あの時に方向転換をせずにいたら、今には繋がっていなかっただろうなと思います。
ストリーマー(主にゲーム実況やeスポーツのライブ映像などをインターネット上で配信している人のこと)として活動し、最近主戦場にしている「ストグラ」(メタバース)の世界でも高い支持を集めているファン太。この度、ファン太がエイベックス内に音楽レーベル「J STAR RECORD」を設立。先日、コンピレーション作『vol.ZERO』を配信リリースした。本人もm-floのカバー“miss you”(ファン太、SUGAROCK、瀬戸あさひ)で参加。ファン太が今、どんな思いを胸に「J STAR RECORD」を立ち上げたのか、その胸の内を伺った。
■ファン太さんがこの度、エイベックス内に音楽レーベル「J STAR RECORD」を設立しましたが、そのきっかけが気になります。
ファン太 先にエイベックスさんとの出会いを語ると、2〜3年前になるのかな?当時、いろんなストリーマーが集まり、同じサーバー内でゲームを行う機会がありました。そこで僕は歌ったりもしていたんですけど、その姿を見ていた今のプロデューサーが、「一緒に音楽の仕事をしませんか?」と声をかけてきてくださったのがきっかけでした。プロデューサーの方は、当時、僕が所属していた事務所にコンタクトをしてくださいましたが、当時の僕は、今の事務所へと移籍する直前という時期だったこともあって、実際にいろんなお話をするようになったのは、現事務所へと移籍してからでした。そして移籍後、大きなきっかけになったのが、僕が今所属しているZETA DIVISIONとエイベックスさんが共催したイベント「激動 -HOT LIMIT-」でした。イベントには、「ストグラ」内で繋がった仲間たちが出演していて、今回立ち上げた音楽レーベル「J STAR RECORD」内で配信リリースしたコンピレーション作『vol.ZERO』に収録したアーティストたちも、そのイベントで共演した仲間たちです。あのイベントでの繋がりが現在のレーベル設立へと発展していきました。
■ファン太さん自身は、もともとゲーム配信者ですよね?
ファン太 実は僕がネット配信を始めたきっかけは、音楽だったんですよ。
■えっ、そうだったんですか?!
ファン太 もともとは歌の活動をしていきたいなと思っていましたが、当時の状況を見ていく中で、僕よりも全然歌が上手いのに数字が伸びない方や、音楽活動をしていても、さほど脚光を浴びていない方々をいろいろと見てきました。その状況に接していく中で、「自分が音楽を軸に据えてネット活動をしていくのは難しいな」と判断し、新たに始めたのがゲーム配信でした。でも、そこで注目を集めた結果が今に繋がったと考えています。もしもの話にはなりますが、あの時に方向転換をせずにずっと音楽活動に終始していたら、今の形には繋がっていなかっただろうなと思います。
■ゲーム配信を始めて以降もよく歌っていますよね。やはりファン太さんの気持ちの中には歌が……?
ファン太 そうですね。音楽活動をしたい気持ちはずっとありました。しかも自分だけではなく、ゲーム配信をしている界隈の中でも歌っている人たちがいるし、歌が上手い人たちもたくさんいるからこそ、そういう人たちの活動も推していきたいという気持ちも持つようになりました。幸いにも、自分のゲーム配信が盛り上がってきたことや、歌の活動もしているストリーマーとの出会いも増えたし、「一緒に何か出来ないか」と思案していた中で、先の話をいただけたことが今へと繋りました。
■ファン太さんにしてみたら、理想とする形にぐっと近づけたわけですか?
ファン太 回り道をしながらも、やっと辿り着いたと言いますか、一度は夢をあきらめ、音楽は趣味程度のニュアンスで触れてきた中で、こうやってしっかりと携われる機会が生まれたことに対しては、自分でも嬉しい驚きを覚えています。
■音楽レーベル「J STAR RECORD」としての構想も教えてください。
ファン太 音楽面でも才能を持ったストリーマーや、VTuberたちの楽曲を世に送りだすことはもちろんですけど、いわゆるマネタイズできる環境も整えて、アーティストとして生きていける場を作りたいんです。それが僕の中で一番の理念としてあることです。
■ファン太さんは、配信活動の主戦場にしている「ストグラ」内でも、自身の会社を立ち上げて、そこで歌い手のオーディションを行っていますよね。今回の『vol.ZERO』に収録した人たちも、そのオーディションで選んだ方々なのでしょうか?
ファン太 僕は「ストグラ」の中では「シャンクズ」と名乗り、「シャンクズプロモーション」という会社も設立しています。そこで才能を秘めた次世代のアーティストの発掘をしようとオーディションも行っていますが、そちらは今後を見据えた上で行っていることです。今回の『vol.ZERO』に参加した人たちは、「ストグラ」の中で活動していく中で知り合った方々にです。ちなみに「ストグラ」の中では、ギャングとしても活動をしていて、そこで知り合った人たちもレーベルに所属しています。
■所属アーティストたちの曲のジャンルは、打ち込みバリバリのものから、フォークやラップまですごく多岐に渡っていますよね。
ファン太 もともとジャンルにとらわれることなく、いろんな分野で才能のあるアーティストたちの楽曲をリリースしたいと思っていたので、そこは理想通りに進めています。もちろんレーベルの色を決めるのも良いとは思いますけど、そうなると垣根が生まれて、枠が狭まってしまうじゃないですか。それよりも、僕はジャンルという枠に縛られることなく、才能があるアーティストたちの音楽を届けたかったからこそ、幅広く門戸を解放しています。
■今作の『vol.ZERO』の中で、ファン太さんはSUGAROCKさん、瀬戸あさひさんをパートナーに、m-floの“miss you”をカバーして収録していますね。
ファン太 僕がネット上で歌い手としての活動を始めた時、僕が師事していた方というか、活動をしていく上で、いろんなアドバイスをいただいていた方がいました。その方がm-floの“miss you”を「歌ってみた」として歌っていたことで、この楽曲の魅力を知り、惚れ込んだという僕のルーツがあります。その方は一人3役で男女のシンガーとラップも歌い分けていて、その衝撃がずっと自分の中に残っていました。僕自身、m-floさんや“miss you”に強く思い入れを持っていたこと、僕の視聴者さんは20代後半から30代前半の層が一番多いことから、僕と同じ歳の方や近しい世代の人たちにもハマりやすいと思ったのも、この曲を選んだ理由です。
■SUGAROCKさんと、瀬戸あさひさんをパートナーに選んだ理由も教えてください。
ファン太 当初は1人で3役を表現しようとも考えましたが、自分はあまりラップパートが得意ではないんです。そこで白羽の矢を立てたのがあさひくんとSUGAROCKさんでした。あさひくんはm-floのことを知らない、世代の異なる若手ですけど、とにかく覚えが早くて、歌詞を変えるとなった時も、決められた言葉数の中に的確にワードを詰め込んできたんです。その才能を多くの人に知ってほしいなと思ったことからお願いをしました。SUGAROCKさんはあの歌声です。声質がLISAさんと似ていたし、歌っていて楽曲にすごくしっくりときました。もともと僕自身が大好きな歌い手だったのもそうだし、ライブでは多めの人数で歌うほど楽しいことを経験上知っていたから、3人で一緒にライブをやった方が、僕らも会場に来てくれた人たちも盛り上がるだろうと思ってこのスタイルに決めました。
■音楽活動にも力を注ぐようになったことで、ファン太さん自身の表現の幅もグッと広がりましたか?
ファン太 めちゃめちゃ広がりましたし、なんなら人との繋がりだけではなく、知識も増えました。これまでにも音楽活動もやっているストリーマーはいましたけど、みなさんとはまた違ったスタイルで自分の印象を与えているなと実感しています。
■ファン太さんは、ストリーマーとして連日配信活動をしていますけど、今携わる事柄がめちゃめちゃ増えてきていませんか?
ファン太 正直その通りです。(笑) 視聴者さんの中には「ゲーム配信だけを楽しみたい」という人たちも多くいます。そういう人たちの期待に全面的に応えられる環境ではなくなってきたから、そこには少し心苦しさもありますけど、今は音楽活動にも力を入れていくべき時期だし、ゲーム配信も含めて、さらに興味を持ってくれる人たちのすそ野を広げていく時期でもあるのかなと思っています。もちろんゲーム配信は続けますが、その頻度が少し緩くなってしまうかもしれません。ちょっとの間、我慢してもらえたら嬉しいです。
■長い視点で活動を見据えた場合、すそ野を広げていくのは大事なことですからね。
ファン太 そうなんですよ。配信活動を長く続けていくのであれば、いろんな表現のチャンネルを持っていた方が良いので、今の環境をよりプラスに広げていければと頑張っています。
■レーベルからは今後、作品もコンスタントに出していくのでしょうか?
ファン太 自分の作品も含めてですが、毎月のように所属アーティストたちの作品をリリースできたらいいなと思って準備を進めています。個人的には、「ストグラ」の中だけではなく、幅広く一般的に開かれたオーディションもやってみたいなと思っています。もちろん「ストグラ」内で活動をしている人たちにも注目を集めたいけど、垣根を取り払い、もっとオープンに才能を持ったアーティストたちが輝ける場として、レーベルを運営していきたいです。