「音楽と共に生きてく」35年の歩みを濃縮したオールタイムベストなライブ。
真心ブラザーズが活動を始めて今年で35年。彼らなりに35周年を祝おうと、9月に東京と大阪で2本のワンマンライブを実施。タイトルが「35周年記念公演『古稀1/2』」というのが冴えている。ここでは、19thオリジナルアルバム『SQUEEZE and RELEASE』デビュー35周年記念盤のリリース日でもある9月21日(土)にEX THEATER ROPPONGIにて行われた公演の模様をお伝えしたい。
真心ブラザーズのデビューのきっかけとなったのが、2人がまだ早稲田大学の学生時代のことだった。当時、バラエティ番組内で行っていた「勝ち抜きフォーク合戦」へ出場。あれよあれよという間に勝ち抜き、CDデビューのチャンスを獲得。1989年9月に、シングル『うみ』を発売して、メジャーデビューを飾った。当時はまだフォークデュオ。35年の歴史の歩みを2時間半に濃縮したこの日のライブも、デビュー曲の“うみ”から始まった。2本のピンスポットライトに照らされ、桜井秀俊の爪弾くアコギのアルペジオの音色に乗せ、波間を漂うように歌声をゆったりとはべらせ、YO-KINGが「君と僕とのうみさ」と歌っていた。少しノスタルジーにふけるように歌う声が、胸にジンワリと染み渡る。途中からエレピの演奏も加わり、楽曲は次第にモノクロな景色から少しずつ色を帯びてゆく。そして……。バンドメンバーが加わるのを合図に、演奏は少しずつ、でも心地よくグルーヴを描きだす。“空にまいあがれ”を歌うYO-KINGの歌声が次第に熱を帯びるのに合わせて、グルーヴへ深みを増すように演奏。いつの間にか、この空間が心地よいパーティームードに染め上がる。そこへ彼らは“花のランランパワー”を通して刺激的なロックンロールの色を注ぎ込む。いつしかフロアを埋め尽くした人たちも、彼らと一緒に無邪気な童心に戻り、その場で身体を揺らし、はしゃいでいた。
この日のライブは、途中に短い休憩時間を挟み、デビューから96年までに生まれた楽曲を前半部に。97年以降から現在までに作り上げた楽曲を後半に並べる形で進められた。この会場に足を運んでいた人たちの多くが、きっと90年代から真心ブラザーズの音楽に親しみ、一緒にコンサートを楽しんできた人たちだからだろう。曲が流れるたびに興奮を覚え、身体を嬉しく奮わせていた。YO-KINGが弾き語りで“素晴らしきこの世界”を歌い出した時も、最初は彼の歌声にジッと耳と心を傾けながら、楽曲が一気に弾けるのに合わせ、素晴らしき音楽が降り注ぐこの空間の中、ロックンロールの魔法に魅せられるように一緒にはしゃいでいた。曲が進むごとにどんどんと熱が上がりだす。モノクロの世界から始まった楽曲が、いつしかカラフルに色づく、そんな華やかさも“素晴らしきこの世界”に触れながら覚えていた。桜井秀俊の弾く歪みを上げたダウナーなギターの音が場内中に響き渡る。その上で、YO-KINGが「だるい感じ」と歌いだす。“スピード”だ。曲が進むにつれ、歌声と演奏が加速するように荒ぶる熱を上げていく。心地よい緊張感を持った演奏が、見ている側の気持ちを熱く奮わせる。どんどんと速度を増す楽曲に飛び乗った大勢の観客たちが、己の感情から冷静という言葉を振り落とすように「もっともっと」と熱を求めていた。
アガりきった感情を今度はゆったりと揺らすように、桜井秀俊がシンガーとなり、“スイート・フォーク・ミュージック”を歌唱&演奏。ソウルフルだけどフォークの香りも覚える楽曲に誰もが心地よく酔っていた。なんて素敵な世界だろう。真心ブラザーズの名前を世の中へと大きく知らしめた“どか~ん”では、YO-KINGが「どか~んと一発やってみようよ〜」と歌う声に合わせ、場内中の人たちが両手を高く掲げ、「どか~ん」と盛大に花を咲かせていた。エモくソウルフルなグルーヴを描きながらも気持ちよく上がり続けた“JUMP”。「ババンババン」と歌うコーラスのうつみようこの野太い声が響き渡るのを合図に飛び出した“拝啓、ジョン・レノン”では、YO-KINGが愛しき人へ思いを投げかけるように。そして、いつまで経っても平和の訪れない暴力にあふれた世を嘆き、中指を立てるような気持ちを胸に、彼と同じく夢想家だった敬愛する人へ向けて感情を投げるように歌っていた。その上で真心ブラザーズは、どっぷりと深く、でも温かさに満ちたディープ&ソウルフルな“愛”を届けてくれた。二人の届けた愛が身体中の血管を巡り、温かな気持ちで包み込む。どんなに世の中が荒もうと、愛が息づく限り、この世からいつかは諍いが消えて無くなるはず。そんな小さな希望も胸に覚えながら、高らかに愛を歌うYO-KINGの声にずっと抱かれていた。
短い休憩を挟み、ここからは後半戦へ。軽やかに流れだすディスコミュージック。“サティスファクション”の演奏に乗せ、フロア中の人たちがクラップをしながら沸き立った。心地よくもアッパーなグルーヴが華やぐたびに、場内中の人たちが再び騒ぎだす。その勢いに火をつけるように“突風”が飛び出した。雄大なロックロールの演奏に乗せて、二人は攻めるように歌い、音をぶつけていた。曲が進むにつれ、上がり続ける熱とグルーヴ。さぁ、ここから再びアガっていこうか……。というノリを描いた後に、“朝が来た!”を歌いながら、二人は爽やかで温かみのある空気で場内中を包み込む。曲順の流れの中へ、いろんな感情の揺れを描きだすところも真心ブラザーズらしい。さらにそこにノルタルジックな香りも覚える“情熱と衝動”、“この愛は始まってもいない”とレイドバックした曲調が魅力の楽曲たちを歌い奏で、 2人は、この場にいた人たちの身体や心を心地よく揺らしていった。アニメ「宇宙兄弟」のオープニングテーマとして流れた“消えない絵”を通してこの空間に作りあげた、ふわふわと舞い上がるような心地よくも軽やかな気分。対して“人間はもう終わりだ!”では、ガンガンに歪ませたギターの音も印象深い演奏に乗せ、YO-KINGが「人間はもう終わりだ!」と連呼。彼の言葉に呼応するように、フロアで大勢の人たちが拳を振り上げ、みずからの気持ちを奮い立てるように「人間はもう終わりだ!」と声を返していた。このシニカルなメッセージもYO-KINGらしい。
みずからの気持ちを奮い立たせ、熱情を注ぐように歌い奏でた“一触即発”。“明日はどっちだ!”でも「俺はまだ死んでないぜ 未来はまだ輝いてるぜ」と歌いながら、自分たちのみならず、この場にいる人たちの気持ちを奮い立たせ、共に「Oh! Yeah!」とやりとりを交わし、これからも一緒に長く歩み続ける約束を交わしていった。ライブも終盤へ。華やかな演奏に乗せ、心も身体も楽しいという気持ちをカラフルに色づけたパーティーチューンの“All I want to say to you”。そして2人は“ENDLESS SUMMER NUDE”を通して、この場にいる人たちを終わらない夏の青春という景色へ連れ出し、大勢の人たちを無邪気な少年少女に戻し、弾け飛ぶこの楽しさを心のフィルムに焼き付けていった。最後に真心ブラザーズが歌ったのが“EVERYBODY SINGIN’ LOVE SONG”。この場に足を運んだみんなが合唱隊となり、YO-KINGの歌声とかけあうように「EVERYBODY SINGIN’ LOVE SONG」と笑顔で歌った。気持ちを踊らせるファンキーでソウルフルなダンスミュージックに乗せ、みんなで心を一つに、歌声でディープなKISSを交わし合う。この熱い熱い関係が途切れない限り。真心ブラザーズが動きを止めない限り、共に古希まで歩み続けたい。アンコールでは、これからの姿を示し、未来へ繋げようと、当日に発売になった最新アルバム『SQUEEZE and RELEASE』の中から“オレは音楽”を届けてくれた。YO-KINGは歌っていた「ナチュラルボーンミュージシャン」「音楽と共に生きてく」と。最後に真心ブラザーズは、心地よく跳ねたソウルフルにスウィングしたグレートでロックンロールという最高のグルーヴミュージックを描きながら、互いの関係を未来へと繋いでいった。
Text:長澤智典
Photo:鈴木友莉
真心ブラザーズ 35周年記念公演『古稀1/2』@EX THEATER ROPPONGI セットリスト
01. うみ
02. 空にまいあがれ
03. 花のランランパワー
04. 素晴らしきこの世界
05. スピード
06. スイート・フォーク・ミュージック
07. どか〜ん
08. JUMP
09. 拝啓、ジョン・レノン
10. 愛
11. サティスファクション
12. 突風
13. 朝が来た!
14. 情熱と衝動
15. この愛は始まってもいない
16. 消えない絵
17. 人間はもう終わりだ!
18. 一触即発
19. 明日はどっちだ!
20. All I want to say to you
21. ENDLESS SUMMER NUDE
22. EVERYBODY SINGIN’ LOVE SONG
ENCORE
01. オレは音楽