倉品翔(Vo&Gt&Key)、吉田卓史(Gt)、延本文音(Ba)、つのけん(Dr)
4人全員が新しい可能性を発見し続けている。
ネオミュージックを血肉に、国内外の80’sサウンドをクロスオーバーした楽曲が注目を集めるGOOD BYE APRIL。今春メジャーデビューを果たし、自主企画ライブ『What a Harmony』シリーズの開催など精力的に活動をしてきた彼らが、2023年の締めくくりに冬の匂いと澄んだ空気が立ち込めるウインターソング『夜明けの列車に飛び乗って』をデジタルリリース。倉品翔が2019年の年明けに制作し、5年弱の時を経て満を持して世に放たれることになった同曲は、どのような背景で生まれ、なぜこのタイミングでのリリースになったのだろうか。そしてタイトルの由来とは。そこにはバンドの歩んできた歴史や倉品のルーツが大きく関係していた。今の4人がサックスとキーボードの力を借りてブラッシュアップした、ロマンチックでピュアなラブソングについてメンバー4人に聞く。
■“夜明けの列車に飛び乗って”は、紙資料にある「この冬いちばんのロマンチシズム」というキャッチフレーズがぴったりのピュアな楽曲でした。倉品さんがこの曲を作ったのは2019年の年明けだそうですね。
倉品 2020年から目指すサウンドの質感がより80’sに近いものにシフトしていったので、曲のつくり方も少し変わったんです。それで、2019年までストックしていたGOOD BYE APRILなりの王道なポップソングが、アルバムの収録曲として選びづらくなっていて。でもお気に入りの曲なのでいつかリリースしたくて、大事に寝かしていたんですよね。それで今回、冬曲のリリースを考える中で、この曲を今の自分たちであらためてアレンジしてリリースすることになりました。
延本 2020年にサウンドの方向性を変えたのも、自分たちの器を広げるためだったんです。どれだけいい曲を作っても今の時代では埋もれてしまうから、もっとたくさんの人に聴いてもらうためにはいろんな挑戦をして、新しい要素を吸収する必要があった。この3年ちょっとでいろんなチャレンジを経て、あらためて今の自分たちでGOOD BYE APRILなりの普遍的なポップスにトライしてみたんですよね。
倉品 この3年ちょっとのチャレンジで獲得した、新しい自分たちのサウンドやスキルでもって、自分たちの原点である「スタンダードポップスを作る」という目的を実現するならば、この曲がいちばんそれを発揮できるなと思ったんです。
■この曲の歌詞は、倉品さんが初めての海外旅行でニューヨークへ行った時の、肌寒かった街の匂いを思い出しながら書いたそうですね。
倉品 父の大学時代の友人がニューヨークに住んでいて、家族ぐるみで付き合いもあったので、その人のところに父と一緒に遊びに行ったんです。それが5月だったんですけど、5月なのに寒かったんですよ。「こんなに寒い街なんだ」と驚いたんですよね。それでこのメロディを作ったのが2019年の年明けで……。僕はお正月、実家に帰ったタイミングで曲を作ることが多いんです、やることがないので。(笑)
■(笑)
倉品 その時にポロッと出てきたメロディが異国情緒を感じさせるものになって、それを聴いた瞬間にニューヨークに行った時の街並みや肌寒さの思い出がバチッと結びついて蘇ってきたんです。そこから自然と、遠く離れた人を思う気持ちを描いた歌詞のストーリーが浮かび上がってきたんですよね。
延本 この曲は冬の始まりの12月から年明けくらいまでの、新鮮な気持ちで迎える冬のイメージがありますよね。そういう意味ではお正月に作った空気感がこの曲にはあるのかなって。
倉品 年明けはリセットされる感覚があって、それが好きなんですよね。ページがめくれる感じ。その雰囲気が歌詞にある「深夜のDELI」のようなニューヨークの街並みや風と、地元の長野県の透き通った冬とリンクしたのかな。歌い出しの「満天の空を見上げる」という歌詞は、地元の景色に対する感動が無意識のうちに反映されていると思います。長野はすごく星が綺麗に見えるんですよね。
■列車がモチーフになったのも、ニューヨークの景色からのインスピレーションですか?
倉品 それもありますし、あと“夜明けの列車に飛び乗って”というタイトルの由来が、『夜明けの汽車に飛び乗って』という2017年に初めてホールで開催したワンマンライブのタイトルなんですよ。年明けの空気にも似たまっさらなスタートというか、フレッシュな感情に溢れてる言葉だなと思って気に入っていて。
延本 そのライブはミニアルバム『FLASH』のレコ発ワンマンで、私たちにとってすごく思い入れのあるものなんです。というのもGOOD BYE APRILは2014年に、人間不信になるようなことが度重なって起きて。支えてくれる人はいたけれど、「本当に4人だけでやるしかないんだ」と覚悟を決めたんですよね。
■しばらくリリースがなかったのは、そういう状況が理由だったんですね。その後、GOOD BYE APRILは自主でフレキシブルに動くようになって。
延本 自分たちでグッズの手配をしたり、ライブを組んだり、友達が経営しているスタジオでレコーディングさせてもらったり……。4人とそのつながりだけで初めて作ったCDが『FLASH』なんです。フリーライブで私たちを知ってくれるお客さんが増えたので、初めてホールワンマンが開催できることになって。「やっと夜が明ける」という気持ちからつけたのが、『夜明けの汽車に飛び乗って』というタイトルだったんですよね。
倉品 「ここから僕らはまた始まるよ」とお客さんにもワクワクを伝えたかったし、自分たちもそれを予感したかった。あの時の「またここでスタートするぞ」という気持ちも、メロディができた時にリンクしたのかもしれません。
延本 でも私たち、夜明けばっかり歌っているんですよね。全然夜が明けない。(笑)
倉品 毎日新鮮な気持ちで夜明けを迎えているってことじゃない?(笑) 2017年に初のホールワンマンをして、2018年にクラウドファンディングで『他人旅行』というアルバムを作って、2019年は「さてこの先どうしよう」と必死な時期だったな……と今振り返ってみても思うんです。でもそれをなんとかくぐり抜けて、メジャーデビューができた年に、その時期の曲をブラッシュアップしてリリースできるのは、とてもドラマチックなことだなと思います。
■リリースにあたって、詞やメロディのリライトはありましたか?
倉品 最初歌詞を書き換えたんですけど、メンバーに共有したら不評で。(笑)
延本 書き換えたものは達者すぎたんですよ。あの時にしか書けなかった良さや衝動的な感じが消えちゃって。
倉品 ディレクターさんと話し合った結果、微調整はしたんですけど、ほぼほぼ当時のままですね。それで良かったなと自分でも思っています。その反面アレンジはそれぞれのリズムパターンやプレイ、サウンドの雰囲気は今の自分たちなりの出来る限りの工夫をして。
■そうですね。歌詞の世界観やメロディにはピュアな青さがありますが、演奏は爽やかながらに円熟味を感じられます。
つのけん 演奏が最新のものに差し替わって、かなり印象が変わりましたね。曲にある当時のフレッシュさを壊さないために、シンプルなリズムをどんな音量で、どこまで攻められるかをシビアに考えて……結構悩みました。試行錯誤の末、最終的にはうまく落とし込めたとは思っています。しっかり楽曲の景色が見えると同時に、最新型の自分たちを乗せることができました。
吉田 曲自体は昔の感覚や雰囲気があって、それに対して今の感じでアプローチしていくっていうのは不思議な感覚で、ちょっと悩みました。最近よくやってるファンクやソウルのノリを入れるのも違うけど、「当時どんなギター弾いてたっけな?」と思い出せなかったりもして……。大人になったってことなのかな。昔ならもっとギターを歪ませていた気はする。
倉品 2020年以降の僕らの曲はサウンドありきで歌詞やメロがあるんですけど、2019年より前は弾き語りがベースになっているものも多いんですよね。だからメロディと歌詞の世界を今の自分たちなりにどう飾りつけるか、各々の楽器ですごく繊細さが必要だったんだろうなと。
延本 ずっと好きだった80’sや歌謡曲のサウンドを、2020年から実際に自分たちで作ってみて、ポップスの頑丈さや緻密さ、引き算の美しさ、各楽器のコンビネーションを知ったんですよね。それを経たからこそ、なおさら枠をはみ出すような余計なことはしたくなかったんです。そういう意味で考えることが必要だったんですよね。何も考えなかったら、全然ギターロックアレンジを作れるだろうし。
吉田 そうやね。でも「これでいいんかな?」と違和感を抱きながら弾くと思います。(笑)
■今の自分たちにフィットするのは2020年以降のGOOD BYE APRILサウンドで、それを“夜明けの列車に飛び乗って”に落とし込めたということですね。
延本 やっぱり曲が良くなることが何より大事だと思うんです。もっとメンバーにスポットを当てるためにギターソロを入れよう、ギターを目立たせようという考え方は持っていないというか。この曲もサックスソロの方が合うから、サックスを吹いていただいているんですよ。レコーディングで藤田淳之介さん(TRI4TH)がサックスを吹いてくださっているのを見ると、いつも私たちも「カッコいい!」ってテンション上がるし。
吉田 おまけに今回、目の前で藤田さんが何パターンか分からんくらいたくさん吹いてくださって……。どれも良すぎて、ここから一つを選ばないといけないっていう贅沢な悩みがありました。(笑)
倉品 「曲が良くなることが何より大事。曲のために尽くす」というのは、結成当時からみんなで話していたことで、それがポップスをやっているバンドのカッコよさだと思っているんです。でもどんなに手癖を封印しても、その人それぞれの癖や味は自然とにじみ出てくるんですよね。人間味がエゴではなくエッセンスとして出てくるのは、いちばん美しいポップスバンドの在り方だと思うんです。