Kitri VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

カバーアルバムに並ぶ15の名曲、Kitriが紡ぐ音楽の魔法。

Kitriが11月10日にカバーアルバム『Re:cover 2in1』をリリース。2022年には映画の劇伴音楽を担当し、2023年は『Blanc Noir』と銘打ったツアーで新たな二つの顔を見せ、活動をさらに広げているKitri。今作の収録曲は大沢誉志幸“そして僕は途方に暮れる”に始まり、久保田早紀“異邦人”や、新しい学校のリーダーズ“オトナブルー”など、時代もジャンルも飛び越えた15曲が並ぶ。インタビューではニューアルバムの制作にまつわるエピソードを中心に、Kitriの音楽性を深掘りする。MonaとHinaの二人に話を訊いた。

■カバーアルバム『Re:cover 2in1』をリリースされますが、今回は音楽性に関する専門的なことも伺っていきたいのですが、まずお二人のルーツはクラシックピアノということでよろしいでしょうか?

Mona そうですね。私は4歳の時にピアノを始めました。

Hina 私もMonaを見てピアノを始め、中学校の時に1回ピアノを辞めて合唱の方に専念しているので、ルーツはピアノと合唱という感じです。

■クラシックピアノとしての学習進行度としましては……結構いっていますよね?ショパンまでいっている感じがします。

Mona そうですね、ツェルニーを経て……。

Hina 私はショパンまではいっていなくて、「どこまで」っていうと忘れちゃったけど、中学校2年生くらいまではやっていました。中・高の6年間は合唱をやっていて、時々趣味でギターやピアノを弾いたり、合唱の伴奏をしたりもしていたのですが、その頃はもう「音楽といえば合唱」という感じでした。

■合唱はどんなものを歌っていましたか?

Hina 谷川俊太郎さんの詩の合唱曲を結構歌っていて、松下耕さん作曲の『やわらかいいのち』がすごく好きでした。中学の頃は「どうしても合唱をしたい」と思っていたのですが、その学校に合唱部がなくて、自分で合唱部を立ち上げたんです。最初は4人から初めて、中学3年生の頃には40人くらい集まりました。

■40人はすごいですね。歌いたい人がきっと多かったんですね。そしてご姉妹でKitriを結成したということですが、Monaさんの和声感覚にはドビュッシーやラヴェルの雰囲気を感じます。どのあたりにルーツがあるのでしょうか?

Mona まさにドビュッシーやラヴェルもですし、古典派で言うとベートーヴェンかな。バロックだったら、バッハはもう本当に王道なんですけど、高校生の時にバッハのCDを食い入るように聴いて、「あー、カッコイイ……」と思っていました。ですので、好きなエッセンスというか、尊敬というか、リスペクトが入っているのかなと思います。

Hina 私は大学でも実技の方はそんなにやってこなかったのですが、小さい頃からMonaのピアノをずっと聴いてきたので、「ドビュッシーの曲いいな」とか、「ショパンのバラード2番すごく好き」と感じたりはしていました。

■作曲は感覚が先行しますか?理論が先行しますか?

Mona 感覚ですね。メロディを重視しているので、メロディから作っていって、どういう音を持っていきたいか、どういう展開にしたいかを作ってから、「どんな響きだったら自分の理想の音になるのか」を考えています。最初は大学で学んだことを活かしたいと思って、「この次はこういう和声がいいのかな?」と、理論的に考えていたんですけど、今はもう耳で聴いて、自分が一番心が動く、感動できるものにしたいなと思っています。

Hina 私は作曲はまだやったことがないんですけど、作詞はMonaと一緒にやっています。Kitriになってから作詞をやり始めたので、最初は本当に手探りで。最初は「どういう風に書いたらいいんだろう?」、「書きたいこと思い浮かばない……」という状態だったのですが、最近は「こういうテーマで書きたい」、「こういう形で書いたら面白そう」って、アイデアがいっぱい出てきて、楽しみながら作詞しています。

■お互いの作詞のスタイルについてはどう思われていますか?

Mona Hinaの詞は小説的というか、ひとつの短編小説を読んでいるようなものが多いと思っていて、私にも興味深いです。

Hina Monaの詞にはいつもちゃんとしたテーマや、各シーンでの書きたいものがちゃんとあって、それが迷路のように紆余曲折しながら真っ直ぐ伝わってくるのがすごいと思います。

■詞の方はどんな所からのインスピレーションや影響がありますか?

Hina 私は映画鑑賞が趣味で、小説や漫画を読んだりすることも好きですし、谷川俊太郎さんも好きなので、そういう所からインスピレーションを受けているのかな。

Mona 私はポップスで言うとスピッツが……草野マサムネさんの詩の世界観がすごく大好きで、影響を受けているかもしれません。あの爽やかに見せかけて、何かが渦巻いているような……。(笑)

■わかります。(笑) Monaさんは作曲を学ばれていたそうですが、Hinaさんは元々ポップス志向だったのでしょうか?

Hina もちろんポップスも聴いていましたし、クラシック音楽もずっと好きでした。あと、子どもの頃から映画やドラマのサウンドトラックがめちゃくちゃ好きで、一番聴いていたジャンルだと思います。

■2022年には映画『凪の島』のオリジナルサウンドトラックを担当されていましたね。

Hina そうなんです!「本当にありがたいね」って言いながら、ずっと曲を作っていました。

Mona サントラはやっぱり私たちの「こういうものを作りたい」よりも、「シーンに合わせて場面に寄り添う」ことが大事なので、それが難しいなとも思いました。聴くだけの時とはまた違って大変だったんですけど、すごく勉強になりました。

■ちなみに楽譜は譜面としてガッツリ書いているのでしょうか?

Mona 昔は結構書いていました。デビュー当時はクラシックの連弾の譜面みたいに書いていたんですけど、今は書いていないことが多いです。感覚で判断して、良いものを作りたいな……という気持ちに少しずつ変わってきたのかもしれません。

Hina でも、クラシックピアノをやっていた名残もあって、楽譜が欲しい時もあります。(笑)

■要所要所で作っていくのが一番かもしれませんね。さて、ニューアルバム『Re:cover 2in1』ですが、なぜ今カバーアルバムをリリースされるのでしょうか?

Hina 前回、コロナ禍に『Re:cover』というカバーアルバムを配信した時は、コロナ禍でライブ配信が中心になる中でも、「みなさんに音楽を届けたい」という想いでアルバムを制作しました。ですが、今回はコロナ禍が明けて、さらに私たちの新しいカバーをみなさんにお届けしたいなという気持ちでリリースさせてもらいます。選曲には前作からもみなさんから「これをCD化して欲しい!」という声をいただいたものも入れています。

■今回の収録曲を選曲されたのは、主にどのようにして選ばれたのでしょうか?

Mona 私たち自身も選曲しましたし、スタッフさんも楽曲をリストアップしてくださって、「これはどうですか?」っていうこともありました。

Hina Kitriチームみんなで考えて選びました。

■だから時代もジャンルもバラバラになったのですね。リスナーごとに気になる収録曲も違うと思いますが、私が気になったのは、たまの“パルテノン銀座通り”でした。オリジナルアルバム『Kitrist II』にも収録されていましたよね?

Mona はい。私たち自身もすごく気に入ったカバーになったので、また今回のアルバムにも入れたいなと思って。元々はスタッフさんのひとりがたま好きで、「これ聴いてみて!」と薦められたのがきっかけなんですけど、怪しさとはまた違い、独特だけどちょっとどこか切なくて、楽しそうなメロディなのに、寂しいところに不思議と惹かれて。この曲は「たま、どうですか?」と言われた中で出会い、私たちが選曲しています。

■私もたまのファンなのですが、ファンとして気になったのは、他の曲と比べてもメロディラインをかなり編曲されている所でした。

Mona 「どうすればKitri流のカバーになるのかな?」と考えて、自然とコード感やメロディの歌い回しがそうなりました。“電車かもしれない”もカバーする候補にあったんですけど、「あの世界観は手が付けられない……」と思って。(笑)

■確かに“電車かもしれない”は難しそうですね。収録曲のうちでは、この曲だけギターが入っていますよね。

Mona そうですね。羊毛とおはなの羊毛さんがギターを弾いてくださっています。今作は自分たちだけでチャレンジしてみようと思い、自宅でシンセやピアノを使ってカバーしていきました。“パルテノン銀座通り”は、もうすでにリリースしていた曲でしたが、どうしてもこの曲が好きで入れたいなと思って、改めて入れています。

■今作の収録曲のうちで、特に思い入れのある曲はどれですか?

Hina 私がすごく気に入っている曲は、Mrs. GREEN APPLEさんの“僕のこと”です。サビ前に「ああ」という歌詞があって、オリジナルの方では前に出てみんなを良い方向へ引っ張ってくれるような良さがあるんですけど、Kitriのアレンジではどちらかというと、後ろから見守るような、支えるような響きになっていて、そういうKitriらしさが表れていると思います。

Mona 私はスピッツのファンなので、“あじさい通り”です。これはもう誰かに提案してもらったとかではなく、私が選びました。(笑) 実はこれまでスピッツのカバーをすることは、「好きすぎて怖がっていて、カバーできない」と思っていたんですけど、こうやってリリースするチャンスをいただいたので、私が影響を受けたアーティストのカバーをしたいな、ということで……。