葛藤と苦悩の中に自分を見出すニューシングル「人生が変わっても、スタートラインに立つだけですから」。
鷲尾伶菜がデジタルシングル『正解』を3月3日にリリース。自身が作詞したタイトル曲“正解”はLDH Records移籍後初となる作品で、「鷲尾伶菜」を形成するには欠かせない自身が作詞に、これまでの活動の中で彼女が感じてきた苦悩や葛藤を描きつつ、感謝や気付きを歌うロックなエールソングとなっている。インタビューでは久々の新曲について、歌詞に込められた想いやヴォーカルの注目ポイントなど話を訊いた。
■2024年から2025年頭にはビルボードライブや国民スポーツ大会のテーマソング歌唱、イベント出演など様々なことがありましたが、特に印象的なシーンはなんでしたか?
鷲尾 2024年から独立して、もう本当に1からファンクラブだったり、自分がいる場所だったりを立ち上げるのが、すごく大変な1年になりました。その中でもやっぱり「音楽」というものは定期的にファンのみなさんの前で披露する機会があれば、という思いで活動していたんですけど、一番大変だったことと印象的だったことは、どちらも独立して事務所が個人になって……という「基盤作り」の部分でした。時間もかかったし、人脈を作る所から始まった所もあり、事務所があることの有難みを身をもって感じた1年でもありました。
■アパレルブランドも立ち上げられていましたよね。
鷲尾 これもやっぱり人脈で、活動の中でファッション関係の方とお会いする機会が増えて、その中で、音楽活動にはMVやライブなど、リリースの度に衣装が必要になってくるからこそ、「そこを自分のアパレルブランドでできたら、音楽ともリンクして素敵だよね」という話になったりして。音楽とファッションはちょっと違うものに見えるし、自分の本業は歌手なので。だけど、また違う分野でファッションもやってみることによって、繋がりを作れたらいいなと思ったりもしています。
■確かにビジュアル上で衣装はすごく大事ですもんね。そして30代を迎えている鷲尾さんですが、30代の目標はありますか?
鷲尾 ちょうどこの間31歳になったんですけど、30代は20代の頃にできなかったことにいろいろと挑戦したいなと思い始めました。自分でスケジュール管理などをやることにより、それなりに時間も作れるようになったので、まだ行ったことがない国に行ってみたり、知らない文化に触れたり、食に触れたり、世界遺産を見たりして、音楽や小説、映画を見ることとはまた違う、「自分で見て経験する感性」を磨きたいなと思っています。なので、30代はいろんな国に行ってみたいです。今1番行きたいのはエジプトです。リゾート地があるらしくて、そこに泊まってみたり、世界遺産を見たり、どんなご飯を食べるのかを調べたりしたいです。
■ぜひいろんな所に行ってみてください。さて、今作『正解』ですが、まず今回のジャケット写真がすごく抽象的だなと思ったんです。これにはどんな意味が込められているのでしょうか?
鷲尾 これは学校のプールみたいなイメージなんです。今回の“正解”という曲は自分で作詞したんですけど、MVの中には過去の自分を連想させるようなシーンがあります。それこそ学生時代に感じた音楽に葛藤するようなシーンを撮ってもらったりもして、今の自分と過去の自分をリンクさせて、「過去があって今がある」、「過去からずっと音楽をやってきているからこそ」というテーマで作ったんですよね。だから今回のジャケットは学校のプールにして、そういう所で音楽を聴いているシーンや、バンドで歌っているシーンもあるんです。
■この“正解”という楽曲を書きたいと思ったきっかけや出来事はありますか?
鷲尾 「レーベル移籍後1発目の新曲」というのが大きかったですね。去年は移籍でバタバタして、新曲制作ができなくて。けっこう時間が空いてしまったので、ファンの皆様にも「久しぶりの新曲」という感じになってしまったと思います。だからこそ去年1年は「自分とはなんだろう」と、自分に向き合う時間がありました。その中で、「音楽」というものが自分の軸にあるから、意外とそういうテーマで曲を書いたことが無いことに気付き、ちょっと書いてみようと思い、今の自分が思うこと、今まで思ってきたこと、経験してきたこと、そして世間に対する自分の気持ちみたいなものを歌詞にしました。
■確かに「移籍後初シングル」としてとても説得力のあるものに感じました。
鷲尾 音の感じやメロディの感じもすごく勢いがあるロックなテイストなので、言葉もあんまり選ばず、雑で無骨で、ちょっと強い言葉を使っています。カッコつけることのない自分の気持ちみたいなものを表現しました。
■でもこのアウトロのところで「錆びついたままの針」とか、ちょっと抽象的になるんですよね。
鷲尾 ここの歌詞はFlowerというグループをやっていたことから来ています。時計というテーマでライブを回っていたり、時計をテーマにした曲があったりしたので、そのことから思いついたんです。「朽ちたままの花びら」もグループのこととして書きました。
■「チクタク」した音のSEも入っていますしね。
鷲尾 今回は私からも「こうしてほしい」という意見を結構出させてもらって、メロディに関してもAメロから「ちょっと別パターンも聴いてみたいです」という提案を何度も何度もやらせてもらったりして。試行錯誤してできた曲なんです。
■全然違う案もあったんですか?
鷲尾 最初の曲は全然違いました。トラックとかアレンジも全く違ったし、まずメロディが違うんですよ。だから、「曲ってこんなふうに息が吹き込まれるんだな」と感じて、制作過程からすごく楽しかったです。
■その別案の曲も聴いてみたいところですね。(笑) ところで鷲尾さんは「歌うことが好き」というイメージが強くあるのですが、歌詞のように嫌になるほど歌って傷ついた経験もあるんですか?
鷲尾 たくさんありますよ!やっぱり自分が思い描いている反応が無い時って、当たり前にあるじゃないですか。いろんなスタッフのみなさんと一緒に「0から1にする」というものすごく大変な作業を頑張って作ったものでさえも、自分が思ったようには届かないし。一方で、心ない言葉に傷つけられることもたくさんあるんだなということが、音楽活動をしていて伝わってきました。ネット社会だから仕方ないけれども、たくさん歌っていると嫌になることもあります。だからやっぱりネガティブな気持ちになる時もたくさんあったんですけど、そういう気持ちを言葉に変えて曲にしたものを聴き返すといろんな情景が浮かんできて、背中を押してくれたし、自分の人生を変えてくれた曲だったなと思ったりもしました。そんな想いを“正解”の歌詞に込めました。
■逆もありますよね。軽いつもりで歌った曲が大ヒットすることもあって。
鷲尾 そう。(笑) あんまり自分が好きじゃない曲というか、自分的にはちょっと違うのかもという曲だけど、人生を変えてくれた曲もたくさんありますよね。思い返すと大切な曲だし、その曲があったからこそ、いろんな夢を叶えることができたんだなと思えるので、ありがたいなと感じます。
■そのことが伝わる歌詞になっていると思います。ここから歌詞を深掘りしていきたいんですけど、歌詞の中の一人称を「僕」にしているのはなぜですか?
鷲尾 これは私自身の気持ちを書いた曲なんですけど、やっぱり「私、私」ってなるのも音楽としては違うと思っているんです。この曲は、聴いてくれるファンのみなさまや、いろんな方々に「自分のこと」のように聴いてほしくて。何かを頑張っていたり、背中を押してほしい時だったり、自分を見失いそうな時とかに、いろんな人に聴いてもらえるように、一人称はバランスがいい「僕」にしました。
■「僕」はバランスが良かったんですか?
鷲尾 一人称は「私」でも「俺」でも「僕」でも良かったんですけど、「僕」ってすごく柔らかいし、1番ぴったり来るかなと思ったので。最初は「私」で書いていたんですが、「私」としちゃうと、自分よがりな曲になっちゃう気がして。私自身のイメージに固定されちゃうし、曲の主人公も女性に固定されちゃうし、ちょっと違うかなと思い、エールソングとして自分の強い意思を曲げないでほしい、自分の芯みたいなものをちゃんと持っていてほしい、という想いで「僕」にしました。
■歌詞の中の「君」は実在の友達などですか?それとも自分のことですか?
鷲尾 それがですね、アウトロのところの「君の慕う正義」の「君」は「世間体」なんです。私が思う正義もあるけど、みんなにもみんなの正義があるよね……という。それはSNSだったり、応援してくれるファンの方だったり、そうじゃない人たちだったり、いろいろあるのですが、そういうことについて書きました。だけど、それ以外のサビに出てくる「君」については、グループのメンバーだったり、自分が一緒に歩んできた仲間たちだったり、自分の人生にかけがえのない人たちを想って書いています。
■そうだったんですね。「この歌詞に書かれている君って誰だろう?」という疑問が湧いて、鷲尾さんの意図に引っかけられましたね。
鷲尾 「もう少しだけの強さが僕にあれば君を守れたの?」という所には「昔の自分にももっと何かを変えられたかもしれない」という想いが込められているので、今までの曲や経験、ファンのみなさんを「君」と歌っています。
■そうやって何重にも意味が込められているんですね。ちなみに鷲尾さんにとっての「人生で一番助けられたと思う曲」はなんですか?
鷲尾 2種類あって、“正解”の歌詞に書いているような「助けられた曲」というのは、やっぱり自分自身の曲なんです。それ以外だと、「助けられた」にもいろんな意味があるんですけど、Flowerの“白雪姫”という曲ですね。この曲はFlowerがいろんなステージに立てたり、ライブをやったり、自分が夢だった番組に出られたりするきっかけになった曲なので。あと、アルバムリリースとか成績もそうですけど、この曲から軌道に乗ったので、“白雪姫”に助けられたと思います。
■なるほど。こういう質問ではオーディションで歌った曲を挙げる人が多いのですが、意外な曲にいきましたね。
鷲尾 確かにオーディション曲って「人生が変わった曲」ですからね。でも人生が変わっても、スタートしなければ意味が無いです。オーディションに受かっても、スタートラインに立つだけですから。その先が一番大変なんですよ。そういう意味で、私はデビューしてからの曲を挙げました。
■素敵ですね。いい言葉だと思います。歌詞の中では「後悔はない」と歌っていますが、もし1度だけ人生を好きな地点からやり直せるとしたら、戻りたい地点はありますか?
鷲尾 それはないです。私は本当に今の自分の人生が好きなので。自分の決断は間違いだと思っていないので、だから戻りたくないです。戻ったらもっとキツい気がするし。(笑)
■全然違う人生を歩むとしても戻りたくないですか?
鷲尾 戻りたくないです。それに、どのルートを辿っても、今のこの地点に立つような気がします。じゃないと今一緒にいる人たちに出会えないじゃないですか。周りの人たちによって自分の人生は変わっていくと思うから。自分はすごく恵まれているなと思います。
■逆に、未来は見てみたいですか?10年後の自分に何か1つだけ聞けるとしたら何を聞きますか?
鷲尾 未来は見てみたいですね。10年後の自分に1つだけ何か聞けるとしたら、そうだな……「結婚してる?」かな。(笑)
■なかなかリアルですね。(笑) でもそれで「結婚しているよ!してはいるけど……」と言われたら嫌じゃないですか?
鷲尾 確かに。(笑) じゃ、「ちゃんとプライベートも充実していますか?」にします。(笑)