藤川千愛 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

藤川千愛『HiKiKoMoRi』

■それを恋に置き換えて、こうなったらいいなという希望を乗せたわけですよね。そういう音楽ができないことへの気持ちは、“誰も知らない”の方が如実に出ているなと感じました。

藤川 そうですね。明日どうなるのか、わからない毎日だけど、その中でも希望を灯してがんばっていきたいなって。

■その気持ちが「絶やすもんか!」という歌詞に現れて。

藤川 はい。思っていました。心折れそうにはなりましたけど。

■めちゃめちゃポジティブじゃないですか。

藤川 そうなんですよ。(笑)

■らしくないですよ。(笑)

藤川 ははははは!

■でも、自粛していた意味があったということですよね?

藤川 ありましたね。人は本当に絶望的な状況になると、がんばりたいとか、ポジティブな気持ちになれるんだなって。

■“記憶”もポジティブ寄りな楽曲だと思うんですけど、子供の頃の記憶を思い出したんですか?

藤川 そうですね。ふと、蘇ってくる記憶。私、プルースト現象っていうのになることが多くて。音楽や匂いから、それに紐づいた記憶や景色を思い出すんです。

■あー、ありますね!

藤川 中学校の時に流行っていた曲を聴くと、その頃の学校の匂いとか、好きだった人の顔とかがパッと思い浮かんだり。それを思い出したことは、何か意味があるのかなって。そういう記憶が教えてくれることみたいな歌です。

■この“記憶”を作った時は、何か昔の曲を聴いたことがきっかけになったんですか?

藤川 どの曲を聴いたとかは思い出せないんですけど、自粛期間中は昔の曲をよく聴いていたので、昔を思い出すことが多かったなと思います。特に歌手を夢見ていた頃に聴いていた曲を聴くと、今はこういう状況だけど、歌手っていうお仕事ができているし、もっとがんばろうっていう気持ちになれるから。自分の曲も、みんなにとってそういう曲になってくれたらいいなと思うんです。

■本当にポジティブですよね。でも、9曲目の“喜怒哀楽の最初と最後”で、またネガティブな藤川さんが出てきて……。

藤川 そうなんですよ。(笑)

■逆に安心しましたけど。(笑) これは完全に自分のことを歌った曲ですよね?

藤川 自分のことですね。よく「喜怒哀楽の最初と最後がないよね」って言われるんです。昔から嬉しいことや幸せなことがあっても、そこに浸ったり喜ぶ間もなく、ここから最悪の状況になるんじゃないかとか、なぜか必要以上に悪い部分を探し出したり、起きてもいない悪いことを想像して悲しんだり、最悪の事態ばかり考えちゃうんですよ。自粛期間で引きこもっている時に、自分ってそういうとこあるなって改めて感じて。

■そういう自分の性格は嫌なんですか?

藤川 嫌です。めんどくさいし、迷惑かけるし、変わりたいなって思います。

■でも直せない。

藤川 直せないですね。

■この歌詞的には、それで「笑うことから始めてみよう」と言われて、「簡単に言うなよ!出来ないんだ」ってイラつくわけですよね?

藤川 そうですね。(笑) お母さんと朝の5時まで語り合った時があって。その時に「いつも幸せそうに見える人も、幸せが人より多いわけじゃなくて、小さなことからも幸せを見つけられるだけなんだよ」って言われて。自分は悪いことばかり探してしまう人なので、そういう人になりたいなっていう思いも入った歌ですね。

■お母さんとは思考が正反対なんですね。

藤川 お母さんは私とは真逆の人で、友達もめっちゃ多いし、社交的だし。でも、私は幸せボケしていると、大事なことを見過ごしてしまうんじゃないかと思っちゃうんです。ライブの後とかでも、みんなが「めっちゃよかったよ!」って言っている時に、すぐに反省モードになって、私だけ「あそこで失敗した、最悪だ」みたいな雰囲気を出して、雰囲気を悪くしてしまうこともあったり。歌詞じゃないですが、それこそ許容のできないイタイ奴じゃないですか。(笑)

■自覚はあるんですね。(笑)

藤川 でも、課題を見つけていくというか、自分で気づかないと、次にいいものができないと思うんです。だから、そういう部分もなくしちゃいけないのかなって。

■ライブ後はダメ出しして欲しいんですか?

藤川 そりゃ、スタッフさんからは言って欲しいじゃないですか!ないと不安になっちゃう。

■それを言うのも、なかなか勇気がいりますけど。(笑)

藤川 もちろんファンの方からは『よかった』って言われるほうが嬉しいですよ、テンションも上がりますし。でも、リハーサルやそれこそ曲作りの段階から見ているスタッフさんから手放しに「よかったよかった」って言われると、「本当かな?」って思っちゃうんですよね。ダメ出しされた方が、次の課題が見つかるし、ちゃんと見てくれていたんだなって思うので。言われたら言われたで、イラってしたりすることもあるんですけどね。ホント面倒くさいんですよ。

■難しいなぁ。(笑) この曲を踏まえて、次は藤川千愛の取扱説明書みたいな曲を作って欲しいです。

藤川 あー、いいですね!

■今作はポジティブな曲もあって、今まで以上にいろんな面が出たアルバムになったと思うんですけど、ご自身ではどう感じていますか?

藤川 さっきも言ったんですけど、人って絶望になると、ポジティブを求めるのかなって。今まででいちばんやさしい気持ちが多い作品になったかなと思います。

■アルバム制作を経て、自分の中で変化はありましたか?

藤川 今まで繊細とか神経質とか、結構言われていたんですけど、「そうかな?」って思う部分もあったんですよ。反省することとか、課題を見つけることとか、やっていかなきゃいけないことで、ぬるま湯に浸かって死んでいきたくないよって思っていたので。でも、ちょっと自分は気にしすぎだったのかなって。そういうところは変わらなきゃなと思いつつ、なかなか変えられないんですけど。

■別に変わる必要もないんじゃないですかね。うまく付き合っていけば。

藤川 あー。とりあえず、まわりの方に迷惑をかけないようにしたいですね。でも、こだわりは捨てないでいたいって思います。

■歌手としての自分の個性については、前よりも明確になってきたものはありますか?

藤川 あります。今回のアルバムから新しいボイストレーニングの先生についているんですけど、いちばんいい声が出るラインがあると言われて、そこが出るように意識したんです。前作まではカッコいい自分を出そうとして、下のラインの声になって埋もれちゃったり、重すぎたりしたところがあったんですけど、そういう意味で今回は違う自分らしさを出せたかなって思います。

■そんなにカッコよく見せなくてもいいと思ったということですか?

藤川 そうですね。無理にカッコよくなろうとせずに、自分らしくいくことで、いろんな表現ができるようになったかなって思います。

■この作品を聴いた人には、なんて言われたら嬉しいですか?

藤川 うーん、なんだろうなぁ……。

■僕は失礼かもしれないですけど、面白い人だなーって思ったんです。

藤川 でも、嬉しいです。面白いって言われるの。あとは元気になったとか、がんばろうと思えたとか言ってもらえたら嬉しいですね。やっぱりまだまだ大変な状況なので、この世界をハッピーにできるようなアルバムになったらいいなと思います。

Interview & Text:タナカヒロシ

PROFILE
1995年6月6日生まれ岡山県井原市出身。日常の鬱憤や葛藤から恋心までを独自のユニークな視点で歌う岡山県出身のシンガーソングライター。2018年11月に開催されたアコースティックライブにてデビュー、2019年5月に1stアルバム『ライカ』をリリース。MV『きみの名前』は650万再生、MV『あたしが隣にいるうちに』も600万再生を突破するなど、令和デビュー注目のシンガー。2019年11月より4ヶ月連続でシングルを配信。2020年には、BUCK-TICKトリビュートアルバムへの参加が発表されるなど、エンタメから国内音楽シーンの重鎮まで、さまざまな交わりの中で自身の「歌」を高めている。
https://fujikawachiai.com/

RELEASE
『HiKiKoMoRi』

藤川千愛『HiKiKoMoRi』

初回生産限定盤(CD+BD)
COZP-1695~6
¥5,000(tax in)

藤川千愛『HiKiKoMoRi』

通常盤(CD)
COCP-41340
¥2,000(tax in)

日本コロムビア
11月24日 ON SALE