INORAN VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

INORAN『Libertine Dreams』

■ということは、自宅で曲作りしながら、INORANさん自身も落ち込むことがあったり?

INORAN 落ち込むというか、納得できないですよね。どうにもできないし、でも前に進まなきゃいけない。葛藤がありつつも生きていかなきゃいけないし、泣きつつも涙を拭いて笑いたいし、僕なりのブルース・スピリットみたいなものが出ているのかもしれない。

■お話通りなら、この曲の後に2曲目“Soul Ain’t For Sale”が出来たことになります。今作の中でもダンス・ミュージック色の強いナンバーですね。

INORAN この曲はギターが入っていなくて。今回はそういうものが多いんですよ、そこにもこだわりがなくてね。作り始めたときにこの曲のフックが出てきたときは、「アホっぽいな」って思って。(笑)

■ギターを入れていない楽曲に関しては、鍵盤で作ったんですか?

INORAN うん。鍵盤だったり、サンプル音源を使ってね。無理くりギターを入れても、トゥーマッチな場合もあるから。ギターは素晴しい楽器だけど、合う合わないはあるので、そこはケースバイケースですね。ほかにベースが入っていない曲もあるしね。ちょっともの足りないと思うけど、ホワイト・ストライプスもカッコいいじゃないですか。EDMもギターが入っていない曲が多いしね。ギターを無理やり入れたくないから、曲が求めているものを素直に具現化しようと。

■次々と曲が生まれていく中で、作品の全体像が見えてきたのはいつ頃ですか?

INORAN 歌を入れたぐらいですかね。今回は作詞も2人(Jon Underdown、Nelson Babin-Coy)に依頼したんですけど、その言葉の意味が影響し合って、このアルバムはすごくいいなと実感できました。制作の過程としては、オケと俺の適当英語のメロディがあって、それをJonとBabin-Coyさんにこういうことだと伝えて、歌詞とメロディを書いてもらうんですよ。そのときは5月だったので、スタジオで歌詞とメロディを歌ってもらい、ミックスダウンする流れですね。

■表題曲は大ぶりなギターリフを用いたシンプルな曲調ですが、これをアルバム名に持って来た理由は?

INORAN 歌詞を書いた人たちが「これがいいんじゃない?」という候補を挙げてくれて。「Libertine」という言葉は、昔からカッコいいなと思っていたし、今を象徴しているなと。僕の中では自由というより、放浪しているというか、ちょっと漂っているような感じなんですよ。ちょっと違うかもしれないけど、「Desperado」つまりならず者みたいな乱暴なイメージがあって。今の自分の心境や今の世の中を象徴するアルバム名だなと。人間らしくていいなと思って。

■“Soundscapes“は、ベース音が強調されたサウンドですよね?

INORAN そこはシンセでやっているんですよ。他のアーティストでも80’Sリバイバルというか、こういうビート感はいつの時代も高揚するじゃないですか。この曲は夜中にいろいろ組み合わせてできたものですね。

■あと、インスト曲“’75”も今作のいい差し色になっていますよね。ウッドベースの音色が印象的な大人びたアプローチです。

INORAN こういう世界観が作りたかったんですよ。映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、ルパン三世でもいいんですけど、ハードボイルドなイメージで作りました。曲名は仮タイトルそのままなんですけどね。まだここには入れていないけど、“63′”という曲もありますから。(笑)

■完成してみて、今作はこれまでの作品の中ではどんな位置付けになりそうですか?

INORAN 時期によってやることが違いますからね。今までのミクスチャーであり、その集大成みたいな感じかな。全部が混ざっているなと。

■そして、今作のマスタリングはレディー・ガガ、ジャスティン・ビーバー、テイラー・スウィフト、アリアナ・グランデ、アデルなど、錚々たるアーティストの作品を担当したランディ・メルリ氏を起用しています。音質も本当に素晴らしい仕上がりですが、今回お願いした経緯というのは?

INORAN 初めてお願いしたエンジニアから「ランディでやってみたいんだよね」と言われて、「いいじゃん、やりたい人とやろうよ!」って。「それが本当のグローバリゼーションでしょう!」って。皮肉ですよね、世の中はグローバリゼーションとは逆に向かっているから。(笑) LUNA SEAの去年出した作品も、スティーヴ・リリーホワイトと一緒にやったんですよ。一流の人だけがいいわけじゃないけど、やっぱり一流の人とやると刺激を受けるし、勉強になるんですよ。一流たるゆえんがありますからね。お客が入っている店には必ず理由があるから。その意味でも、今回ランディとできたのは良かったですね。聴いてみて、「なるほど、やっぱりすげえな」と思いました。音と音の空気の入れ方はこの人しかいないなと。トレンドを作っている人と仕事ができて光栄だし、この刺激がたまらないですよね。

■歌詞はお二人が書いたものだと思いますが、個人的には「DJが大好きな曲をかけてくれた もうすぐだ! 自由がすぐそこ! 今夜は誰かを救おうよ」(“Soundscapes”の訳詞)のフレーズが好きで、改めて音楽の力を感じました。

INORAN 今回はどの曲もサウンドのエッジと言葉のエッジがリンクしたなと。自分でもニヤッとするくらい嬉しいですね。

■わかりました。今後の予定に関してはいかがですか?

INORAN 当分の間はフルスペックでのライブは難しいですけど、新しい形にもトライしなきゃいけないですからね。僕らは完璧なもの、完全なものを求めて努力すべきだと思うけど…今だからこそ、音楽は必要だと思うし、人に生き甲斐を与えられるものだから。どんな形であれトライをしていくと思います。もちろん配信もやるし、同じ場所は共有できなくても、同じ時間は共有できるから。音楽人がそういう風にやっていかないと、将来も豊かにならないし、それぐらいの責任を持っていますからね。音楽に魅せられた人間として、まだ貰ったものを返し切れていないから、恩返しをするための努力をしていこうと思います。

■今作の楽曲がライブでどんな風にプレイされるのか、想像が付かないところがあるんですよね。

INORAN ああ、これはデモ・テープと捉えていただいて、バンドになったときにまた全然化けて、違うアレンジになるから。例えばチェインスモーカーズだってさ、打ち込みなのにライブではドラムがいたりするわけでしょ。それがまたかカッコいいわけだしね。

■わかりやすい例えです。そうなると、ますます実際のライブパフォーマンスが楽しみになってきました。

INORAN そうそう、俺も楽しみ。できるだけ早くライブをやりたいですね。奏でることが僕の仕事ですから。

■最後になりますが、今作の発売日前日(9月29日)に、INORANさんは50歳の誕生日を迎えます。これからやってみたいことはまだたくさんありますか?

INORAN 限りなくありますよ!見たことない国や、聴いたことない音楽もあるし、最終目的地もわからないですからね。まだまだいろんな人と出会いたいですね。

Interview & Text:荒金良介

PROFILE
LUNA SEAのギタリストとしてデビューし、活動を展開する一方で、1997年にソロとしての活動を開始。1stアルバム『想』では、世界的アーティストDJ KRUSHとタッグを組み、当時まだ日本ではメジャーではなかったHip Hopを取り入れた最先端の音楽を表現し、大きな注目を集める。また洋楽ファンからも支持の高かったFAKE?のメンバーとしての活動、FEEDER のTAKA等と結成した多国籍バンド Muddy Apesの活動や、香港ではGUN’S AND ROSESのオープニング・アクトを務めたり、LUNA SEAの河村隆一らと結成したTourbillonでは、日本武道館でデビューライブを飾る等精力的な音楽活動を展開。その他、2008年には映画「《a》symmetry」の音楽プロデュースや、日本最大級のファッションショー「KOBE COLLECTION」での楽曲提供及びモデル参加等、活動の場を広げている。
http://inoran.org/

RELEASE
『Libertine Dreams』

初回生産限定盤(CD+BD)
KICS−93940
¥5,280(tax in)

通常盤(CD)
KICS-3940
¥3,300(tax in)

KING RECORDS
9月30日 ON SALE