KEIKO VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

日常を生きる様々な「女の子たち」を歌うニューアルバム『CUTLERY』。

「ソロ活動当初には自分には難しいかなって思っていた。当たり前の日常を切り取った音楽」──そんな楽曲たちが収められたKEIKOの3rdアルバム『CUTLERY』が、2月8日にリリース。酔いが回る深夜の電話に、いつもの駅のホーム、校庭の片隅。日常の風景と幻想的なイメージが交錯する緻密な音楽世界を、洗練されたサウンドに乗せてKEIKOの婉麗な歌声が紡ぐ今作。インタビューでは楽曲制作の裏側や歌声の作り方、音楽と自身の感情の関係が語られた。

■今回ソロ3枚目のアルバム『CUTLERY』が発売となりますが、KEIKOさんの活動自体は何年目になりますか?

KEIKO いつからを活動歴と言っていいのかな……?って思うんです。Kalafinaのデビューは2008年だけど、梶浦由記さんのアニメ『ツバサ・クロニクル』のサウンドトラックで歌わせてもらったのは2005年だし。一応ざっくり17年、レコーディング歴になると18年目になるのかなって言っています。

■『ツバサ・クロニクル』が18年前って、時の流れは早いですね……。

KEIKO そうなんですよね。「やめて!」ってなります。(笑)

■今回改めてKEIKOさんの歌声を細かく聴かせていただいて、「なんて綺麗なんだろう」とうっとりしました。そんな美声のKEIKOさんにも、「こんな声になりたい!」と思う人などはいらっしゃるんでしょうか?

KEIKO 中学時代に尾崎豊さんの歌声に衝撃を受けて、「ヴォーカリストになりたい」と漠然と思いました。尾崎さんは人の心に「グッ!」っと刺さるような歌声をしています。最近だと2~3年前に、玉置浩二さんのオーケストラコンサートに行ったんですけど、玉置さんや尾崎さんのような魂を震わせてくれる歌声には、なりたいというよりも表現者としての生き様が表れている所に憧れます。私は、声は人柄だとずっと思っているのですが、挨拶した時の声でも「何か」があるじゃないですか。だから、尾崎豊さんや玉置浩二さんへの憧れは、人としての憧れに近いと思います。

■KEIKOさんはYouTubeでカバー動画も公開されていますが、歌われている曲はどういった意図の選曲なのでしょうか?

KEIKO ファンの方たちから「歌謡曲を歌って欲しい」というリクエストが多かったんです。歌謡曲を歌われている方というと、中森明菜さんや山口百恵さんのように低域で歌う方が多いじゃないですか。きっとそういうイメージなんだと思います。ただ、私はそれまで歌謡曲を歌ったことがなくて、だから全く新しい曲という形で聴いてみたのがカバーのきっかけでした。

■ご自身で考えたコンセプトがあっての選曲というわけではないんですね?

KEIKO そうですね。今は2ndシーズンと題して、「昭和歌謡を歌う」というテーマでやっていこうと思っています。選曲は基本的には自分ではしないです。ソロ活動になってから自分探しに出る時間が多くなりました。探しても探してもなかなか見つからなくて、「最終的に、自分って何?自分が一番わかんない……」みたいな。だから、みんなから良いって言われたものを聴いてみたり、やってみたりするのが早いかなと思って。そういう所からいろいろ始めています。

■「他人から見た自分の姿こそ真理」という所はありますよね。音楽の好みについてですが、KEIKOさんの理想は何年代くらいになりますか?

KEIKO 私は安室奈美恵さんやSPEEDさんという「歌って踊る」時代のど真ん中で、小学校、中学校、高校と過ごしてきました。実は私はそんなに音楽に詳しいわけではなくて、一般的な環境で育ったので、いわゆる王道の、同世代の人たちが通って来たものを好んで聴いてきましたね。

■それではご自身の理想形はだいたいそのくらいの時代なんですかね?

KEIKO それがそうでもなくて、理想形はある種、尾崎豊さんのみだったんです。きっと人として偏っているんでしょうね。(笑) 本当に尾崎豊さん一択なんです。尾崎豊さんの歌声を聴いて、衝撃を受けて、それまで習っていたダンスを一切辞めて、ヴォーカルに徹することにしました。でもやっぱり、そこから私の声を見つけてくれたのは梶浦由記さんだったんです。梶浦さんによって私の音楽人生が培われていきました。

■少し意外な気がします。KEIKOさんはクラシック音楽などを聴いてこられたようなイメージがありました。

KEIKO 全然聴いていないんです。(笑) 梶浦さんの制作現場に飛び込んで行って、その現場で楽譜を読めなかったのは私だけでした。そんな右も左もわからない所から入ったので、日々勉強という感じで進んでいきました。

■ところでKEIKOさんの楽曲には、タイアップ系の抽象的な楽曲がたくさんありますが、どれも楽曲の世界に生きている人の歌のようで素敵です。この表現力はどこから生まれているのでしょうか?

KEIKO 誰かの作品の中に入るのが、自分にとってすごく自然なことだったんです。ソロになった時、自分の経験や思う事がダイレクトに詞になっているものを改めて目の当たりにして、「すごいな」と思いました。逆に私は、いろんな世界に入り込むことが自然すぎて……今回このアルバム『CUTLERY』で、初めて作詞にも作曲にも自分が携わらなかったのですが、自然とやり甲斐と楽しさを感じられたのは、何か(誰か)の世界に入るのが根本的に好きだからだと思います。Kalafina時代からの武装を外して、ソロのKEIKOになった瞬間に、「私には何があるんだろう?」とすごく不安になり、自問自答が始まったほどです。Kalafinaの時は毎回作品に入り込むことがとても自然なことで、好きなことでした。

■純粋な興味なのですが、KEIKOさんは歌声をどのようにケアしていますか?

KEIKO 「あまり過敏にならないように」って時期があったり、「めちゃめちゃケアしよう」って時期があったり、今までいろんなものを経て、「歌い続けて、休む」が一番だなと思います。声帯も筋肉なので、使っていないと固まっちゃう。でも、やりすぎていると傷んでしまうので、最終的には「歌い続けて、休む」というのに行きついて、お休みする時間をちゃんと作るようにしてケアしています。

■筋トレも数日おきにって言いますもんね。

KEIKO 本当にそれと同じで、歌声も筋肉です。あとは歌い続けることかな。メンタルがそのまま歌声に表れるので、メンタルコントロールと歌声はイコールだと思います。

■その言葉に救われる人がたくさんいると思います。さて今作のニューアルバムですが、1曲目“私アップデート”のイントロからすごくインパクトがありますよね。この曲、めちゃくちゃ複雑なリズムじゃないですか。どうやって覚えて行ったのでしょうか?

KEIKO アップテンポの曲は、当たり前だけどリズムが速いので、歌詞などが身体に入っていないと遅れていきます。遅れていくと音が合わなくなってきて、最終的には音楽として成り立たない。今の音楽の傾向として、1小節の中に音符が溢れていて言葉数も多いから、その「情報過多だよ」みたいな言葉をどうやって音楽にするかっていうのが、今回のアルバム全曲を通して大事にしていた所です。まずは歌詞なんですよね。ちゃんと身体に入れないで読んじゃうと滅んでいく。この手のアッパーな曲を歌う時は、めちゃめちゃ練習します。歌わなくてもいいから口ずさんで身体に入れていくのが必須です。

■リズムといえば、次の曲“Alcohol”は素数的なリズムが特徴的ですよね。私は三連符フェチなのですが、三連符が均等で感動しました。

KEIKO これは作家さんにもリズムを確かめたんです。「タ・タ・タ/タ・タ・タ」なのか、「タータタ/タータタ」なのか。「言い出したら止まらないね!」っていう。(笑) もう頭大混乱だから「やめて!」みたいな。でもアルコールを飲んだ時の浮遊感を出したいから、最終的には「何も考えずに歌いますね」って言って、確認して身体にリズムを入れた上で、ふんわり歌いました。

■最終的に録音された三連符は最高でした!でも、KEIKOさんはあまりお酒は飲まれないんですよね?あの曲は実体験的な歌ではなかったのでしょうか?

KEIKO 私はあまりお酒が飲めないんですよ。なので、今回はいろんな作家さんの曲を想像しながら歌ったので、タイアップ作品の「物語に入る」というところに近しいような、「誰かの日常の物語に入る」といった制作の仕方をしました。

■お酒を飲んだとしても、“Alcohol”の主人公のような飲み方ではない感じですか?

KEIKO でも実際にお酒に酔うと隙が出ますよね。その隙を出している自分が嫌いなんです。だから、どこかで拒絶しています。だけど無理やり何かをやらされたことで、新しいものが開けることってあるじゃないですか。たまにプロデューサーさんや、信頼している人たちとかと一緒に「今日は無理やりお酒を飲む!」とか……まぁあまり飲めないんですけど、そういうふうにして、自分を解放する時間みたいなものは、ソロになってから作るようにしていました。だから、この曲は実体験ではないけど気持ちはわかります。(笑)

■KEIKOさんの歌声は、ミックスボイス~ファルセットの印象が強いのですが、今作は曲によって声の感じがガラリと変わりますよね。声は曲ごとに作るのでしょうか?

KEIKO そうしたいなという欲があります。“Alcohol”は、芯のある声が邪魔する気がしたので、肩の力がふわっと抜けて、ちょっとポケットに手を突っ込んじゃうくらいのだらしなさで歌っています。「形から入れ」という昔の人の言葉は、ある意味間違っていないなというくらいに、形から入ってみました。(笑)

■形から入るとメンタル的にもスイッチが入りますよね。他にも形から入った曲はあるのでしょうか?

KEIKO ありますよ。洋服とかも曲に合うものにした日もあった気がするし。だいぶメンタルが如実に出ちゃうんですよね。それこそサブスクとかで長いシーズンのドラマや映画を観ちゃうと、私はもうその主人公になっちゃっていて、危険な時があって。(笑) 私は本当に作品に入り込んじゃうんです。好きというよりも、勝手になっちゃう。(笑) だから、そのままで行くと口調とかトーンとかテンポ感がその作品に惑わされちゃいます。

■あ、その気持ちはわかる気がします。(笑)

KEIKO それがあるので、レコーディングの時にはメンタルコントロールをちゃんとして、フラットな状態に持っていきます。内向的になると声量も落ちて、意思がない歌になっちゃうので。レコーディング作業って、ある意味ライブ以上に繊細なので、メンタルコントロールができてなんぼだなっていうのは、今回特に感じました。

■日常系の曲では、壮大な物語が無いからこその難しさもありますよね。

KEIKO そうなんですよ。“Close to you”みたいな物語を読み聞かせている曲は、コントロールをする必要も無いんですけど、今回はいろんな女の子の主人公を歌わせてもらったから、曲によってはすごくその難しい部分が出てしまって。

■今作で言うと、“Close to you”と“Fly black swan”が物語っぽい作品ですね。なんとなくモチーフがありそうというか。

KEIKO 私は曲が出来上がった後に全体の印象を色濃く感じるタイプで、制作している時は夢中になりすぎて、俯瞰して見れなかったりもするんです。だから、MIXが上がって来た段階でやっと「KEIKOさんの歌を聴いています」みたいな感じになれて、その時にモチーフや聴かせどころが浮かんでくるんです。とくに“Fly black swan”の女性像が初めて聴いた時には全く見えなくて、「どこから切り崩したらいいんだろう……?」って思ったんですけど、消化し終わった今聴いてみると、割りと明るい場所にいる女性像が見えます。暗い所でも綺麗に光が差し込んだところで舞っているような人物像が見えたので、そういうモチーフがあります。“Fly black swan”は第一印象が悪かっただけに……。

■印象悪かったんですか?!“Fly black swan”の女性像って、なんだか「ルパン三世」に登場する峰不二子みたいな感じじゃないですか?(笑)

KEIKO 私、ああいう感じが苦手なんですよ。(笑) 「声がすごく合ってる」って言われた時、悲しかったんです。(笑) 人からの印象と自分が思っている印象が違うことが面白過ぎました。でも、今ちょうどスタジオで歌う時間を作っているんですけど、歌っていくうちに「案外いいヤツじゃん!この“Fly black swan”の女の子!誤解していてごめんね!」みたいな気持ちになっています。(笑)