古市コータロー <KOTARO FURUICHI SOLO BAND TOUR 2024「赤のブルース」>ライブレポート@EX THEATER ROPPONGI

友とファンの祝福に包まれた60歳の誕生日ライブ。

古市コータローのソロバンド・ツアー<KOTARO FURUICHI SOLO BAND TOUR 2024「赤のブルース」>のファイナルとなる東京・EX THEATER ROPPONGI公演が、5月30日(木)に開催された。今回のツアーでは盛岡、名古屋、大阪を巡って来た古市だが、東京公演が行われた日は自身の60歳の誕生日。ステージには彼と縁がある多くのゲストが駆け付けて、ファンと共に還暦を祝った。公演当日、開演時間ぴったりになると舞台を覆う赤いカーテンの隙間からアイゴンこと會田茂一が「いきなり出てくるのが僕で申し訳ないんですけど……」と言いながら顔を出す。40年前「ストラップを2つ繋いでものすごく低い位置でギターを弾く大男」の噂を聞いたことが古市との縁の始まりだったと話す會田曰く、古市は出会った時から全く変わっていないという。なお、今回の出演と冒頭のMCを担当することは、古市から直々に連絡が来て決まったそうだ。

會田と観客の拍手に呼ばれて幕が開けば、バンドと共に古市が姿を現す。客席を見回して笑みを湛える古市が纏う空気は柔らかだ。「今日はどうもありがとう。僕と一緒に思い出作ってください。よろしく!」その言葉と共に、ライブは“Mountain Top”からスタート。會田を迎えたバンドはツアータイトルを象徴するかのような赤い照明に包まれて影となり、すらりとした古市のシルエットが美しく映える。続いて古市は5月15日にリリースされたばかりのニューアルバム『Dance Dance Dance』より、表題曲を披露。ソロミュージシャンとバンドマン、ふたつの顔を持つギタリストのサウンドは時にまろやかに音楽の中へ溶け込み、時に会場を強く抱く。楽園感のある青く淡い光の中、歌われる詞は「歌い続けること」の矜持に満ちていた。

“Heartbreaker”、“NOTHING OR SOMETHING”を続けて、MCではまず「古市コータロー、60歳になりました!」と明るく声を張り上げた古市。そのまま観客へステージの上で幸せな60歳を迎えられたことへの感謝を告げ、「最後までGood Memoryを作りたいので、よろしく」の言葉とともに“Slide Away”へ流れ込む。サイケデリックな光を浴びる観客からの手拍子を受けた“Oh! My Dear”を終えると、2人目の友達として西寺郷太が登場。古市らは楽屋で差し入れの高級シャンパンを飲んだそうで、「なんであんな高い酒を紙コップで飲んでたんだろうね」と笑う。そして西寺は古市のニューアルバムより、自らが歌詞を提供した“OCEAN WAVES”を歌唱。当初は古市に提供するために書いた詞を自分で歌うことを恥ずかしがっていた西寺だが、音の波の中に揺蕩う柔らかな歌声はギターに優しく寄り添っていた。

西寺を送り出し、髪を掻き上げて“I’m A Dreamer”を歌った古市は、3人目の友達・佐々木亮介を紹介する。登場するなり古市に駆け寄りハグをして観客を沸かせた佐々木は「14歳の僕と14歳のコータローさんは友達だと信じています」と語り、古市のリクエストでアンダー・トーンズのカバー“Teenage Kicks”をパフォーマンス。ジャケットの鋲をきらめかせ、古市の首を抱き寄せてマイクをシェアし、最後は古市の頬にキスをして観客に「いいだろ!」と自慢しつつ、佐々木は大歓声の中でステージを後にした。

若さみなぎる佐々木を見送り“そんなに悲しくなんてないのさ”を歌った古市は、「60代初日、なんか別に変わらないね。徐々に衰えていくのかな?」と歳を重ねた感想を語りながら、4人目の友達こと江沼郁弥を呼び出す。遠目にもやや千鳥足で、古市からも「酔っぱらってんの?」とからかわれた江沼は、舞台裏で音楽業界の先輩たちからの「洗礼」を浴びたらしい。そのことを古市に吐露するも、「音楽業界にはあんな恐ろしい奴らがゴロゴロいんのよ。で、そのトップに君臨してるんだよな、俺。(笑)」と言われてしまう。

そんな江沼が“冬にわかれて”を歌えば、続いてYO-KINGが「最高!いい夜!」と観客に挨拶しながら登場。彼が古市のニューアルバムに詞を提供し、このステージでも歌う“POOL”は、あるとき名古屋のどこかの楽屋で古市から頼まれ制作したという。古市によれば、その時YO-KINGのマネージャーが同席していたため「話が早い」と思ったそうだ。共に「よく泳いでいる」らしいYO-KINGと古市。そこから着想を得て書かれたこの曲は、ブルースハープのイントロにピアノのサウンドで泡が弾ける爽やかなナンバーとなった。

歌い切って「Congratulations!」と手を振るYO-KINGを見送り、“Windy Day”で観客を包み込んだ古市は、続いて井ノ原快彦をステージに呼ぶ。観客やバンドメンバーひとりひとりに丁寧にあいさつした井ノ原は、開口一番「そこの舞台袖で江沼くんが(酒に酔って)倒れこんでいたんだけど」と暴露して観客の笑いを誘った。ふたりはライブツアーで共演している他、プライベートでも「こう見えてよく一緒に飲んでる」「酔ってコータローさんに抱えられて帰ったこともある」仲だそうだ。今回は井ノ原が前々から「アニキ、この曲好きなんですよ」と語っていた“Fall in Love Again”でメロウな歌声とギターを絡ませる。

ここまで14曲を終え、“モノクロームガール”、“Tonight”と続けると、バンドは舞台裏へ。入れ替わりに現れたのは、「こいつらとは親戚みたいなもん」だというウエノコウジ、そしてクハラカズユキだ。さらにそこへ神野美伽も登場。シックなパンツスーツ姿の彼女を見て、ウエノは「ミッシェルに寄せました?」と冗談めかす。そして4人は“恋の季節”、“座頭市子守唄”の2曲をドロップ。熟練のバンドマンたちによる削ぎ落された3ピース・サウンドは沈黙の瞬間とサウンドの余白が却って重厚さを生み出し、その隙間を神野の歌声が色気で埋め満たしていく。バンドが作り出した静けさの中に響き渡る高らかな歌声に、観客は惜しみない拍手と歓声を贈った。

3人のゲストを送り出し、再びバンドを呼び戻してメンバーを紹介した古市は、続いて「ギターを始めたころから憧れていて、この人みたいになりたいと思っていた人」こと仲井戸“CHABO”麗市を紹介。ギターを手に颯爽と現れたCHABOは古市と拳をぶつけ合わせ、芳醇ながらソリッドな音色でオーディエンスを魅了する。降り注ぐ古市のサウンドと、巧みにメロディを縫い止めるCHABOのサウンドが混じり合う“ホンキートンクタウン”。軽やかに片手を上げながら弦を弾くCHABOの姿に、若き日の古市の憧れの瞳を幻視する。

その余韻も消えぬうちに、ステージにはモッズコートにユニオンジャックを背負った「いかにも」な姿の大森南朋が登場。往年のロックスターさながらの華麗なマイクスタンド捌きで観客を盛り上げ、名ギタリストふたりのプレイに対して一歩も退かないパフォーマンスを演じる。ちなみに大森は横浜で飲んだ帰りに古市からライブへの出演依頼を受けた際、「タランティーノから出演オファーがあったら出られない」と答えたそうだが、結局オファーは来なかったらしい。

大盛況のうちにCHABOと大森が去り、再びバンドメンバーだけが残ったステージで「あと少しだけお付き合いください」と告げた古市は“サワーの泡”を歌い、途中では息子・古市健太のドラムソロをフィーチャーする。そしてライブ本編は、ビートに煽られた観客の手拍子に包まれながら“いつかきっと”で幕を下ろした。満場一致のアンコールに呼び戻され、白いシャツを着てステージに戻った古市とバンドは“Only Lonely Road”を披露。自身が60歳になったことに対しては「40歳になった時より、50歳になった時より、ぜんぜん嬉しいわ」と語られる。フィナーレにはこの日のゲスト全員がステージに登場。

井ノ原から赤い花束を受け取った古市を中心にみんながマイクを持って歌う“ROCK’N’ROLL IS MY LIFE”と、笑顔に包まれ身体を揺らす観客の姿は、古市の人生そのものにも、ロックンロールの永遠に変わらない景色にも見えた。還暦という人生の大きな節目を迎えながら、ステージでの立ち姿、そして言葉や仕草のひとつひとつで「ギターヒーロー」を体現する古市。たくさんのゲストとファンに祝福されたこの夜に、10年後、20年後、さらにその先の彼を予感する。鳴り響くギターに身を委ね心地よく踊る観客たちの姿には、古市が60年間積み重ねて来た全ての答えがあるような、そんな気がした。

Text:安藤さやか
Photo:三浦麻旅子、後藤倫人

https://columbia.jp/artist-info/furuichikotaro/

<KOTARO FURUICHI SOLO BAND TOUR 2024「赤のブルース」>【東京公演】
会場:EX THEATER ROPPONGI
[バンド・メンバー]
古市コータロー(Vo & G)/浅田信一(G & Cho)/鈴木淳(B & Cho)/古市健太(Dr)/オヤイヅカナル(Key)/真城めぐみ(Cho)
[ゲスト]
・會田茂一
・井ノ原快彦
・ウエノコウジ(The HIATUS/Radio Caroline)
・江沼郁弥(DOGADOGA)
・大森南朋
・クハラカズユキ(うつみようこ&YOKOLOCO BAND/M.J.Q/QYB/The ・Birthday/緊急バンド/OHIO101)
・佐々木亮介(a flood of circle)
・神野美伽
・仲井戸“CHABO”麗市
・西寺郷太(ノーナ・リーヴス)
・YO-KING(真心ブラザーズ)
※五十音順

<KOTARO FURUICHI SOLO BAND TOUR 2024「赤のブルース」>@EX THEATER ROPPONGI セットリスト
01. Mountain Top with 會田茂一
02. Dance Dance Dance
03. Heartbreaker
04. NOTHING OR SOMETHING
05. Slide Away
06. Oh! My Dear
07. OCEAN WAVES with 西寺郷太
08. I’m A Dreamer
09. Teenage Kicks with 佐々木亮介
10. そんなに悲しくなんてないのさ
11. 冬にわかれて with 江沼郁弥
12. POOL with YO-KING 
13. Windy Day
14. Fall in Love Again with 井ノ原快彦
15. モノクロームガール
16. Tonight
17. 恋の季節 with 神野美伽&ウエノコウジ&クハラカズユキ
18. 座頭市子守唄 with 神野美伽&ウエノコウジ&クハラカズユキ
19. ホンキートンクタウン with 仲井戸“CHABO”麗市
20. それだけ with 仲井戸“CHABO”麗市&大森南朋
21. サワーの泡
22. いつかきっと

ENCORE
01. Only Lonely Road
02. ROCK’N’ROLL IS MY LIFE