観客もサークルモッシュで応戦。その流れから『SUNBATHER』のオープニング曲“Dream House”をプレイ。決壊したダムのように怒涛の勢いで畳み掛ける演奏は壮絶極まりない。また、ジョージはマイクを観客側に突き出してシンガロングを求めたり、サーフしてくる観客を最前で受け止めたりと、積極的にコミュニケーションを図っていた。ステージとフロアの境目がなくなる凄まじい熱気を作り上げ、初の単独公演は盛大に幕を閉じた。
全8曲75分に及ぶショウは「濃密」の一言に尽きるパフォーマンスであった。最新曲と過去曲の混ざり具合もごく自然で、メロディ成分多めのDEAFHEAVENも観客は熱狂的に受け入れていたのだから。気は早いかもしれないが、次に出るニューアルバムが俄然楽しみになってきた。またしても新たな表現領域を開拓し、バンドの音楽的な魅力を更新してくれることだろう。そう考えるだけでもワクワクするし、今後の動向にも注目していきたい。
Text:荒金良介
DEAFHEAVEN『Japan Tour 2024』@渋谷CLUB QUATTRO セットリスト
01. Brought to the Water
02. Sunbather
03. Gifts for the Earth
04. In Blur
05. Great Mass of Color
06. Canary Yellow
ENCORE
01. Black Brick
02. Dream House