浅草の街でのライブらしい華やかな、でもゆる~い夏祭りを真心ブラザーズは作りあげていた。
5月よりスタートした真心ブラザーズの弾き語りツアー「真心道中歌栗毛2025」。同ツアーのセミファイナル公演になった7月10日(木)浅草公会堂公演の模様をここにお伝えしよう。緞帳の下りた舞台、上手には今日の主催者である真心ブラザーズの名前を書いためくりを用意。場内にはずっとお囃子が流れていた。昔から寄席など、芸能文化の盛んだった浅草にあるホールらしい光景だ。ライブは緞帳の前に2人が姿を現して始まった。冒頭を飾ったのは“花のランランパワー”。限られたスペースで歌うことから、ちょっと狭さも感じつつとはいえ、2人は肩肘抜いた姿で軽やかにフォーク調の楽曲を届けていた。メンバーいわく、浅草公会堂でのライブは33年ぶりになる。桜井秀俊は、プライベートで歌舞伎を観に来たりもしていた場所のようだが、真心ブラザーズとしては、本当に久し振りの下町でのライブという理由もあって、浅草が持つ下町文化ならではの空気感を楽しもうとしている姿も印象的だった。歌い終わり、緞帳がするするするっと上がったその背景には、大きな紅白の垂れ幕と多くの提灯が。中央には巨大な金屏風が置かれた、まさに祭りの場というセットが登場。今宵は最初から最後まで、たった2人でのライブ。その派手なセットがいい感じでライブの雰囲気に花を添えていた。

ここからはYO-KINGもアコギを持ち、2本のギターの演奏に乗せてのライブへ。少しノスタルジーなムードも醸しだした“splash”では、ゆったりと歌い奏でながらも、間奏ではセッションのような演奏も見せていた。2人のトークから流れるように演奏へと繋がった“のり弁女”では、桜井秀俊がボトルネックを用いた演奏を披露。心地よく揺れる音に乗せて、この曲でもYO-KINGはいい感じで力の抜けた歌声を響かせていた。歌詞の内容は80年代以降ながらも、その雰囲気はまるでフォーク全盛時の70年代の空気のようで、のんびりとしたムードで朗々と歌った“老後”。この曲を書いた当時は2人とも20代と若かったが、今では彼らも50代。老後はまだ先とはいえ、シニカルに表現していたこの曲が、逆に自虐的な歌としてしっくりくるようにも聴こえていた。メンバーいわく、いち早くコンプラ対応していた歌詞も印象的な“君よりもっとこそくに”では、巧みにシニカルな言葉を用いた楽曲を、やはり緩~い空気感を持って届けてくれた。ゆったりとした演奏を聴くだけがライブではない。続く桜井秀俊がリードを担った“あれあれ、あの、あれ”では、「あれ」「あれ」や、「あの」「あの」と、サビの一節をメンバーと観客たちが掛け合う様も誕生。いい感じで場の空気を温めたところに“ぬかよろこび”で、ふたたびゆったりとした空気を醸しだす。巧みに緩急を利かせていくところも、2人の弾き語りスタイルによる演奏が作りあげた空気感だ。

互いに顔を見合わせて演奏を始めた“遠い夏”では、在りし日の夏景色の中の想い出を振り返るように、YO-KINGが朗々と歌いあげていた。次は会場に訪れた人たちからのリクエスト曲を書いた紙を投票箱の中に用意し、そこから引き当てた楽曲を歌う<三楽会>と題したコーナー。何百曲とあるレパートリーの中から一体何が飛び出すかわからないので、引き当てた曲をしっかり演奏できるのかというスリリングさもあることから、2人も少し緊張ぎみで、次々と投票された紙を引き出していた。この日は3人のリクエストに応じて、“愛”、“ぼくのギター”、“突風”を歌唱。“愛”は歌い慣れている理由もあって、2人ともエナジー漲る熱い姿で披露。“ぼくのギター”は、2人ともうろ覚え……。とくに桜井秀俊は演奏をしながら、YO-KINGの弾き語る演奏を通して少しずつ記憶の中からひっぱりだすように演奏していた。この時間帯、外はゲリラ豪雨状態だったらしい。開場時に雷が鳴る中で入場していたこともあって、まさに“突風”は、今の空気にぴったり似合う曲としても演奏をしていた。

続いて用意したのが、未発表曲が二兆曲はあるらしいYO-KINGらしく、未発表曲や新曲をその場で初めて桜井秀俊に伝え、その場で合わせながら演奏をするという<KING二兆曲>コーナー。この日は、新曲の“疲れ過ぎない暮らし”を用意。決して熱すぎることも、緩すぎることもない、程よいノリを持った楽曲だった。演奏前にYO-KINGがコード進行を桜井秀俊に伝え、桜井秀俊はそれをすぐさま譜面にコードを書き入れ、その場ですぐに対応するという形で曲を演奏。楽曲を作ったYO-KING以外はみんな初見という中、YO-KINGは心地よいノリを作りながらだが、桜井秀俊は心地よい緊張感を持って演奏していた。このコーナーを通して真心ブラザーズの楽曲は、こういうやりとりの中で生まれていくことを伝えた。さらにこの日はロック色を満載したアルバム『KING OF ROCK』に収録した曲たちを、あえてアコースティックで演奏するというコーナーも用意。いわゆるアンプラグドライブ的な内容だ。ここでは“日曜日”と“スピード”を披露。クールでスリリングなムードを描きだした“日曜日”に、YO-KINGの「だるい感じ」の声から始まった“スピード”では、桜井秀俊の鋭いカッティングビートに乗せ、YO-KINGが次々と言葉を繰り出し、「スピード もっともっと速い」の歌詞のように、曲が進むごとに速度も熱量も上げながら、スリリングさ満載の歌や演奏を披露した。テンション高くも心地よい緊張感を持った2人の歌と演奏を、観客たちも食い入るように見つめながら、そのノリにしっかりと参加し、気持ちを熱くしていた。演奏が終わり、大きな歓声が場内中から上がっていたことがそれを示していた。

そしてライブも後半戦へ。ふたたびここから景気づけようと、この場に相応しい曲として2人は“どか~ん”を演奏。場内中の人たちもクラップをしながら、一緒に「どか~ん」と祭りあがる歌に参加。会場中が一つになって笑顔で盛り上がっていた。その空気をさらに熱くしようと、疾走する8ビートナンバーの“消えない絵”へ。この場にいた人たちの気持ちをどんどん明るい心模様に染め上げていく。さらに2本のアコギのセッションから始まった“Mic Check”では、次々と言葉を繰り出す桜井秀俊の歌を中心に、凛々しくもスリリングな熱を持った空気を作りあげ、会場にいる人たちの気持ちの熱をどんどんと高めていった。その上で、YO-KINGが弾き語りで「夜道を一人で歩いていたら」と歌いだした。そう“素晴らしきこの世界”だ。最初は心地よい雰囲気を携えつつ、でも歌うたびに言葉に熱を重ねていくようにYO-KINGは歌った。曲が進むにつれて彼の感情が熱を抱けば、サビでは2人とも熱の漲る声と演奏を通して、この場に一触即発の熱い空気を作り上げていく。そしてさらなるスリリングさを持った“一触即発”へと続く流れが、気持ちを嬉しくときめかせていた。終盤に届けた今の季節がとても似合う“サマーヌード”では、誰もが年齢という限界の服を心の中で脱ぎ捨て、はしゃぐ夏の子供に戻って、この楽しさを心のフィルムにしっかりと焼き付けていった。そして最後にハートフルな“きみとぼく”を歌い、ここに集まった人たちの気持ちを晴れた心に染め上げた。

アンコールでは、自分たちの生きざまを示した最新曲の“オレは音楽”を熱唱。「オレは音楽 音楽そのもの」の歌詞通り、音楽を生み出し届けることはもちろん、この場で音楽と共に生きていく喜びを、ここに集まった仲間たちと一緒に謳歌していた。真心ブラザーズは、今年12月より来年2月にかけ、バンド編成でまわる全国ツアー『真心ブラザーズ ライブ・ツアー「have a nice TRIP!」』を発表。次はこの楽しさをバンドスタイルで味わおうか。
Text:長澤智典
Photo:堀内レイ
Official Website:https://www.magokorobros.com
X:https://twitter.com/magokoro_bros
Instagram(YO-KING):https://www.instagram.com/yokinghonnin
Instagram(桜井秀俊):https://www.instagram.com/sakurai.hidetoshi/
真心ブラザーズ『真心道中歌栗毛2025』@浅草公会堂 セットリスト
01. 花のランランパワー
02. splash
03. のり弁女
04. 老後
05. 君よりもっとこそくに
06. あれあれ、あの、あれ
07. ぬかよろこび
08. 遠い夏
09. <三楽会>“愛”
10. <三楽会>“ぼくのギター”
11. <三楽会>“突風”
12. <KING二兆曲>“疲れ過ぎない暮らし”
13. 日曜日
14. スピード
15. どか~ん
16. 消えない絵
17. Mic Check
18. 素晴らしきこの世界
19. 一触即発
20. サマーヌード
21. きみとぼく
ENCORE
01. オレは音楽
LIVE
■真心ブラザーズ ライブ・ツアー 『have a nice TRIP!』
・2025年12月13日(土) 福岡・DRUM LOGOS
開場17:00 / 開演17:30
・2025年12月14日(日) 熊本・B.9 V1
開場16:00 / 開演16:30
・2025年12月19日(金) 京都・磔磔
開場18:30 / 開演19:00
・2025年12月21日(日) 愛知・NAGOYA CLUB QUATTRO
開場16:30 / 開演17:00
・2026年1月11日(日) 宮城・仙台 Rensa
開場16:30 / 開演17:00
・2026年1月17日(土) 北海道・札幌PENNY LANE24
開場17:00 / 開演17:30
・2026年1月24日(土) 広島・LIVE VANQUISH
開場17:00 / 開演17:30
・2026年1月25日(日) 香川・高松 festhalle
開場16:00 / 開演16:30
・2026年1月31日(土) 大阪・なんばHatch
開場17:15 / 開演18:00
・2026年2月7日(土) 東京・EX THEATER ROPPONGI
開場16:45 / 開演17:30
■チケット一般発売:8/30(土)10:00