大黒崚吾(Vo&Gt)、シマヌキ(Gt)、muku(Ba)、ふわふわのカニ(Dr)
自分たちが信じたものを信じ切ろうという思いは強くなりました。
仙台を拠点に活動する鉄風東京が、1stミニアルバム『From』を完成させた。今作は結成から5年間を振り返りつつ、新たな決意を刻みつけた転機作と言えるだろう。オルタナティヴロックの激しさだけではなく、口ずさみたくなる美しいメロディを研ぎ澄まし、バラエティに富む楽曲が揃った。また、底辺にある感情を丁寧に掬い取り、「キッ」と前を向いたメッセージ性の強さには、バンドの精神的な成長が表れているようだ。どの曲も深い説得力を帯び、心に突き刺さってくる。豪放なライブパフォーマンスでも観る者を驚かせる彼ら。鉄風東京の第二章を告げる渾身作について、メンバー4人に話を聞いた。
※シマヌキは最後に登場
■今年は大きなフェスに出演し、7月には初の全国ワンマンツアーを行いましたが、バンド的な手応えはいかがでしたか?
大黒 初のワンマンツアーだったので、自分たちだけを観てくれる人たちのフロアは初めてだったから、初めて来てくれたお客さんもたくさんいたし、責任感というか、バンドとしての強さは手に入れた感じはします。
muku 自分もライブの見せ方というか、「JAPAN JAM 2023」で思ったのは、フェスはライブハウスとはまた違うから、お客さんに対するアプローチの仕方とかは考えさせられました。それはワンマンツアーもそうですね。「もっとこうした方がいいな」と思うこともありました。
ふわふわのカニ 「JAPAN JAM 2023」、「OTODAMA’23 ~音泉魂~」とか、大きなステージでやることが増えて、そこに出ているバンドはみんな上手いので、そこに少しでも近づきたいなと感じました。演奏技術を含めてもっと頑張らなきゃって。(笑)
■なるほど。
大黒 僕たちはカッコつけるタイプのバンドではないから、同じ年のバンドでもカリスマ性がめっちゃあったりするけど、僕らはお客さんと同じ目線で一緒にどう楽しむかを考えているので。そこは変わらずなんですが、自分が好きなバンドを観に行った時に、フロアで号泣している男の子がいて、それがいつかの自分と重なって……そこまでお客さんが感情を出してくれるなら、その人にとってカッコいいバンドであるべきだな、「付いて来い!」という気持ちも必要だなと思いました。
■「お客さんを引っ張っていきたい!」という気持ちが強くなったと?それは大きな変化じゃないですか。
大黒 そうですね。僕は今年21歳になるんですが、ステージに立つ人間としてフワフワしていたところがあったけど、もう一つ向こう側に行くために、人間性、音楽性をこれからさらに磨かなきゃいけないなと。
ふわふわのカニ 福岡にワンマンで行った時に、鉄風東京のコピーバンドをやっているという男の子に出会ったんです。そういう意味で追われる側として、ちゃんとしなきゃいけないなと。
muku 自分は今まで、ライブでドラム側を見ながらプレイしていた時期もあったんですけど、ステージに立ったら、お客さんに見られているという意識を強く持とうと思いました。
■そうした意識の変化もありつつ、今作の話に入る前に、今年3月に『FLYING SON』をリリースしました。この曲はバンドの拠点である仙台のライヴハウス「FLYING SON」をテーマに書き始めたのでしょうか?
大黒 そうです。音楽的にはオルタナティヴを咀嚼した上で、メロディは一度聴いたら歌えるものを意識しているんです。今まで吸収してきたオルタナティヴ、ハードコア、エモに深く潜るというか、一度そういう方向に振ってみたいなと。『FLYING SON』は仙台でもハグレもののハコで、反骨精神を持つ人たちが集まる場所なんです。そこを僕らはホームにしているので、地元のライブハウスをテーマに重たい音楽に振り切ろうと。自分たちを育ててくれたハコだから、その気持ちを曲で残したいなと思って。
■このタイミングでそういう曲を作ろうと思った理由は?
大黒 活動していく中で、「FLYING SON」というライヴハウスを知ってもらうことが増えて、自分たちもバンドを代表するような曲が欲しくて。LOSTAGEだったら“NEVERLAND”、ハルカミライだったら“ヨーロービル、朝”という曲があったから。
■バンドの名刺代わりになる楽曲が欲しかったと?
大黒 「こういうところから来ましたよ」と、紹介できる曲が欲しかったんです。本当に名刺代わりになる曲を作りたくて。LOSTAGEの「NEVERLAND」を聴いた時に、こういう曲をやりたいなと。あと、mabutaという先輩のバンドがいて、オルタナや機材のことなどもいろいろ教えてくれて。自分の好きな先輩からDNAをもらいつつ、他にINTO IT.OVER IT.という海外のオルタナバンドも参考にしているんです。外タレや日本のバンドをちゃんと消化した上で作りたいなと。mukuはw.o.d.が好きだし、シマヌキはAGE FACTORYが好きだし、各々の好きなバンドを頭にイメージして作りましたね。
■“FLYING SON”はシンガロングのパートもあり、ライブでみんなで歌える間口の広い楽曲に仕上がりましたね。
大黒 お客さんが音楽に参加できたら僕らも楽しいし、お客さんも僕らに対して壁がなくなると思うから。単純にこの曲でみんなとシンガロングしたいという気持ちがありました。
muku w.o.d.もそうですけど、NUMBER GIRLの中尾憲太郎さんがやっているCrypt Cityも大好きです。w.o.d.も重ためな音楽だけど、ドロップじゃないし。「明るいけど音は重たく」というアプローチは難しかったけど、自分なりに挑戦しました。
ふわふわのカニ 僕は重たい音楽だと、マキシマム ザ ホルモンが好きなんですけど、それとはまた違う曲ですからね。今自分ができる範囲で攻撃力の高いものを入れて、歌を立たせられたらいいなと。
■中盤すぎにはすごく激しいドラムを入れていますよね?
ふわふわのカニ スネアを連打するパートですよね?
大黒 あそこは最初2倍の長さだったけど、さすがに「短い方がいいかも」と助言をもらって。もしかすると、ワンマンライブでは2倍バージョンでお披露するかもしれないです。(笑)
■そして、今年6月には“TEARS”を配信リリースしました。これはどういうきっかけで作ったものですか?
大黒 “FLYING SON”で振り切った後、鉄風東京らしいドストレートな曲が作りたくて。ライブでみんなが一番歌ってくれる“21km”という曲があり、当時は右も左もわからずに作っていたんだけど……自分たちの原点でもあるオルタナティヴのDNAを損わずに、「ストレートでメロディもいい曲を作ったらどうなるのかな?」って。ストレートだけど、曲の真ん中辺りで空間を上手く作って、ファズでギターの音をでかくしていますからね。
■シューゲイザー的なパートですよね?
大黒 そう。それをフックとして入れたくて。「今の鉄風東京はどんなバンドですか?」と聞かれたら、「こういう曲だよ!」というイメージで書きました。
muku 大黒からストレートに伝えたいと聞いていたから、難しいことはせずに、スッと聴けるベースを意識しました。
ふわふわのカニ デモでは人力で不可能なものが送られてきて(笑)。だけど、この曲はメロディがいいので、なるべく歌を引き立てるようなプレイを心がけました。
大黒 カニのことはちょっと嫌いだから、あえて僕が考えた最強のフレーズを渡すんですよ。人力では絶対に不可能なものを送ろうと思って。(笑) それを彼なりに解読してもらいたくて。ドラムはめちゃくちゃ上手いから、面白いフレーズを叩いてくれるんですよ。“遙か鳥は大空を征く”という曲を作った時も、彼をどれだけ苦しませられるかなとういうのを作って。でも、それが結果的に鉄風東京のグルーヴになりますからね。
■その2曲を含む1stミニアルバムが完成したわけですが、まずは自分たちの中で今回のミニアルバムはどんな作風になったのか、そこから聞いてもいいですか?
大黒 “SECRET”は高校時代に書いた曲で、“東京”は高校卒業してまもない頃に書いた曲なんです。他はオルタナ、インディーロックを解釈した曲を入れたり、ミディアムバラードもあったりと、鉄風東京として5年間やってきたことを振り返る一枚になったなと感じます。『From』というアルバム名は、ライブ一発目に「Born in 2002 From Sendai FLYNG SON、鉄風東京です。よろしくお願いします!」と言っているんです。前回『BORN』というシングルを出したから、次は『From』というアルバム名にしたくて。“FLYING SON”はもともと“From”という曲名だったけど、これから後輩ができた時に、先にその曲名を出されたら癪だから。(笑) ただ、アルバムのメッセージ性としてもこのアルバム名がマッチしていて、今作は「場所」がキーワードなんです。最初“SECRET”と最後“FLYING SON”の曲は場所について歌ったもので、「ここで始まり」、「ここで終わ」るという意味を込めているから。これまでを振り返りつつ、場所に対する愛しさに焦点を当てた作品にしようと。
■今作は第二章の始まり的な意味合いもありますか?
大黒 そうですね。シーズン2の第一話みたいな。「これからどんどん成長していこう!」という気持ちを込めて。
■みなさんは現在も仙台を拠点に活動されていますが、バンド名しかり、今回は“東京”という曲名もありますが。
大黒 ああ、それは仙台から見た東京のことで、仙台から東京に上京した友達に向けた曲なんですよ。だから、情景はずっと仙台なんです。
■仙台を拠点にツアーでも様々な土地に出向く中で、地元を客観視できたところもありますか?
大黒 いろんな土地に出向くにつれて、帰る場所があるのは幸せなことだなと感じます。他のバンドはホームのライヴハウスがあまりないみたいで、自分たちなら「FLYING SON」に帰って来て、広島の地ビールをおみやげで買ってきたりして。自分たちが様々なバンドから受けた刺激を地元のライブハウスに持って帰って、それで愛しさがどんどん増してきたから。