佐藤赳(Vo&Gt)、安藤太一(Gt)、田中そら(Ba)、伊藤克起(Dr)
府中から飛び出す4人が語る「誠実さ」と「現場主義」。
koboreがニューアルバム『FLARE』をリリース。前作から約1年8ヶ月ぶり、通算5枚目のアルバムとなる今作には、“STRAIGHT SONG”、“スウィートドリーム”、“パーフェクトブルー”、“ドーナツ”などを収録。CDには限定曲“愛が足りない”も収められている。インタビューでは2025年春に迫るツアーを前に、ライブを意識した曲作りの方法についてメンバーに話を訊いた。
■2024年ももう終わってしまいますが、みなさん的な大ニュースは何かありましたか?
安藤 今年、UFOを見るイベントに行ってきました。
■いきなりすごいエピソードが出てきましたね。(笑) どこでやっていたんですか?
安藤 原宿のビルの屋上です。肉眼よりも動画に撮った方が見られるというので、携帯で動画を回していたら、それっぽいのが映っていたんですよ。
佐藤 そういうエピソードを最初に話されたら、もう話すこと無くなっちゃうよ。(笑) まぁ、1年8ヵ月ぶりにこのアルバム『FLARE』が出たことが一番のニュースじゃないですかね。
■確かに。アルバムが出ることは大きなニュースですからね。ところで、ずっと伺いたかったことがあるんですけど、koboreは「府中発」とのことですが、この「府中発」とは音楽的にはどういうものを指すんですか?
田中 府中にシーンらしいシーンがあるわけじゃないのですが、いろんなバンドが「〇〇発」と付けているのもあるし、自分たちは府中でバンドをやっているので、つけたいなと思って。あと、自分たちのホームでもある「府中Flight」といういろんなバンドから信頼されているライブハウスがあるので、そこから飛び立っていくようなイメージもあります。府中にあえて行く機会って、あんまり無いじゃないですか。でも府中を経由して行ってくれる地方のバンドが本当に多いんですよ。
佐藤 そういった人たちが「界隈」を作ってくれると嬉しいですよね。「府中いいよ!」という噂が広まって、実際に行ってみたらいい音楽がやれて、いい打ち上げがやれて……って、そんな場所です。
■それは確かに「府中発」とつけるべきところですね。koboreにあって、他のバンドには無いと思うものはなんですか?
佐藤 ライブは意識するよね。現場主義というか。
田中 確かに。何よりもライブですね。
佐藤 何か作ったものがあれば、それを直接売りたい。遠くてもなんでもいいから、とにかく自分たちで持って行きたい。自分たちのライブを見てもらいたいというのが一番ですね。
田中 すごく「泥臭い」部分はありますね。地元では周りからはエリートみたいな扱いを受けてきたんですけど、本当に僕たちはやることやって、とにかくライブもしまくったし、練習もすごくしてきたし、何かでバズったとかでも特になくて。ここまで地道に泥臭くやってきているバンドだと思います。
伊藤 でも、赳(佐藤)の歌声は大きな要素ですね。デモの段階では「合うのかな?」と思っていても、彼が歌うとしっくりくるんです。そういうところに魅力を感じます。
安藤 koboreにはいろんな曲があるんですけど、ちゃんとkoboreとしてまとまっているところが芯かなと思っていて。いろんなシーンや、いろんな状況に応じて聴きたくなる曲がいっぱいあるところがkoboreらしさだと思っています。
■サウンドバランス的には何を一番大事にしていますか?
安藤 歌を大事にしていますね。
田中 でも、歌ばっかりにはならないようにしていて、歌だけが主張している感じはしないようにはしています。曲にもよりますけど、ギターがでかくて、ドラムもでかくて、ベースもでかい。あと、最近流行っている「いろんなものをそぎ落としたような感じ」には、あえてしていないです。
■そのバンド感は今作にも強く感じました。
田中 最近流行りの綺麗な音源は、僕からすると聴きやすすぎるんです。
佐藤 音源を聴いてライブに行ったら、雰囲気が違って疑問に思うこともあるし。そういう所も込みで、koboreはライブを意識したサウンドをやろうとしています。ドラムとベースも一緒に録っているしね。
伊藤 加工とかも全然せず、ほぼ録って出しです。エンジニアさんと話して「生感でいいんじゃない?」みたいな感じでやっています。
■だから良い意味でのクラシカルな感じがあるんですね。さて、今作『FLARE』ですが、みなさんの中でのお気に入りのナンバーはどれですか?
伊藤 僕は“リボーン”ですかね。「総合的にめっちゃいいんだよな」というだけなんですけど……詞もいいし、歌もいいし、楽器もいいんです。
佐藤 僕はやっぱり“STRAIGHT SONG”かな。ライブでも結構やっているしね。
田中 今年は“STRAIGHT SONG”で1個確立したような気がします。でも個人的な推しは“愛が足りない”です。ただ、大事な曲だったら“BABY”だし……。(笑)
安藤 僕は“パノラマガール”でお願いします。ここで自分が書いた曲を言うのは恥ずかしいし。(笑)
田中 僕は自分で書いた2曲を挙げているのに?(笑)
■安藤さんの書いた“メリーゴーランド”も素敵だと思います。ところで曲を聴いた時に気になったのですが、“エール!”って、中島みゆきさんの“ファイト!”を意識したりしていますか?
佐藤 “ファイト!”は好きですけど、特に意識はしていなかったです。でもタイトルをつける時に、勢いがある感じで「!」をつけたかったんですけど、「ファイト」にびっくりマークをつけたら、まんま“ファイト!”になっちゃうので、めっちゃ「頑張れ」「英語」「意味」とかで、いろいろ調べました。そうしたら「ガッツ」とか、「エール」とかが出てきたので、結局「エール」にびっくりマークをつけるのがシンプルで良いなと思ったんです。
■曲名でいうと“パーフェクトブルー”が気になりました。同名の有名な映画もありますが、MVは野球がモチーフでしたね。
佐藤 結果的に野球になりました。別に野球にこだわっていたわけではないですけど、野球でも、サッカーでも、受験生とかでも、頑張っている人たちの背中を押せる曲であればいいなと思って。自分が本当に一番どん底にいた時に書いた歌詞をそのまんま乗せて曲にしました。
■そのご自身の「どん底」はいつだったんですか?
佐藤 コロナ禍だと思います。曲も何も作れなくなって、「もう終わりかな、音楽も終わりだ……」と思っていた時期ですね。何か作ろうにも取り入れるエッセンスがなくて、すごくつまらないし、毎日本当にやることがなかったし。ずっとモンハンばっかりやっていましたね。(笑)
■気持ちはわかります。(笑) 逆にモンハンからイメージして生まれた曲とかは無いんですか?
佐藤 モンハンをイメージして作るならもっと壮大にしないと。(笑) 金管楽器とかも必要ですね。(笑)
■そうそう、今作には“熱狂”や“Don’t cry anymore”といった、かなり短い曲が入っていますが、どれも「もっと長くてもいいんじゃないかな?」とも思ったんですよ。
佐藤 それが狙いです。ライブでこの曲たちを続けてやるかどうかはわからないですけど、アルバムだと「この次にこれが来るんだよな、だからいいんだよ、これで」というのがあったりして。そういう気持ちにさせられるのは音源ならではなんですよね。序盤の4曲の出だしがあって、そこから続く“ドーナツ”とか。その辺は音源でしかできない部分なので意識しました。
■平均的に曲の長さは短めですよね?
佐藤 そうですね、今回は田中の曲が盛大に長いので。(笑) 僕は短い曲の方が伝わりやすいと思っています。シンプル主義者的な。ギターロックってシンプルなものですし。
■“ドーナツ”はとても具体性がある感じがしますが、実体験ベースの曲なんですか?
佐藤 実体験ベースではなく、映画を参考にしていて。ある時期、失恋映画にハマってめちゃくちゃ観ていたんです。その時期に歌詞を書いてみようかなと思って、「僕がこの映画の主題歌を作るんだったらこんな感じかな?」という感じで書いていった歌詞をまとめた結果ですね。
■その結果、生々しい雰囲気になった感じなんですね。作詞に特定のモチーフは無く?
佐藤 “熱狂”とかは、ライブの盛り上がりを見た自分のイメージをそのまま書き留めています。でも「今日みたいな日があるなら、今までの嫌なこととかはどうでもいいや!」という感覚とか、そういうものを書くことの方が多いかな。
■対して田中さんの詞はちょっと抽象的というか、浮遊感があるというか。佐藤さんとは雰囲気が違いますよね。
田中 あんまりよく伝わらない歌詞が多いのかも。お客さんにも「よくわかんないです」と言われることがあります。(笑)
■まず視点が移り変わっていますよね。それはわざと変えているのでしょうか?
田中 曲の登場人物と自分の心情が混ざっちゃっているのを、そのまんま書いています。僕の視点と、ふたりの物語を眺めている感じもありますね。あと、登場人物から見えている視点も。
■いろんな立場の視点が混ざっているということなんですね。そういった表現のルーツはありますか?
田中 表現のルーツは映画かな。映画って多視点の手法が多いので。僕は日本の映画が大好きなんですよ。特に好きなのは岩井俊二さんと是枝裕和さん。最近は新人の監督さんも何人かチェックしています。
■そして安藤さんの曲“メリーゴーランド”ですが、この曲に出てくるふたりはどういう関係なんでしょうか?
安藤 どういう関係でもいいかなと思っています。これは片方からの視点で全部書いているわけではないんです。AメロとBメロで視点が変わってもいいかなと思っていて。だから、お互いに楽しみにしているかもしれないし、一方的かもしれない。僕から「これはこう」と決めるものではないんです。