藤川千愛 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

藤川千愛『HiKiKoMoRi』

前作は発売前日に緊急事態宣言発令。絶望を乗り越え完成した新作に現れた変化とは?

4月にセカンドアルバム『愛はヘッドフォンから』をリリースしてから、わずか7ヶ月。藤川千愛が早くもニューアルバム『HiKiKoMoRi』をリリースする。前作は発売前日に緊急事態宣言が発令され、ツアーの延期など、大幅な計画変更を余儀なくされてしまった彼女。一時は音楽を遠ざけていたというほど絶望に追い込まれてしまったものの、自粛期間で引きこもる中、ハイペースに楽曲制作を進めて完成した今作は、随所に感じさせる前向きな決意が印象的だ。前作発売時には「明るい曲が嫌い」と言っていた彼女の心に、どんな変化が起きたのか。新型コロナウイルスがなければ間違いなく生まれなかったであろう今作について語ってもらった。

■『HiKiKoMoRi』は今年2枚目のフルアルバムになりますけど、どうしてこんなに早いペースでのリリースになったんですか?

藤川 セカンドアルバムはいいものができたなぁという手応えがあったんですけど、発売前日に緊急事態宣言が発令されて、最悪のタイミングだったんです。全国ツアーも延期になって、インストアライブも中止になって、すごい悔しくて。どうしようかなって思ったんですけど、やっぱり曲を作るしかないなという結論に至って、このタイミングでアルバムを出すことになりました。

■自粛期間中に引きこもって制作したから、アルバムのタイトルも『HiKiKoMoRi』なんですか?

藤川 そうです。引きこもる中で見えたこと、感じたことをもとに作った曲たちなので、ストレートにタイトルにしました。いつも引きこもってはいるんですけど、ライブができない、歌えないということは、いつもとは違ったことで。当たり前のありがたさは、当たり前が崩壊しないと見えないんだなと思いました。

■ちなみに、なんでアルファベット表記なんですか?

藤川 アルファベットに特に深い意味はないんですよ。漢字、カタカナ、ひらがな、小文字、大文字、候補を出して、視覚的なバランスでこれだ!って選んだ感じです。

■特に意味はないんですね。(笑) 藤川さんは前回のインタビューで、自分のことを繊細だと言っていましたけど、自粛は精神的なダメージもあったんじゃないですか?

藤川 ありました。音楽を聴くと歌いたい、ライブやりたい、アウトプットしたいっていう気持ちになっちゃって。でも、それができないから、音楽を聴いていても悔しくて……。音楽がいちばん好きなことなのに、テレビから流れてくる音楽も嫌になるくらい、音楽を遠ざけたいと思う時期があったんです。それで、音楽と違うことをやろうと思って、趣味を増やすことにしたんですよ。

■何を始めたんですか?

藤川 花染めです。本を読もうかなと思って本屋さんに行ったら、自由研究コーナーがあって、そこに花染めの実験キットみたいなのが売っていたんです。そこから自分の好きなようにお花を染めるのにハマっていました。あとはスケボーをやったり、ビーズのアクセサリーを作ったり。でも、音楽を遠ざけていたら、だんだん体調が悪くなってきちゃったんです。体は元気なんですけど、ずっと無気力で、何もしたくなくて。そういう時にボイトレに行く機会があったんですけど、心と体に栄養が行く感じがして、どんどん元気になっていく感じがあったんです。

■わかりやすい体ですね。(笑)

藤川 そうですよね。(笑) でも、しばらくボイトレに行かないと、また無気力になって、その繰り返しだったんです。だから、やっぱり自分は歌わないとダメなんだなと思って。それで曲を作り始めたんです。

■どのくらいの期間、音楽を遠ざけていたんですか?

藤川 1ヶ月近くかなぁ。ゲームに没頭していたんですよ。普段はやらないのに。『あつまれ どうぶつの森』をやっていたんですけど、気づいたら自分の島にライブ会場を作ったり、お家にスタジオを作ったりしていて、やっぱり音楽をやりたいんだなと思いました。

■もう音楽依存症ですね。(笑) アルバムは1曲目の“私に似ていない彼女”から刺激的な内容でビックリしました。元カレの新しい彼女に罵詈雑言を言い放って、ちょっと性格の悪い女の子というか……。

藤川 えー、でも、女の子はみんなこうやって思っているんじゃないかな。

■そうなんですか!?

藤川 友達とガールズトークしていても、みんな同じような感じですし。やっぱり一回お付き合いをすると、赤の他人としては見られないから、今どんな人と付き合っているんだろうとか、めっちゃ気になるんですよ。それで「あー、うまくいってないんだwwww。」みたいな。(笑)

■怖いです。(笑) この曲は別れた彼氏のその後が気になって、自分と似ていない彼女と付き合っていることを知った時の感情を歌っているわけですよね?

藤川 そうです。未練があるんですよ。自分と付き合っていた時は、見た目とか、性格とか、服装とか、タイプって言っていたクセに、次の人は「全然真逆じゃん!ムカつく!」みたいな。

■まだ好きだからこそ気になるというか?

藤川 そうですね。どうでもいいと思っていたら、こんな感情にはならないから。

■でも、それを実際に見たら、ムカつく気持ちになってしまう?

藤川 なりますねぇ。友達と話していても、元カレの話とかになると、みんなボロクソ言うんですよ。それこそ自粛期間中は、友達と電話する機会が多かったんですけど、恋愛話とかをしているうちに、そういう愚痴をたくさん聞いて。それがきっかけで、こういう曲が生まれたのかなと思います。

■歌詞では新しい彼女に対して「きっとお股(あちら)も緩いはず」とか、だいぶ強烈なことを言っていますけど、歌だから誇張している感じなんですか?

藤川 いや、こんな話ばっかですよ。(笑)

■そうなんですね。(苦笑) ちょっと女性に対して夢を見すぎていたかもしれません……。2曲目の“四畳半戦争”も刺激強めな歌詞ですけど、これはファンからアンチに変わって、いろいろ言ってくる人に対してのアンサーソングなのかなと思いました。

藤川 その通りです。やっぱり昔からファンの方から「変わったね」とか言われるんですよ。実際、変わっているのは間違いないんですけど、曲を出すたびに言われるので、不思議に思うんですよ。変わるのが普通なのにって。ただ、曲を作ったきっかけはファンではなく地元の友達なんです。「無理してんじゃない?」「千愛らしくないよ」みたいなことを言われて。

■お前に私の何がわかるんだと?

藤川 そうです。(笑) それが頭に来て作った曲です。私は今の自分に満足していると、そこで終わっちゃうんじゃないかと思っているので、常にいろんなものを吸収して変わっていきたいし、過去の自分にすがっていても前に進めないから、ずっと変わり続けていきたいんです。きっと私だけじゃなくて、新しいことに挑戦しようとしている時に、身近な人から「やめたほうがいいよ」「変わらないで欲しい」とか言われている人って、結構いるんじゃないかなと思って。

■むしろ僕は言ったことある気がします。(笑)

藤川 はははは!(笑) でも、私としては、失敗してもいいんですよ。挑戦することに意味があるから。そういう言葉に負けずに、どんどん挑戦していきたいし、変わっていきたいなっていう決意の歌です。

■自分の決断に迷った時に聴いたら、背中を押してくれる曲になりそうですね。1〜2曲目はインパクトの強い曲になった一方で、今回は明るい曲というか、ポジティブな曲も入っていることに驚いたんです。

藤川 そうですね。全体的に。

■前作でインタビューした時は、明るい曲は嫌いと言っていましたよね?

藤川 はい。ふふふ。(笑)

■何があったんですか?

藤川 やっぱり(コロナという)前例のないことが起きて、世界が絶望みたいに見えたから。そこまで行くと、希望を忘れちゃダメだよっていう曲が自然とできるんだなって。

■それだけコロナの影響が大きかったということですよね。特に“ワレモノ注意”は恋が実って、めちゃくちゃハッピーな歌だなと思ったんですけど。

藤川 傷つくことを怖れて告白できない男の子の歌です。4月にセカンドアルバムを出して、夏になればコロナも収束するかなって思っていたけど、そうはならずにライブの環境は苦しいままで。でも心のどこかでは、コロナに負けずにライブしようよって思いながらも、それを言い出すことができない自分と重ねていたところがあったのかなと思います。「季節外れの花火」と歌っているのは、せっかく作ったのにコロナ禍で機会を失った自分の2ndアルバムの曲も季節外れの花火みたいにパーンって輝いたらいいのにっていう気持ちも込めました。