ヒグチアイ『HIGUCHIAI band one-man live 2022 [最悪最愛]』ライブレポート@EX THEATER ROPPONGI 3月11日(金)

ヒグチアイ『HIGUCHIAI band one-man live 2022 [最悪最愛]』

両極端の感情を抱きしめたバンドワンマンライブ[最悪最愛]

ヒグチアイによる『HIGUCHIAI band one-man live 2022 [最悪最愛]』が3月11日、EX THEATER ROPPONGIにて開催された。今年初めに“悪魔の子”がアニメ『進撃の巨人』The Final Season Part2のエンディングテーマに選ばれ話題になり、3月2日には、その“悪魔の子”を収録した2年半ぶりのアルバム『最悪最愛』をリリースしたヒグチ。最悪と最愛、両極端の感情が両立するタイトルを掲げたヒグチはこの日、ときに悲哀を歌い、ときに愛を歌うことで様々な感情を認め、受け入れるような寛大な空気を作り上げた。

ライブの1曲目を飾った“やめるなら今”は、まさにこの日のライブタイトルにマッチした楽曲。「やめるなら今かな」から「やめんなよ 続けようよ」と相反する感情の変化を歌い上げる。太く伸びやかな歌は続いて“前線”を紡ぎ、ファルセットを織り交ぜながら躍動的に歌い上げる。ひしひしと迫力を感じた2曲に続き、明るい雰囲気に一変させたのは“サボテン”。浮き立つようなリズムに手拍子がまざり、キーボードも高らかに響いた。柔らかくも存在感のある歌声の“ハッピーバースデー”、ピンスポットで照らされたヒグチによる切なげな弾き語りからバンドインとダイナミックに展開した“火々”、コントラバスの音色が温かくキーボードの音色と混ざる“距離”と、次々と楽曲を披露。バンドセットであることで、より豊かになる音色がヒグチの表現する感情を的確に表していくようだ。

キーボードの前から立ち上がって披露した“悪い女”では、ヒグチがステージを動き回りながら身体を揺らす。久々のバンドライブを楽しみにしていたというヒグチはMCにて「私がなにもしなくても音楽が進んでいくんですよね」と語っていたが、まさにそのことを噛みしめるように、音に身を任せながらバンドセットならではの構成を楽しんだ。サポートバンドが退席し、「ここからは私だけの時間」とヒグチ。言葉が武器になりうること、自分を守るためにも使えること。「自分を守るために使うからいいわけじゃない」と静かに話すと、周囲の言葉で傷ついたことがあったと続け、「許してあげたいけど許せないこともあるよね。でもいつか許せるといいな」と口にするヒグチは、自分の気持ちにフラットに向き合っているように見えた。そんなMCの後に歌ったのは“悲しい歌がある理由”。生々しい悲しさややるせなさが漂う詞が、どこか温かい太く力強い歌声で歌い上げられる。「ヒグチアイの曲は辛くなるから聴きたくない」と言われることもあったと、かつてのインタビューでも語っていたことがあったが、包容力のある歌声からは、描かれる悲しささえ静かに受け入れるようなおおらかさを感じた。

声を震わせるように歌うサビが叙情的な“ほしのなまえ”に繋がると、間奏から再びサポートバンドが演奏に加わり、終盤に向けて温かい音色で盛り上がっていく。ゆっくりと希望を届けるように、壮大に展開した。再びヒグチが立ち上がってマイクを手にすると、“悪魔の子”へ。ストリングスの音色が幻想的ながら迫力を醸す。音域の広いパワフルな声からは力強さだけでなく、祈るような切実さも感じられた。疾走感のあるバンド隊が牽引する“まっさらな大地”、しっとりと景色を紡ぐ“東京にて”と、ライブは終盤に差し掛かる。「もう会えなくても、今日会えたから。もう会えなくても元気でいて欲しい、その人の人生を続けて欲しい。そう思っています。また会えたら、それはそれで嬉しいけど」そう話した後に演奏したのは“劇場”。ふくよかなコントラバスと歌声が美しく奏でられる。楽曲で描かれる様々な人の動きをドラマチックに描写し、観客を引き込んだ。「家族に向けて書いたけど、あなたに向けて歌います」と本編の最後を飾ったのは“縁”。軽やかなリズムが奏でられると自然と手拍子が起こり、ヒグチが笑みを浮かべ「さすが」と反応する。弾むように温かい歌声が乗り、親密な雰囲気を作り上げた。

「何を歌えるのだろう」と悩むことから、これまで3月11日にライブをすることを避けてきたというヒグチ。それでも「11年前に比べれば、私も大人になって。そんな私のできることは歌うこと」という結論に辿り着いた彼女は、アンコールで新曲を披露。切なく、やるせなく、そして力強く、様々な「小さな夢」を綴り、ライブは幕を閉じた。

Text:村上麗奈
Photo:藤井拓

https://www.higuchiai.com/

『HIGUCHIAI band one-man live 2022 [最悪最愛]』@EX THEATER ROPPONGI セットリスト
01.やめるなら今
02.前線
03.サボテン
04.ハッピーバースデー
05.火々
06.距離
07.悪い女
08.悲しい歌がある理由
09.ほしのなまえ
10.悪魔の子
11.まっさらな大地
12.東京にて
13.劇場
14.縁

ENCORE
01.新曲