INORAN VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

INORAN『Libertine Dreams』

みんなそれぞれ自分の頭の中が一番広い世界なんですよ。妄想すれば、いくらでも広がる世界を持っている。

INORANが前作『2019』に続き、約1年ぶりになる13thアルバム『Libertine Dreams』をここに完成。昨年から今年にかけてLUNA SEA結成30周年ツアーもあり、精力的に活動していたものの、ご存知の通りにコロナ禍の影響を受けて延期。そんな中、INORANは立ち止まることなく、自身の創作意欲に火を付け、こうしてソロ作品を届けてくれたのだ。ステイ・ホームの最中に楽しみながら作ったという今作はINORAN自身が作曲、演奏、アレンジまで一人で作り上げた作品となった。表題=自由な夢と掲げた真意や、最新型のINORAN流ハイブリッド・ミクスチャーを提示した魅惑のサウンドについて、本人の口からじっくりと語ってもらった。

■前作は3年ぶりでしたけど、今年は約1年ぶりのソロ作になりますね。

INORAN 去年LUNA SEAが30周年で久々にアルバム(『CROSS』)を出して、ホールツアーも控えていて・・・そこにパワーを集中しようと思っていたんですけど。2月ぐらいから地球規模でこういう状況になったので、LUNA SEAのツアーもほぼ延期になり、最初は自分のアルバムまでは考えられなくて。

■では、どのタイミングでソロ作を作ろうと?

INORAN コロナで日本も非常事態宣言が出されて、みんなステイ・ホームになるわけじゃないですか。そこで自分は何をしようと。良く言うと、長い春休みの到来なんですよ。「じゃあ、何しよう?パン作ろう・・・断捨離しよう・・・違うな。」って。(笑)

■それで?(笑)

INORAN それで曲を作り始めたんですよ。3月ぐらいですね。LUNA SEAのツアーが延期して、世の中もどこに向かうのかわからない中で曲作りをしようと。

■ただ、3月辺りだと、4月や遅くとも5月にはライブが再開できるんじゃないかという漠然とした希望もありました。誰もここまで長引くとは思っていなかった時期ですよね。

INORAN そうですね。家にいるときは曲作りをして、LUNA SEAのツアーも2月後半から3月初めまでギリギリまで粘って延期にする、次もまたギリギリまで粘って延期にする。段階を踏みながら、その中で曲作りしていました。

■そんな状況の中、曲作りは集中して臨めたんですか?

INORAN 集中というか、楽しみながら没頭してました。楽しいね、面白いねって、そんなストイックに作ろうって感じではなかったから。

■そういう意味では従来の曲作りと大きく変わらず?

INORAN もっと自由だったかな。どこかに行くことを取られてしまったから、ものすごく自由なマインドで挑みたかったのは一つありますね。休みだから旅行もしたいけど、どこにも行けないし。だから、ちょっとおかしな言い方だけど、みんなそれぞれ自分の頭の中が一番広い世界なんですよ。妄想すればいくらでも広がる世界を持っている。その中を旅しながら曲を作ればいいのかなと。

■脳内ジャーニーを楽しもうと?

INORAN そうそう!テレビとかもそうだけど、20分ごとに場所が変わる番組の方が面白かったりするじゃないですか。それで今回はいろんなものが出てきたというか。極端な話、前作だったら、セレーナ・ゴメスは登場しないですよ。(笑) でも今回は登場しても何の違和感もないというか。

■いろんな意味でストッパーをかけずに取り組もうと?

INORAN そうです、かける意味がないですからね。ただでさえ制限をかけられている状態なのに、自分でまたかける必要はないから。特に制作に対してはね。

■今作も聴かせてもらい、近作は無駄を削いだロック・サウンドにシフトしていましたが、今作はその流れとは確実に一線を画した作風になりましたね。

INORAN うん。良くも悪くも前作までは作った先がバンドのメンバーとフルスペックで同じ場所と同じ時間を共有して何かを作り上げる感じだったけど、今回はその先が読めなかったけど、音楽は紡ぎ続けなければいけない。それは音楽人としての使命感もあったし……この先のライブはどうなるかわからなかったから。

■ええ。作品を作り合えた後のビジョンが明確ではなかったからこそ、自由に作れたところがあると?音楽的には打ち込み/デジタル色が強くなり、スタジアム/アリーナ・ロックやダンス・ミュージック、しっとり聴かせるバラード風のナンバーもあり、より外に開かれた作風に仕上がってます。

INORAN 去年の末にドラマーのRYO君が手を痛めて、しばらくドラムを叩けなかったんですよ。でも彼以外は考えられないし、「レコーディングもどうしよう…」と思って、RYO君には失礼だけど、こういう機会だから打ち込みでやってみようと。逆転の発想ですね。

■そういう状況もあり、今作は曲作り、演奏、アレンジのすべてをINORANさんが一人で手がけて?

INORAN シンセやサンプル音源もあるんだけど、1人で全部やりました。まあ、デモ・テープを作ったような感覚ですよ。ほんとに家でお酒を飲んでいるときに録ったテイクばかりです。

■今作はデモ・テープをブラッシュアップさせたような感覚?

INORAN そうですね。自分のパーソナルって、いかに人から貰ったり、人と共有したものの中から形成されているんだなとよくわかりました。僕の中にはこんなパーソナルがあったんだって発見できましたからね。

■今回のタイミングで人と人の間で育まれた音楽観が自然と出てきたと?

INORAN 音選びだったり、ビート感であったり、『Libertine Dreams』というアルバム名も書いてもらった歌詞から取ったんですけど。「俺もこういう風に考えているよ!」って、そこも一致していましたからね。

■曲調的にはループ・フレーズも多く、BPM的にはどっしりしたテンポ感が基調になっていて、スケールの大きなロック・アルバムという印象です。

INORAN 結果的にそうなっただけなんですけどね。BPM130ぐらいが好きだけど、そうしちゃうと、誰かと一緒にやりたくなるじゃないですか。(笑)

■ちなみに曲作りはトントン拍子に進んだ感じですか?

INORAN 3日に1曲ずつのペースで、まだ他にもたくさんありますよ。長かったじゃないですか、ステイ・ホームが。家でYouTube、Spotifyなどを流したりして…まあでもこの時期というよりも、ここ2、3年で聴いたものが凝縮されている感じですね。例えば“Missing Piece”は、メキシコで聴いたジャスティン・ビーバーの“Sorry”かもしれないし。(笑) マネしたわけじゃなく、出てきちゃったのかなと。「意外と人間は辛いことを忘れないけど、俺は楽しいことも覚えているもんだぜ」って、「そっちの方が強いはずなんだよな」って。それが出た曲かもしれない。

■音楽から貰った楽しさやワクワク感も忘れたくないと?

INORAN そこにはいい友達だったり、いい景色が付いていますからね。

■今作の外に開かれたサウンドは、明るさや楽しい感情の方がネガティブなものより勝るんだ、という気持ちが色濃く表れた結果だと?

INORAN そうでもしないと、乗り越えられなかったですからね。(笑)

■はははは、なるほど。今作の制作をする上で取っ掛かりになった曲は?

INORAN これほとんど作った順なんですよ。だから“Don’t Bring Me Down”が最初にできた曲です。2、3月に作ったものですね。アルバムって僕の記録でもあるし、この時期はこんなことを考えていたんだなって。

■“Don’t Bring Me Down”は、直訳すると「落ち込むなよ!」という意味ですが、サウンド自体もとてもゴージャスな仕上がりですね。

INORAN 自分を鼓舞しているんじゃないですかね。「めちゃくちゃな世界だけど、失望するなよ!」って。自分に対しても言っているのかもしれない。