ハナフサマユ VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

様々な心情と景色で12色を描いた『色彩』を語る。

大阪府出身、シンガーソングライターのハナフサマユが4枚目となるアルバム『色彩』をリリース。12色入りの絵の具のカラーを1曲ずつ当てはめた全12曲が収録される本作では、ハナフサらしい力強いメッセージソング“エリンジウム”、“栄光に向かって”といった応援歌をはじめ、心情や景色の描写が光る“Darling I love you”、孤独に寄り添う“Who am I”といった、まさに彩り豊かな楽曲が揃った。
今回のインタビューでは、ハナフサマユにアルバム制作中に考えていたこと、楽曲に込めた思いを訊いた。

■今回のアルバムタイトルは『色彩』ですが、テーマはどのように決まったのでしょうか?

ハナフサ 2024年の第1弾シングルとして“春と門出”という曲を3月に出したんですけど、その曲が桜をイメージした、ピンク色のイメージのある曲だったんです。その後に出した“栄光に向かって”という曲は、スポーツの応援歌として書いたので、パリオリンピックも意識して金、銀、銅といったメダルの色をイメージしていて。次に出すアルバムにその2曲とも入ると考えた時に、いろんな色を入れたアルバムにできたら面白いんじゃないかなと思って、タイトルを『色彩』に決めました。

■テーマが決まってからは、色を入れることを意識しながら書いたのでしょうか?

ハナフサ はい。テーマが決まって12色の絵の具の画像を見て、まだない色の曲を足していった形でした。“彩りキャンバス”はまさにこのテーマで書こうと決めて書いた曲でしたね。あとは過去に書いていた曲を「この色に合うな」と、持って来たりもしました。

■最後まで決まらなかった色や、曲を当てはめるのが難しかった色はありましたか?

ハナフサ 緑が難しかったです。前作アルバムの『バートレット』では、私が緑が好きという理由で緑をテーマにしていたんですけど、本作で緑をイメージした曲を作ろうと考えた時に、自然豊かというイメージになってしまって。(笑) でも、優しい人って緑のイメージがあるなと思って、優しい男性をテーマにした“星が降る度に”を緑の曲にしました。これはアルバムの中でも最後に色を当てはめた曲でしたね。

■前作『バートレット』の際も緑のお話を伺いましたし、ハナフサさんの音楽制作において、色は重要なモチーフなのではないかな?と感じました。

ハナフサ そうですね。前作で色のことを考えたからこそ、今作ができたんだろうという気がしているんです。「この曲は何色」という風に常に考えていたわけではないんですけど、前作を経たからこそ、そういう風に感じやすくなったのかなとは思います。

■今作はそういったテーマもあり、いろんな曲の歌詞に色の名前が入っています。テーマがあったからこそ意図的に入れた部分もあるかと思いますが、自然と色の名前が歌詞に出てくることもありましたか?

ハナフサ そうですね。“エリンジウム”は、青色の曲を作ろうとして作った曲ではなくて、結果的に青色のお花の個性を歌っている曲になったんです。あとは“Darling I love you”は、昔からあった曲だったんですけど、「五時半の夕焼け」という歌詞から温かいラブソングとオレンジ色が自然に見えてきたりして。“Be Free”は、色を決めていなかったんですけど、爽やかな風を表現したいと思って水色を当てはめて、「水色の風」という歌詞を入れたり、そういった順序で色が決まった曲もありました。

■エリンジウムは少しトゲトゲしている青色の花の名前ですよね。元々エリンジウムの存在は知っていたんですか?

ハナフサ 実はエリンジウムは家にあった花なんです。『Blue×Yellow』のアルバムの時に花束をもらったんですけど、その中にエリンジウムがあって。それから家にエリンジウムが飾られるようになったんです。エリンジウムの面白いところが、花瓶に挿している時に水を全部吸い込んでそのままドライフラワーになってしまうことがある花なんですよ。家でその現象を見たのをきっかけにエリンジウムってすごいなと思って、その時に花の名前を調べて知ったんです。でも正直、エリンジウムの見た目を可愛いと思ったことはなかったんですよ。尖っているし。でもその花の生き方を見て、すごくカッコいいなって思ったんです。変わった形をしていることもドライフラワーになることも、その花の個性だよなと思って。エリンジウム自体が誇らしいと思っているかはともかく、誇らしげに咲いているように見える姿を見て、それぞれの人にも個性ってあるなと改めて思って、こういう曲にしたいと思いました。

■“彩りキャンバス”は白にすると決めて作った曲だとおっしゃっていましたね。

ハナフサ はい。決して一色では完成しないのが人間かなと思っていて。人生にはいろんな人が関わってくるじゃないですか。白いキャンバスにいろんな色が混ざって、でも結局は自分で舵を取っていくしかないのが人生ということを表したかったので、このアルバムのテーマに必要だった曲を書いたという感じです。

■今おっしゃったように、ハナフサさんにも、もちろんいろんな色が混ざっているかと思いますが、ハナフサさん自身を色に表すなら何色だと思いますか?

ハナフサ なんだろう……。それこそ私は緑が好きなんですけど、緑っぽいかと言われるとそうでもないなと思っていて。透明とか白と言われることはあったので、存在が薄いのかなと思ったことはあったんですけど。(笑) いいように捉えると何色にでも染まれるってことかなとか、声がクリアってことかなと思っています。でも自分がこの色というのは未だに分からないですね。そういう人でも輝けるということを、このアルバムでいろんな色を出すことで伝えたかったところではあります。

■“エリンジウム”、“彩りキャンバス”を聴いてから、“October”を聴いて、曲の幅広さに驚きました。前の2曲は大きい視点での歌だったのに対し、“October”では二人の世界を描いていて、曲の性質が全く違うんですよね。“October”は、色を先に決めて作った曲だったんですか?

ハナフサ この曲は先に色を決めました。10月に発売することが決まっていたので、秋の色のイメージがあった茶色の曲を作ろうと思って書きました。言っていただいた通り“エリンジウム”、“彩りキャンバス”は、メッセージ性の強い曲というか、自分が得意とするジャンルだったんですけど、“October”からは言葉の遊びであったり、キャッチーな部分も入れつつ、飽きがこないアルバムにするためにいろいろ遊び始めています。

■“October”だけでなく、“星が降る度に”、“Darling I love you”といったように、二人だけの世界を描いた楽曲も何曲かありますが、そういった楽曲は色が情景描写として使われていることが多く、その他の曲では色が心理的描写として使われていることが多いのが面白いなと思いました。

ハナフサ 確かにそうですね。意図してそうしたということはなかったんですけど。

■ハナフサさんは“エリンジウム”をはじめとするような、多くの人に響くようなメッセージソングを歌っていらっしゃるイメージが強かったので、物語性の強い“October”のような、情景描写の良さを感じることができる曲があるのも魅力に感じました。情景や物語を書いていくにあたり、ハナフサさんの創作の根本にあるもの、影響を受けてきたものというとなにがありますか?

ハナフサ 私は歌詞をフィクションで書くことが多いんですけど、その中にどれだけリアルさを込められるかということを意識していて。小さなノンフィクションを膨らませていくような形で書いているんです。その中でもインスピレーションを受けているのは漫画だと思います。こういう曲が書きたい、といった大まかなイメージは漫画から得ることが多くて。その後のノンフィクションの部分は自分の目で見た、誰でも見れるようなものから広げていくことが多いです。みんな見ているようなことしか私も見ていないので。(笑) 例えば「イチョウが揺れているな」とか、そういう単純なところから膨らませていることが多いですね。

■だからこそ多くのリスナーが共感できたり、親しみを感じながら聴けるのかもしれないですね。それこそ『バートレット』の際も、ご自身がトマトジュースをこぼしてしまったところから曲ができたり、身近な出来事から歌詞を書かれていましたよね?

ハナフサ そうですね。「ああ、そういう時あるよね」と、みなさんに刺さるかどうかを探っているというのはあるかもしれないです。

■今回、ノンフィクションの出来事から生まれた歌詞で印象的だったものはありますか?

ハナフサ “Be Free”の歌詞は、最初は全然違っていたんです。「鎖」という言葉が出てきたり、もう少ししがらみのある中で自由を選ぶといった曲で。でも「歌詞が重いのでは?」という話が出てきて、ブラッシュアップすることになって、そのタイミングで初めて占いに行ったんです。私は占いってそこまで信じるタイプでもないんですけど、「どうなるんだろう?」と思いながら行った実体験を踏まえて歌詞が変わったので、占いに行っていなかったらこの歌詞にはならなかっただろうなと思います。

■そうだったんですね。占いはいかがでしたか?

ハナフサ 私はひねくれているので、「誰でも当てはまるよな……」と思うようなものもあれば、「私の本質を突いてるんじゃないか?」みたいな瞬間もありました。私と一緒に行った友達は、見てもらったことの進展をまた報告しに、同じ占いにまた行くと言うんです。でも私は、「もう同じ人に見てもらう必要はないんじゃない?」と思ったんですよね。(笑) そういう占いの捉え方、受け止め方も人それぞれなんだなと思って、面白いけどよく分からないなと思って書いた歌詞が“Be Free”でした。

■“Be Free”の歌詞は推進力があって、ご自身の心情にも近い部分があるのではないかなと感じます。

ハナフサ そうですね。ブラッシュアップするタイミングでは、清々しい気持ちで歌詞を書こうと思ったんです。自分自身もそうですけど、自由を選ぼうと思えばいつだって選べると思うんです。「考えすぎないでいれば気が楽に生きれるんじゃないかな」と思ったんですよね。いろいろ考えるからこそ見えてくることもあると思うんですけど、「考えすぎていらないことまで考えるくらいなら、気ままに生きた方がいいんじゃないか?」と思って書いたので、自分自身も励まされるような楽曲になったと思います。

■この明るさとすごく対照的だと感じるのは、次の曲の“Who am I”です。

ハナフサ この曲は少し前に作っていた曲なんです。誰かのためにというより、自分のために作っていたところがある曲です。本来の私はこの曲寄りというか。曲を通していろんな自分を見せられるだけで、本来は多分暗い方なんです。そういうところに向き合って作った曲でした。誰しも孤独を感じることはあると思うんですけど、孤独は悪ではないということを言いたかったんですよね。

■少し前にご自身と向き合いながら作った曲を今改めて聴くと、少し前のご自身に触れているような感覚などもありますか?

ハナフサ そうですね。小学生の時の自分のような気がします。(笑) 本当に言いたいことは何も言えなかった頃みたいな。今はだいぶ「思っていることは言わないと伝わらない」ということが分かっているんですけど、小学校、中学校の頃とか、息苦しい時は分からなかったので。その頃を思い返す歌でもありますね。