みんなセンチメンタルを求めている
コミュ障シンガーソングライター・みゆはんに提供した“恋人失格”のセルフカバーをコレサワが配信リリース。自身の代表曲“たばこ”のアンサーソングとなる今作は、一組のカップルの相手側の心情を描いた物語。至極あたりまえのことだが、人の数だけ想いがあり、ドラマがある。“たばこ”だけでは気づくことのできなかった、ひとつの美しい恋愛物語。“恋人失格”についてコレサワに話を訊いた。
■“たばこ”のアンサーソング、そしてセルフカバーということですが、“たばこ”を作られたときから考えていらっしゃったんでしょうか?
コレサワ 最初は全然考えていなくて。みゆはんから“たばこ”の相手の気持ちを歌いたいって言われて、そういえば相手の気持ちなんて考えたことなかったなって。“たばこ”の主人公のその後みたいな曲は書いてみたりはしていたんですけど、相手のことは全然考えていなくて。そもそもアンサーソングって他人が勝手に書くものだと思っていたし、自分で書くとほんとの答えになってしまうから、どうなんだろう?とは思ったんですけど、みゆはんに書いてほしいって言われて、「“たばこ”の主人公みたいな恋人がいるんだぞ!」って自分に言い聞かせて。(笑) 男の子の気持ちになって書きました。
■両方の気持ちになって書くことってなかなかないだろうから、すごく興味深かったです。
コレサワ まずは“たばこ”を自分が作っていないと仮定して書いて。でも、もう昔過ぎて正直覚えていないんですよ、どうやって作ったかとか。だから、それが良かったのかもしれないですね。
■時間があいたことで曲を客観視できたというか?
コレサワ できましたね。“たばこ”を作ってすぐだったら、練り過ぎて書けなかったかもしれないけど、昔過ぎてそのときの気持ちがもう曲の中にしかなかったから、自分で書いたんだけど、ある意味他人が書いたような感覚で。歳もとって価値観も変わっているし、同じ価値観の自分じゃないからこそ書けたのかなって思ったりもしました。
■おいくつくらいのときの曲なんですか?
コレサワ 19~20歳くらいのときだったので、もう7年前くらいですね。今回アンサーソングを書くうえで、“たばこ”の恋人については、あんまり悪いヤツにはしたくなくて。別れたけどいいヤツだったって思ってほしくて、そこはすごく気をつけました。
■たしかに“たばこ”の視点からすると、そういう気はしちゃいました。
コレサワ 包容力ないヤツだなとか思われちゃうかもしれないけど、実はいいヤツだったんだなって思ってほしいなって。いちばんはそこでしたね。
■実はいいヤツでしたね。最後のフレーズですべてがわかるというか。
コレサワ そう、いいヤツ。(笑) 自分がつきあうなら、人のせいにするヤツより自分で責任を持つ人のほうがいいなって気持ちもあるので。ある意味、自分の好きなタイプというか、こう思ってもらえていたらいいなっていう願望みたいなものが入っているのかもしれないです。
■“恋人失格”を聴くことで、結果こうなってしまったけど、お互い好きだったんだなっていうことがわかってよかったです。
コレサワ お互いにちゃんと好きだったんだっていう事実がわかりますよね。“たばこ”は別れがフューチャーされているけど、“恋人失格”はつきあってた頃の想いも書いていたりして、ちゃんと仲がいいときもあったっていうことを知ってほしかったんです。
■恋愛ってそれぞれにちゃんと気持ちや想いがあって、それぞれにドラマがあるんですよね。
コレサワ それがたまたますれ違ってしまったりして、切ないですよね。そういう気持ちになったことがある人にも、ない人にも、この切なさが伝わったらいいなと思うし、そこをいろいろ勘ぐりながら聴いてほしいですね。
■“恋人失格”のきっかけとなる“たばこ”がここまで広まったことはどう感じていらっしゃいますか?
コレサワ そこはわたしもよくわからなくて。みんな切ない気持ちが好きなのかなって。普段普通に毎日出会える気持ちではないじゃないですか。だからこそ、それをこうやって音楽に求めたりするのかなって思いました。
■歌い始めた頃というのは、どのような歌をうたっていたんですか?
コレサワ 未来への不満とか、バイト先のイヤな人の歌とか。(笑) いまみたいな恋愛ものよりは、日常の不満とか、未来がイヤだとか、大人になりたくないとか歌っていたんですけど、とある人に、「コレサワちゃんは恋愛の曲がないから作ってみなよ」って言われて、作った曲が“たばこ”だったんですよ。
■そうなんですか!
コレサワ はい。
■それまで恋愛の曲を作ったことがなかったのは、何か理由があってなんですか?
コレサワ 特に理由はなかったんですけど、あんまりラブソングを聴いたことがなかったんですよね。街で流れているラブソングにときめかなかったというか。だからそういうのじゃないほう、不満とかを歌っているほうが好きだったんです。
■じゃあ“たばこ”がきっかけで変わっていったと?
コレサワ 結局なんでも恋愛に例えられると思ったんですよ。兄弟愛もそうだし、家族愛も、ものに対しての愛も、結局は全部ラブソングなんだって。失恋も愛があってこその失恋だし。人と人とか、人とものとか、人と夢の間のそういう部分を歌いたいなと思ったのは“たばこ”を作ったあと、20歳を越えたくらいからですね。そういう曲のほうが聴いてくれる人や、「いいね」って言ってくれる人が多くて。喜んでもらえるもののほうが作っていてうれしいし、やっぱりみんなセンチメンタルを求めているんですよね。(笑) 若い頃は未来への不安や、大人になることに不安もあったけど、いまは別にないし、気軽な気持ちでいたら、けっこうなんでもいけますね。
■それは思います。(笑) それくらいのほうがラクだし。
コレサワ それくらいのほうがラクですよね。それに、いまはそれほどイヤなこともないし。だから若い頃は“不”ばかり歌っていたんですけど、どうせなら明るい歌とかセンチメンタルな歌のほうがいいじゃないですか。家で練習しているとき、ひとりで落ち込みたくないじゃないですか。(笑)
■はい。(笑)
コレサワ だから、失恋は別枠なんですけど、暗い歌、絶望の歌とかはうたいたくないなって。
■やっぱりどこかに希望がないと。
コレサワ 根がネガティブだから、ポジティブにいきたいんです。かといって失恋ソングで希望を与えるつもりは一切なくて。悲しむって大事じゃないですか。悲しい気持ちってひとりで作れるものじゃないから、誰かが何かを起こしてなる気持ちだから、自分ひとりでは作れない。