INORAN VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

INORAN『AND DAY NOW』

サウンドトラック的な色合いは強いかもしれない、夜よりは昼というイメージ

昨年からINORAN一人で手掛けてきたソロアルバム『Libertine Dreams』、『Between The World And Me』に続き、3部作の完結編となる15thアルバム『AND DAY NOW』がここに完成。混乱する世の中を冷静に見据え、「ここではない光多き場所に行こう!」と語りかける今作は、奇しくも次第に街に人の活気が戻ってきた現代の空気ともリンクした作風に仕上がっている。明るく、温かく、聴く者を包み込む今作の中身について話を聞いた。

■まずは約2年ぶりに有観客で行ったライブ企画「INORAN-TOKYO 5 NIGHTS-BACK TO THE ROCK’N ROLL」、5日間10公演のスケジュールを走り抜きました。やり終えた感想から聞かせてもらえますか?

INORAN 無事に終われて良かったなと。1年前に計画して延期になり……それでスケジュールが合わなかった人には申し訳ないんですけど、観ることができた人には観てもらえたという喜びもあるので、素直に嬉しいですね。ライブの内容は10公演、同じ色のものはなかったと思うし。あと、この状況の中でライブができたので感謝の気持ちでいっぱいです。

■INORANさん的には1日2公演というのは体力的にはいかがでしたか?

INORAN 疲れると言うより、パワーは必要ですよね。オーディエンスから受けるパワーも違うし、ライブはパワーのぶつけ合いですからね。その意味で力は必要でした。だからといって、1st STAGEもセーブしたくはないから、自分をコントロールするのが大変でした。

■INORANさんのバースデーライブである4日目(9月29日)の2nd STAGEを観させてもらいましたが、最初から演奏もブッ飛ばしていましたよね!

INORAN  完走目的ではやりたくなかったし、そこは一期一会ですからね。その感覚で挑みました。

■喉が枯れそうとMCでも言われていましたが、観ていても全くそんな気配は感じませんでした。

INORAN 朝4時頃には起きて喉を調整していましたから。だからほとんど寝てないんです。「1日3分くらいかな?」……それは冗談ですけどね。(笑)

■個人的には恵比寿LIQUIDROOMでは、今までヘヴィなロックバンドのライブをたくさん観てきましたが、INORANさんのライブは音がとてつもなくでかくてビックリしました。

INORAN いや、(筆者のMOTORHEADのTシャツを指して)それよりは大きくないでしょ?

■いえ、MOTORHEADに負けないくらいの爆音でした!

INORAN はははは。でも いいでしょ?(笑) やっぱり音は「ドン!」と来ないと。ライブはそういうものだから。低音とか感じて欲しいもんね。

■INORANさんの脇を固めるメンバーのテイストもあの爆音ライブに繋がっているんだなと感じました。音楽的には90年代のUSヘヴィロックと形容したくなる、いかついサウンドですよね。

INORAN うん。ああいう音になるんですよね。二人(INORAN、Yukio Murata)でジャズマスターのギターを使っているし。彼らがいるからライブは成立するし、それ以外は考えられないですから。

■そして、あの日はバースデーライブということもあり、誕生日のお祝いサプライズプレゼントもありましたが、まさかの天下一品(のカップ麺)という。(笑)

INORAN ははははは。楽屋にちゃんとケーキはあったんですけど、いつの間にか天下一品に入れ替わっていましたね。(笑)

■この辺で作品の話に移りたいんですが、今作は3部作の完結編という形になります。前2作は作った順番に曲を収録したと言われていましたが、その流れで行くと今作もそういう方向で?

INORAN 実は今回は作った順番通りではないんですよ。去年「コロナが収束すればいいなぁ」と思ったけど、今年に入っても全然で……むしろすごくなって、緊急事態宣言になってしまったので、また曲を作ろうかなと思って書き始めました。

■それはいつ頃からですか?

INORAN 今年の3月頃からですかね。

■もちろん予測はできなかったかもしれませんが、今作の内容自体は……今は街に人が増えてきて、明るい兆しが差してきた現代のムードとすごくリンクした作風になっているなと。

INORAN 去年は「元に戻ればいいなぁ」とは思っていたけど、「多分、完全に元に戻ることはないんだろうなぁ……」と思っていたから。だとしたら、明るい未来を設定したいなと。「明るい未来を描くしかないでしょ!」って、そういうニュアンスはあったかもしれない。辛いこともあったけど、目的を描いて、そこに向かうパワーになればいいなと。例えば、「仕事は大変だけど、1ヶ月後にあそこに行けるから頑張ろう」とかね。自分もそういうものを描きたいし、そういう気持ちに寄り添える音楽を作りたいなと思って。

■このあいだ爆音ライブを繰り広げていたとは思えない音楽的な振れ幅ですね。

INORAN 面白く言うなら、INORANという一つの商店街みたいなものなんですよ。こっち(作品)は魚屋、あっち(ライブ)は肉屋みたいな。同じ商店街だからライバルでもないし、どちらもあるから素晴らしいんですよ。それでいいのかなと。その意味で僕は商店街でいいのかなと。毎朝豊洲に行って、魚を選んでね。(笑)

■INORANさんが豊洲に行く絵はあまり浮かびませんが。(笑) 今作はエレクトロや打ち込みの比重が増えて、ブライトな高揚感が高まっていますよね。1曲1曲というよりは、作品全体で聴かせるトータル性を意識されたところもありますか?

INORAN うん。サウンドトラック的な色合いは強いかもしれないですね。これを持って外に行きたいなとか、夜よりは昼というイメージは強かったですね。

■INORANさんが思う「昼」のイメージというと?

INORAN 暖かいところとか、開放的なところ。

■確かに今作を聴いていて、日だまりの中にいるような心地良さを感じました。そのイメージからどういう形で楽曲に落とし込んだんですか?

INORAN それは思い浮かんだものを積み重ねていく感じですね。だから、雨の日はできるだけ作らないようにしていました。天候に気持ちが影響されて、それが音にも表れるんですよ。何年か前にもハワイに行って、曲を作っていましたからね。自分を解放して作っているから、そういうものに影響されちゃうんですよ。だから、夜もなるべく曲は作らないようにしているんです。朝の7、8時から作り始めて、昼には終りにするみたいな。そうしないと、どんどん雑念が入ってきて、フレッシュな気持ちでいられなくなるから。