橋本裕太 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

物語の終わりを告げる新曲と紡がれる「愛」の言葉。

2019年から中国・上海へと拠点を移し、日本と中国、2つの国と言語を往復して活動する橋本裕太。オーディション番組への参加や中国でのドラマ出演など、様々なことに挑戦し続ける橋本の新曲“愛を知っている”は、TVアニメ「魔道祖師 完結編」のEDテーマとなった。3月15日(水)リリースのEPには、“愛を知っている”と合わせ、いきものがかりの“SAKURA”の中国語カバー“花見(SAKURA)”と、新曲“My luv”も収録。今回のインタビューでは上海居住歴のある聞き手が、中国での活動や中国語話者ならではの「言葉」にまつわるあれこれ、橋本の描く歌詞の繊細な表現について掘り下げる。

■お誕生日おめでとうございます。先日28歳になった橋本さんですが、18歳の頃に思い描いていた10年後の自分と今の自分では近い所にいますか?

橋本 18歳の頃に思い描いてた28歳の僕は……東京ドームに立って、オリコン1位を獲って……。(笑) 今の自分はまさか「中国に行く」という、全く違う方向に走っていますね。

■結構昔からアーティストになることを意識されていたんですね。ヴォーカリストの方って、人生のどこかで「オレは歌で食っていくぞ!」と決意する瞬間があったと思うのですが、そういうきっかけなどはありましたか?

橋本 僕は中学2年生くらいの時に、ぼんやり「歌手になれたらいいな」と思いました。15歳でオーディション受けて、人前で歌うのが楽しいことに気がついて、もうちょっと本気で頑張ってみようと思い、高校3年生の文化祭で初めてみんなの前で歌って「快感!」みたいなのを覚えました。そして、それからは「音楽の専門学校へ行ってちゃんと勉強しよう」というふうに、階段を登って行った感じです。

■中学2年生の時に「歌手になれたらいいな」と思ったのはなぜだったんですか?

橋本 憧れというか……中学校2年生の時、何故か唐突にギターがやりたくなって、叔父に教えてもらうようになって、弾き語りをやっていくうちに「歌を歌う方が楽しいな」と気づいたことがきっかけですね。音楽っていう意味での憧れは、Mr.Childrenさんからなのかな。

■でも、分かる気がします。今年28歳の年はどんな1年にしたいですか?

橋本 20代後半で、30歳に迫る歳なので、精神的なレベルアップをしたいです。今までもいろんなことにチャレンジしてきた方だとは思っているんですけど、もうちょっと自分を追い込むようなことをしてみたいなと思います。(笑)

■今までしてきたチャレンジの中で「これは無茶だったなぁ」と思うものはありますか?

橋本 その時に無茶だと思っていたのは、中国進出です。(笑) 今となってはいろんな経験できたし、ちゃんと実になってるので良かったと思います。

■中国進出はホントに凄いです。中国語、全くわからない状態で行ったんですか?

橋本 初は向こうの大学の語学留学コースに行ったんですけど、ちょっと話せて読める程度だったので、ほぼほぼ(中国語知識)ゼロでしたね。中国に親戚もいません。甘えられる所が無かったので、なんとかしなきゃ生きていけないって状況だったから、サバイバル精神みたいなものが身についたかもしれないです。

■(中国語で)それでしたら今日、中国語でインタビューしてもいいですか?橋本さんは本当に中国語の発音がきれいですね。

橋本 (中国語で)いいですよ!(笑) ありがとうございます!

■中国語で進行するというのは冗談です。(笑) でも、本当に驚きました。「20歳を過ぎてから渡航して、数年でこんなにも中国語が上達するんだ!」って。

橋本 いや、まだ全然ですよ。でも音楽から入って「音」を先に覚えたので、発音が良くなったのかもしれません。座学も一応やったんですが、今思うとその勉強で身についたものって拼音(※発音表記法)を読めるようになったことくらいです。その後、中国のオーディション番組に参加したんですけど、そこでは寮生活で、日本語を喋れる人が全くいない環境で生活しました。スマホも没収されて、言葉がわからなくても調べられないし。もうやるしかないじゃないですか。(笑) そういった生活が4ヵ月くらい続いて、そこで語学力がすごく伸びました。

■やっぱり「周りに日本語話者がいない」ことは大事ですよね。あとはコミュニケーションを積極的にしようとするかどうか。

橋本 日本人って「完璧じゃないと外国語を喋っちゃいけない」みたいなマインドがあるじゃないですか。でも、単語を5個覚えるだけでもいいんです。「你好你好、谢谢谢谢!」みたいな。(笑) 最初はそれでいいんですよ。怖がらないで喋っちゃえばいいんです。

■今回の新曲“愛を知っている”は、TVアニメ「魔道祖師 完結編」のEDテーマとなっていますが、同作は女性向けの作品ですよね?どのように作品を楽しまれていますか?

橋本 「魔道祖師」って物語が難しいから、理解することを楽しみとして観ています。人間性が見えるキャラクターに惹かれるので、主人公の腹違いの兄弟の江澄には共感できる部分があったり、「頑張れ!」って思う部分があったり……。そういう人間模様が描かれているところがいいなって思います。

■「魔道祖師」にハマっている人が多い一方、「難解だ……」という評判に尻込みしてしまう意見もありますが、どんな所が難しいのでしょうか?

橋本 正直僕も理解しきれていない部分があります。日本人からすると、中国語の名前が難しいから、「この人誰だっけ?」ってなるかも。(笑) 同じ血筋のキャラなので仕方ないんですけど、服やキャラデザインが似ているところもあります。固有名詞も多く、忘れた頃に伏線が回収されたりするので、見返すことも多いです。でも、ここまで人気があるのは作品の魅力が理由だと思いますね。噛めば噛む程味が出る作品なんじゃないかなって。

■EDテーマを担当することになったきっかけは?

橋本 僕が中国で活動していることもあったようです。僕は日中で活動したいという想いを掲げて中国へ渡った身なので、中国が原作で日本で放送されるアニメの主題歌だったので、ものすごく光栄で、「ひとつ繋がったな」という想いがありました。すごく嬉しかったです。

■ED曲のタイトルは“愛を知っている”ですが、これは中国語だと「知道愛(愛を知る)」でいいのでしょうか?それとも「知道愛的意義(愛の意味を知っている)」ですか?

橋本 中国語のタイトルは「愛的重量(愛の重み)」です。

■中国語と日本語とでタイトルのニュアンスに少し違いがある感じですね。

橋本 そうなんですよ。日本語の繊細さを表現しているので、単純には訳せないんですよね。「愛は」と「愛を」の違いとか。

■そこ、めちゃくちゃ気になったんですよ!なんで歌い出しの歌詞だけ「愛は」なんだろう?って。

橋本 歌い出しのところは、ちょっと「愛は知っている」にしてみたっていうくらいなんですけど。(笑) というのも、「愛は知っている」って「愛っていう概念のことは知っている」という風にとらえることもできるし、「アイ」が一人称になって「私は知っている」という風にとらえることもできるようにしたかったんです。

■なるほど。一人称の「アイ」は盲点でした。

橋本 登場人物それぞれにそれぞれの愛があるから、それを表現しました。みんなそれぞれ推しメンって絶対にいるじゃないですか。その人によって「愛」が持つ意味は違うし、悲しいものなのか、美しいものなのか、いろいろな意味としてとらえて欲しくて、1文字だけ変えてみたんですけど、でもそれって多分日本語でしかできない表現ですよね。

■この歌詞はどこがどのように作品とリンクしているのでしょうか?

橋本 まず、サビの最後の「ありがとう~」は、物語の中でキーになる部分です。口数が少ない藍湛が「ありがとう」って伝えるシーンがあるんですけど、そのシーンに胸を打たれた人が結構いるんじゃないかなと思います。僕もそのひとりなんですけど、そういう所にリンクしていたり、あと「木蓮」は藍湛と結びつくようなお花として描かれているので使ってみたりと、単語単語にも散りばめています。

■アニメの制作サイドから「この言葉を入れて欲しい」などの要望もありましたか?

橋本 今回は特に無かったのですが、「羨/忘」という漢字がキャラクターの名前に入るので、「入れられたら入れてみるといいかも」みたいなお話はありました。僕もそういうの好きなので、似たようなことはどこかでしようと思っていたんですよ。そうしたら提案もあったので、それは入れてみたという感じです。

■歌詞のゆったりした雰囲気と、メロディのアップダウンの激しさのギャップもいいですよね。作曲はどのようにされていったのですか?

橋本 僕が曲を作る上で毎回大事にしているのは「耳ざわり」です。歌詞とメロディが同時にできたりもします。今TikTokでバズっている曲はメロディがキャッチーなので、そういう曲にしたいなと思ったらメロディを先に作りますし、歌詞の意味を大事にしたければ詞を先に作ります。“愛を知っている”は、どちらかというとメロディが先だったかな。

■作曲はギターで作るんですか?

橋本 前はギターで作っていたんですけど、中国にいる時は楽器が無くて、ずっとスマホを使って歌いながら録音していました。今回は決定した1曲だけじゃなくて、全部で15曲くらい作ってたんです。(笑) とりあえず全部アカペラで録音して、「聴いてみてください!」って送って。「これで行きましょう!」となってから、アレンジャーさんに依頼しました。

■15曲は多いですね!その中には「完成した今からすればこの曲は無いな……」というものもありましたか?

橋本 もっと昔っぽいものや、ロックっぽいものなど、いろんな幅で作りましたが、今聴いたら「ほぼほぼ無いな~」って感じです。(笑) 作曲している時はなかなか客観的には見れないんですよ。だから「決めてください」って気持ちにしかなれないので、どれになるかは全然わからなかったです。