KEIKO VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■“Fly black swan”は歌詞がすごく気になっていたんですが、「七の炎」って何ですか?

KEIKO いや、私にも「何ですか?」です。(笑) これは私の中でも掘っちゃいけないっていう……。例えば1枚の絵画を見た時に思う事が様々なように、自由度がある曲だと思っていて。梶浦さんの作品もそうなんですけど、いろいろと断定しない方が良くて、想像できる余白がいっぱいの曲であり、この“Fly black swan”は、そういう面で梶浦さんの作る楽曲とちょっと似ているなって。だから音域とか歌い方も、今作のアルバムの中ではKalafina時代の表現に一番近くなっていると思います。多分それはすごく抽象的な何かを表現したい時に出す声なんです。「なんなんだろう、この“七の炎”って?」「謀計・策略って、何をやっているんだろうこの人?」って、ずっと「Why?」のクエスチョンがつくのが大正解です。

■確かにずっと「Why?」でした。(笑) きっとこれからも「七の炎って何?」って聞かれると思います。(笑)

KEIKO それを読み解くのがリスナーの楽しみだと思います。(笑) 音楽って断定されないのがいい所ですが、そういう曲ができました。

■今作は「いろんな女の子がいる」という言葉の通り、短編小説集のような印象を受けました。ファンの方たちから曲の解釈を聞くことはありますか?

KEIKO アルバムからの先行リリースを毎月行っていた時に、SNSで「どの曲の女の子が好み?」というのをみんなに聞いてみたんです。その時「どのけーちゃんも好き。どれも違い過ぎるけど、綺麗にカットされた宝石は触るところ、見るところによって光り方が違うから」ということを言ってくださった方がいて。すごくドラマチックに綴ってくれるんだなと思って。軽くそんな質問をしたことが申し訳なくなりました……。(笑)

■私も解釈を思いついたらぜひお伝えしますね。(笑) 先ほどの「どの女の子が好き?」というお話がありましたが、KEIKOさん的には今作のアルバム曲では、どの子が素の自分に一番近いと思いますか?

KEIKO 私は“キライ。”と“ゆらゆら”だと思います。でも、日が暮れると“ひとりじゃないから”の子の部分が出てくるし……。今回いろんな曲を歌わせてもらって、自分がさらにわからなくなりました。(笑) でも「わからないままでいいや」って。これからも探し続けようと思っています。

■答えを1つに決めることはないですもんね。

KEIKO ですよね。でもなんか1つくらいは欲しいじゃないですか。(笑) しかも「KEIKOちゃんってこういう子」ってイメージ付けられていたものがあるからこそ、わかんなくなっちゃった自分が不甲斐なくて。でも、だからこそまだまだ探して行きたいですね。音楽だけじゃなくて、日常生活で探していくものが音楽に繋がるから。音楽だけやっているのも違うかなって最近は思います。今回日常感を歌わせてもらったからこそ。

■日常を知らない人に日常は歌えませんしね。

KEIKO そう。ずっと芸能をやっているから、オフィス街に行って、タイムカードを押して……みたいな日常はわからないし。だから、今回のアルバム制作では、「みんなが当たり前に過ごしている日常」を知らなきゃいけないなって思って。できるだけオフィス街に行ってみたり、乗ったことの無い電車の路線に乗ってみたり、いろんな所に出没して、自分の曲を聴きながら、「ああでもない、こうでもない」みたいな制作をしたんです。

■きっとそれが“キライ。”に現れているんでしょうね。移動する曲じゃないですか。(笑)

KEIKO そうです。(笑) 丸の内線に乗りながら聴いて、「曲の冒頭にノイズが欲しいかも」って思ってそういう音を入れてもらったり。そういう背景も知らないと、音楽って唐突になっちゃいますからね。タイアップ曲を歌う時は「その世界観の作品」だけど、こうやってとくに何の作品にも関係ない曲って、普段の日常が作品なのかなって思いました。

■そういえば私は恋愛関係に疎いので、“キライ。”で何があったのかがよくわからなくて……。あれは浮気されちゃった女の子の歌なのでしょうか?

KEIKO “キライ。”は、結婚適齢期を迎えた女の子たちの会話や日常の歌です。「あの人有望株なんだけど!」みたいな、打算でしか考えてない人。(笑) 恋に落ちている瞬間の気持ちを素直に言葉に出来る女の子の一面を描いた曲かなって。

■なるほど。Twitterの婚活アカウントを覗いているみたいな……?

KEIKO とても今っぽい曲だと思います。結婚願望が強い人たちは「婚活アプリの方がちゃんと結婚をしたい人がいる」とわかっているのですが、そういう時代背景を考えると、期待し過ぎたり、期待外れだったりは、すごく「今の時代」だなって。“Alcohol”も普段頑張っている女の子だからこそ、アルコールを飲んだ時ぐらいふわっと解放……みたいな。このアルバムでは、いろんな女性たちが一生懸命生きている中の一部分を切り取って歌った感じがあります。

■だからこそ日常の単語がたくさん出てくるのも魅力的ですよね。今作の中で言うと、“ゆらゆら”は、“キライ。”と対照的な印象があります。

KEIKO 音楽的には対照的です。すごくセンチメンタルなアオハル感があるし。例えば、新海誠監督の映画って、観るとなんだか懐かしい気持ちになるじゃないですか。「あったよね、こういう風景!でも今はもう無いよね、コンクリートジャングルで生きていると」みたいな。そういった「ふと戻れる瞬間があったらいいな」という想いが、“ゆらゆら”にはあります。イメージ的には淡いラムネとか泡玉みたいな、シュワシュワしている、ピュアなものの雰囲気を出したくて。その解放って大人になるとなかなかできないから。かといって、音の作り方は今っぽかったから、「今と昔」が上手くリンクして、すごく面白い曲だなと思いました。一聴き惚れだったんですよ。今作はスッと入ってくる曲が多かったんですけど、“ゆらゆら”と“キライ。”は、結構琴線に触れるものがありました。

■“ゆらゆら”は爽やかな雰囲気の割りに、歌うのが難しそうな曲ですよね。リテイクは多い方でしたか?

KEIKO ”ゆらゆら”は割りとスムーズにレコーディングしましたね。ある程度はレコーディングする前に作っていくんですよ。プリプロでワンコーラスってキーや声が合っているかを見るんですけど、それ以外はその後、自分で作っていく作業をしてからレコーディングするので。今作の中では、“ユア”はテイクでガラリと雰囲気を変えて歌った曲でした。ものすごいテイク数だったと思います。他の曲は結構スムーズにいったように思います。

■楽譜が難しい曲が多いですよね、今作の曲は。

KEIKO 今回は「歌い過ぎない」のを大事にしました。入り込み過ぎちゃうと、リズムも音符も置いていかれちゃうんですよ。歌い過ぎないことは逆に難しかったんですけど、去年1年間は歌い方や表現が固まったのもあって、そういう曲たちが増えたように思います。

■3月にはビルボードライブ公演がありますよね。もうご準備は進んでいますか?

KEIKO レコ発という形になるので、基本的にはこの『CUTLERY』の収録曲が中心となっていきます。出来上がった作品として、曲たちをちょっと俯瞰して見ながら、1曲1曲をどういうふうに見せたいかを日々やっていくと見えてくるものがあるので、去年からそれをやり続けています。それで“Fly black swan”は、少しずつ好きになってきました。(笑)

■「形から入る」というメンタルの作り方の話があったので、今回の衣装にも注目ですね。楽しみにしています。

Interview & Text:安藤さやか

PROFILE
2008年より梶浦由記プロデュースによる3人組ボーカルユニット「Kalafina(カラフィナ)」 として活動。2020年春、ソロシンガーとして活動をスタート。2020年12月2日、1stアルバム『Lantana(読み:ランタナ)』をリリース。2021年12月8日、2ndアルバム『dew(読み:デュー)』と、毎年1作ずつアルバムをリリースし、様々な音楽ジャンルへの挑戦を経て経験したことを活かしながら、2023年2月8日には、さらにKEIKOならではの音楽をより深く掘り下げたNEWアルバム『CUTLERY』をリリース。3月には、このアルバムをひっさげて、ビルボードライブ横浜&ビルボードライブ大阪にて『KEIKO Billboard Live 2023 “CUTLERY” K009~012』を開催。
https://avex.jp/keiko-singer/

RELEASE
『CUTLERY』

初回生産限定盤(CD+BD+アナログ盤(EPサイズ)+フォトブック48P)
AVCD-63417/B~C
¥14,300(tax in)

通常版(CD+DVD)
AVCD-63418B
¥5,280(tax in)

通常盤(CD)
AVCD-63419
¥3,520(tax in)

avex trax
2月8日 ON SALE
https://avex.lnk.to/KEIKO_cutlery