花澤香菜 VAITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

プレッシャーも逆境も楽しい!声優デビュー20周年を迎えた花澤香菜の“今”。

「鬼滅の刃」甘露寺蜜璃役、「PSYCHO-PASS サイコパス」常守朱役、「五等分の花嫁」中野一花役など、華々しいキャリアを培い、今年声優デビュー20周年を迎えた花澤香菜。自身初の「主役&主題歌アーティスト」のダブル担当を果たした『ドラマチックじゃなくても』をリリース、さらに5月にはワンマン公演を開催と、音楽活動にも力を注いでいる。
最新シングル『インタリオ』は、花澤自身が寶月詠子(ほうづきえいこ)役を務めるTVアニメ「ダークギャザリング」の10月クールEDテーマ。繊細で儚いバラードが「ダークギャザリング」の世界観を一層浮き彫りにする。

■声優20周年を迎え、デビュー当時を思い返すと、どのような思いがありますか?

花澤 当時は14歳。アニメは好きで見ていましたけど、アフレコ現場がどういうものなのかも分からず、「マイク前で喋るんだ。しかも代わる代わる……?」って。先輩方に教えてもらいながらなんとか収録して、「なんて難しいことをしているんだ」と思いました。セリフの尺も決まっていますし、「音を立てない」などの決まり事もあるしで、ただお芝居をするだけじゃダメなんだなと、なんとなく感じていました。その現場には喜多村英梨ちゃんがいて、英梨ちゃんは当時15歳で、1歳上だったんですけど、めちゃくちゃ上手で!「こんな人がいるなら、私は無理だ!」って思いました。(笑) 実際、まさか今もこうして声優として活動できているとは思っていなかったんです。最近その話を英梨ちゃんとしていたんですよ。ちょうど「青の祓魔師 島根啓明結社篇」(2024年放送)のアフレコが始まったところで、一緒に収録しているんです。英梨ちゃんと会うと、どうしても昔話をしてしまいますね。(笑)

■喜多村さんはなんと?

花澤 「そんなそんな!」と謙遜していて。(笑) 英梨ちゃんも最近その当時の作品を見返していたところだったそうで、「若かったね」という話をしていました。ほぼ同世代で同じアニメで共演できるって、ほぼ同期のようなもので、そういう存在って貴重だなぁって思っています。そこからいろいろなチャンスをいただいて。その度に体当たりでチャレンジしてきました。今もそうではあるんですけどね。前は「声優です」と胸を張って言えませんでしたけど、今は「声優をやっています」と言えるくらいに、いろいろなことを経験させていただきましたし、自信もつきました。

■10周年の時の感覚とはまた違いますか?

花澤 全然違いますね!24歳の時は音楽活動を始めたばかりの頃で、いろいろ乗り越えたと思ってはいましたけど、まだまだ緊張することだったり、不安に思うことだったりがあった時期です。いっぱい悩みがありましたね。解消されるものもあれば、ずっと悩んでいることもありますけど……でも、音楽を通してだと、自分の気持ちが入れられるので、それも自分の肥やしになるんだなって。お芝居もそうですけどね。どんなことでも自分に還元されるんだなと、アーティスト活動も含めて思います。この仕事をしていて良かったなって改めて感じます。

■音楽活動を振り返った時に、ターニングポイントというと、どのあたりだと思いますか?

花澤 アニメ『化物語』のキャラクターソングの“恋愛サーキュレーション”を歌って、みんなが受け入れてくれた時に……こんなに届くことってあるんだって。そこからアーティスト活動を意識するようになりました。

■“恋愛サーキュレーション”は本当に幅広い層の人たちに愛聴されていますものね。

花澤 今もいろいろな場所で歌わせていただくんですが、日本語が母国語じゃない場所でもみなさん普通に歌うんです。ラップっぽいから、日本語でも難しいのに、全然歌えてしまう。ああいう景色を見ると嬉しいですね。

■まだまだ緊張することだったり、不安に思うことだったり……というお話がありましたが、VAITYMIXで2016年にお話を伺った際には、「私結構プレシャーを楽しんじゃうタイプなんです」とおっしゃっていて。きっと一つひとつ楽しまれてきたんだろうなって。

花澤 ああ、そうですね。そういう性格なんだと思います。(笑) この間、マカオのフェス(『Tencent Music Entertainment Awards 2023』)に出演させていただいたのですが、声優アーティストは私しかいなくて。さまざまなアーティストさんが出演されていて、特に韓国アイドルを目当てに来られていた人が多かったんです。私のことを見にくださっていた方もいらっしゃったんですが……。

■一言で表すなら完全にアウェイだった……?

花澤 そうなんです!(笑) でもその状況が逆に楽しくなってしまって。そうした中でも“恋愛サーキュレーション”を歌うとしっかりと反応が返ってきて、「韓流アイドルのファンの方たちも知っていてくれるんだ!」って。心強い歌だなと思いましたし、マカオのゴージャスな景色を見ながら歌うのがすごく心地がよくて。“ドラマチックじゃなくても”は、その時点で何度も歌っていた曲ではあったんですけど、いちばん良い“ドラマチックじゃなくても”が歌えました。(笑) ああ、こういうことがあるから逆境も面白いなぁって。素敵な機会をいただきました。

■今作の“インタリオ”はどのような思いで制作に向かっていかれたんでしょうか?

花澤 この曲はTVアニメ「ダークギャザリング」のEDテーマになっていて、第1クールED主題歌 “灰色”も北川勝利さんに作っていただいていて。歌詞は藤村鼓乃美さんと北川さんが書いてくださっています。“灰色”は「ダークギャザリング」の世界観を意識しつつ、抽象的な言葉で、いろいろなシーンに合うような曲で、「ダークギャザリング」の曲ということで、少し怖く感じるようなものを作りたいなと思っていて。私は無垢っていちばん怖いなと思う瞬間があるんです。“灰色”はそういう印象にできたら良いなと思って、あまりこねくり回さず、純粋に歌うことを意識していました。それとは対照的に、“インタリオ”は作詞をしてくださった宮川弾さんの世界観もあって、ドラマチックなものになっていて。その歌詞に合わせて、表情も大きくつけて歌うことを意識しています。その方がこの曲に合うんだろうなって。それこそ、人に言えないような心の暗い部分を温かく照らせるような、そんな曲になれば良いなって思いながら歌っていました。

■「ダークギャザリング」では、ヒロイン・寶月詠子(ほうづきえいこ)を演じられていますね。

花澤 詠子ちゃんはオーディションの時点から「いろいろな面を持っていて面白いな」と思っていました。第一印象は明るくて、天真爛漫で、ちょっとお姉さん的なところもあって、主人公の幻燈河螢多朗(げんとうがけいたろう)くんを引っ張っていくような、ザ・幼馴染でした。ただ、読み進めていくうちに「こ、こわ……」と。(笑) 螢多朗くんのことが好きすぎて、変態的な方向で愛情を膨らませていって。それと、心霊現象への向き合い方も面白くって、霊に会うと興奮しているんですよね。大好きなものを接種しているという状態で。演じるのは楽しいだろうなって思っていました。しかもホラーの醍醐味である悲鳴も担当している子でもあるので、演じがいのある、というと語弊があるかもしれませんが、楽しめる女の子だなって感じています。

■エンディングを歌う時は、そのモードとは切り替えて?

花澤 そうですね。詠子ちゃんのキャラクターソングという感じにはしたくなくて。「ダークギャザリング」には何かを抱えている登場人物が多いので、そこにもシンクロできるんじゃないかなと思いますし。

■レコーディングはいかがでしたか? 

花澤 歌い方の方向性を決めるのに少し時間が掛かったかもしれません。「トゥナイト」という言葉で入るのが、私はミュージカルっぽいなと思っていて「ウエスト・サイド・ストーリー」的なものを思い浮かべていました。それで、語りかけるように歌うのが似合うのかなと思っていたのですが、これまで積極的にやってこなかったことなので、北川さんと擦り合わせながら表情の出し方を考えていきました。それで割りと表情を濃い目につけました。

■ちょっとジャジーな雰囲気もありつつ。「トゥナイト」という言葉はこれまでの曲にもあったと思うのですが、どれにも当てはまらない表現になっているなと感じていました。 

花澤 そう思います。「トゥナイト」の器がとても大きくて、その時々で違った雰囲気を届けられるのかなと思っています。

■“インタリオ”はイタリア語で陰刻や凹刻、沈み彫の意味なんですよね?

花澤 そう!私も「インタリオ」という言葉は知っていたけど、「なんだったっけ?」と調べました。(笑) 宮川さんはそういうところをついてくるのが上手なんです。言葉選びのチョイスが素敵だなと思っています。また、宮川さんは夜宵ちゃんの眼からインスピレーションを受けて“インタリオ”にしたそうです。宮川さんが歌詞に込められた思いってレコーディングの時は知らされていなくて。抱えている悩みにアプローチするような曲だなと解釈していたんですけど、宮川さんの解釈を後から知って、「その意味は間違っていなかったんだな」と思いました。オケもとてもドラマティックにしてくださっているので、「これがライブになった時にどうなるんだろう?」って。

■ライブでどう表現されるのかは、私も気になったところです。

花澤 “灰色”は「アニサマ2023」のステージで歌っていて。生音で歌うとより重たく、カッコよくも響いてくれる曲になっていて。私の歌声を少し大きめに出してもらって、歌い上げる感じではないようにしてもらっていたんです。そのおかげで、孤独な雰囲気が浮かび上がるようなボーカルになって、すごく良いなぁって。“インタリオ“もライブで歌うのが今から楽しみですね。

■今作には“灰色”も収録されています。無垢な声色を意識されたとのことでしたが、レコーディングはいかがでしたか?

花澤 そういった歌声は得意方面のものだったので、あまり悩まずに録れたように感じます。どちらかの曲のオケ収録の時に差し入れを持ってスタジオにお邪魔させてもらっていて。何を持っていったんだっけかな、パンかな……?

■花澤さんからパンをもらったら嬉しいだろうなぁと。

花澤 毎回パンを差し入れているので、「もういいよ……」って思われているかもしれません。(笑) あまりパンをいっぱい買える機会ってないんですよね。だからここぞとばかりに、いろいろなものを買えるので嬉しいです。(笑)

■ところで、オケと言えば“灰色”のオケもすごくカッコいいですよね。

花澤 めちゃくちゃカッコいいです!ストリングスをたっぷり入れてもらっていて、あれを生でいつかやったら素敵ですよね。「オーケストラコンサートがいつかできたらなぁ」なんて思っています。以前、「呪術廻戦」のイベント(じゅじゅフェス)で、フィルハーモニーの劇伴をバックに生アフレコを披露したんです。あの経験をしてから、「オーケストラの音ってこんなにも素敵なんだ!」って。オーケストラ団に入るって本当に大変なことじゃないですか。「小さい頃からどれだけ練習したら、あんなにも上手になるんだろう……」って。その精鋭たちが集まった、その瞬間に感動してしまいました。またいつかやってみたいなぁ。