「もっと自由に楽しくやればいい」。心解き放つ藤川千愛のライブ姿に魂奮い立ったワンマン公演。
5月21日(土)、Spotify O-EASTを舞台に藤川千愛が『藤川千愛BIRTHDAY LIVE 2022』を行った。4月に、最新ミニアルバム『ちょっとそこまで昨日を迎えに』をリリース。同作品へ収録した曲たちも含め、藤川千愛を語るうえで欠かせない曲の数々を届けてくれた。
ライブは、穏やかな音色奏でるバンド演奏に乗せ、満員の観客たちがゆったりと手拍子をしながら幕を開けた。たくさんの手拍子へ導かれるように舞台へ姿を現した藤川千愛。彼女も大きく手を振り上げ、観客たちと一緒に手拍子をしてゆく。ソウルフルでアーバンな香りを携えたメロウな音色は、軽快に走りながら“そんなんばかりループ”へ形を成してゆく。藤川千愛はスタンドに据えたマイクを両手でギュッと握りしめ、心の奥から沸きだす想いへ身を委ねるように歌いだした。決して気負ってはいない。でもゆったりとした歌声とは裏腹に、その表情や仕種からは強い意志と気合が滲み出ている。秘めた闘志を穏やかな声色に乗せフロア中に響かせる。これから何かが起きそうなドキドキも彼女は与えていた。痛々しいけどズルい?!女性の心模様を綴った“片っぽのピアス”でも、心地好くメロウに流れる演奏に乗せ、藤川千愛はソウルフルでエモーショナルな歌声を優しく響かせていた。時折、強い感情の揺れも伝わるところに、みずからの気持ちの赴くままに歌を響かせる藤川千愛らしさを覚える。彼女が手拍子する姿に合わせ、フロア中から力強い手拍子が響きだしたのも印象的だ。ライブはまだ始まったばかり。躍動したい想いを身体の内側に溜め込みながら、でもフツフツと沸き立つ感情を時々覗かせる藤川千愛の姿もそこにはあった。
「じゃけえさ」「思っとるんじゃけど」「みんな元気そうで何よりじゃわ」など、岡山弁丸出しのMCに、普段着の気持ちで舞台に立っている藤川千愛の姿を実感。「ちょっとここまで2年半を迎えにいく気持ちでみんなも楽しんでもらいたいと思うんじゃけど、どうじゃろう」の言葉を受け、ここからは時代の歩みを振り返るように楽曲が流れだす。「可能性なんて言葉にすがるほど 絶望的な状況だって 涙なんて飲み込んであたし笑うの」。ゆったり独唱する歌がフロア中に響き渡る。その声を合図に始まったのが、1stアルバムのタイトル曲にもなっていた“ライカ”。スタンドから外し、右手にマイクを持った藤川千愛は、舞台を左右に動きながら観客たちを煽るように歌っていた。胸の内から沸き立つ熱情した思いを凛々しく歌う藤川千愛。ワイヤレスではなくケーブルを使ったマイクだったところからも、歌声を、想いをしっかり伝えようとしている彼女の姿勢が見えてきた。次に披露したのが、2ndアルバムに収録した“東京”。みずからの心の内側へ問い掛けるように，想い抱いた強い声を響かせ歌う姿が印象的だ。この日の藤川千愛は、自分がステージに立って自分宣言をした頃から今に至るまでの心の変遷を、いろんな女性たちの心もがく様を通して描きだそうとしていたのだろうか…。
藤川千愛は3rdアルバムに収録していた“誰も知らない”を歌いだした。日溜まりのような暖かい音色に優しく身を委ねながら。彼女自身が湿った心に光を降り注ぎ、ここから晴れた世界へ気持ちを開け放つように歌っていた。歌声や演奏に導かれ、ずっと手拍子を続ける観客たち。藤川千愛の歌声を通し、明日を照らす光が心にどんとん差し込んでいく。ウキウキする気持ちを解き放ちたくて手拍子していくその気持ち、すごくわかる。MCでは、この日の衣装がピエロをモチーフにしていることを報告。今、制作中の新曲“ちゃんとした人不適合者”に合わせての衣装だそう。その姿を早く見せたくて身につけたとも語っていた。ピエロはいろんな感情を現す存在。その衣装や制作中の楽曲にどんな気持ちを込めているのか、完成が楽しみだ。「最大級のクラップをして欲しいなと思います」の言葉に続いて歌ったのが、“覚醒前夜”。とても激しくパワフルな楽曲だ。藤川千愛自身も、観客たちへ挑みかかるような強い姿勢と雄々しい歌声を持ってせまりだす。フロア中から響き渡る手拍子が今まで以上に力強く熱い。とても気合を込めた手拍子の音は、バンド演奏に負けていないほど力強く響いていた。観客たちの気持ちを全身で受け止めた藤川千愛も、みすからを覚醒するように…感情のストッパーを外し、沸き立つ想いのまま雄々しく歌いあげる。心地好い緊張感と熱が身体を熱く奮わせる。
次に披露したのが、クリープハイプのカバー曲“オレンジ”。ギターを手にした藤川千愛は、沸き立つ気持ちを歪んだ音に乗せストロークしながら、場内中へと放熱。フロア中からも熱い手拍子が響き渡り、サビでは大勢の人たちが大きく右手を振り上げ、舞台上の藤川千愛に熱した想いをぶつけ返していた。一体化した熱気がたまらない。今ここには高ぶる想いのままに熱いハグを交わすロックなライブの景色が生まれていた。続く“ゴミの日”も衝動に満ちた音を濃縮した楽曲だ。両手でマイクをギュッと握りしめた藤川千愛は、身体が、感情が奮い立つままに声を張り上げ歌っていた。沸き立つ感情を一気に解き放ち、一緒に熱を分かち合い、理性を壊した本能だけが支配する空間をここへ作り出そうと、熱い想いで呼びかけていた。「捨てちまえよ」「楽になろうぜ」と叫ぶ彼女の心の叫びが、触れた人たちの心のごみ箱もカラッポにし、軽くする。荒ぶる演奏と雄々しい藤川千愛の歌声に思いきり身を委ね騒ぎ続ければいい。それがすべての正解だ。狂気にも満ちた力強いパフォーマンス中の姿とは異なり、MC時の彼女は、とても緩い。ナチュラルな姿にスッと変貌してくところも藤川千愛らしさ??「わたしにしては純度100%の刺のないロマンチックな歌詞になっています」の言葉に続いて歌ったのが、“ゆびさきから”。とてもハートフルで明るく希望に満ちた楽曲だ。藤川千愛自身も振り上げた右手を大きく振りながら、無邪気な笑顔で歌っていた。舞台の上で心地好くステップを踏み、みずからの身体も軽やかに舞い踊らせ歌う姿が愛らしい。凛々しい歌声を突き刺す藤川千愛の姿も胸を熱く滾らせるが、“ゆびさきから”で見せた愛らしい姿も、彼女のライブに嬉しいアクセントを与えてくれる。互いに暖かい気持ちを分かち合える。そのひとときも素晴らしい。
雄大さを持ったストリングス系の音色がリズムが早鐘を打つように響きだすのを合図に熱を帯びだした。次第に躍動する演奏と気持ちをシンクロするように、「こんな僕にも大切なものが出来たんだ」と、“たしかなことって”を歌いながら、藤川千愛は感情の熱をどんどん上げだした。熱情してゆく彼女の気持ちとみずからの気持ちを重ね合わせた観客たちの感情の温度も、熱を抱いた歌声に吸い寄せられるようにグングン上がってゆく。その歌声に向け、思いきり手を振りかざし想いのエールを送りたい。沸き立つ感情の熱がどんどん高ぶりだし、このまま大気圏を突破しそうだ。ギターを手にした藤川千愛は、軽快なロックンロールの演奏を通し、心地好く一緒に上がっていこうと誘いかけてきた。“愛はヘッドフォンから”を通して会場中に生まれた、熱い手拍子飛び交う心地好い熱狂。今は身体を揺らしながら、体温以上の熱に浮かれていたい。フロア中の人たちを、いや、もっとその先の未来を見据えながら歌う藤川千愛。心騒がせる藤川千愛流のロックンロールの衝動へ無邪気に溺れてたい。気持ちはしゃぐままに身体を揺らしていたい。
次に用意したのが、アコギやエレピの音色に乗せたアコースティックコーナー。アコギの音色に乗せて最初に歌ったのが、今の時代らしい出会い方を歌にした“手のひらの中で”。フロア中の人たちが総立ちだったことから、一度座ってもらうように促したところも藤川千愛らしい優しさ。彼女は爪弾かれる暖かい音色を背に、言葉のひと言ひと言をしっかりと噛みしめ、込み上げる感情へ抑揚をつけるよう巧みにコントロールしながら歌っていた。アコギの音が優しく支えていくとはいえ、独唱していくような感覚で藤川千愛の歌声の魅力を感じることが出来たのが嬉しい。温もりも覚えるその歌声に、演奏中、ずっと気持ちを寄り添い続けていた。エレピの演奏を背景に披露したのか、アニメ「盾の勇者の成り上がり」のエンディングテーマとして歌った“あたしが隣にいるうちに”。フロアの照明を落とし、白いバックライトを照らし、彼女自身の姿をシルエットのように映し出していく演出を用いたことで、より彼女の歌声に意識が惹かれていった。中でもファルセットも用い、低音から高音へと感情が高ぶるように声が上げていく様は強く心惹かれた場面だった。アコースティックなスタイルを取ることで、改めて藤川千愛の感情豊かな歌声の魅力を味わえた。静寂な空間の中へ、藤川千愛の微妙に動く気持ちの揺れが手に取るように伝わってくる。澄み渡る暖かい水のようなその歌声を、何度も心の両手ですくい取っていたかった。
ライブも終盤へ。「べつに一人じゃなくてもいいけど」と、エレピの演奏を背景に藤川千愛が温かい声色を持って歌いあげる。そこへ熱いバンド演奏が加わるのを合図に、フロア中から熱い手拍子が起き出した。熱した感情のビート(手拍子)と演奏を背景に、藤川千愛は“べつにいいけど”を歌いながら、たくさんの愛に囲まれていることに嬉しさを覚えていた。ひと言ひと言を口にし、気持ちが揺れ動くたびにその声色にも大きな変化が生み出される。美しく感情的に変幻していくその歌声をもっともっと追いかけていたい。アコギを手にした藤川千愛が、弾き語りスタイルで歌いだしたのが“夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして”。その姿は、シンガー/アーティスト藤川千愛として強い意志を持って踏み出した時の姿と重なって見えていた。心の奥から沸き立つさまざまな感情を、彼女自身が声に多様な彩りを与えながら歌っていた。自分の意志や想いが強く明瞭になるほどに、その歌声はいろんな感情のグラデーションを描き出す。だから、強い意志を放つ藤川千愛の歌声に強く耳を傾け、その想いをすべて吸収してしまおうとするのかも知れない。力強くアコギをストロークしながら歌う姿がとても生き生きして見える。そこには生きる強い意志を示しながら「あたしゆっくりと確実に死んでいるの」と歌う藤川千愛の姿があった。
マイクを手にした藤川千愛は、気持ちを熱く突き動かすロックな演奏に乗せ、ふたたび裸の感情を剥きだしに“バケモノと呼ばれて”を凛々しく歌いだした。とても力強く伸びのある声でサビメロを熱唱する藤川千愛に向かって、フロア中から数多くの手が高く伸びていた。沸き立つ熱情を互いに心の中で大きく膨らませ、高ぶった気持ちをサビ歌に乗せ一気に外へ解き放つ。「この世界になんの価値もないと証明したところで」と歌う彼女の姿を熱く目に焼き付けながら、この薄汚れた世界の中で互いに確かな繋がりを感じていた。滾る気持ちを、身体を揺さぶり、雄々しい歌声に乗せ吐き出す。その姿がとても雄々しく見えていた。本編最後に届けたのが、アニメ「盾の勇者の成り上がり Season 2」のエンディングテーマ“ゆずれない”。MCでは、MVを伊豆大島で撮影したことを報告。その上で背景に壮大な景観を映し出すMVを流しながら“ゆずれない”を歌いだした。MVと生演奏が見事にシンクロして始まったところにも心動いたが、それ以上に藤川千愛の暖かな歌声が、楽曲が進むごと波紋を描くように心の中へ大きく広がりだしたことに気持ちが嬉しくときめいていた。とてもスケールあふれた歌声と演奏だ。この空間を心の両手で優しく包み込むように歌う藤川千愛。いつの間にか彼女の歌声に全身をギュッと抱きしめられているような気持ちでいた。「ありがとう」。その言葉が素直に出てくるライブだった。
この日の主役、藤川千愛の誕生日を祝うように、バースデーケーキが。さらにYouTubeから届いた箱が登場。開けた中から出てきたのが、登録者が10万人突破した時にいただける銀の楯。一連のセレモニーを受け、ここからアンコールへ。「バンドを始めてみて、藤川千愛を俯瞰して見た時にいろいろ気づくことがあったんですね。難しく考えずにもっと自由に楽しくやればいいし。みんながいてこその私なので、みんなに喜んでもらえる音楽を藤川千愛として作っていきたいなと改めて思った1年でした。新しいことにも挑戦してパワーアップしながらも、みんなに寄り添って、みんなに喜んでもらえる音楽をこれからも作っていきたいなと思います」その言葉を受け、時代を遡りながらSpotify O-EASTというライブ空間に似合う景色を描きだすように、3rd、2nd、1stに収録した楽曲たちを歌いだした。炸裂したベース演奏からスタート。アンコールのライブはダウナーな演奏に乗せ、沸き立つ感情を雄々しく歌った“四畳半戦争”からスタート。舞台の上を右へ左へと動きながら、雄々しい気持ちをぶつけるように歌う藤川千愛。フロアでも演奏に合わせ身体を揺らす人たちや、手を振り上げる人たちなど、それぞれ自由に楽しんでいた。
続く“嗚呼嗚呼嗚呼”では、藤川千愛がギターを手に、力強く舞台の上に立ちながら歌いだす。熱情した歌声を彼女は一人一人のハートの奥へ奥へと突き刺すように歌っていた。その声に刺激を受けた満員の観客たちが熱い手拍子を行うと、サビでは歌詞に合わせ舞台上の藤川千愛に掌を向けながら想いを届けていた。舞台と客席という超えられない境界線のある中、その空間をぶち抜き強く繋がりあうように藤川千愛と満員の観客たちが熱をぶつけ合い、その熱を高め続けていた。最後の最後に歌ったのが、“hane”。藤川千愛が振り回すタオルの動きに合わせ、フロア中の人たちも頭上高く腕を上げ、手にしたタオルをくるくる回しだす。いつしか手にしたタオルが翼となり、心は彼女と一緒に大空へ羽ばたいていた。ライブの最後に藤川千愛は、この会場にいる人たちみんなの心に翼を授けてくれた。手にしたタオルを回している間だけは、ずっとずっと遠くまで飛んでいける、この時、誰にも縛られない自由をみんなが手にしていた。そのまま明日へ、未来まで藤川千愛と一緒に羽ばたいていこうか。
TEXT:長澤智典
PHOTO: 安藤未優
『藤川千愛BIRTHDAY LIVE 2022』@Spotify O-EAST セットリスト
01 そんなんばかりループ
02 片っぽのピアス
03 ライカ
04 東京
05 誰も知らない
06 覚醒前夜
07 オレンジ
08 ゴミの日
09 ゆびさきから
10 たしかなことって
11 愛はヘッドフォンから
12 手のひらの中で
13 あたしが隣にいるうちに
14 べつにいいけど
15 夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして
16 バケモノと呼ばれて
17 ゆずれない
ECNORE
01 四畳半戦争
02 嗚呼嗚呼嗚呼
03 hane
