■“憂さ晴らし”はタイトルがすごくストレートですが、どんな考えから作った曲なんですか?
ハナフサ この曲はアルバムの中で少し尖った曲を作りたいと思って作った曲でした。この曲を作る前に、自分の中での尖った曲を何曲か提出していたんですけど、全然通らなかったんです……。段々「尖った曲ってなんだ!?」となって、よく分からなくなってきて。そんな時に、SNSでも好き勝手言う人たちがいたり、いろんな意見をもらうことに心が死んでいく瞬間ってあるんじゃないかな?と思ったんですよ。やけくそみたいな、投げやりみたいな感じで書いた歌詞でした。「もう何がいいか分かんねえよ!」みたいな。(笑)
■その過程がなかったら、全く別の尖り方をした曲になっていたかもしれないですね。(笑)
ハナフサ そうですよね。
■歌詞は半ば投げやりに書いたとのことですが、レコーディングはいかがでしたか?
ハナフサ 投げやりに歌おうと思っていたんですけど、歌詞をよく見ると、この主人公ってずっと悲しんでいるんですよ。「もうどうでもいい」と言っているわけではないというか、「どうにか変わりたい」、「変わってほしい」という気持ちがあるなと思ったので、少し寂し気なニュアンスを残して歌っています。
■“星が降る度に”は、緑色から優しい男性をイメージして作られた曲ですね。冬のこの楽曲から“春と門出”に続くのが、写真のアルバムをめくっているようだなと思いました。
ハナフサ そうですね。寒い冬から春になっていくというのは曲順で描きたかった部分でした。
■“星が降る度に”と“春と門出”、“October”で、それぞれの季節が描かれていますが、今回は夏の曲はないのでしょうか?
ハナフサ “栄光に向かって”が夏のデジタルシングルとしてリリースしているので、一応夏の曲になりますかね。一年中当てはめられる曲ではあるんですけど、パリオリンピックを意識もしているので、私の中では夏のイメージではあります。
■“栄光に向かって”を聴いて、スポーツの昂った感情や、応援する楽曲を書くのが本当にお得意なんだなと感じました。
ハナフサ ありがとうございます。スポーツは中学生の時にテニスを3年間やっていただけなので、当然プロ選手の気持ちが分かるはずもないですし、そこに立ったことのない人には分からない心情もたくさんあると思うんです。でも、自分がシンガーソングライターをやっている中で、何かを極めようとすると見えてくる壁があるというのは感じていて。そういうのはスポーツだけではなく、何かに打ち込もうとすると誰でもぶつかるものでもあると思うので、そういう部分から歌詞を書いていきました。サポーターの人も一緒になって応援できる曲になっていたらすごく嬉しいです。
■今回収録されている“Darling I love you”や、“星が降る度に”といったラブソングの括りに入る楽曲は、かなり穏やかで日常とともにあるという印象がありました。ある意味あまりラブソングらしくない楽曲でもありますよね?
ハナフサ これまでドラマの書き下ろしでラブソングを収録したことはあったんですけど、書き下ろしではないラブソングってあまり得意ではないんです。でもその中でも身近な、大きすぎないラブソングを書きたいと思っていて。ラブソングと取らなくても当てはめられるというのが好きなんです。候補には失恋ソングもあったんですが、結局身近なラブソングが残りました。
■“トリコ”はすごく可愛らしい楽曲で、新鮮な印象でした。どんなインスピレーションから生まれた楽曲だったのでしょうか?
ハナフサ 前作の『バートレット』に収録されている“Farfalla”を作った時も思ったんですけど、いろんな流行がある中で、推し活をしている人が多いなと感じているんです。私にはあまり推しと呼ぶような存在はいなくて、推しという考え方がどういうものなのか、いまいち分かっていなくて。でも人を好きになったり、大切に思ったりするのって、目が離せなくなるみたいな感覚に近いのかなと思っているんです。最近、姪っ子が可愛くてたまらないんですけど、可愛いなと思ったらもうずっと見ていたいし、ずっと遊んでいたい。推しもそういうことの延長なのかな?と思ったところから作った曲です。最近はInstagramやTikTokで音楽が使われる世の中になっていますが、みんなの虜になったものと一緒に動画にしてもらって、上げてもらえるような曲がほしいなと思ったんです。なので、可愛さに振ったような、今まで歌ってきた曲とは違った楽曲にしています。
■そしてアルバムの最後を飾るのが“アステリズム”です。夜空の星を見上げるというシチュエーションが、アルバムの最後を飾るのにぴったりだと感じました。
ハナフサ でもこの曲は、最後の曲として書いていたわけではなかったんです。アレンジが上がってきて、自然とこれは最後だなという印象になりました。
■どんなイメージで歌詞を書いたのでしょうか?
ハナフサ 空の星を亡くなってしまった人に重ねて、いつも見守ってくれているという思いを込めています。でも、そうじゃなくても、例えば遠距離恋愛に置き換えてもいいですし、親元を離れて一人暮らしをしていることに置き換えてもいいと思いますし、人それぞれ捉え方があっていいと思います。私の中では、もう会えない人だとしても、言ってもらった言葉や支えてくれた時間が、ふとした時の支えになることがあるんじゃないか、というのを伝えたくて作った曲で。私のおばあちゃんは、私が小さい頃に亡くなっているんですけど、それから何かある度におばあちゃんに手を合わせていたので、そういう意味でも見守られている気がすると思うだけで頑張れることってあるよなと思っているんです。そういったことを考えながら作った曲です。
■アルバムを通して、アッパーチューンとバラードがあるといったように、曲調で緩急を作っているというよりは、歌詞の内容や声色、サウンドの違いで曲の違いを際立たせているように感じました。そういった点で意識していたことはありますか?
ハナフサ 自分の得意を極めるというやり方でアルバムを作っていたというのはあると思います。今までいろんな挑戦をしてきて、それらが自分の新たな扉を開けてくれたんですけど、今回は自分の個性や自分の得意としているもの、ハナフサマユとして、いいとしてもらえるものがどんなものかが見えてきた中での制作だったと思っていて。なので、その得意な分野を中心に、少しずつ遊んでいくというイメージはありました。少しずつ変化を付けることで「一つひとつのどれもがハナフサマユだよね」と思ってもらえる遊び方をしたアルバムになったと思っています。
■11月からはアルバムを引っ提げてのリリースツアーが行われますが、どんなツアーにしたいですか?
ハナフサ 今回はワンマンライブとツーマンライブが同時に始まっていく形になっています。それぞれが終わった後、最後に大阪に帰ってきてワンマンでツアーファイナル公演があるという形なので、そこまでにいろんな色を混ぜたいろんなハナフサマユを見せた上で、最後に彩り豊かだったと思ってもらえるようなものにしたいと思います。ワンマンライブ、ツーマンライブ、それぞれの色の違いを受け取ってほしいです。
Interview & Text:村上麗奈
PROFILE
大阪府高槻市出身在住のシンガーソングライター。自分の想いを言葉にして伝えることが苦手だった小学生の頃、映画『タイヨウのうた』に感銘を受け歌を作るようになる。基本的にはドライな性格でめんどくさがりだが、ステージに立つ時だけは曲に込めた熱い想いを届けたいと歌っている。2020年9月、ミニアルバム『call for love』で徳間ジャパンよりメジャーデビュー。その後、毎年フルアルバムリリースをリリースし、ツアーも盛況に納める。民放ドラマや多数のTV番組のOP・EDテーマを担当、NHKホールにて「うたコン」アトラクで歌唱等活躍の場は多岐に渡る。2024年第2弾となるデジタルシングル『栄光に向かって』を6月7日リリース。そして、2024年10月、メジャー5作品目となるフルアルバム『色彩』のリリースが決定!
https://87mayu.jp/
RELEASE
『色彩』

通常盤(CD)
TKCA-75246
¥2,800(tax in)
徳間ジャパンコミュニケーションズ
10月2日 ON SALE